新サポカのイラストからネイチャ(に)闇討ち(され)シチュとかいう素敵なアイデアを頂いたので
最初は手刀だったのですが、当然解釈違いだったので没に
「ごめんねー、トレーナーさん」
ぐらりと体が崩れる。
赤い夕陽に照らされる表情からは何の感情も読み取れなかった。
「睡眠薬なんか盛っちゃってさ。でも、アタシにだって絶対に譲れないことくらいあるんですよ」
怒りも悲しみも楽しさも感じさせない淡々とした言葉だけがトレーナー室に響く。急速に薄れゆく意識を必死に繋ぎ止め唇を動かす。
『どうして』
すでに
おそらく音にはならなかったであろう
「トレーナーさんに恨みはない…こともないけどさ、まあ、こうでもしないとって思っちゃったから」
本当にごめんね、そんな声がした気がした。
そして、意識は闇の中へと滑り落ちていった。
机に突っ伏していたトレーナーさんの体から力が抜け、すぐにすぅすぅと寝息が聞こえ始める。
「あー…やっちゃいましたなぁ」
胸に沸き上がってくるのは後悔。それをごまかすために口を動かす。
薬を盛って彼が眠るまではワクワクしてたのに、今は後悔ばかり。
「どうして、か」
眠る直前のトレーナーさんの唇の動きが
「まぁ、ここまでやっちゃったからには、ねぇ?」
裏で準備を進めてくれている友人のためにも今更やめる訳にはいかないし、何より今のアタシにはトレーナーさんに合わせる顔がない。
「毒を食らわば皿まで、かな」
諦め半分に覚悟を決めたアタシはトレーナーさんの脇の下に腕を差し込み、
「という訳で、トレーナーさん誕生日おめでとー!」
「……えっ、どういう訳…?」
夜のカフェテリアを貸し切っての誕生日会。まあ、肝心の主役は寝起きで何もわかってない顔してるケド。
「いやー、仕事大好きのトレーナーさんをどうやって連れて来ようかって」
「それで睡眠薬?」
えぇ…と引き気味のトレーナーさんの前にケーキとチキン、ついでにワインを
微妙な空気から逃げて友人たちの輪に向かうと、すぐにその輪に取り囲まれる。
「それで"味見"はしなかったんですか?」
「流石にそれやっちゃうのは人としてどうなのよ」
マックイーンから睡眠薬を渡された時に『ついでに"味見"でもしてきたらどうですか?』なんて言われてたケド、そんなのネイチャさんはヒヨるに決まってるじゃないですか。
……それにしても
「最初ってやっぱり大事だし、ボクがネイチャの立場でもそんなことしないかなー」
「だよねー。さっすがテイオーは話がわかる!」
こういう時に必要なのはやっぱ押しの強い友人だわ。テキトーにテイオーに合わせてドヤ顔させておく。
「性交渉を行った程度では男性を縛ることはできないとマスターが以前話していました。よって、テイオーさんの言う通り、オペレーション『既成事実』はあまり効果的ではないと判断します」
「さらっとすごいこと言うね……」
「ブルボンのトレーナーは女の人だし参考に…なるのかなぁ…?」
ブルボンさんのトレーナーさんって仕事人間であんまり男の人の気配ないからなぁ。向こうで男性トレーナー達に囲まれてるけど、あれ多分ウマ娘の話しかしてないだろうし……
「……やっぱりしてる時に写真撮って形に残すしか」
「え、ライスさん…?」
「なるほど」
「ブルボンさん!?」
「……ボク、ライスのこと勘違いしてたよ」
「ライスさんには絶対に薬は渡せませんわね……」
「例えばっ!例えばだからっ!ライスだって、そんなことしないからっ!」
必死にライスさんが可愛くアワアワしながら否定するケド、この中で一番年上で一番エグいこと言ってるんだよね……
それに真顔でうなずくブルボンさんは…まあ、天然入ってるからともかく、ボソッとヤバいこと言ったライスさんは素っぽいのがねぇ……
「み、みんなすごいね…私なんか話聞いてるだけでむんむんしてきて鼻血が……」
「ちょっとマチタン!?もう鼻血出てるじゃん!!」
「ティッシュ!!トレーナー!!ティッシュ!!」
一方、トレーナー側。
「睡眠薬盛られたら食われると思うじゃん!」
本日の主役の頭を抱えての渾身の叫びに一同苦笑。ウケてるのはミホノブルボンのトレーナーだけだ。
「俺も盛られたことあるけど、やっぱりそう思うよな」
「お前は薬入ってるって知ってて飲んだアホだろ」
「良家のウマ娘のトレーナーは大変そうですね」
しみじみと語るメジロマックイーンのトレーナーに、冷静にツッコミを入れるトウカイテイオーのトレーナー。他人事のような感想を述べるマチカネタンホイザのトレーナー。
「俺の誕生日パーティーに呼ぶだけなのに一服盛る必要ねえじゃん!!」
「いや、君はパーティーやる時間でネイチャが勝つ確率1%でも上げるって言うタイプじゃん」
「そうだけど!!!」
「気持ちはわかるけど誕生日くらい担当と一緒に息抜きしなさいよ」
「そうか。ネイチャの息抜きだからいいのか。普通に盲点だった」
「急に落ち着くな」
情緒不安定なナイスネイチャのトレーナーに、苦笑するライスシャワーのトレーナーとミホノブルボンのトレーナー。
「ティッシュ!!トレーナー!!ティッシュ!!」
ワイワイガヤガヤとお酒片手に大人達の会話が弾む中に響く子供の声。
「テイオー!?どうした!?」
「おマチ、また鼻血?」
「じゃあブルボン頼むわね。はいティッシュ」
「オーダーを受理。完璧に遂行します」
慌てるものと落ち着いて対処するものに別れる中、マチカネタンホイザの鼻血をキッカケにして二つのグループは一つになった。
「えっ、プレゼント渡すの?このタイミングで?」
「もうみんな酔っ払っちゃってるし、早く渡さないと潰れちゃうんじゃないかなぁ?」
ボクのトレーナーはもう寝ちゃってるし、と付け加えたテイオーに文字通り背中を押されてアタシはトレーナーさんの前に
ムードも雰囲気もあったもんじゃないし、何話すかも全く決まってないんですケド!!
でも、酔ってるのかしてちょっと赤い顔したトレーナーさんがジッと見つめてくるのに黙ってるのもおかしいし……
「あー、その、これからの季節寒くなりますし……
去年のクリスマスはマフラー喜んでくれたから、今回は手袋なんですけど……」
しどろもどろになりながらもなんとか言いたいこと全部言って、アタシのイヤーキャップとお揃いの手袋を震える両手で差し出す。
「受け取って、くれマスか…?」
「ありがとう。大切にするよ」
ニッコリと今日一番の笑顔を浮かべてアタシの手袋を受け取る彼。たったそれだけなのに見惚れて息が詰まる。
鼓動が早い。レース中の、さながらラストスパートのようにドキドキと聴覚が奪われていく。
お酒に酔っているのか少し赤い顔がゆっくりと近づいて来て、それに応えてアタシも……
「ヒューヒューッ!」
「キース!キース!」
ブルボンさんのトレーナーさんとテイオーの煽る声に強制的に現実に引き戻される。
そうじゃん。周りに人いっぱい居るじゃん。
今止められなかったら何しようとしてた?それもみんなの前で?
「……うにゃああぁぁぁ」
「……ごめん、ネイチャ」
もう今日は誰の顔も見たくない。いつもの癖でツインテールを両手でつかんで顔を埋める。
「テイオー、ナイスカットだった」
「テイオー、止めない方が良かったのでは?」
「こういうの勢いに任せるのは良くないんじゃないかなって思ってさ」
そんな会話が聞こえてきたケド、その後からはみんなアタシとトレーナーさんをからかうような話を肴にお酒とジュースを楽しみやがるのだった。
幸いにも耳元でささやかれた「次は二人っきりの時に」ってのは誰にも聞かれなかったらしい。