恋愛無自覚アドマイヤベガ概念
いつもご清覧、評価、お気に入り等ありがとうございます
エタらない程度に、ほどほどに書き続けていきます
アヤベさんってちょっと天然……というか私生活蔑ろにしすぎてるので自覚できないんじゃないかと思った所存であります
アドマイヤベガがよくわからない
「あの人のことが……よくわからない」
また言ってる。最近のアヤベさんはずーっと自分のトレーナーさんのことばっかり。あの人って言っても、いっつもトレーナーさんのことじゃん。なーんて内心嘆息するけれど、ネガティブな感情はおしなべてカワイくない。
ティーカップを手に取って口元を隠す。見える部分はいつでもカワイく。カップを下ろす前にはいつも通りのCurrenに戻る。
前はどんな風な話をしたっけ?
確か「わからないなら、もっと近づいてみたらどうですか?」だったっけ?
じゃあ、今回のアプローチはもっとアヤベさんの方からかな。
「でもアヤベさん、トレーナーさんの話してる時、とってもカワイイ顔してますよ?」
「そう…?」
「そうですよ!」
今だってアヤベさんにしては珍しくキョトンとしたカワイイ顔をしてる。
それにトレーナーさんのことを話してる時はいつだって女の子の顔してるし。
……うーん。踏み込んじゃダメかなって思ってたけど、このままだと進展しなさそうだし、私もアヤベさんには幸せになって欲しいし……
困るのはアヤベさんのトレーナーさんだけだろうし、問題ないかな!
「アヤベさん、トレーナーさんのこと好きですよね?」
単刀直入。カフェテリアでするお話の内容じゃないかもしれないけど、だって絶対アヤベさんはトレーナーさんのこと大好きだもん。意識してないだけで。
そんなことを言われるとは思ってなかったのかアヤベさんはピンと耳を立てた後、ゆっくり目をつむって手を口元に添えて考える。
「……よくわからないわ」
アヤベさんが悩んで出した結論には困惑が添えられていた。
すーっと静かになったカフェテリアに、その声はよく響く。
「……好きって感情が、よくわからない。ふかふかの寝具やふわふわのスリッパは気に入ってる。レースは……まあ、楽しい。あなたのことは……悪くは思ってないわ。一緒にいて心地良い。これが"好き"なのかは私にはわからないけれど」
私からすれば今あげられたモノは全部アヤベさんが"好き"なものなんだと思うけど、アヤベさんは全部別の単語で"好き"を置き換えてしまえている。
だから、トレーナーさんを"わからない"としか言えないのは、それだけ特別、なんだとカレンは思う。
「でも、彼に感じるこの感情は……やっぱりよくわからないわ」
わからないと言う割には優しくてカワイイ表情をアヤベさんは浮かべる。
「優しいけどお節介で、頑張り屋だけど無茶ばかりして、私の健康には気をつかうのに自分のことは全然考えてない」
愚痴を言い始めてすぐに
「私のオーバーワークには注意してるのに自分のオーバーワークは気にも留めない。私の食事はメニューまで用意するのに自分はカップ麺どころか一食抜いたりする。休日でも私が最優先。趣味の時間なんて一秒たりとも作ろうともしない。休みなんだから自分のために時間を使いなさいよ。まったく」
文句のようで、ただ心配しているだけ。
それだけトレーナーさんのことをよく見てて、想ってるってことだよね。絶対トレーナーさんのこと大好きなんだと思うけどなぁ。
「でも……そうね。この感情が本当に恋だとしたらそれは、とても素敵なことなんじゃないかしら」
──カワイイ。
ふっと柔らかく微笑むアヤベさんは、いつものクールなアヤベさんとは全然違って、ちょっと妬けちゃうくらいには、思わず言葉が口を
はぁ……とカレンにため息を吐く頃には、いつものクールなアヤベさんに戻っちゃってたけど。
「……一応、褒め言葉として受け取っておくわ」
「カワイイは褒め言葉ですよ!」
アヤベさんはトレーナーさんと出会ってよく笑うようになった。トレーナーさんと出会って雰囲気が柔らかくなった。トレーナーさんと出会ってカワイくなった。
もし仮にアヤベさんがトレーナーさんに恋をしていなかったとしても、アヤベさんにとってトレーナーさんが特別なのは変わらないよね。
だって、アヤベさんはトレーナーさんのおかげでカワイくなったんだもん。
それって、意識的か無意識かはわからないけれど、カワイイ姿をトレーナーさんに見せたいってアヤベさん自身が想ってるから、だよね?
「お?カレン……とアドマイヤベガさん」
「アヤベとカレンさん?」
「お兄ちゃん!」
「……あなた」
そんな感じでアヤベさんとお喋りしてたら、お兄ちゃんとアヤベさんのトレーナーさんがカレン達のところに。
お兄ちゃんとアヤベさんのトレーナーさんが一緒に居るのはとってもレア。スプリンター路線とクラシック路線。作戦も先行と追込。トレーナー歴もアヤベさんのトレーナーさんの方が長かったかな?とにかく接点が無かったはず。
「お兄ちゃんもご飯?」
「いや、食べて来たからコーヒーだけかな」
「ねえ、あなたは?お昼はもう食べたの?」
「……これから食べるよ」
大人の余裕を漂わせつつ答えるお兄ちゃんと、目が泳いでるアヤベさんのトレーナーさん。
あんまり話したことないカレンでもわかっちゃうよ。あれはお昼ごはん食べる気なかったよね?
はぁ……とアヤベさんがため息をひとつ。
「あなた」
「あー……ごめん」
「謝らなくていいわ。それよりお昼、取りに行くわよ」
問答無用とばかりに腕を
抵抗する訳にもいかず仕方なく連れていかれるトレーナーさん。遠くからはキャーって黄色い声も聞こえるし、近くからは啞然とした声も聞こえる。
「あの、アヤベ」
「今日の日替わり定食は唐揚げだったと思う。それと何かサラダをもらいましょう」
「えっと」
「ちゃんと食事くらいして。あなた一人の体じゃないのよ?」
「それは、そう、だけど」
「……私にも、あなたのことを支えさせて」
「そう言われると断れないなぁ……」
苦笑しつつ周りを気にするトレーナーさん。アヤベさんは周りの歓声を気にも留めない。そんなところだけカレンたちに似てなくてもいいのに。
自動的に割れる人混みの中へと二人は消えてゆく。それを見送ったお兄ちゃんがカレンの隣に。
「……あの二人、距離近すぎないか…?」
「そんなことないよ?」
「いや、近いっしょ」
そう?とはぐらかしつつ、距離感がどうこう言ってるお兄ちゃんを観察する。
さっき『食べて来たからコーヒーだけ』って言ってたけど手元にコーヒーはなし。ファンデーションで隠されてるけど目の下に隈。ちょっとやつれた頬。
うーん。これはカレンもアヤベさんに
カレンを見てないお兄ちゃんが気付かないように、そっと立ち上がる。そのまま静かに利き手の右手の袖を二本の指でつまんで優しく引っ張る。お兄ちゃんはこういうちょっと子どもっぽい仕草が好きみたいだから。
「お兄ちゃんもご飯取りに行こ?」
「いや、さっき食べてきたって」
「ゼリー飲料はご飯じゃないの!」
「え?ちゃんとタフネスバー食べてき……やべっ」
やっぱり。カレンのご飯はちゃんと計算してるのに、お兄ちゃんは『面倒だから』って理由でテキトーなんでしょ?そんなのダメだよ。
いつもはカレンにバレないようにしてるのかもだけど、でも今日のお昼はもう言い逃れできないよね?
「ご飯、行こ?」
「……わーった。わーったよ。だから、手ぇ離せって、な?」
「カレンにも、お兄ちゃんのこと支えさせて?」
「お前は黙って俺に支えられとけ」
……そこは、アヤベさんのトレーナーさんみたいに折れて欲しかったなぁ。
「そういえばアヤベさん」
「……何かしら?」
尻尾用のブラシを置いてアヤベさんがカレンに視線をくれる。
ついこの前までは髪も尻尾も服も、なおざりだったアヤベさんだけど、最近のお風呂上がりのこの時間はよくカレンとのお話に付き合ってくれるし、身嗜みの相談もよくするようになった。
だから、他の人に聞かれたくないプライベートなお話はこの時間にするって前から決めてたの。
「トレーナーさんのこと『あなた』って呼ぶのは何か理由があるんですか?」
「その方が彼が嬉しそうにするからよ。それ以外に理由が必要?」
……思ってたより直球の理由が返ってきた…!
「腕を絡めて、胸を押し付けてたのにも理由があるんですか?」
「その方が彼が喜ぶからよ。少し困ったように怒るけれど、満更でもなさそうだし」
「どうしてトレーナーさんのこと、支えたいんですか?」
「危なっかしいもの、彼。放って置いたら寝食忘れて仕事するんだから。私の心配より、自分の心配をして欲しいわ」
「トレーナーさんのこと好きですよね?」
「……わからないわ」
カレンはアヤベさんの方がわかんないなぁ……。