キングとトレーナーの恋の駆け引き
一応、糖分控えめを意識したのですが、充分甘いな…?
一流の男性の落とし方
「スカイさん。頼みがあるわ」
お昼休み、昼食を持って来て、みんなと同じ机に座るや否や、キングが言う。
「キングが頼み事なんて珍しいね?どうしたの?」
スペちゃんもグラスちゃんも興味津々で、こちらを見ている。
「私に、男性の落とし方を教えて頂戴」
「……えっ?」
「えぇ?!」
「まぁ」
マジマジとキングを見つめる。
よく見ると、化粧で誤魔化しているけど、目の下にうっすら
「この中だとあなたが一番関係が進んでるから、あなたに相談するのが最善だと思ったのよ」
確かに、私が一番関係は進んでいるけど……
ここは正直に言って逃げるべきだろう。作戦の立案なら幾らでも出来るだろうけど、『男性の落とし方』となると自信がない。
「私は落とされた側だからなぁ……色々作戦は練ったけど、正直に言って、お役に立てるかどうか…」
「じゃあ、みんなで作戦を考えようよ!目指せ!告白!」
「"トレーナーさん籠絡作戦"と言ったところですね。まずは、理想のシチュエーションでも考えてみましょうか?」
「……目的が変わっていないかしら?」
「変わってませんよ?そうそう、セイちゃんはどうやって落とされたのか、委細漏らさず聞かせてくださいね?」
「……えっ?」
私、キングヘイローは焦っていた。
URAファイナルズが終わり、四年目に入って、私はドリームトロフィーリーグへ移籍、それに合わせて私のトレーナーはチームを作った。
流石に、三年間でG1一勝程度のウマ娘に専属トレーナーは付けられないみたい。あの時の、申し訳なさそうな顔で、ずーっと謝っていたトレーナーの姿は、今でも思い出し笑いの種だわ。
スカウトしてきた
……問題は、当たり前かもしれないけれど、私とトレーナーが一緒に過ごす時間が減っていること。
人当たりが良くて、顔立ちも整っていて、そこそこのキャリアを持つ彼は、学園内でもかなり人気が高いトレーナー。
ウマ娘だけでなく、桐生院トレーナーや樫本トレーナー、たづなさん等多数の女性がモーションを掛けているのを確認しているわ。
三度の飯よりお酒が好きだったり、仲の良い男性トレーナー全員に
誰かにトレーナーを取られるかもしれないという恐怖が、私を焦らせていた。
この"ダービー"は、まだ私に三年間のアドバンテージがある。ただ、私からは一度も仕掛けていないから、スタートダッシュ程度の、すぐに埋められる差でしかない。
このレースだけは絶対に差し切ってみせる。一着さえ取れれば、後から何人来ようと問題じゃないわ。一流として、そのくらいの寛容さは持ち合わせているつもり。
……それにしても、良い友達を持った。
私には恋愛に関する知識も経験も全くないから、相談出来る友達が居て、本当に良かった。
作戦はみんなで考えた。頭の中でシミュレーションもバッチリ。後は、実行あるのみ。
決意も新たに、トレーナー室へと向かった。
「うーん……素材の味」
一つ目の作戦『胃袋を掴む』は予想通り失敗ね。料理の味見役という口実で、私の手料理を食べて貰っているけど、評価は
まぁ、これは二つ目の作戦への布石だから問題ないのだけれど。
「やっぱり『それなりに料理はできる』なんて言わない方が良かったかしら…」
「これから上手くなればいいだけよ。手先は器用なんだし、少し練習すれば、すぐ出来るようになるって」
「……ねぇ、トレーナー、あなたは料理出来るの?」
すでに友人経由で知っている話を振る。プロ顔負けの腕前だという話も聞いている。
「まぁ……多少は出来るけど…」
「なら、私に料理を教える権利をあげるわ!」
スカイさんは『手取り足取り教えて』って言うべきだ、って言ってたけれど、流石にそんな誘っているような、はしたないことは言えない。
「それはいいけど、どこで練習するんだ?」
「……誰にも見られたくないから、あなたの家に行きたいのだけれど…構わないかしら…?」
「……キング、流石に俺の家は…「他に代案はあるのかしら?」
少々強引だけれど、手段を選んでる場合じゃない。
「……んー……思い付かん」
「なら、次のオフは、あなたの家で料理の練習よ!」
渋い顔をした彼に見られない位置で、グッと拳を握った。
「いらっしゃい、キング。散らかってるけど、許してくれ」
「お、お邪魔するわ」
初めてのトレーナーの家、ゲートインよりも緊張する。これからやろうと思っていることを考えると、当然かもしれない。
「早速だけど、二人で昼食でも作ろうか」
「あなた、本当に料理が上手なのね…」
テーブルの上には所狭しと、二人で作った料理が並んでいる。『二人で』と言っても、私の作業量はトレーナーの半分にも満たないでしょうけど。
「こんなもん慣れよ、慣れ。キングだって、場数踏めば上手くなるさ」
場数でなんとかなるのかしら?
幾つも料理人顔負けの手の込んだ料理が混じっている。
「ま、食べながら話そうや」
言い切らない内に彼は座っており、グラスに白ワインを注いでいる。休日とはいえ、お昼からお酒とは、あなたらしいわ……
……まぁ、いいわ。
彼にならって、席に着こうとして…
「で、何悩んでるんだ?」
食卓に着く直前、唐突な発言に逡巡する。
ほんの一瞬、悩んでいる間に、自嘲気味にトレーナーは続ける。
「大体想像はついてるけど、俺の自意識過剰って線もあるからさ」
おどけたような声音だけれど、勘が良い彼なら私の好意にはとっくに気付いているでしょう。
「……分かっていて、あえて私に言わせるのかしら?」
「想像が当たってるなら、立場上、俺の口からは言えない。違うなら、尚の事言えないわ」
今日、私が告白するつもりだということまで分かっていて『俺の口からは言えない』と言っているのかしら?
……本当は、告白は
「……ムードも何もないけどさ、話してくれないか?」
うっすらと微笑んでトレーナーが言う。
「……そうね。雰囲気作りなんて、このキングには似合わないわ」
ここから良い雰囲気に持っていくなんて、私には出来ないでしょう。ある意味、いいタイミングだわ。
「……持って回った言い回しは好きじゃないから、単刀直入に言うわよ」
「分かった」
「……一言一句たりとも聞き逃してはダメよ?」
「ああ」
「……好きよ、トレーナー。……私と、付き合ってくれないかしら…?」
……いつもの癖で『恋人になる権利をあげる』と言おうとしたけれど、こういう場面には似つかわしくないと思って、やめたわ。
トレーナーは驚きもしない。やはり想定していたのでしょう。
「……常套句だが、トレーナーと担当ウマ娘として、保護者と学生として、恋愛関係になることは出来ない」
本当に常套句ね…
そんなつまらないセリフを聞きに来たんじゃないわ。
「そして、一流のトレーナーとして、お前の想いに応えることは出来ない。本当に、すまない」
言われた言葉を理解するのに、少し時間がかかった。理解して、胸がいっぱいになる。
……フラれたわね。作戦二つ目『素直に告白』も失敗ね。彼も私のことが好きだと思っていたから『卒業まで待ってくれないか?』って言われると、勝手に期待していたわ。
……まだ、取れる手はある。本当はやりたくないけれど、手段は選ばないと決めたわ。
席を立ち、トレーナーの横まで歩いていく。彼は申し訳なさと怪訝さが混じった不思議な顔をしている。
「……ごめんなさい、トレーナー。先に謝るわ」
彼の肩口に手を添え、押さえ付けながら、向かい合うように彼の脚の上に座る。
冷静な自分が『嫌われる前にやめなさい。』と警鐘を鳴らしている。
自分でも掛かり気味だと分かっている。それでも、胸を焼くような焦燥感が私を突き動かす。
「今からあなたを襲うわ。絶対に私のモノにしてみせる」
強引に既成事実を作る。最低な手段だ。それでも、そんな手に頼ってでも、この人を自分のモノにしたい。
呆れたような、今から襲われる人とは思えないほど余裕のある顔で彼が答える。
「キング、俺の方が切れる札の枚数も、質も上だ。やめとけ」
その言葉を無視して、彼の頭を挟み込むように両手で押さえる。
「それ以上続けるなら、担当契約を切るぞ?」
「その程度の脅し文句で、このキングが止まると思っていて?」
口ではそう言っても、体が上手く動かない。動けない彼に近づけない。
その間に、また彼が口を開く。
「あー…じゃあ、トレーナー辞めるわ。そうなると、クラシック直前の三人に迷惑をかけちゃうなー」
わざとらしい口調で彼がそう言う。
……友人三人を人質に取られた。私一人の人生なら賭けても良いと思っていたけれど、友人三人の人生を賭けれるほど私は
完全に身動きを封じられた。
真剣に私を見つめる眼差しに苛立って、思わずキッと睨み付ける。
私が動かなくなったことを確認して、トレーナーが優しい口調で語りだす。
「キング、どうして、こんな強硬手段に出たんだ?お前らしくないぞ」
「……あなたが女性にモテるからよ。ウマ娘だけでなく、女性の職員からも。最近、他の娘や女性のトレーナーなんかと出掛けることが増えたでしょう?」
「それで誰かに取られる前に告白、無理なら既成事実ってわけか」
「……そうよ」
唐突に背中に腕が回され、抱き締められる。思いがけない動きに、咄嗟に私も彼の背中に腕を回す。
「……なぁ、キング。今日一日だけ、一流のトレーナーを辞めてもいいか?」
耳元で彼が囁く。
「……それって、どういう…?」
「……ちょっと待っててくれ」
そのまま彼は立ち上がり、私を椅子に降ろすと、扉の方へと歩いて行ってしまった。
ほどなくして、何かを手に持った彼が戻ってくる。
「あー……ムードも何もないけどさ、これが俺の気持ちだ」
トレーナーは
その意味を理解するまで、脳が状況を把握するまで、時間がかかった。
……視界に
「本当は、お前が卒業してから、一流に
彼が苦笑している。
「……好きな女性を泣かせないのが、一流の男性ではなくて?あなたは、私が見込んだ一流の男性よ」
精一杯涙を
両手を広げると、彼も察して、抱き締めてくれる。
「卒業したら、もう一度、一流に相応しいプロポーズをさせて貰うさ。その時を楽しみにしててくれ」
「……ええ。楽しみにしているわ」
上体を反らし、真っ直ぐトレーナーを見据える。目を瞑り、ゆっくりと顔を近付ける。
「おっと、キスも卒業してからな」
唇に指を当てられる。
「私をその気にさせておいて、何もしないつもり?」
「一流のウマ娘と一流のトレーナーなんだから、そこの線引きは当然よ。俺は
「……ねぇ、ここには私達二人しか居ないんだし、ちょっとくらい…」
「ダメ」
「……。」
「おやおやー?キング、今日はご機嫌だねー」
お昼休み、昼食を持って来て、みんなと同じ机に座るや否や、スカイさんが言う。
「昨日はどうでしたか?」
グラスさんが聞いてくる。当然の質問ね。
「三つとも失敗。フラれたわ」
「えぇ!?本当に?!」
「……それにしてはご機嫌ですね?」
「セイちゃんは首にかけられたそれが気になりますねぇ。それがご機嫌の理由だと思うんだけどなぁ」
ふふっ、と上機嫌に笑い、首にかかる紐を引っ張り上げ、彼の想いの証を、見せつけるように取り出した。