ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
嘘が苦手なネイチャのトレーナーがネイチャに嘘つくお話

ネイチャはほんのりしっとりしてる方が似合う


トレーナーさんの嘘つき

最近、アタシのトレーナーさんは、時々遠くを見るような目をする。

 

その時の彼は、普段はどんな時でも能天気に笑ってる彼には似合わない、憂いを帯びた顔をしている。

 

一度、思いきって『何か悩んでるの?アタシで良ければ、相談に乗るよ?』と言ってみたが、『なんでもないよ。気にしないで』と言われた。

 

嘘だ。

 

トレーナーさんは嘘をつくのがとても下手で、大きく目を泳がし、口の端がピクピク動いていた。

 

『ホントに大丈夫?無理してない?』

 

『大丈夫。大丈夫。ネイチャは気にしなくていいよ』

 

そう言われた。

 

嘘だ。

 

わざわざ『ネイチャ"は"気にしなくていいよ』って言ったんだ。少なからずアタシと関係あることだと思った。

 

 

 


 

 

 

冬に入ってから、トレーナーさんが物思いに耽る頻度が増えた。

 

そんな冬のある日、その異変に気付いた。

 

最近、トレーナーさんから、アタシじゃない女性の匂いがする。

誰かまではわからないけど、連日同じ女性の匂いがした。

 

ほの昏い何かが胸の内に滲む。

 

URAファイナルズが終わった後、勢いで告白紛いのことを言っちゃったけど、結局、あの時の答えは貰ってない。

 

だから、この黒い感情は的外れなのだろう。

 

それに、付き合ってるって決まった訳じゃないし。距離感がおかしいだけかもしれないし、ちょっと馴れ馴れしい女性ってだけかもしれないし…

 

そう思って、匂いと、自分の想いに、気付かないフリをした。

 

 

 


 

 

 

ある細雪の降る日、一人で商店街を歩いていたアタシは、気付いたらトレーナーさんの家の方に向かっていた。

 

出不精の彼のことだから、家でインスタントラーメンでも食べようとしてるんじゃないかと思って、昼食でも作ろうかなぁ、と途中で食材を買って、ちょっとウキウキした気持ちで歩いていた。

 

昼前には、彼の家が見えてきた。

 

 

 

その時、"彼女"は現れた。

 

彼の家の玄関から、黒いダッフルコートを着た、腰まで伸びる銀糸のような綺麗な白毛のウマ娘が出てきた。

トレセン学園では見た覚えがないウマ娘だったけど、どこか見覚えのある顔だった。

 

思わず、歩みを止め、マジマジと見ていると、

 

笑顔のトレーナーさんが、お揃いのベージュのダッフルコートを着て現れた。

 

アタシと居る時より、笑顔に見えるのは気のせいだろうか。

 

 

 

………そっか。

 

アタシは彼の一着になれないんだ…

 

視界が滲む。

 

トレーナーという立場上、応えられないんだと思ってた。

 

でも、あの時から、トレーナーさんには彼女が居たんじゃないかな。

悩んでたことは、どうしたらアタシが傷付かないように伝えられるか、とかかな。

 

そう、思った。

 

だから、彼に見られる前に、踵を返した。

 

 

 


 

 

 

結局、自分の気持ちの整理がつかず、一睡も出来ずに夜が明けた。

 

今日、どんな顔をしてトレーナーさんに会おうか…

あのウマ娘は誰なのか聞くべきなのか、そんなことを何度も考えながら、ベッドから起き上がった。

 

 

 


 

 

 

「ネイチャ?どうした?顔色が悪いぞ」

 

その日、トレーナー室に入るやいなや、トレーナーさんにそう言われた。

 

今日は朝からずっと誰かに心配されっぱなしだ。

 

「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」

 

朝からずっと使ってる言い訳をする。

満更嘘でもないしね。

 

「嘘だ」

「えっ…」

 

真剣な表情のトレーナーさんに気圧される。

 

「…普段のネイチャなら、なんで寝不足になったかって話をするだろうし、それに…」

 

彼が一瞬言葉に詰まり、悲しそうな顔で続ける。

 

「…その悲しそうな顔が隠せてないぞ」

 

やめてよ。アタシなんかに向かって、そんな顔しないで。

アタシを心配しないで。

ほっといてよ。

 

喉元まで上って来た言葉を、遂に、告げることは出来なかった。

 

じっと、アタシを見つめていたトレーナーさんが、喋ろうとして口をパクパクさせながら、何も言わないアタシを見ながら話しだす。

 

「ネイチャ、何か悩みがあるなら相談してくれ」

 

その言葉を聞いた時、自分の中の何かが切れた。

 

「…トレーナーさんは相談してくれないのに?」

「ぐっ…」

 

トレーナーさんが口を開いては閉じる。

 

何度かそれを繰り返した後、

 

「…すまん。まだ話せないんだ」

 

苦しげに彼は答える。

 

「そう。じゃあ、アタシから聞く。昨日、トレーナーさんの家に居た白毛のウマ娘って誰?」

 

言いながら、ソファに彼を押し倒した。

 

「…えっ」

 

困惑しているのがわかる。

 

でも、もうアタシは止まれない。

 

アタシを押し退けようとする彼を押さえこみながら、アタシは続ける。

 

「昨日トレーナーさんの家に行こうとしたら、トレーナーさんの家からその娘が出てくるとこ見たよ。

悩みって、それでしょ?付き合ってるのをアタシに隠してる」

 

トレーナーさんがアタシの下でポカンと口を開けている。

彼の両手を片手で押さえられるように動かして、左手で押さえる。

 

「アタシは、アンタの一着だけは誰にも譲る気ないから」

 

それだけ言って、アタシは右手だけで、トレーナーさんのベルトの留め具を外し始めた。

 

アタシがベルトに手を掛けるのを見て、ボーッとしてた彼は焦りながら話し始める。

 

「待て待て待て!ネイチャ!」

 

「言い訳は聞きたくない」

 

「勘違いだ!あれは俺の妹だ!」

 

穴が開きそうなほど彼を見つめる。

 

「俺の妹!彼女とかじゃない!」

 

トレーナーさんは嘘をつくのがとても下手だ。

 

だから、嘘なんかじゃないのが良くわかる。

 

目はずっとこっちを見つめてるし、眉はピクリともしない。口の端が変に痙攣したりもない。

 

 

 

………マジ?

 

勝手に勘違いして、勝手に嫉妬して、勝手に怒って、挙げ句の果てに既成事実作ろうとしたとか…

 

「…死にたい…」

 

顔を両手で覆う。顔が熱い。

トレーナーさんの顔とか、しばらく見れないんじゃね?

 

「…ネイチャ、死んだら怒るからな」

 

呆れたような声が下から聞こえる。

 

…こんだけやっても怒らないのに、アタシが死んだら怒るの?

 

「あと、早く降りてくれない?」

「はい…」

 

 

 


 

 

 

「あのー、トレーナーさん?」

「なに?」

「わざわざトレーナーさんの家まで行って、妹さんの紹介しなくてもいいよ?アタシはトレーナーさんを信じてるから」

「いや、今回の問題は俺が妹を紹介しなかったから起きた問題だ。その反省として、妹はちゃんと紹介しておこうと思う」

 

こういう変なところ律儀だよねぇ…

 

しっかり手を握られて先導される。

 

「だからって、トレーニングお休みにする必要は無いでしょ?」

「いや、寝不足でトレーニングしても、効率良くないし、ケガする可能性も高いでしょ」

「それは…まあ…そう、だけど…」

 

反論出来ない…

 

そうこうしてる内にトレーナーさんの家に着いてしまった…

 

彼は慣れた手付きで鍵を開け、アタシの手を引いて中へと入っていく。

 

「ただいまー」

「お、お邪魔します…」

 

初めてトレーナーさんの家に来た時くらい緊張してる…

普段ならこの挨拶に返事はないはずだけど…

 

「兄さん?おかえり。今日は早いんだね」

 

部屋の奥からソプラノの女声が返ってきて、続けて、もこもこの白いネグリジェを来た白毛のウマ娘が現れる。

 

「あら?お昼から彼女さんでも自宅に連れ込むの?」

 

からかうような、笑いを含んだ声でそう言う。

 

「っ…!?」

 

か、彼女…!?しかも、自宅に連れ込まれて…?!

いやいやいや、落ち着けアタシ。トレーナーさんは絶対そんなことしない人。今までだって、何回家に来ても手は出してこなかったし…

 

アタシが一人で悶々してると、力無くトレーナーさんが答える。

 

「いや…この娘は俺の担当ウマ娘のナイスネイチャだ」

「ああ。いつも兄さんが話している方ですね。いつも兄がお世話になっております」

 

ニコニコしながら妹さんが言う。屈託のないキラキラした笑みだ。

それに、笑った時の目元や口元がトレーナーさんそっくりだ。

 

「ど、どうも…初めまして…」

 

対してアタシはどうだ。絶対今困り顔なんだけど…

 

「で、ネイチャ、これが俺の妹の---

 

 

 


 

 

 

「お邪魔しまーす」

「わざわざオフの日に来てくれて、ありがとう。ネイチャさん」

 

いつもの屈託のない笑顔で妹ちゃんが言う。

 

「いやいや、アタシも妹ちゃんと居るの楽しいし、どーせ暇だしねぇ」

「じゃあ、今日もお願いします。ネイチャ先生」

「任されました。じゃあ、今日はチャーハンでいい?」

「はい!」

 

最近は、有マ記念へ向けた調整の合間を縫って、毎日のようにトレーナーさんの家に来ている。

『妹ちゃんに料理を教える』という大義名分があるので、気兼ねなくいつでも来れるようになったのだ。

 

「そう言えば、トレーナーさんは?」

 

声がしないから多分出掛けてるのかな。

 

「あー…その…」

 

妹ちゃんの目が泳ぐ。

 

この兄妹は二人とも嘘がとても下手だ。

 

「何隠してるの?」

 

自分でもびっくりするくらい素っ気ない声が出る。

怒ってるように聞こえるよね…

 

「えっとね…ホントは、話しちゃダメなんだけど…」

 

声量を少し落としながら、打ち明け話が始まる。

 

「最近ね。兄さんはネイチャさんへのサプライズプレゼントを用意してるの」

「…えっ」

「だから、必死に嘘ついて誤魔化してるの」

 

うわっ。最近悩んでることって絶対コレじゃん。何にしようか悩んでるヤツじゃん。

 

ずっと考えてたような不安は無くなったけど、ほんのちょっとだけ損した気分。

 

「教えちゃったけど、兄さん頑張ってるから、ちゃんと驚いてあげてね?ネイチャさん」

「あー…うん。頑張る」

 

この時期にサプライズプレゼントって絶対クリスマスプレゼントだよね。クリスマスは予定空けといてって言われてるし…

 

思わず顔がにやけるし、尻尾はブンブン動く。

浮かれすぎだってばアタシ。

 

「あっ、そうそう、アレ見つけたよ」

 

にんまりと笑みを浮かべて、妹ちゃんが言う。

…いや、それだけじゃわかんないよ。

 

「えっと…どれのこと?」

 

笑顔を更に深め、悪魔のような顔で妹ちゃんは続ける。

 

「兄さん秘蔵の雑誌とDVD見つけたよ。ネイチャさん探してたでしょ?」

「あー、まぁ、そう、だね」

 

そういえば、そんな話したこともあったなぁ…

ベッドの下には無かったって話したなぁ…

というか、なんで妹ちゃんは見つけたの…

 

「兄さんは帰る前に必ず連絡してくるし、寮生活だとこういうDVDは見辛いんじゃない?私も興味あるから一緒に観よう?」

 

あぁ…しっかり理論武装してらっしゃる…

アタシも気になるし…断る理由もない…かなぁ…

 

「…あー…じゃ、パパッとチャーハン作ちゃおうか」

「はい!」

 

 

 

この後、人畜無害そうな顔したトレーナーさんが、意外とアブノーマルな趣味を持っているのを知るのでした。

 

 

 


 

 

 

クリスマスの日、有マ記念の前日。

 

「今日は軽く調整だけして、終わったら二人で出掛けようか」

 

トレーナーさんが緊張した面持ちで、そう切り出した。

 

「いいよ。どこ行くの?」

 

待ちに待ったセリフに、暴れだしそうな尻尾と、にやけそうな顔を必死にこらえながら答える。

 

「えーっと、水族館に行って、それから一緒に夕食でもどう?」

「りょーかい。じゃあ、気合い入れて走ってこないとね」

 

恥ずかしさが限界に達し、アタシはそれだけ言うと、逃げるように走りだした。

今日のメニューを聞き忘れたことに気付いたのは、最初のコーナーを曲がり始めた時だった。

 

 

 


 

 

 

「もう夜だねぇ」

 

水族館でもディナーの時もプレゼントの話は全く出なかった。

ということは、去年と同じように星空の下でプレゼントとかになるのだろうか。

 

…いや、今アタシはプレゼント持ってないじゃん。

 

「…」

「トレーナーさん?」

「あっ!ごめん!ネイチャ!考え事しててさ」

 

トレーナーさんが大慌てで取り繕う。

今日のトレーナーさんは、お昼からずっとこんな調子だ。

 

「大丈夫?」

「大丈夫!問題ないよ!」

 

嘘だ。

目が泳いでる。

…そんなにプレゼントのことで頭いっぱいなのかなぁ。

 

「そう?じゃあ、トレーナーさんの家に行こ?」

「………は?」

「えっとね…アタシと妹ちゃんからのクリスマスプレゼントがもうトレーナーさんの家にあるんだよね」

「あー、うん。なるほど。じゃあ、行こうか」

 

絶対変な勘違いされたよね…キョドってたし…

まぁ…アタシは自然な誘導とか出来ないし…

そもそも家には妹ちゃんが居るんじゃないの?

 

 

 


 

 

 

「ただいまー」

「お邪魔しまーす」

 

明かりの点いていない部屋はシーンと静まりかえっている。

 

「…妹ちゃんは?」

「あー、今日は友達の家でクリスマスパーティしてそのまま泊まってくるってさ」

 

ってことは、一つ屋根の下でトレーナーさんと二人きり…?

 

………

 

いや、これ以上考えるのはよそう。絶対余計なこと考える。

 

「あー、じゃあ、アタシは先に行って、暖房点けてくるね」

「あー、うん。手を洗ったらすぐ行く」

 

急いでその場を(トレーナーさんから)離れる。

 

あのまま側に居たらヤバかったかも…

 

手早く暖房を点けながら、ピンク色に染まりかけた思考をなんとか再起動する。

 

「暖房ありがとうな。飲み物用意しとくから、手洗ってきて」

「りょーかい。洗面所借りるねー」

 

冬場特有の氷のように冷たい水に手を浸し、熱暴走した頭を冷やす。

 

あとは、プレゼント交換して帰るだけ…

 

名残惜しいけど、明日は有マの日だし、アタシは学生で、恋人ですらない…

これ以上を望むのは高望みだろう。

 

じんわりとした青い感情に包まれながらトレーナーさんの居る部屋に戻ると、彼はワインボトルに入ったジュースと、シャンパンを準備していた。ワイングラスも二つ用意してあって、クリスマスを祝うには良い雰囲気だ。

 

「ネイチャはまだお酒飲めないから、ジュースで悪いけど」

 

眉をハの字にしながら、彼は苦笑する。

 

ポンッという破裂音と共にジュースの栓が抜ける。

 

「や、わざわざ用意してくれてありがと。それに、こういうのは雰囲気が大事じゃん?」

「…そう、だな。じゃあ、早速乾杯といこうか」

 

トレーナーさんは、いつもの能天気な笑顔になると、アタシのグラスにジュースを注ぐ。

 

それからシャンパンのボトルを開けようとするのを、アタシは手で押し止める。

 

「トレーナーさんがアタシの分を注いだんだから、アタシにも注がせてよ」

「いいよ。ケガだけしないようにな」

 

そう言いながら、アタシにボトルを渡す。

 

「もぉ、心配し過ぎ」

 

軽くコルクを押さえながら、真上に引っ張る。

先程と同じく、ポンッと破裂音が鳴り、ボトルが開く。

 

「かもな。でも、有マの前日なんだし、用心には用心を重ねた方がいいでしょ」

「トレーナーさんは心配性だからねぇ。ま、今日くらい、お酒飲んでパーッとやりましょ?」

 

アタシがトレーナーさんにお酌する。

 

「明日は大事な日だから、控えめにはするけどな」

「ま、とにかく、かんぱーい」

「うん。乾杯」

 

チリンとグラスが鳴り、その可愛らしい音と幸せな時間に、自然と笑みが溢れる。

 

「そうだ。アタシのプレゼントが先でいい?」

「ん?いいよ。って、まぁバレてるよなぁ…」

 

トレーナーさんは頬を掻きながら、苦笑する。

 

「あはは…じゃ、ちょっと待っててね」

 

冷蔵庫まで行き、袋を取り出す。中身が見えないように包んであった袋を外すと、プレゼントの横に手紙が添えてあった。

 

『ネイチャさん。頑張ってね♡』

 

妹ちゃん…アタシ、頑張るよ。

 

"それ"を持って戻ってきたアタシを見て、トレーナーさんが目を丸くしている。

 

「…プレゼントって、そのチョコケーキか?」

「そ。アタシと妹ちゃんの自信作だよ」

 

赤と緑のソースをかけて、アタシお揃いのクリスマスカラーだ。

気合いが入り過ぎて、ホールケーキにしちゃったのは、やり過ぎだったかもなぁ…

 

「ホール丸々一個はちょっと多いなぁ…ネイチャも一緒に食べない?」

「そう言うと思った。包丁とお皿持ってくるから待っててね」

 

ウキウキする心を抑え、手早く切り分け、トレーナーさんがケーキを口に運ぶのをジッと見つめる。

 

「美味しいよ。甘いチョコに、ラズベリーかな?の酸味があって、アクセントになってる。抹茶は風味付け?色付けなのかな?」

 

子供みたいに目を輝かせながら、彼が言う。

 

「ふふっ、ありがと」

 

喜んでくれたみたいで、嬉しくて尻尾が揺れる。

 

「…で、俺からのプレゼントなんだけど…」

 

真剣な顔をしてトレーナーさんが言う。

 

「ネイチャ、URAファイナルズが終わった時にネイチャが言ったこと、覚えてる?」

 

「もちろん、覚えてるけど…」

 

まだ、答えてくれてないよね?

そう続けようとして、遮られる。

 

「あの時の答え、今言うよ」

 

トレーナーさんが席を立ち、こちらへ向かって来る。

手を伸ばせば届く距離だ。

 

「君は学生、俺は大人。俺はトレーナーで、君は担当ウマ娘だ」

 

一拍、彼は深呼吸する。

 

「だから、不純異性交遊はダメだ」

 

気分が沈む。視線を下げる。

わざわざ、クリスマスの日に言わなくてもいいじゃん…

 

「だけど、」

 

…続き?

 

視線を上げると、彼の顔が目の前にあった。

 

(ひざまず)いた姿勢のまま、彼は続ける。

 

「これだけは言わせて欲しい」

 

彼の懐から小箱が出てくる。

 

嘘…

 

ホントに…?

 

「俺と…婚約…してくれないか?」

 

小箱が開くと、シンプルな金の指輪が入っていた。

 

夢…じゃない、よね…?

 

目の前が霞む。

 

「まだ、結婚は出来ないけど、婚約なら出来るからさ…これなら、『不純』じゃないだろ?

…受け取って、くれないか?」

 

「…指輪、ハメてくれない?」

 

「…喜んで」

 

涙で前が見えないけど、トレーナーさんが微笑んでいるのがわかる。

 

左手を取られ、薬指に優しく、指輪がはまる。

 

そのまま、顎に手が添えられ、思わず目を閉じると、唇に暖かい幸せを感じた。

 

 

 

 

 

どのくらい経ったか分からない。

 

ゆっくりとその幸せは離れていって、

 

「遅くなって、ごめん」

 

彼が囁く。

 

胸がいっぱいで、何も言えなかった。

 

 

 


 

 

 

「ネイチャ。落ち着いた?」

「…うん」

 

あの後、トレーナーさんに抱きついて、思いっきり泣いてしまった。

…いや、思わせ振りな、断るような言葉を使うトレーナーさんが悪いと、アタシは思うな。

 

「じゃあ、そろそろ離れてくれない?好きな娘にずっと抱きつかれてるのは色々とヤバいんだけど…」

 

…うん?

 

「…してくれないの?」

 

絶対この後、ベッドまで運ばれる流れだと思ってた。

 

「…婚前交渉はしたくないんだけど」

 

嘘だ。

 

目が泳いでるし、なにより、さっきから下腹部に当たってる。

 

「…しよ?」

 

「ぐっ…」

 

苦々しげな表情で、彼は言葉に詰まる。

 

「ねえ?アタシは、こうなるのをずっと待ってたんだよ?だから…我慢しなくていいよ?」

 

「………ダメだダメだダメだ。負けるな俺。流されるな俺。明日はネイチャの三度目の有マだぞ。今年こそ勝つんだろ。テイオーやライスやタンホイザも居るんだぞ。俺のせいで調子崩すなんて、絶対にあり得ないからな」

 

「じゃあ、明日の有マに勝ったら、アタシへのご褒美としてしてくれない?」

 

生唾を飲む音が聞こえる。

 

「…ちなみに、負けたら?」

 

「アタシを慰めるためにして?」

 

「………あー…俺の負けだわ」

 

疲れたような顔でトレーナーさんが笑う。

 

義妹ちゃん。ちゃんとネイチャさんは差しきったよ。

 

「明日、耳とか尻尾で好きなだけしていいよ。楽しみにしといて。お尻でするのは…ちょっと怖いから今回は無しで」

「………どこでそれを…?」

 

狼狽えてる顔のトレーナーさんは新鮮かも。

 

「ふっふっふっ…遂に、見つけちゃったんですよ…妹ちゃんが」

「あいつ…!あー!くそっ…完敗だわ…」

 

力無く横たわるトレーナーさんに、思わずキスしてしまうネイチャさんなのでした。

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