ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
唐突にロブロイが書きたくなったので
ついでなので句点を削ったり、トレーナーって単語を削ってみたり

ネタ帳がいっぱいになってきたので投稿予定アンケート置いてます


おうちデート 掛かるロブロイ 焦る俺

夏の日差しが過ぎ去り、風も日差しも秋めいて来て過ごしやすくなってきたある日。

 

「すみません…!お待たせしました…!」

「いや、俺も今来たところだから大丈夫だよ、ロブロイ」

 

俺達二人はデートの約束をしていたのであった。

 

秘密の交際なのでトレセン学園から離れた場所で待ち合わせ。念のため『偶然出会った』と言い張れるように屋外、今回は公園での待ち合わせだ。

 

……トレセン学園内どころかファンの間ですら、節度を保ったお付き合いならウマ娘と担当トレーナーの恋愛すら容認されているのに、わざわざ俺達の交際を隠す必要があるのかは(はなは)だ疑問だが。

 

「今日はどこへ行くつもりなんだい?」

「今日はですね!この近くにこちらの小説のコラボカフェが来ているとのことで、そちらでお茶をして……あら?」

「えっ、雨?」

 

突如としてポツリポツリと降り始めた水滴は、上機嫌に(つむ)がれていたロブロイの話の腰を折り、それに飽き足らず見る見るうちに数を増やしていく。

 

「……しまった。折り畳み傘がない。ロブロイ、向こうに見える家まで走れ!」

「えっ!?でも……」

「とにかく行けっ!」

「は、はいっ!」

 

これで多少はロブロイが風邪をひく可能性を下げられるだろう。後は、俺が罪悪感と折り合いを付けて覚悟を決めるだけだ。

 

 

 


 

 

 

「何もない家だけど上がって」

「お、お邪魔しますっ…!」

 

玄関に入ってすぐ鼻腔いっぱいに広がる愛しの彼の匂い。アロマにも媚薬にも似た香ばしいような甘いような香り。頬に熱が集まり、ドキドキと鼓動が早鐘を打つ。それに合わせて耳と尻尾が動きだすのを抑えられない。

 

(き、来ちゃった…!彼の家に連れ込まれちゃった…!

 こ、これは大人の階段を上る千載一遇のチャンスなのでは…!?)

 

上がる心拍数につられて思考は既にオーバーヒート寸前。濡れた衣服で冷える体が気にならないほどに心は熱くなっている。

 

(わ、私が学園を卒業するまで交際は誰にも秘密で、キスすらしない約束だけれど、彼だって男の子だし、私から煽ればちょっとくらいは期待できるかも…!)

 

彼が私を大切にしてくれるのは嬉しいけれど、私だって人並みにはそういう知識も好奇心もある。それに私のせいで彼にそういう欲求を我慢させるのは恋人として我慢ならない。なんて一人前に言い訳だけは考えている。

 

「ロブロイ、お風呂場はここだから、体も冷えてるだろうしシャワー浴びてきなよ」

「は、はいっ…!」

 

(こ、これは…!濡れ場のシーン前でよく見るやり取りなのでは…!?)

 

火の点いた感情に油の如く言葉が注がれる。掛かり気味では済まないと心の奥の冷静な自分は分析しているが、体を動かしている自分を制御することは出来ない。

 

脱衣所でいそいそと雨に濡れた衣服を脱ぎ、それほど濡れていない下着は畳んでバスタオルの下に隠す。眼鏡は近くの棚の上でいいだろう。

 

……こんなことになるならもっと可愛い下着を着けてくるべきだった。

 

シャワーの蛇口をひねり、期待に燃える火照(ほて)った体を温かい湯で温め、普段から清潔に保っている体を念入りに清める。

 

「俺ので悪いけどシャツとズボンを置いておくね。尻尾の穴はハサミで開けちゃって」

「い、いえ…!そこまでしなくても…!」

「安物だし、俺はロブロイのおかげでお金を貰ってるから遠慮なんてしなくていいよ」

 

()りガラス越しに聞こえる(おど)けるような彼の声に落ち着いてきたはずの鼓動がまたピッチを上げる。

 

彼シャツ来たー!!と状況に興奮している純粋な自分と、目の前の扉を開けたら彼はどうするのかと思案している卑しい自分が心の中に同時に居る。

 

結局、自分から裸を(さら)す勇気なんて私には無いから、何も起こりはしないんだけど。

 

体を隅々まで洗い始めたところで、ようやく私がお風呂に居ると彼がお風呂に入れないことに気付き、私はお風呂を出ることを決意した。

 

「……よしっ」

 

一言。言葉にすることでお風呂を出る決心とする。

 

もし、仮に、万が一、この後彼に獣欲を叩きつけられることになるならば、もっと入念に準備をしたかったけれど、そんな些細なことよりも彼に風邪を引いて欲しくない気持ちの方が遥かに強かった。

 

扉を開き、バスタオルで簡単に全身の水滴を取り、尻尾の水気を絞ったら手早く下着を身に付ける。ズボンに穴を開けるつもりは元よりないので、尻尾はズボンの上から出すことにする。ブカブカのシャツを羽織って眼鏡をかける。

 

「お風呂上がりました…!」

 

石鹸と彼の匂いを身に(まと)い、少し迷いながらも彼の待つリビングに辿り着く。扉を開けた瞬間、こちらを向いた彼の視線が、大きく開いた胸元から尻尾付近のお尻まで素早く動き、彼は急いで天を(あお)ぐ。

 

「……もうちょっと慎み深く隠してくれた方が俺は嬉しいかな」

「そ、それよりも、あなたもお風呂、入ってください…!」

 

カァッと体が再び熱を帯びる。見せるつもりで覚悟して来たが、先程の彼の雌を品定めするような無遠慮な視線には流石に恥ずかしさを感じる。

 

上を向いたままの彼を手伝って着替えとバスタオルを持たせてお風呂へと送り出す。

 

(胸もお尻も熱心に見てた……

 こんなに背が小さくて子供みたいな見た目の私でも、ちゃんと女の子として意識されてるんだ…!)

 

彼が部屋を出た後、思わず小さくガッツポーズしてしまう。これは、多分押せばいける。

 

ちょっと下着が見えただけで、あんなに熱い視線をくれるのだから、もう一煽りして『いいよ』って言うだけで落とせるだろう。

 

「ごめんなさい。私は、あなたとの約束を破ってでも、あなたの本当の愛を、この身で受け止めたいです」

 

彼への謝罪を言葉にし、罪悪感を好奇心で上書きしながら部屋の物色を開始する。すべては彼が私への優しさで隠している本当の感情を知るために。

 

 

 


 

 

 

「はぁ……」

 

熱い湯を浴びながら文字通り頭を抱える。

 

彼女を性的な目で見てしまった。

 

それだけなら、挽回出来ないことでは決して無いし、どうしても時々はあることだと流すことも出来る。

 

のだが、

 

(この家に来てから明らかにロブロイが掛かってるんだよなぁ……)

 

そわそわと落ち着きなく揺れ動く耳、ゆらゆらとご機嫌に振られる尻尾。それに加えて、俺の視線が胸や尻にいくと分かりやすく瞳を輝かせた。

 

掛かっているのは明白だ。

 

(むっつりなのは知ってたし、そういうことに興味がある年頃なのも知ってるけどさぁ……)

 

はぁ、と再び溜め息を一つ。

 

こうなることは予想出来ていた。だから、恋人になってから今まで一度も家に上げたことがなかったのだ。

 

(でも、体冷やすのは良くないし、ここか一番早くシャワーを浴びれる場所だからなぁ……)

 

雨が振り始めた時、ロブロイの体調のことしか頭になかった。彼女は歴史上二人目の秋シニア三冠を獲った偉大なウマ娘だ。俺のせいでロブロイが風邪を引くなんて絶対に嫌だった。

 

だから、あの時の自分はここに連れてくることを選んだのだが……

 

(今思えば銭湯に行くって手も……いや、デートの予定だったのに銭湯はダメか…?)

 

はぁ、と三度目の溜め息を吐く。いずれにせよ、後はロブロイの動向次第だ。普段の彼女なら心配する必要も無いのだが、あれほどまでに掛かった彼女を見ている以上は心配せざるを得ない。

 

「……よしっ」

 

大丈夫。ロブロイなら大丈夫。自己暗示のように、心の中でそれだけを唱えながら、覚悟を決めて浴室を出た。

 

 

 


 

 

 

「こ、こういうこと、私にしたくありませんかっ!?」

「……。」

 

お風呂から上がって来た彼に、先ほど本棚の奥で発見した成人向けの本を突き付ける。ここで使用する雑誌は見つけた中でも特に過激な内容の一つ。

 

もっと言うなら、実際に私がされてみたいちょっとアブノーマルなもの。

 

「あ、あなたなら、私はいいですよ?!」

 

彼と付き合うまではコンプレックスだった無駄に大きい胸部を両腕で強調する。彼の視線が釣られて動くのがよく分かる。

 

本当は、最初の一回目はもっとムードとかシチュエーションとかこだわりたいところもいっぱいあるけれど、私だってえっちなことには興味があるし、彼の愛情を行動で示してもらいたい。

 

「お、女の子にここまで言わせて、何もしないなんて、い、意気地のないこと、言いませんよねっ?!」

 

今すぐにでも謝って逃げ出したい心を、強気な女の子の役割(ロール)で上書きする。ここまで来てやめるようなら、最初から家捜ししたり、胸を強調したり、彼の劣情を焚き付けたりなんてしない。

 

叫ぶように啖呵(たんか)を切った私に対して、ホカホカと湯気を上げる彼は(いま)だ私の胸に釘付けのまま押し黙っていた。

 

彼のこめかみから(あご)までツゥっと汗が一滴流れるだけの時間が経って、ようやく私と視線を合わせた彼は、なぜかホッとした顔で口火を切る。

 

「ごめんね、ロブロイ。俺は意気地なしだよ」

「…………えっ」

 

燃え盛るようだった心が真っ白になって凍りついている間にも彼は優しく言の葉を(つむ)ぐ。

 

「普段は穏和な君だからこそ、覚悟を決めて、ここまで迫ってくれたのは分かる。

 でもね、ここまで言われても、俺にはどうしても保身と、君の体への影響やバッシングばかり考えてしまうらしい」

 

困ったように微笑む彼の、ごめんね、と付け加えられた言葉の意味がゆっくりと心に染み込んでくる。

 

彼はわざとらしく『保身』なんて口にしたけれど、そもそも彼は出世にもお金にも興味がない。つまりは、そんなこと考えてない訳で、結局は、彼の考えていることなんて一つだけしかない訳で。

 

これが、彼の優しさで、自分の誇りよりも獣欲なんかよりも遥かに強い愛情なんだ。そう理解した瞬間、蓋をして見ない振りをしていた罪悪感が沸々と目元から吹き(こぼ)れてくる。

 

「ご、ごめんなさいっ!!わ、わた、わたし…わたし…!!」

「大丈夫。大丈夫だよ、ロブロイ。焦らなくていいよ。一緒にゆっくり歩んで行こう」

「うわあああぁぁぁんっ!!!」

 

(あふ)れて出て来た私の罪悪感が流れ落ちるまで、彼はたくましい腕で私を抱き締め、鼓動を背景音楽にしてくれるのであった。

 

 

 

 

 

「私が大人になったら、こういうことしてみたいですか?」

「いや、まあ、うん、そう、だね」

 

彼の膝の間に収まり、えっちな本を差し出すだけで彼はしどろもどろになってしまう。

 

優しい彼のことは尊重したいけれど、ちょっとくらいは意地悪しちゃってもいいよね?

 

「ロブロイ、俺だって聖人君子じゃないんだからね」

「でも、私の王子様は私のこと、とっても大切にしてくれてますから♪」

「……がおー、食べちゃうぞー」

「きゃー♪王子様が野獣になっちゃったー♪」

 

こうして、その通り雨に降られた日は、いつもより少しだけスキンシップの多い一日を二人っきりで、何事もなく過ごしたのでした。

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