テイオーがトレーナーに振られても諦めない話
テイオーはアニメ二期の何度も辛酸を嘗めた結果のイケメンテイオーが一番好きです
ハクバの王子よりキミがいい
「ねえ、トレーナー」
震えそうな声をムリヤリ抑えて、いつも通りに声をかける。
最強無敵、不屈のテイオー様が緊張してるだなんてボク自身が許せない。
いつものトレーナー室に二人きり。
トゥインクルシリーズ引退とドリームトロフィーリーグへの移籍。
そして、バレンタイン。
今日という絶好の日を逃す訳にはいかない。勘でしかないけど、ボクの勝負勘はよく当たる。
「好き、です」
たった二言。それだけでも相当な勇気が必要だった。
手に持ったチョコレートを差し出す。もちろん本命。
今日のためにネイチャやカイチョーに相談しながら作ったチョコカヌレを。
「ボクと、付き合ってください」
めちゃくちゃ無茶を言って一年だけ専属契約を延ばしてもらったんだ。四月になったらトレーナーと他の子が担当契約するのは避けられない。
だから、仕掛けどころは今だ。
ボクが差し出したチョコレートを手に困り顔のキミ。
「ごめん、テイオー」
キミにそう言われて、お腹の中が全部砂みたいになって崩れていった。
絶望するのは三回目の骨折で慣れたと思ったんだけど、これは慣れるようなもんじゃないみたいだね。そんな風に軽口を叩きたかったけど、口から出るのは音のない空気だけ。
「テイオーは俺にとって年の離れた妹みたいなもんで、その、付き合ってるところ、とかが想像できなくてさ。だから、えっと、その、ごめん」
キミにそう言われて、涙が出るくらいに悔しかった。
そんな理由で諦めたくないって。それくらいキミのことを本当に愛してるって、その時ようやく気付いたんだ。
「だからさ、マックイーン、キミがどうやってトレーナーを落としたのか教えて欲しいんだ」
「
困っている表情を隠そうとマックイーンは紅茶のカップに口を付ける。それが本当に困っている時の癖だというのも知ってる。
「そもそも私たちは気付いたら恋仲になっていたのであって、どちらかがもう一方を恋に落とそうだなんて行為は一度も起きていないのですよ?」
「それでも、婚約までしたんだから、お互いに異性として意識した瞬間があるはずでしょ?」
カップを置いて背筋を伸ばすマックイーンに、ボクは紅茶とお菓子を避けて机の上に体を乗り出す。
「どんな些細なことでもいいからさ。キミがトレーナーのことを意識し始めた出来事とか、トレーナーが意識してるなーって思ったこととか教えて欲しいんだ」
「……
うん、と素直に答えると呆れるマックイーン。
もうボク一人では手詰まりのとこまで来てるんだ。使えるものは
ふう、と息を吐いたマックイーンが再び紅茶を片手に語り始める。
───二人の関係が決定的に変わった夜を。
春の天皇賞に向けて過剰な自主トレを行っていた日。熱を出して倒れ、保健室まで運んでくれた彼。辛いことも悲しいことも、メジロ家の使命さえも一緒に『一心同体』として背負ってくれると宣言してくれた夜。
あの日以来、彼には精神的にも物理的にも遠慮なく甘えられるようになったこと。
思えば、あの夜の時点で恋をしていたのでしょう、と。
───自覚したのはいつだったのでしょうか。
ふとした瞬間に彼を目で追っていた時だったでしょうか。
足のマッサージで彼のゴツゴツとした手が足に触れた時に急に恥ずかしくなった時でしょうか。
服の試着中に彼ならどんな感想を述べてくれるか考えた時でしょうか。
ふらりと寄りかかった時に耳に伝わる鼓動を早めながら、
じっと彼を見つめて、あっ好き、と思った瞬間だったでしょうか。
───かい摘まんで、なんて言ってるけど、多分恥ずかしい部分を
「それほとんど全部ボクも経験あるよ……」
───確か、自覚したのは三回目の骨折の後、二回目の有馬記念に出るって言った時。
色々言いたそうな顔で「そうか」って一言だけつぶやいてリハビリメニューを用意してくれた時。
わかりきった問題もどうでもいい慰めも無しで、ただボクのワガママのためだけに全力を尽くしてくれたのが本当に嬉しかったし、カッコ良かった。
その時からトレーナーの姿が見えるとつい目で追っちゃうし、骨折した時、特に菊花賞と有馬記念に出るって言ってた頃は毎日足をマッサージしてもらってた。
マヤノと一緒に服を見て回ってる時でも、こっちの服の方がトレーナーの好みかなぁ、なんて感想が自然に口をついてくるんだもん。
わざと子供っぽく振る舞って勢いよくトレーナーに抱き付いて、男のヒト特有の香りにドキドキして、危ないからやめてくれ、なんて言いながら優しく抱えて下ろしてくれるトレーナーにもっとドキドキしたり。
いっつも顔を見る度に好きって思ってる。
「むしろ何なら経験無いんですの…?」
呆れと惚気ばっかり二人で話して、紅茶が無くなって、お茶請けが無くなって、アイデアも無くなってきた頃。
「もう一度全部やっていくつもりでアプローチしていくしかないのでは?」
「もうイケるところまで行くしかないかなぁ…?」
解なし、総当たり、としてボクたちの作戦会議は締めくくられるのだった。
「トレーナー、待った?」
「ん、十分くらい待ったかな?」
「もう!そこは『今来たとこ』って言うとこでしょ!」
「……ああ、そっか。悪いな」
善は急げ、ということで早速デートの待ち合わせ。だったんだけど、がんばって大人っぽいコーデをしてきたボクとは違って、トレーナーは相変わらず実用性重視のいつもの真っ黒コーデだ。
それを、今日こそは変えてみせる。
ボクのことを女性として意識させるんだ。
だからまずは手を───
「おっし、じゃあ行くか」
「……うん!」
……差し出された手を握るのはいいんだけど、これって女性じゃなくて子供扱いだよね?
「これとこれ、どっちが好き?」
「どっちがって、両方似合うと思うぞ?」
「もう!どっちが好きって聞いてるの!」
「あー、悪い」
トレーナーの好みの服を探ろうとして失敗したり、
「ねえ、トレーナー、あっちのお店行こうよ」
「女性物の下着なんて俺はよく分かんないぞ…?」
「もーっ!ちょっとは恥ずかしがってよ!」
「意味が分からん……」
からかおうとランジェリーショップに誘っても全然恥ずかしがってくれなかったり、
「はい、あーん」
「……甘、カロリー大丈夫か?これ」
「……ホントに照れないんだね」
「……ああ、悪い」
ちょっとは意識してもらおうとした『あーん』も全く気にせずに口の中に消えていった。
結局、今日のデート中にトレーナーがボクのことを女性として意識してるような素振りは一度もなかった。
いつもと違って今日は毎回申し訳なさそうな顔で謝ってくるけど、それはボクが告白したからトレーナーのこと好きなのをトレーナーも知ってるからで、ボクのアプローチに気付けなかったことに謝ってるんじゃないかな。多分。
それでも、何も成果が無かったとしても、キミのことだけは諦められない。
だから、今日はダメだったとしても明日は───
「なあ、テイオー」
「なに?トレーナー?」
だから、そのトレーナーからのアプローチは───
「ここ、寄っていかないか?」
「えっ、ここって」
子供のボクには思い付けないアプローチで───
「今日みたいにデートしてても俺はテイオーを女として見れないみたいだからさ。もうこういう手段しかないかなって」
トレーナーもボクのこと意識しようとしてくれてたんだって嬉しかったんだけど、それよりも───
「……嫌だったら素直に断ってくれよ?」
───断って欲しそうな言葉で覚悟は決まった。
「ううん。トレーナーならいいよ」
「……ありがとう」
「お礼を言うのはボクの方だよ。ありがとう、トレーナー」
そうしてボクたちはお城みたいなホテルへと───
「それで!それでどうなりましたの?!」
鼻息荒くマックイーンが体を乗り出してくる。
やっぱりマックイーンってムッツリなんだとか、ここカフェテリアだからあんまり目立ちたくないんだけどとか、紅茶のカッブが揺れてるよとか言いたいことはいっぱい思い付くけど、今言うべきはそれじゃない。
「……トレーナーと恋人になったよ」
「過程!過程を聞きたいんです!」
「仮に何かあったとして、ボクがそれを話すと思う?」
「…………いいえ、私でも話したりしないでしょう。申し訳ありません」
「いいよ。ボクがキミでも知りたいと思うだろうし」
それに今のボクはすっごく気分がいいから、わざわざここまで
「だから、後でボクの部屋に来てよ。今日はマヤノも居ないし」
親友と二人きりなら、ちょっとくらい秘密の会話をしてもいいよね?
「……男って自分のことを好いてくれる女なら誰でもいいんだな」
「どうした急に」
「……自分の甲斐性の無さに呆れただけだ」
「大丈夫?たづなさん呼ぶ?」
「……それもいいかもな」
「かなり重傷だな。これは」
昼食時というには少し遅い時間。一人の男のとりとめもない愚痴が人影もまばらなトレセン学園のカフェテリアに響いていたとかなんとか。