卒業式の日にウララが一歩大人になる話
ビターエンド
本年書き納めの作品でございます
今年の目標として
1.お気に入り500人
2.評価20件(バー赤色)
3.飽きない
を掲げていたのですが、全て達成しました
いや、飽きないは達成したのか…?
まあ、これからも気が向いた時に書いて、仕上がったら投稿していきます
ハルウララ、大人になる
例年通りなら他人事の行事に、熱い目頭を指で押さえながら私は出席していた。
『これより第○○回、日本ウマ娘トレーニングセンター学園、卒業証書授与式を開会致します』
今日は私の初めての担当ウマ娘であるハルウララの卒業式だ。
人口密度の高い講堂内、奥側の真ん中に居並ぶ卒業生達を、私たちトレーナーは教職員組と共に両壁側から眺めている。
私の席は手前側で生徒達よりも後ろなので、卒業生の背中しか見えないのだが、それでも特徴的な桜色の髪はすぐに見つけられる。
出会った頃より心身共に成長したとはいえ、とっくに集中が切れたらしいウララの顔がキョロキョロと動いているのが見え、隣に座っているキングちゃんの方を向いて止まる。
ここからは表情が
三人共変わらないなぁなんて年寄り染みた感慨と共に、とっくに冷めたはずの目頭がまた熱くなってくる。
「大丈夫か?」と声をかけてくる隣の同僚に「大丈夫だ」と自分でも笑ってしまいそうなくらいの涙声で返す。
誰が聞いても大丈夫ではない声を出したにも関わらず「そうか」とだけ
しばらく
感傷的になっていたのが原因だろうが、目を閉じるだけで走マ灯のようにウララと共に駆け抜けた日々が目蓋の裏に浮かんできたのだ。
スカウトした時、メイクデビュー、初めての重賞、そして有マ記念を目標に据え……出走して、見事に惨敗した日。
……秋川理事長の挨拶が始まり、仮にも教職員である私が理事長のお話を聞いていないのはまずい。
URAファイナルズに想いを馳せようとしていた思考を慌てて現実へと引き戻し、思い出に蓋をして真っ直ぐに前を見つめる。
『諸君ッ!まずは卒業おめでとう!』
卒業式の日と言えども、式に出席して『はい、おしまい』の学生達とは違い、我々教職員には仕事がある。
通常の業務のほかにも、この時期は担当ウマ娘の引退・卒業の手続きが追加されるし、もう少しすると新入生についての情報収集、選抜レースのチェックに担当契約手続きも加算される。
幸いにも、私の担当ウマ娘の中で卒業するのはウララだけで、新入生をスカウトする予定も今の所ないので他のトレーナーと比べると仕事は少ない方だ。
ちょうどインスタントのコーヒーを片手にデスクに座ったタイミングで勢いよく扉が開き桜色が飛び込んで来る。
「あっ、トレーナー!ここにいたんだね!」
「ウララ?」
パタパタと小走りでウララはこちらへと近付いて来て、デスクの反対側に両手を着いてもたれかかる。
カバンは見当たらないし卒業証書はどうしたのかとか、普段ならデスクのこちら側まで回り込んで来るのにとか、キングちゃん達と約束していた卒業パーティーは?とか、聞きたいことは山ほどあるが、ウララの強張った笑みを見た途端にそれら全ての疑問は頭から抜け落ちる。
「ウララ、一体どう「あのね、トレーナー。わたし、トレーナーにどうしても言わなきゃいけないことがあるんだ」
今にも泣き出しそうな、いつもの天真爛漫な姿からは想像も出来ない大人びた顔でウララは私の言葉を断ち切る。
何か言わなくては……心では理解しているのに、じっとこちらを見つめてくる桜色の潤んだ瞳が何も喋らせてはくれない。
「わたし、トレーナーのこと、すき。だいすき」
今にも泣き出しそうな顔で言われたその言葉の意味を理解するまでに数瞬かかるが、あくまでも無心で指導者としての最適解を返す。
「……私もウララのことが好きだよ」
あくまでも"親愛"を籠めて。
まかり間違っても、それ以外の意味に取られないように、柔らかい微笑みを
だけれども、フルフルと頭を振ったウララは大粒の涙を両の目尻から
「わたし、トレーナーのこと、男の子として、すき」
「ウララ……」
「ごめんね、トレーナー。トレーナーは、けっこん、してるもんね。困っちゃう、よね」
いつ気付いたのだろうか。私の薬指に鎮座する指輪の残酷な現実に。
トレセン学園に来る前から肌身離さずに身に着けている誓いの証が無邪気な担当を泣かせている。身に着けてさえいなければ、穏当な対処が出来たかもしれないのに。今だけはその簡素な銀色のリングが憎らしかった。
「わたし、トレーナーに、……っ、あいしてる、って、言いたかった…!トレーナーと、ちゅー、したかったなぁ…!」
それに応えられる言葉を
「ずっと、ずっとずっと、すきだった…!でも…!わ、わたしだって、ウワキは、ダメなことだって、知って、るもん…!」
あまりにも普段の天真爛漫な姿からかけ離れた痛ましい姿に見ていられなくなり、無意識にウララの頭を抱きしめようと伸ばしていた両腕は、彼女の両手に
「今は、今、だけは、わたしを、子どもあつかい、しないで……」
ギュッと強く、しかし優しく掴まれている手が握りしめられる。
それは私の無遠慮な優しさに対する明確な拒絶だった。
言葉は声にならず、両手も動かせないとなると、私に出来ることは
ただじっと、泣き
ウララは涙を流し言葉にならない
それに対して、私は何も言うことが出来ない。無遠慮な慰めは彼女を傷つけるだけで逆効果だろうし、かと言って、妻を裏切るような言葉を告げるつもりは毛頭なかった。
一人が
すっかり夕陽に染められ、トレーナー室が真っ赤に変わった頃、ようやくウララの
ゆっくりとこちらへ向けて上げられた幼い顔には、涙の跡こそあれど、すでに悲しみの色はなく、ハッとするほど綺麗な、大人びた色を帯びていた。
「ありがとう、トレーナー。わたしとずっといっしょにいてくれて」
「ウララ……」
「だいすき、
無邪気に笑顔を浮かべて、再開の約束を子供っぽく一方的に押し付けた少女は、立ち上がったその勢いのままにトレーナー室から普段通りの
春が去ったトレーナー室には、とっくに見えなくなった彼女の背中をいつまでも未練がましく目で追い続ける私と、冬の寒さだけが残っていた。