フラワーとスカイが同じ人を好きになるお話
この二人でしっとりさせたかった
思ってたより湿度が低い
愛してると言いたくて……
私、セイウンスカイは4年目を境に競走バを引退して、それまでの担当トレーナーさんとお付き合いを始めた。それから間を置かずに、彼はフラワーと担当契約を結んだ。私がフラワーを推したのもあるし、フラワーと私のトレーナーさんは顔見知りで、お互いの人となりを知っていたことも後押しした。最終的に私がお膳立てをして、フラワーからの逆スカウトという形で契約は結ばれた。
フラワーのメイクデビューは4バ身差の快勝で、今は初めてのGⅠ出走に向けてトレーニングの真っ最中だ。だから、彼とフラワーがずっと一緒に居るのは何もおかしくない。
けれど…
「お疲れ、フラワー」
「トレーナーさんもお疲れさまです!」
トレーニングが終わり、ターフの上で二人が互いを
彼がフラワーに触れる度に、フラワーが彼に微笑む度にジリジリと胸の奥があぶられ、モヤモヤとした気持ちが大きくなっていく。
私が現役の頃、彼はあんな風に私を撫でたりしなかった。私が恥ずかしがって彼に甘えられなかったというのもあるけれど、彼はスキンシップを積極的に取るような人じゃなかった。結局、現役時代に頭を撫でてもらったのはURAファイナルズが終わって、温泉旅行に行った時だけだ。
あなたは私の彼氏なんだから、たとえフラワーでも、その手で私以外の娘に触れて欲しくない。
それに私がフラワーの頭を撫でても、彼が撫でている時のように気持ち良さそうに目を細めたりしたことはなかった。子供扱いしないでとか、どうしたんですか?とか怒られたり困らせたりしたことはあるけれど、あんな風に黙って気持ち良さそうに撫でられてくれたことは一度も無い。
トレーナーさんとフラワーが接するたびに、
この感情を抱く度に、私は本当はどっちに嫉妬しているんだろうと考えさせられる。
両方に嫉妬していることは明白だし、トレーナーさんもフラワーも大事なのは間違ってないんだけど、どっちかを選べと言われた時に私は選べるのかな?
まるで答えの出ない問題を解こうとしながら、彼が日の当たらない場所に置いていたスポーツドリンクとタオルを拾い上げ、感情のままに二人の間に割り込んだ。
最近、スッキリしないモヤモヤした気持ちの時が増えました……
初めてこの気持ちに気づいたのは、ある日のお昼休み、スカイさんとお昼を食べながら、お話していた時でした。いつもと違うスカイさんの匂い。その匂いがトレーナーさんのいつも使っているシャンプーと同じ匂いだと気づいた時、約束を破られたような、大事にしていた物を壊されたような、悲しいような、怒ったような、複雑な気持ちになった時でした。
その名前のわからない"気持ち"は、スカイさんとトレーナーさんが一緒にいる時によく感じていて、これが"ヤキモチ"だとわかったのは、ついこの間でした。
ついこの間、授業が終わって、トレーナー室でトレーニングまでの待ち時間にスカイさんとお話していた時のことでした。
トレーナーさんがジュースを私たちの間から私たちの前のテーブルに置いたんです。その時、スカイさんがからかうような口調でトレーナーさんに言いました。
「おやおやー?トレーナーさん、私とフラワーの間に入ってくるなんて、ヤキモチでも焼きましたか?」
「……はぁ?」
気の抜けたようなトレーナーさんの声がしました。特に深い意味は無く、最短距離でジュースを置こうと思っただけなんだと思います。
「……俺とスカイとフラワーは、そういうヤキモチ焼くような関係性じゃないだろ」
呆れたような口調でトレーナーさんが続けて、スカイさんの頭をわしゃわしゃと撫でました。その後すぐに、空いている方の手で、髪をすくように、私も頭を撫でられました。
「……私は妬いてくれた方が嬉しかったなぁ」とスカイさんがつぶやいていたのをよく覚えています。
その時、嬉しそうに尻尾と耳を動かすスカイさんを見て、優しく微笑んでいるトレーナーさんを見て、私はモヤモヤした気分になっていました。
私の方を向いて、その顔をして欲しいって……
そこで、これが"ヤキモチ"なんだって初めて気がつきました。
今考えるとトレーナーさんが私の担当トレーナーさんになる前から好きだったんだと思います。年の離れたお兄ちゃんみたいで、優しくて、頼りになって、でも、ちょっとだけ抜けてて……
私の担当トレーナーさんになってから、私が気づかない内に恋をしていたんだと思います。
でも、トレーナーさんとスカイさんはもう付き合ってて、私がヤキモチなんて焼くのはおかしくて……
それにスカイさんはのんびりしてるように見えて、私にとってはお姉ちゃんみたいに世話を焼いてくれる私の憧れの人で……
スカイさんからトレーナーさんを"盗る"なんて考えるのもイヤで……
でも、この気持ちは抑えようがなくて……
あれからずっと悩んでいるんですが、どうしたらいいのかなんて私には思いつかなくて……
この悩みを打ち明けられるような人なんていなくて……
結局、どうすればいいのか分からないまま夜は更けていきました……
「フラワー、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
今日の授業が終わって、トレーナー室に入った瞬間、心配そうな声でそう言われました。
鏡を見てもパッと見では寝不足には見えませんでしたし、クラスメイトからは何も言われなかったので、トレーナーさんにも気づかれないと思ったんですけど、会った瞬間に気づかれちゃいました……
「だ、大丈夫です!平気です!」
トレーナーさんにだけは気づかれたらダメです。とっても優しい人だから、もしかすると私のせいでスカイさんとの仲を引き裂いてしまうかもしれません。それだけは絶対にイヤです。
でも、私の言葉を聞いても、トレーナーさんは心配そうな顔のままでした。多分、私のウソに気づいてます。今どうすれば私が話してくれるだろうかと言葉を選んでいるのでしょう。
私はスカイさんみたいには頭が回らないので、必死になって何を言うべきか考えていると、
「トレーナーさん?男のヒトには言えない悩みだったらどうするんですか?セクハラですよ?」
ソファの影からスカイさんが出てきて、そう言いました。
「……そう、だな。ごめんな、フラワー」
トレーナーさんは納得がいかない様子ですが、スカイさんの言うことはもっともだと思ったのでしょう。
「い、いえ!トレーナーさんは悪くないです!」
私が悪いのにトレーナーさんが謝るのはおかしいと思ったので、急いでそう言いました。
スカイさんは私の方を見てウインクすると、ソファから飛び下り、そばまでやってきて私の肩を抱き寄せながら、
「何かお悩みなら、私が相談に乗るよ?」
と私の耳元でささやき、
「じゃあ、ちょっとフラワー借りてくねー?」
と強引にトレーナー室から私を引っぱって行きました。
「出来ればトレーニングの時間までには戻って来てくれよ?」
あいかわらず心配そうな顔のトレーナーさんはそう言って、スカイさんが開けっ放しにしたトレーナー室の扉を閉めました。
……止めてくださっても良かったのに。
「何を悩んでるか当ててみようか?」
二人で中庭のベンチに座ってすぐにスカイさんは、さっきまで喋っていた他愛のないお話をやめて、真剣な表情でそう言いました。
私が何かを答える前にスカイさんは言葉を続けます。
「トレーナーさんのことが好きなんでしょ?」
いきなり言い当てらました…
ここでウソをついてもスカイさんは信じてくれないと思うので、素直に答えることにします。
「はい……でも、どうしてわかったんですか?」
「私だって、トレーナーさんに負けないくらいフラワーのことを見てるんだよ?それくらいわかるよ」
スカイさんは少し得意げな顔でそう答えたあと、真面目な顔に戻って続けました。
「で、フラワーはどうしたい?」
その言葉には悪意は全く含まれていませんでした。
スカイさんにとって、今の私はスカイさんの彼氏を狙う敵なのに、スカイさんは私に攻撃したりせずに、私のことを気づかってくれているのがわかる声音でした。
……やっぱり私はスカイさんからトレーナーさんを"盗る"なんて絶対に出来ません。
「……何もしません。スカイさんからトレーナーさんを"盗る"なんて絶対にイヤです。だから、このことはトレーナーさんには言わないでくださいね?」
涙が出そうなのをこらえながら、スカイさんに私の想いを語りました。この恋心は私たち二人の秘密のままの方がいいです。初恋は実らないものだって、よく言われてますし、私は誰にも迷惑かけたくありませんから。
「……ねぇ、フラワー。諦めちゃう前に、騙されたと思って私の作戦に乗ってみない?」
「え?」
思わず聞き返すと、今まで見たことがないくらいに複雑そうな顔が見えました。
「二人とも、おかえり。フラワーの悩みは解決した?」
「これから解決しますよー。ね?フラワー」
「はい」
そうです。これから解決します。ごめんなさい、トレーナーさん。でも、私は……
「トレーナーさん」
「なに?」
「私、あなたが好きです。愛してます!私とも付き合ってください!!」
言ってしまいました……
胸はバクバクと高鳴り、顔はとっても熱いです。それにスカイさんは絶対に大丈夫だと言ってましたけど、レースに絶対はないように、トレーナーさんにも絶対はないと思います。だから、今とっても怖くて、膝がガクガクと震えています。
トレーナーさんは私の告白を聞いても、優しく微笑んだ顔を崩しませんでした。そのまま、ゆっくりとスカイさんの方を向き、
「スカイ、何を吹き込んだの?」
「私は背中を押しただけですよ?」
困った声のトレーナーさんに対して、ホッとしたような声のスカイさんが答えています。スカイさん
でも、私は早くちゃんと答えて欲しいです……
「……スカイはイヤじゃないのか?」
「フラワーだったらいいかなって。私はフラワーのこと大好きですし」
間髪入れずにスカイさんが答えました。
「それに……」
「ひゃぁ?!ス、スカイさん!?」
「スカイ……」
スカイさんが私の背中に抱きついてきて、太ももを撫でてきました!?
そのまま私のスカートの裾をつまんで……!?
「トレーナーさんだって、フラワーのこと好きでしょ?こんなあどけない良い子とイチャイチャしたくありませんか?」
スカイさんな私のスカートをほんの少しだけたくし上げると、それに釣られるようにトレーナーさんの視線が動いて……
ハッと我に返ったトレーナーさんは思い切り顔を天井に向けました。
「……トレーナーさん?」
「……分かったよ」
問いかけるようなスカイさんの声に、トレーナーさんは疲れたような声で答えました。トレーナーさんの答えを聞いて、スカイさんが私から離れていきます。トレーナーさんはゆっくりとこちらを向くと、私と目線を合わせるために、膝をついて、私の左手を両手で取りました。
「フラワー、俺も好きだ。こんな俺でよければ、よろしくお願いします」
「ふ、ふつつか者ですが!こちらこそよろしくお願いします!」
「私ともよろしくねー」
背中から抱きついてきたスカイさんに押されて、トレーナーさんの腕の中に飛び込んでしまいました。
少し狭くて苦しいですが、大好きな二人に挟まれて、私は今とっても幸せです♪
「じゃあ、トレーナーさん、今日のトレーニングが終わったら三人でトレーナーさんの家ね?」
「トレーナーさんのおうちですか?」
トレーナーさんのおうちは行ったことないから、とっても行ってみたいです。男のヒトのお部屋ってどんな感じなんだろう?
「……スカイ、物事には順「私と同じように、フラワーのことも扱ってくれないと不公平だと思うなぁ。フラワー、今日は外泊届だしておいてね?」
「わかりました♪」
お話をさえぎって、ごめんなさい、トレーナーさん。でも、私だってスカイさんと同じように、あなたのおうちに行ってお泊まりしてみたいんです。
「……まぁ、俺が手を出さなきゃ大丈夫か」
「その場合、私が手を出しますけどね?」
「お前なぁ……」
「にゃはは☆」
「お二人とも何のお話ですか?」
「「フラワーは分からなくていいよ」」
困ったような声のトレーナーさんと、イタズラっぽい声のスカイさん。お二人で私にはわからないことをお話していて、なんだかモヤモヤします。
ちなみに、その日の夜、渋るトレーナーさんをスカイさんが言いくるめてくださって、私もスカイさんと同じ"オトナの女性"にしてもらうのですが、それはまた別のお話、です♪