好意だだ漏れ系ぽんこつスズカ概念
もっと軽率に脱がせようかと思いましたが私の脳が破壊されそうだったのでやめました
私のルームメイトには悪い癖がある。
「ただいま、スペちゃん」
「お帰りなさい。スズカさん」
日も暮れて日課のランニングから帰って来たそのルームメイトの先輩を横目に宿題を進める。
スズカさんはそんな私のことを気にもせずにぐっしょりと汗で濡れた衣服を次々と脱いでいく。
「今日もいい風だったわ。スペちゃんも一緒に来てくれれば良かったのに」
「それよりスズカさん、脱いだ服はちゃんと洗濯カゴに入れてくださいね?」
「それくらいわかってるわよ?」
「ちょっと前にベッドに脱いだ服を投げ捨てて大変なことになったの忘れたんですか??」
「あぅ……」
会話しながらも服を脱ぐ手は止まらずに下着すらも脱ぎ捨てたスズカさんが部屋の中を歩き回っているのを肌で感じる。
こうなっちゃったのはおおよそ去年の夏頃から。単純に暑いから全部脱いでるらしい。それから一年以上、私が見てる限りではランニングの後は絶対に脱いでる。
初めて見た時はドキドキしながら『何してるんですか?』なんて尋ねて、実はスズカさんは女の子が好きなタイプの人なんじゃないかって勘違いして、いつ私のベッドに入って来るのかドキドキして夜も眠れなかったのに、今や日常生活の一部だ。
「明日はスペちゃんも一緒にしない?全力で走って、全身が燃え上がるような熱ごと服を脱ぎ捨てるの。気持ちいいわよ?」
「何度も言ってますけど、やりませんよ」
「むぅ、スペちゃんが冷たい……」
「抱きつこうとしないでください」
「あぅ……」
細身で引き締まったスズカさんの体は柔らかい。汗でベタベタしていなかったら、お腹とか二の腕とかを撫で回していたかもしれないし、いつもならスズカさんに抱き付かれるなんて嬉しいと思うだろう。
けれど、お気に入りのパジャマを汗まみれにされると困るから押し返す。私だって汗でベタベタの服を着たままで居たくない。
「むぅ、お風呂入ってくるわ」
「ちゃんと服を着て行ってきてくださいよ」
「もう。何度もいってるけど、裸を見せるのなんてスペちゃんくらいよ?」
「裸のまま出て行きそうで心配なんですよ」
「私だって、人並みに羞恥心はあるのだけれど……」
もぞもぞとスズカさんがタンスから取り出した服を着ている音がする。
何度も『裸を見せるのなんてスペちゃんくらいよ』なんて言われてたからこそ、私はこの悪い癖の本当に
『助けて』
放課後のトレーニングもシャワーも着替えも終わって、晩ご飯に行こうと思っていた頃に、スズカさんのトレーナーさんからそのLANEが届いた時、イヤな予感がした。なによりもまず面倒そうな事だろうと思ってしまった。
まず担当のスズカさんではなく、私のトレーナーさんでもなく、私にLANEを送ってくるのがおかしい。
でも、無視はできないし……
『今どこですか?』
『スズカのトレーナー室』
すぐに返ってくるメッセージからスマホをいじるくらいの余裕はあるみたい。
『今行きます』
『助かる』
はぁと一つため息。本当に面倒事なら、ご飯食べてからにして欲しかったなぁ。全部終わったらスズカさんのトレーナーさんにはケーキの一つくらいはおごってもらおう。
「……何してるんですか、スズカさん」
思わず出てしまった低い声に自分でびっくりする。声の高さを調整できないくらいには目の前の光景に呆れていた。こんなことで呼ばないで欲しいし、こんなことしないで欲しい。
「……何もしてないけれど」
そうとぼけるのは左旋回する裸のスズカさん。
「トレーニングが終わって部屋に戻って来たら、突然スズカが脱ぎだして……決して俺は何もしてないし見ていない」
そう言い訳するのは机に顔を伏せているスズカさんのトレーナーさん。
何が起こったのか、どっちが悪いのかは明白だ。
「スズカさん、早く服着てください」
「どうして?」
「トレーナーさんが困ってるじゃないですか」
「トレーナーさんになら見られても困らないけど……」
「スズカは良くても、俺が困るんだよ」
「むぅ……」
不満そうにスズカさんは頬を膨らませるけど、本当にトレーナーさんが困ってるのはわかってくれたみたいで、のそのそとゆっくりではあるけれど下着を身に付け始める。
「また暑いからって全部脱いだんですか?」
今回の問題は解決したと思ったから出た言葉だった。
スズカさんは『裸を見せるのなんてスペちゃんくらい』なんて言ってたけど、あれは『スペちゃんは裸を見せてもいいくらい信頼してるよ』ってことかな。
だから、信頼しているトレーナーさんなら裸くらい見られてもいいってことだと思う。
……それに気づいちゃったせいで、今すごい疲労感があるけど。
「それもあるけど、最近トレーナーさん元気がないから脱ごうかなって」
「なんでですか…?」
「論理が飛躍してる……」
「えっと……」
トレーナーさんが元気ないから脱ぐ…?
全く意味がわからない……
困惑している私たちにスズカさんはたどたどしく説明を始める。
「男の人は女の人の裸を見ると元気になるって聞いたから……」
「……トレーナーさんに裸を見られて、元気になってもらおうと全部脱いだんですか?」
「ええ」
「それ絶対間違った知識だから……」
「うそでしょ……」
トレーナーさんに指摘されてみるみるうちに赤くなっていくスズカさん。
そんなことより早く服着てください。手が止まってますよ。ずっと机に伏せてるトレーナーさんがかわいそうです。
「もしかして、私、とても恥ずかしいことしてた…?」
「今も恥ずかしいことしてますよ。早く服着てください」
「ごめんなさい、トレーナーさん。お恥ずかしい話ですが、間違った知識で元気になってもらおうとしてました」
「…………ん?え? もしかして、裸になったことじゃなくて間違えたことの方を恥ずかしいって言ってる…?」
「はい」
「えぇ……」
「『はい』じゃないですよ!早く服着てください!」
結局スズカさんはそれから下着姿のまま30分くらい粘って、部屋の中を左旋回していた。この人、本当に人並みに羞恥心あるの?
ちなみにだけど、その日以来スズカさんは更衣室を使わずトレーナー室で着替えを済ませるようになったみたい。スズカさんが言うには(トレーナーさん以外に)人が居ないから気楽でいいらしい。
スズカさんのトレーナーさんには悪いけど、そうですか、とだけ返して放って置くことにした。後はトレーナーさんにお任せします。
それから何ヶ月か経って、
「なあ、スズカ、本当に重賞勝利のご褒美が俺の家に行ってみたいなんてお願いで良かったのか?」
「はい」
「大怪我からの復帰明けなんだから、どこか良いお店でご飯でも良かったんだぞ?」
「いいえ。私はここでトレーナーさんの作るご飯が食べたいんです」
「なら、いいんだが……」
納得いかない顔のトレーナーさんが渋々といった様子で玄関の扉を開ける。そんな渋い横顔もカッコいいと思えてしまうから病気と言われるのもあながち間違いじゃないと思う。
「お邪魔します」
「何もないけど、ゆっくりしてくれ」
玄関からトレーナーさんの匂いがたくさんしてとっても安心する。そして、ここからが私のスタートライン。
「……なんで脱いでるの?」
「えっと、なんとなく…?」
「なんとなく…?」
するすると服とスカートを脱いで畳む。帰りはこれを着て帰らないといけないし、シワにならないようにしておきたい。下着は脱ぐと怒られるから脱がない。
「あー、目のやり場に困るから気が済んだらちゃんと服着てくれよ?」
「トレーナーさんなら好きなだけ見てくれても、触ってくれてもいいですよ?」
「勘弁してくれ……」
「むぅ」
絶対二人っきりになれるトレーナーさんのおうちならもっと積極的になってくれると思ったのに、トレーナーさんったら壁とか天井ばっかり見ていて私の方を見てくれない。
ドーベルからは男の人はみんなえっちなことばっかり考えてるから脱ぐなんて絶対ダメって聞いてたのに。
「じゃあ、帰るまではこのままでいます」
「……いつまでここに居るつもり?」
「夕飯を食べるまでは一緒にいたいです」
「マジか……」
そうして何時間か下着姿のまま一緒にいたのにトレーナーさんは何もしてきませんでした。結構がっかりしたのは誰にも内緒です。
「いくじなし……」