トレーナーに誓いを立てるフラワーのお話
5月中に間に合いませんでした
ゼルダのせいってことにしておきます
目的地として指定された建物の重厚な樫の扉を両手で押し開ける。真白い壁と青や赤などの
「トレーナーさん」
ヒナギクやタンポポなどの花の意匠があしらわれた淡い桜色をベースに桃色のアクセントが可愛らしいショートのウエディングドレスを
「今日は私のわがままに付き合ってくださって、ほんとうにありがとうございます♪」
「これくらいお安いご用だよ。カメラはフラワーのスマホでいいんだっけ?」
「はい。せっかく新しい衣装をいただいたんですし、撮影とは別でトレーナーさんとの思い出を残しておきたいんです」
撮影とは別、というのも、先日この教会でフラワーの新勝負服を撮影を行い、引き立て役として俺もスーツ姿で横に居たのだが、その時は俺の顔が写らないように撮影を行ったのだ。
けど、せっかくビューティー安心沢さんからウエディングドレスの勝負服を頂いたのだから、二人共に顔の写った記念写真を撮りたいという話になり、今に至っている。
教会の方のご厚意もあり、短い時間ではあるが貸し切りなのは本当にありがたい。フラワーだってGⅠウマ娘だ。勝負服を着たGⅠウマ娘なんか公共の場に居たら大混雑間違いなしなので本当にありがたい。記念撮影後、改めて感謝しに行こう。
「あっ、トレーナーさん、タイが曲がっていますよ」
写真を撮る前に身嗜みを整えていると、こちらを見つめていたフラワーがそれに気付いた。
背伸びと共に伸びてきた手に合わせて、フラワーに負担が掛からないように腰を
純白のサテンに包まれた小さな両手が俺の首元のネクタイを掴み、結び目を少し緩めてから締め直す。苦しくない程度に締められたネクタイが真っ直ぐになるように、ほっそりとした指がネクタイの結び目を整えていく。
「はい。カッコよくなりましたよ♪」
「ありがとう、フラワー」
「えへへ♪ どういたしまして♪」
「じゃあ、写真撮ろうか」
「はいっ!」
スマホを取り出したフラワーの横に座って並び、慣れない手付きでカメラを操作するフラワーを手伝う。
「……よし!撮りますよ!」
「いいよ」
「はい、チーズ!」
パシャリとシャッター音が鳴る。笑えていたと思うが綺麗に写っているだろうか。
フラワーがスマホのアルバムを開き、こちらへと画面を向ける。そこにはドレスで笑顔のフラワーとスーツ姿で笑顔の自分が教会を背景に綺麗に写っていた。
「どうですか?きれいに撮れてると思うんですが……」
「うん。綺麗に撮れてるね」
「ですよね! せっかくですから、トレーナーさんもスマホで写真撮りませんか?」
普段は写真なんて撮らないのだが、担当ウマ娘の新勝負服に加えて、ウエディングドレス姿の愛バと教会に居るというシチュエーションもあって、無意識にテンションが上がっていたのだろう。柄にもなく、この光景を形に残したいなんて思ってしまった。
それに、頬を朱色に染めキラキラとした瞳でこちらを見つめる担当ウマ娘の提案を断れるトレーナーが果たして居るのだろうか?
「そうだね。じゃあ、俺も撮ろうか」
「はい!」
スマホをジャケットの内から取り出し、手早くカメラアプリを開いて自撮りモードに切り換える。空いている方の手でフラワーを軽く抱き寄せ、
「……えへへ♪」
「じゃあ、はい、チーズ」
「チーズ、です♪」
タップと同時にパシャリとシャッター音が鳴る。アルバムを開くと先程フラワーのスマホで確認した写真とよく似た写真を確認できた。
「バッチリですね!」
「だね」
興奮しているのかブンブンと揺れる尻尾とピコピコと
そして、立ち上がろうとして、気付く。
目の前、吐息が交わる距離までフラワーが詰めて来ていることに。
「フラワー…?」
「トレーナーさん、いつもありがとうございます」
「目……
今にも湯気が出そうなほど真っ赤な頬に、真剣な輝きを
「あなたのおかげで、私はGⅠウマ娘としてりっぱに咲けました」
「それは君の努力の成果だよ」
「いいえ。私一人ではGⅠウマ娘になんてなれませんでした。だから、あなたのおかげです」
キッパリとフラワーは言い切る。こうなると結構頑固なフラワーのことだ。おそらく何度否定しても意味がないだろう。黙ってフラワーの言葉を待つ。
決意を固めるように一呼吸したフラワーが真剣な声音で言の葉を
「私、いつか大好きなあなたに相応しいりっぱなオトナの女性になるって、今ここで、あなたに、この勝負服に誓います」
あまりにも大胆な告白に呆然としてしまう。
服装や周囲の状況的にも言葉の内容的にもほとんど逆プロポーズでは?しかも、一回りは年が離れた担当の子から?
あまりの衝撃に完全停止した思考の中、フラワーの動きに気付けたのはある意味奇跡だろう。
目蓋を閉じたフラワーがゆっくりとこちらへと近付いてくる。それが何を意味しているかなんて考えるまでもない。
「フ、フラワー!?ちょっと待って!?」
明らかに唇へと狙いを定めたフラワーから逃れようにも、顔を逸らすことはフラワーの両手に
フラワーの肩を押して離れようにも力の差は歴然。声を上げても興奮か緊張で聞こえていないのか、それともあえて無視されているのかは分からないが反応はない。
「フラワー!フラワー!!」
抵抗も虚しく、二つの影は重なったのであった。
「うぅ……ごめんなさい……」
「別に構わないよ」
「ついテンションが高くなっちゃって……」
「気にしてないから」
「でも……」
誓いのキスの後、ようやく夢見心地から戻ったのか、フラワーはずっと恥ずかしそうにうつむいたまま謝りっぱなしだ。
後は帰るだけなのだが、このままでは危ないし明日以降にも引きずりかねない。とにかく何も問題ないということを言い続けるしかないのだろう。
「トレーナーさん……」
「なぁに?」
気落ちした声とは裏腹に、少女と女性の間で揺れる瞳は面白がっているようで
「その……もし、誓いが守れたら、次はあなたから、キス、してくれませんか…?」
伸ばした人差し指がフラワーの唇を強調する。大人顔負けの妖艶な仕草に目が離せない。
この子には一生かかっても
そう思うと思わず笑顔が溢れ、怒られるとでも思っていたのだろうか、フラワーはキョトンとした表情に変わる。
その子供っぽい表情に苦笑しながらも、顔を覗きこむようにして、ついさっきの話を無視することになってしまうが、未来の花嫁に誓いのキスを落とすのだった。