こんなタイトルですがハッピーエンドではありません
このエンドの正式な分類を誰か教えてください
ブルボン育てたことないのに書くのは早まったかな…
投稿前にアンケートを改めて確認したのですが、こういう話は需要なさそうですね
「あっ!お兄さま!」
「ライス?」
「あ、ライスさん」
午後の授業も終わって、トレーニングコースのターフに居るお兄さまを見つけました。ネイチャさんとお話してたみたい。
「トレーナー室にはいなかったから探したんだよ?」
宝塚記念も近づいてるから、お兄さまもトレーナー室でがんばってお仕事してると思ったんだけど違ったみたい。
近づいていくと、いつものお兄さまの匂いがしなくて、ネイチャさんの匂いばかりします。お兄さまはライスのお兄さまなんだから、ネイチャさんの匂いがするのはおかしいとライスは思います。
なので、恥ずかしいけれど、ちょっと大胆に、腕に抱きついてみて、尻尾でお兄さまの体を撫でてマーキングしてみました。ネイチャさんの前だけど、これくらいなら大丈夫だよね?
「えっ?!……あっ、ごめんな」
お兄さまが焦った様子でライスとネイチャさんの顔を交互に見てる。そんなに恥ずかしかったのかな?
「今日はどんなトレーニングをするの?」
「あー、えっと「ライスさん、アタシと併走しませんか?」
困り顔のお兄さまに代わってネイチャさんがそう言いました。
どうしてネイチャさんが答えるの?その答えはすぐにネイチャさんが教えてくれました。
「トレーニングメニューをトレーナー室に忘れてきたって言ってたよね?戻ってくるまでライスさんと併走してるから、チャチャっと行ってきてよ」
「あ、あぁ、そうだった。ちょっと行ってくるから、二人共待っててね」
そう言ってお兄さまは止める間もなく走って行ってしまいました…
トレーニング前にもっとお話したかったのに…
「じゃ、併走始めましょうか」
なぜかちょっと不機嫌そうなネイチャさんの声がターフに響きました。
「あっ、お兄さま!」
「あっ、しまっ…!」
「ん?ライス?」
「こんにちは!ライスさん!」
芝2000mでの併走が終わって、軽くストレッチをしてるとバクシンオーさんとお兄さまが並んでやってきました。
いっぱいお話したくて、かけ寄ったんだけど、さっき付けたはずのライスの匂いはしなくて、甘いような…しょっぱいような…
これは……桜餅の匂い?
ライスがお話する前に、お兄さまが腰を
「あー、ごめん、ライス。ちょっと用事を思い出した」
そう言うとライスの頭を撫で始めました。
……手付きがいつもより優しいような?
「バク、今日は瓦割りでパワートレーニングにしようと思うから、向こうの倉庫から瓦を取って来てくれ。」
「わかりました!倉庫までバクシンしてきます!」
「ライス、ネイちゃん、自分が戻って来るまでバクを見ててくれ。危なっかしいからさ」
「うん。わかった」
「はーい」
「じゃ、ちょっとたづなさんのとこまで行ってくるわ」
もっとお話したかったし、トレーニングも見て欲しかったけど、ご用事があるなら仕方ないよね…
お兄さまは手を振って理事長室の方へ歩いて行ってしまいました。
じゃあ、お兄さまと約束したし、バクシンオーさんのお手伝いに行かないとね?
「バクシーン!」
バクシンオーさんが掛け声と共に拳を振り下ろして瓦を割っていきます。三人で百枚くらいはもう割ったんじゃないかな?
バクシンオーさんは『たくさん瓦を割れば、たくさんパワーがついて、たくさんバクシン出来るようになります!さあ、ライスさんもネイチャさんも一緒にバクシンしましょう!』って言ってたから順番に瓦割りしてたけど、三人でこんなにたくさん瓦を割っちゃって大丈夫かな…
ケガしないように注意しながら、割った瓦を片付けて、次の瓦を用意しているとよく知っている声がしました。
「こんにちは、ライスさん。バクシンオーさん。ネイチャさん」
「こんちはー♪」
ブルボンさんとブルボンさんのトレーナーさんです。
「こ、こんにちは、ブルボンさん。ブルボンさんのトレーナーさん」
「こんちはー」
「こんにちは!ブルボンさんも一緒にバクシンしませんか!」
ビシッと手を差し出しながら、いつもの元気一杯な声でバクシンオーさんがブルボンさんを誘います。
ライスもこんな風に誘えるようになりたいなぁ…
「申し訳ありません。今日のトレーニングメニューはショットガンタッチによる瞬発力強化となっているので遠慮させて頂きます」
いつも通りの平坦な声でブルボンさんが断っています。スッと頭を下げて、キレイなお辞儀をバクシンオーさんに向けています。
「ブルボーン?一緒にやりたいなら私にちゃんと言ってよー?そのくらいの調整くらいチャチャっと出来るからさぁ?」
「……ありがとうございます、マスター。では、本日のトレーニングメニューの更新をお願いします」
「オッケー♪瞬発力強化から筋力強化に変更ね」
優しい笑顔を浮かべて、軽い調子でブルボンさんのトレーナーさんがそんなことを言い、ブルボンさんが答えています。
トレーニングの調整ってそんなに簡単に出来るものなのかな?練習場所とか機材の予約とかでお兄さまが苦労してるのを見たことがあるけど…
そんなことを考えていると、ブルボンさんのトレーナーさんがライスに話しかけてきました。
「ところで、ライちゃん?私のことは"お姉さま"とは呼んでくれないの?」
さっきと同じ笑顔で、さっきと同じ軽い声だけど、なんとなくさっきよりも顔も声も硬い気がします。
「え、えっと、ブルボンさんのトレーナーさんは、ブルボンさんのトレーナーさんだから、えっと、その……ご、ごめんなさい!」
"お兄さま"はライスのお兄さまだから、ブルボンさんのトレーナーさんを"お姉さま"とは呼べないって言いたかったんだけど、上手く説明出来ませんでした…
ごめんなさいって言った時、ブルボンさんのトレーナーさんの顔が痛そうに歪んだ気がしたんだけど、瞬きすると元の笑顔に戻ってました。見間違えたのかな…?
「オッケー把握。ライちゃん、変なこと言ってごめんね?」
「マスター」
「はいよー」
トレーニングを始めたブルボンさんの方へブルボンさんのトレーナーさんが向かおうとして、心配そうな顔でライスの方を振り向いたのが、ひどく印象的でした。
「おらっ!"お兄さま"一人前一丁あがり!」
唐突にそんな声がして、ドサッと大きな麻袋がライスたちの目の前に置かれました。
……モゾモゾと中身が動いてるけど、本当にお兄さまが入ってるの…?
「ゴールドシップ!トレーナーさんをそんな乱暴に扱わないでくださいまし!」
「わりぃわりぃ。ライスが"お兄さま"を捜してるって聞いたからさ。秒速16.7キロでお届けしてやるのがファイヤーウーマンとしての
「全然!これっぽっちも!意味が分かりませんわ!」
「ゴールドシップさんもマックイーンさんも元気一杯で素晴らしいです!お二人も一緒にバクシンしませんか!?」
「ステータス『疑問』を確認。マスター、『ファイヤーウーマン』とはなんでしょうか?」
「多分意味なんて無いよー」
「……会話中悪いんだけど、とりあえずここから出してくれない?」
みんなのお話に割り込んで、袋の中からお兄さまの声がします。
慌てて誰よりも先に袋の口を開けると、フワッとよくお兄さまが付けている香水の匂いがして、中からお兄さまが出てきました。
「お兄さま!」
居ても立っても居られなくなって、思わず抱きつくと全身をお兄さまの香水の匂いに包まれて、とっても幸せな気持ちになりました。
……本当はお兄さまの汗の匂いの方が香水の匂いより好きなんだけど、そんなの変態さんっぽいし、なによりお兄さまが汗の臭い気にして、制汗剤とか香水とか付けてるみたいだから、そんなこと絶対に言えません。
「ライス、ごめん。今日はあんまり構ってやれなくて」
優しい手付きで頭が撫でられます。
「ううん!ライスは大丈夫だよ!それよりもお疲れさま、お兄さま!」
「……ありがとう、ライス」
なぜか複雑そうな顔でお兄さまが答えました。
「なぁ!トレーナー!ライスとマックイーンと併走してきていいか!?芝42000メートルくらい!」
「……
マックイーンさんは秋の天皇賞の前に脚を痛めてしまって、まだ走れないそうです。今のマックイーンさんからはケガなんてしてる雰囲気が全くしなくて、ついカッコいいなぁ…なんて思ってしまいます。
「ライス、行くか?」
「うん。行ってくる!」
「ゴルシ、芝2000メートルな」
「オッケェィ!海に向かって出航じゃぁい!」
ゴールドシップさんの掛け声と共にライスの体が地面から離れました。
「ふえぇ!?」
見る見る内に遠くなっていくお兄さまたちと風を切る感覚、お腹の辺りに回された腕と視界の端で揺れる葦毛の尻尾からゴールドシップさんに抱えられているのだと思います。
「学級委員長たる私も行きましょう!」
「マスター」
「分かってるよ。行ってらっしゃい、ブルボン」
「このキラキラした青春の空気はさぁ、アタシには似合わないけど、併走くらいなら付き合いますかねぇ」
風の音に混じって、そんな声がさっきまで居た場所から聞こえました。
「で、いつ打ち明けるの?」
「……俺はーーー」
お兄さまがなんて答えたか、ライスには聞こえませんでした。
「次の目標は秋の天皇賞だ」
今日のトレーニングが終わってトレーナー室へ戻ってくると、お兄さまがそう言いました。
マックイーンさんとゴールドシップさんもついてきてるんだけど、マックイーンさんが『敵情視察ですわ』って言ってたので敵情視察なんだと思います。
……トレーナー室まで来る必要あるのかな…?
「えっ、宝塚記念じゃないの?」
ライスがそう言うと、お兄さまはピクッと眉を動かして、困ったような顔をしながら答えました。
「……この間、夏合宿に行っただろ?宝塚記念は終わったんだよ」
そう言われてみると、確かに夏合宿に行った記憶があります。でも、宝塚記念に出た記憶が無いような……
「だから、次の目標は天皇賞春秋連覇だ」
「分かった。ライス、がんばるね!」
「それでね、トレーニングの後、お兄さまといっぱいお話したんだ。週末は一緒にお出かけする約束もしたんだよ」
「そうなんですね…」
眠る前にお部屋でロブロイさんとお話してるんだけど、なぜかロブロイさんはずっと困ったような顔をしています。
「ロブロイさん、何かあったの?」
「い、いえ!な、何もありません!」
耳も尻尾もピンと立ってるし、多分ウソなんだろうけど、ウソをついて隠すってことはライスには言えないことなんだと思います。
それに、ライスには
「ライスさんこそ大丈夫ですか?無理、してませんか?」
なんでそんなことを聞くんだろう?
そう思ったけど、ロブロイさんは本当に心配そうな顔をしていました。
だから、ライスも真剣に答えました。
「大丈夫だよ。ロブロイさんも、お兄さまも、友達もみんな居て、ライスは幸せだよ?」
それを聞いて、なぜかロブロイさんは泣き出してしまいました。
それは突然来ました。
ある日、お兄さまとマックイーンさんが見守る中、ゴールドシップさんと一緒にダートコースでパワーのトレーニングをしていた時のことでした。
「お兄さま!危ない!」
「トレーナーさん!足元!」
「えっ?うわっ!?」
「……くそっ!間に合わねぇ!」
誰かがトレーニングコースの脇に置き忘れていったトレーニング器具にお兄さまがつまずいてしまって、バランスを崩しました。
そのまま金属製の道具の上に……
ライスの隣に居たゴールドシップさんがものすごい勢いで飛び出して行ったんだけど、ここからだとあまりにも距離があって間に合うはずもありませんでした。
「くっ…!」
お兄さまはキレイな前回りをしてトレーニング器具を乗り越え、ダートの上に座った姿勢で止まりました。
シャツもズボンも泥だらけのまま固まったように動かなくなってしまったので、急いでかけ寄ると、砂ぼこりの匂いの中に血の臭いが少し混ざっていました。
血の臭い……
何か、忘れているような……
「大丈夫か?!」
「お兄さま!大丈夫!?」
「トレーナーさん!」
「大丈夫、かすり傷だ。マックイーン、救急箱を持って来てただろう?取って来てくれないか?」
「分かりました!すぐに持って参ります!」
マックイーンさんがケガも気にせずに走りだそうとするのをたしなめながら、お兄さまは右腕を体で隠すようにして、左手で地面をついて立ち上がって振り向きました。
砂ぼこりが収まって来て、お兄さまの香水と汗の匂い、それに、血の臭いが混ざって……
……あれ?
「あの時はもっと血の臭いが強かった……」
そうだ。
宝塚記念の日……
京都レース場に向かう途中……
「血を見るんじゃなくて、血の臭いがトリガーなのか?!」
「ライスッ!思い出すな!ほらっ!今から百万光年先の星まで一緒に走って行くぞっ!!!」
突然、進路を変えてライスたちのいる歩道の方へ突っ込んできた車から、ライスを守ろうとお兄さまは……
「ライスッ!ライスシャワーッ!!」
「ゴルシ!ライスを押さえてろ!鎮静剤を使う!マックイーン!」
息が苦しい。
景色も回ってる。
でも、お兄さまの所に行かないと……
あの時、血溜まりの中、お兄さまはまだ生きてた。
一緒に救急車に乗って病院まで行ったのは覚えてる。
どうなったかは覚えてないけど、きっと生きてる。
病院の名前も覚えてる。
行ける。
「ライス!待て!」
「くそっ!速すぎんだろっ!」
ゴールドシップさんを振り切って、走りだしたライスの背中に、マックイーンさんのトレーナーさんが何か叫んでいます。
ゴールドシップさんが追いかけてきてるみたいだけど、スタートダッシュならライスだって負けない。
絶対に、お兄さまの所に行く。
前に何人かいるウマ娘もヒトもみんな驚いた顔でライスの方を見てます。
もう息が吸えないくらい気分が悪いけど、でも、そんなのどうでもいい。
絶対に、お兄さまの所に行く。
いつもだめだめだったライスのことを『ライスは変われる』ってライスよりも信じてくれたお兄さま。
ライスが『みんなを幸せにできる青いバラ』になれるって信じてくれたお兄さま。
ライスに光をくれて、ライスに居場所をくれて、そして、世界で1番大好きなお兄さま。
ライスはどうなってもいい。
絶対に、お兄さまの所に行く!
「誰かライスを止めてくれ!ブライアン!タンホイザ!ミーク!グラッセ!誰でもいい!ライスを止めてくれぇ!!!」
目が覚めると、何度か見たことがある保健室の天井が見えました。
どうして保健室で寝ているのか全く思い出せません……
「ライスさん、目が覚めましたか?」
「ロブロイさん……」
声がした方に顔を向けると、悲しげな顔のロブロイさんと目が合いました。
「少し待っててください。今トレーナーさんを呼んで来ますから」
そう言ってロブロイさんは保健室を出て行きました。
それほど時間もかからずに、ロブロイさんは戻って来ました。その隣には……
「ごめんなさい、お兄さま……」
「ライスさん……」
「ライス、俺は……」
ロブロイさんは悲しい顔を、お兄さまは辛そうな顔になってしまいました……
やっぱりライス、だめな子だ……
「ごめんなさい、もうすぐ宝塚記念なのに……」
「……ライス、その話は明日にしよう。今日はもう休め」
お兄さまは声もあげずに泣いていました。
大粒の涙が頬を伝っていく中、真っ直ぐにライスを見つめています。
「……分かった。ごめんね、お兄さま……」
お兄さまはライスの言葉に
「……ロブロイ、後は頼めるか?」
「……はい。おまかせください。」
「……ありがとう」
それだけ言うと、お兄さまは後ろを振り返り、真っ直ぐに保健室を出て行ってしまいました。
扉を開ける音に混じって