発情期キングに組敷かれる話
キングの発情期SS見たいなぁって某所で検索したら1件も出てこなかったので書きました
「私はキング…!私は、キング…!」
うわ言のように、というにはかなり熱のこもった声を聞きながら、スマホを操作し担当ウマ娘との連絡用アプリを起動する。
「キングは…!欲望に駆られて、あなたを襲ったりなんて、絶対にしない…!」
血を吐くような声と共に、握られているシャツからギチギチと嫌な音が上がり、キングの両脚に挟まれている腰の辺りが先程より強く締め上げられる。
めっちゃくちゃに痛いが、押し倒された格好では回避する手段は無い。全てを無視して電話をかける。
キッカリ3コールで通話が始まり、内心ホッとする。お昼時だから昼ご飯を食べていて、電話に出れない可能性もあったから。
『トレーナーさん?一体どう致しましたの?』
「プリンセス、大至急トレーナー室まで来てくれ。キングが今大ピンチだ。じゃ」
『キングさんが!?それはーーー』
言うべきことは全部言ったし、話をすると長くなるだろうから一方的に電話を切る。これでプリンセスは全速力でここまで来るだろう。スマホをその辺に適当に放る。
後はプリンセスが来るまで、この拷問のような時間に二人で耐えるだけだ。
「キング、もうすぐプリンセスが来る。それまで耐えてくれ」
返事代わりにギリギリという
キングの紅潮した顔と真一文字に結ばれた唇、涙を
なにが一流のトレーナーだ。3年間連れ添った担当の体調管理、もとい発情期の周期も理解してねぇじゃねぇか。それ以上に、今日のキングはどこか余所余所しかったり、口数が少なかったりして明らかにいつもと違ったじゃねぇか。サッサと気付いて、適当な理由付けて休ませろや。
自戒に
トロンとした目でフッフッと荒い息を何度か吐きながら、テラテラと光る口腔が言葉を
「ねぇ、トレーナー…」
ジットリとした熱を持った声が
正直、返事したくないが、このガチ恋距離で無視なんて出来る訳が無い。
「……なんだ?」
「あなたにキングのせ……ストレスを発散させる権利をあげるわ……」
マジマジとキングの顔を見つめると、プイッと横を向いてしまった。先程よりも顔が紅い。
わざわざ"ストレス"と言い換えたこと。不規則にウマ耳が動いていること。横を向いたことからして、羞恥からくる紅潮なのは分かる。
が、"不屈の王"が欲望に屈する理由が分からない。耐えるつもりじゃなかったのか。
「……卒業するまでは"担当ウマ娘とそのトレーナー"って言う一線を越える気は無いって言っただろ」
「……その一線を越えなくても、"処理"くらい出来るでしょ…?自分の身を守るために行動なさい」
なるほど。キングなりに俺の身を案じている訳だ。それ以外の理由については言うまでもないので、あえて触れないでおく。
だが、その解決策には重要な要素が一点抜けている。
「それで"処理"したら、俺の抑えが効かなくなりそうだから却下だ」
キングと俺は一回りほど歳の差があるから、彼女からの色仕掛けなら子供の背伸びみたいなもんだ。幾らでも耐えられる。
だが、俺が彼女の"ストレス"を"処理"するとなると耐えられる自信が無い。自分で寸止めするようなもんだろ。
仮に俺が耐えれたとしても、キングのスイッチが入って力ずくで……なんて可能性もある。キングには絶対に言わないが。
「じゃあ……キスくらいさせて」
「同じ理由で却下」
キングの耳が
「じゃあ、抱っこ」
『抱っこ』ってなんだよ可愛すぎんか?
キングは意識してないだろうが、ドアインザフェイス、無理な要求を断らせてから妥当な落とし所を要求をする形になっている。
シャツはまだ破れていないし、脚に挟まれている部分の骨もまだ折れていないから、キングの自制はまだ効いている。
本当は断るべきなんだろうが、これを断った場合にキングの我慢が限界を迎えるかもしれないと自分に言い訳をする。
それと『抱っこ』ってなんだよ可愛すぎんか?
「……抱っこはいいぞ」
俺が許可を出すや否や、キングはガバッと俺の背中に両手を回し、胸板にグリグリと顔を押し付けてきた。
鼻やら
息を吸う音が止まって、ほんの少しの後、ピクピクとキングの全身が軽く痙攣し『ハァーッ…♡』と満足気に熱い吐息が胸に吐きかけられる。
これでしばらく耐えてくれるといいんだが…
唐突に背中から手が離れ、密着していたキングが体を起こす。
「トレーナー、ごめんなさい。もう我慢出来ないわ」
……早くね?
焦る俺を尻目に、真っ赤な顔のキングが続ける。
「今から自分で"処理"するわ。邪魔しないで、そこで見てなさい」
「はぁ!?」
何言ってんだ、こいつ。とか思ってる間にキングの右手がスカートの、左手が制服の裾から中に入っていこうとしている。
「何やってんだ!お前!」
間一髪のところで、まだ俺からキングの手が見える位置で両方の手首を掴んで止めることが出来た。キングも全力ではないらしく俺程度の力でも止まってくれている。
「やめて!止めないで!」
「誰だって止めるに決まってるだろ!」
「もう我慢できないのよ!あなたを襲わないで済む方法はもうこれしかないの!放して!」
泣きそうな震える声でキングが叫ぶ。
この期に及んで"襲わない"方法を考えてる辺りがキングらしい。
「もうすぐプリンセスが来る!それまで耐えてくれ!」
「耐えられないって言ってるじゃないの!おばか!襲うわよ!?」
「襲ってみろやぁ!プリンセスが来るまで時間くらい稼いでやろうじゃねぇか!」
この会話だけでも多少時間は稼げている。この後、キングはしばらくためらうだろうから、もう少しだけ時間が稼げるだろう。
それに押し倒された時点で俺の覚悟は決まってる。最悪の展開だけ回避して、良い思い出に変えてやるのが俺に出来る最後の抵抗だ。
キングはフーッ…フーッ…と荒く息を吐き、目を閉じ、歯を食い縛り、握り拳を作り、体を震わせながら耐えている。
これが俺に出来る最後の時間稼ぎだろう。さっきは威勢よく
たっぷり30秒ほど経ち、一筋の涙がキングの頬を伝っていく中、ゆっくりと目が開く。その目は先程までの俺のことを心配し、自分の行動に嫌悪感を抱いていた目ではなく、飢えた肉食獣のようなギラギラとした光を宿していた。
「トレーナー、これだけは覚えていて」
冷静な、普段通りの声音でキングが言う。
右の頬に手が添えられる。
「私は、あなたを、心の底から愛しているわ」
ゆっくりとだが、迷いを断ち切るようにキングの顔が近付いてくる。
「俺だって…」
その先は言葉にならなかった。
ドゴォン!という爆発に似た音と共に、トレーナー室の扉が壁に別れを告げる。
「トレーナーさん!キングさんは……」
勢いよく入室してきたプリンセスが固まる。
吐息が交わる距離まで近付いていたキングも固まる。
キングの目に理性的な光が戻ってきたのを確認して胸を撫で下ろす。
「こここれは!ももももしかして、ぎゃ逆「プリンセス!」「カワカミさん!」
「は、はい!」
「キングを連れて行ってくれ!」
「トレーナーを助けなさい!」
「えっ!?」
「早くしろ!」
「早くしなさい!」
「は、はい!がってん承知ですわ!」
カワカミさんに連れられて、寮の自室へと戻ってきた。彼女が一緒に居る間はなんとか平静を保っていられたけど流石にもう限界。体調不良で早退扱いになっているし、ウララさんは地方のレース場へ遠征中だから余計な心配は要らない。
シワにならないように服を脱ごうと、裾をつまんだところで、スマホが光っていることに気付く。
カワカミさんからだわ。二件?
『トレーナーさんからのお届け物を持って参りますわ』
個人用のメッセージ欄にそう書いてあった。
『ありがとう』
と返信を送るのと、扉がノックされるのはほぼ同時だった。
「キングさん、トレーナーさんからのお届け物を持って参りましたわ」
「ありがとう。今開けるわね」
鏡で軽く
扉を開けるとカワカミさんが何かの袋を二つ持っていて、かすかにトレーナーの匂いをまとっていた。
「こちらがトレーナーさんからキングさんへのお届け物ですわ」
「ありがとう。それでこれは何かしら?」
差し出された袋を受け取り、中を確認すると……
「……。」
男性物のインナーシャツがビニール製の袋に入っていた。
「トレーナーさんったら、着てた物をお脱ぎになってキングさんまで届けてくれですって。『返さなくてもいい。好きに使ってくれ。』と仰ってましたわ」
「……あんのへっぽこ…!」
「ちなみに、私はお駄賃代わりにワイシャツを頂きました」
「…………ふぅん、なるほど?」
意識して声を出したのにも関わらず、思っていたよりも低い声になってしまった。けれど、このほの
「ご安心遊ばせ。貴方から彼を盗ろうなんてことは考えていませんわ」
屈託のない笑みを浮かべてカワカミさんは答える。
この子はウソをつくような子じゃない。それは確実。
そう思うとモヤモヤとした黒い感情は薄れていった。
「あら、そうなの?あなたも彼のことが好きなんだと思ったのだけど」
「私も彼のことはお慕いしていますわ。でも、キングさんも私にとっては大切な存在。だから……」
そこで一拍置いて、カワカミさんはポーズを決める。
「お姫様ランキング同率一位の"王"と"姫"を含むハーレムを目指しますわ」
「……え?」
「そもそもトレーナーさんのような甲斐性のある王子様に妻が一人だけなんてチャンチャラおかしい話ですわ。それに私達のチームメンバー全員が彼に恋していますもの」
「……待って頂戴。全員?」
「はい!私達含めて4人全員です!卒業次第、順番にアタックすることになってますわ!」
「……それも初耳なんだけど?」
色々と衝撃的過ぎて理解が追い付いていない。
とにかく今聞いた話だけでも追及しようとしたところで、タイミング悪く予鈴の音が聞こえてくる。
「では、渡す物も渡しましたし、もうすぐ午後の授業が始まってしまうので、私はこれで失礼させていただきますわ」
「……明日、詳しい話はじっくり聞かせてもらうわよ?」
走り去って行くカワカミさんを見送りながら、やっぱり襲ってしまって既成事実でも作っておくべきだったかしら?などと一流とは思えないことを考えつつ、スマホを開いて、もう一つのメッセージを見る。
「ッ!?」
思わず息を飲む。
チームメンバー全員が参加しているグループチャットにカワカミさんから写真が貼られていたから。
「あのおばか!」
上半身裸のトレーナーの姿がそこにはあった。
トレーナーだと認識した瞬間から、お腹の奥から熱がグツグツと沸き上がってくる。
ワイシャツもインナーのシャツも脱いでいるのだから、裸になったのは分かるけれど、なぜカワカミさんの前で脱いで、写真まで撮られているのかしら?私だって彼の裸を見たことは無いのに。
熱くなって回らなくなってきた頭で、モヤモヤする感情のままに『おばか!』とだけトレーナーにメッセージを送り、乱暴に袋からシャツを取り出し、顔に押し付けながらベッドに倒れこんだ。
翌日、"なぜか"チームメンバー全員が寝不足だったのは言うまでもないことでしょう。