自分でもびっくりするぐらいロブロイさんが好きになってしまったので何本か書きます
本年もよろしくお願いします
今年の目標としましては
1.お気に入り1000件(大台)
2.評価50件(評価バー満タン)
3.飽きずに書く(月に一本は最低でも書きたい)
を掲げていきます
英雄、色を知る
「今日のミーティングはこれでお
「は、はいっ!お疲れ様ですっ!
……えっと、じゃあ、……その、し、失礼しますっ!」
ほとんど全速力に近い速度でトレーナー室から飛び出していく
トレーナー自身、自分がどんなに些細な言葉を発する際でも少し考える癖があるのが原因の一つだと頭では理解しているものの、長年の癖は中々抜けないものだと諦めてもいる。
ただ、それでも『さよなら』くらいは言わせて欲しいと子供っぽくも思っているのだ。
それ以上に彼はこうも思っている。
最近のロブロイはどこか様子がおかしい、と。
URAファイナルズに出走していた頃は、唐突に部屋を出ていくこともなかったし、今の微妙な距離感もなく、もっと親しみを込めた物理的にも近い距離感でトゥインクルシリーズを一緒に戦っていたのだ。
ロブロイの様子がおかしいことにトレーナーが気付いたのは、およそ一週間ほど前だ。
一週間ほど前から、ロブロイはトレーナーと会話していても目を合わせなくなり、なんなら顔を見もしないことすらあるようになってしまった。
ロブロイとトレーナーが二人きりで同じ部屋に居ると突然飛び出していくようにもなり、トレーナーがロブロイの背中側から話しかけると、話しかけた側が驚いてしまうくらいにロブロイが大きく驚くことも多々あるようになった。
それに、トレーナーが見るロブロイの顔はいつでも赤く、ロブロイからの熱い視線をトレーナーが感じることも増えた。
これで違和感を覚えないほどの鈍感男では、トレーナーはなかった。
それらの状況証拠から原因を推理することも出来たが、トレーナーは
彼は教育者として、英雄の導き手として、そして彼女の保護者として、そこから導き出される結論に気付かない振りをしたのだ。
だが、それはそれとして下がりつつある彼女のコンディションを見過ごす訳にはいかなかった。
悩んだ挙げ句、男は『最近調子が悪そうだけれど、大丈夫かい?何かあったなら相談に乗るよ?』と知らない風を
一方で、そんなメッセージを受け取った彼女の方はと言うと、
(少女漫画や恋愛小説を読んだせいで、あなたのことを意識し始めちゃいました!なんて相談出来る訳ないじゃないですかっ!!)
思い切り掛かっていた。
彼女が自分の気持ちに気付いたのは偶然だった。
たまたま最近読んだ本の中に少女漫画や恋愛小説が多く、それらを読んでいる際にたまたまこう思ったのだ。
(あれ?私とトレーナーさんって、元日もクリスマスも一緒に居るし、バレンタインにはチョコを渡すし、二人きりで温泉旅行にも行ったことあるし、物語のヒロインよりもヒロインっぽいことしてない?)
そこから先は滑り落ちるように早かった。
いつの間にか、物語のヒロインを彼女自身に、男主人公をトレーナーに置き換えた空想をしていたり、授業中や読書中のふとした瞬間にトレーナーの顔を思い浮かべていたりして、トレーナーに恋をしているのだと気付くのは難しい話ではなかった。
それに加えて、この一週間は(彼女にとっては)ラブコメのようなイベントばかりだったのだ。
例えば、七日前はトレーナーを意識するようになってから初めてのトレーニングの日だった。
授業が終わって、
「ロブロイ、顔がリンゴみたいに真っ赤だけど大丈夫?」
「……え?」
それからの彼は素早かった。
ぼーっと
「ひゃぁっ…!?」
「うーん、少し熱いような、そうでもないような……」
ピンと尻尾と耳を伸ばし、さらに体温を上げる彼女の前で、男はただ心配そうに自分の額との温度差を気にするばかりだった。
(あああぁぁ…!!綺麗な
しかも、形の良い薄い桜色の唇がすぐそこに…!!こんなの事故チューしてくださいって言ってるようなもんじゃない…!!!)
などと少女の頭の中は熱暴走をし始めているが、彼女の体調ばかり気にしている男はそれに気付かない。
結局、発熱しているのかどうか判別出来なかった男は、不意に少女の前髪をかきあげ、言った。
「ロブロイ、ちょっとだけそのままで居てくれ」
「ぁぅ……」
(こここここれはっ…!恋愛系の創作で定番の『おでことおでこで熱を測る』シチュエーションじゃあ…!?
だ、だめっ…!!トレーナーさんとそんな恋人同士みたいなこと…!こ、心の準備が…!)
そんな乙女の
待てど暮らせど一向に何も起こらないことを不思議に思った少女が、緊張で
「あ、あの……」
「平熱よりちょっと高いかな…?喉も確認させてもらっていいかな?」
「は、はぃ……」
この後、舌を軽く引っ張られながら、じっくりと喉奥を観察され、
(口の中に興奮する男性も居るって聞いたことあるけど、トレーナーさんはそういう趣味なのかな…?)
なんて悶々としている少女と、
(扁桃腺は腫れてないみたいだけど、何かあってからじゃ遅いしなぁ……)
などと淡々と診察を行う男が見つめ合う不思議な空間が生まれるのだった。
それに、四日前は楽しみにしていた新刊に夢中になってしまい危うくトレーニングに遅れそうになってしまったのだった。
(私のバカ!ひとつ前の章で読むのをやめておけば、こんなに焦る必要なかったじゃないっ!)
トレーナー室までの道を疾走しながら少女は考える。
(今から更衣室まで行ってトレーナー室まで戻ってくるには時間が足りない……
トレーナーさんは定例会議だから戻ってくるまで時間があるはず。トレーナー室で着替えるしかない)
ちなみに、少々遅れたくらいでは彼女の担当トレーナーが怒ったりしないことは少女も知っている。
が、単純に生真面目な彼女は自分の趣味のせいで遅刻するという事実を嫌ったのだ。
鍵を開いてトレーナー室へと飛び込み、ソファ横にカバンを手早く立て掛ける。
パーティションもないトレーナー室だけれど、ここの鍵を持っているのは彼女ゼンノロブロイと彼女のトレーナーだけだ。
鍵をかけて素早く上の服を脱ぎ捨てる。
普段なら上をジャージに着替えて畳んでから下に取り掛かるところだけれど、急いでいる彼女はそのままスカートに手をかける。
ガチャリと、鍵が開く音がした。
すでにスカートを脱ぎ捨てた少女の思考と体が固まる。
彼女が知る限り自身以外にこのトレーナー室の鍵を持っている人物なんて一人しかいない。
ゆっくりと扉が開いてゆく。
「ト、トレーナーさん!?」
「あれ?ロブロイ?」
滞った思考と固まった唇でなんとか一言だけ発した少女だったが、静止の一言がなかったために無情にも扉は開き続ける。
「今日は定例会議が早く終わってね」
(どうして今日に限って会議が早く終わるの?!今日は可愛くない下着なのに!!)
すでに半裸を見られるつもりの少女だが、トレーナーの顔が見える前に扉は止まる。
「あー……ロブロイ、今着替えてたりする?」
「えっ?あっ、はい。今着替えてます」
「やっぱり。脱いだ制服が見えたから、もしかしたらって思ったんだよね」
扉越しに「じゃあ、外で待ってるから」とだけ言い残して男は顔を見せることなく扉を閉める。
部屋に残された少女は、下着を見られなかったことに安心しながらも、なぜか腑に落ちない気持ちのまま着替えを再開するのだった。
他にも、通り雨に降られたり、事故で胸を触られたりなど色々あった一週間だったのだが、ふと少女は思い至る。
(あれ?もしかして異性として意識してるのは私だけで、トレーナーさんから見た私って女性じゃなくて子どもなの?)
よくよく考えなくても、少女と男の間には十近い歳の差があり、男が少女のことを気にかけたり、少女の走りに見惚れることはよくあったが、少女の容姿に見惚れたり、照れるようなことは一度もなかった。
涙が
少女がどんなに恋い焦がれ、アプローチを仕掛けようとも、男にとって少女は保護対象であり恋愛対象とはなり得ないのだ。
知識として持っている手練手管も、無駄に実った胸の贅肉も、そもそも恋愛対象外では全く役に立たないと理解してしまったのだ。
悲しみでぐちゃぐちゃになった思考回路で、なんとか『大丈夫です。心配しないでください』と当たり障りのない文章を返信した彼女は枕に顔を押し当てて泣いた。
その翌日、少女ゼンノロブロイはありとあらゆる分野で精彩を欠いていた。
授業には全く集中できておらず、それを指摘した教師が怒るよりも先に心配し、図書委員としての働きも、普段ならおすすめの書籍を尋ねると飛び出す
「……ロブロイ、今日は終わりにして、トレーナー室で座学にしよう」
「えっ?あっ、はい……」
見かねたトレーナーが声をかける。
それに遅れて反応する絶不調の少女を見て、男の心は決まるのだった。
「ロブロイ、単刀直入に聞く。最近何を悩んでいるんだ?」
二人きりのトレーナー室に戻って来て、男は即座に切り札を切った。
「えっと、それは……」
少女が言い淀み、答えを渋るのも織り込み済みである。
もちろん今後の展開も男にはおおよその見当がついていた。
例えそれが嵐の中に飛び込むような行為だとしても、トレーナーとして担当ウマ娘の不調を見過ごすような真似は出来なかったのだ。
「多分だけど、今君は得難いものを得ようとして悩んでいる。違う?」
「…………はい。手に入らないものを手に入れようとして、悩んでます」
「それで、どうするつもりなんだ?」
「……。」
が、その奥底に潜むものを彼は知っている。
「……仮に手の届かないものだったとして、君、諦められるか?」
「……。」
その言葉はかつてイギリス遠征を決めた時の言葉と同じだった。
ゆっくりと深呼吸をして、ゼンノロブロイの心は決まった。
「……無理、ですね」
顔を上げ、トレーナーを見つめるロブロイの瞳には決意が満ちていた。
「たとえ芝を噛み、泥をすすろうとも、結局、手に入れようとしてしまうと思います、私」
「そんなにか……」
「そんなに、です」
言い切った彼女は目を閉じて、再び深呼吸する。
ゆっくりと目を開き、意を決して願いを言葉にする。
「トレーナーさん、私と結婚してください」
「………………え?」
想像していたよりも二段は飛ばした告白に面食らっている男に対して、ようやく自分が何を言ったのか理解した少女が顔を真っ赤に染めながらパタパタと慌て始める。
「あああぁぁ!!!違うんですっ!!いや、違わないんですけど!!」
「……まぁ、結婚は君が卒業したら考えるよ」
「い、今のは『得難いものを得たいと望むのならば、圧倒的で』……え?」
『ゼンノロブロイの英雄譚』
その語られざる
ここに敢えて明言しよう。
祝福の鐘が鳴る。米の吹雪が舞う。
たとえその未来が
──見よ、俺の英雄が往く。
「……えええ~っ!?」