ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
ラブコメするクリスエスが書きたかった
仮題:シンボリクリスエスは離れない

いつもご清覧、感想、お気に入り等ありがとうございます
励みになります

嫁キングとか嫁スイープとか、ピース解放したアヤベさんとか、ネタを温めてる猫カフェとかルビーとか、色々書きたいんですけど、とりあえず嫁セイちゃん書きます……



〈シンボリクリスエス〉
Here is my mission.


「胸が……──モヤモヤ、する」

 

顎に手を添えて考えながらクリスは、なんとか自分の思いを日本語にする。

 

黒髪の長髪を後ろで束ねた長躯で精悍な顔付きのシンボリクリスエスが、わずかに顔をしかめて言葉を絞り出す様は、彼女をよく知らない人から見れば随分と威圧感を含んでいる様に見えるだろう。

 

だけど、私は知っている。

 

あれはただ言葉を探しているだけなのだ。口下手だがコミュニケーションを重んじている彼女は少々言葉を選びすぎるきらいがある。

 

それによって誤解されることも屡々(しばしば)だし、大学生になった今でも相談事は私のところまで持ってくることも屡々。

 

だからこそ、彼女のトレーナーである私にはクリスの理解者として、彼女の気持ちを(おもんばか)る必要がある……と勝手ながら考えている。

 

「どんな時にモヤモヤするの?」

 

そう水を向けると、小考の後、ゆっくりと彼女は言葉を紡いでくれる。

 

「……。授業中や……寮に、戻る時──ふと、思う」

「うーん。……他にはある?」

「……荷物を、まとめている時」

「寂しかったりする?」

「No……祖国には、家族や、友人がいる。──日本にも、帰って来れる」

「そっか」

 

近々祖国に帰るという話だったから寂しいのではと短絡的に尋ねたのだが、あっさりと否定される。

 

彼女がいくら口下手とはいえ、生まれ育ったところには友人の一人二人は当然いるのだろう。それに決して近い距離ではないが、今生の別れではないというのも確かだ。

 

では、寂しさではないとするとなんだろうか?

 

クリスがモヤモヤするような事柄とは──

 

「もしかして、やり残したことがあったりする?」

「やり残した、こと……」

 

Hmmと再び考え込むクリス。

 

私はただクリスを待つ。

 

それが一番効率的だと知っているから。

 

「……日本のレース界に、革命を起こす。──私の使命は、果たした」

「うん。特等席で見させてもらったよ」

 

タニノギムレットとの日本ダービーを皮切りに、史上初の秋の天皇賞の連覇、ならびに有記念の史上4人目の連覇を成し遂げ、クリスは2年連続で年度代表ウマ娘に選ばれた。

 

タップダンスシチーやアグネスデジタル、ファインモーション、ネオユニヴァース、ヒシミラクル……クリスを倒そうと挑んできた猛者たちは数え始めるとキリがない。

 

立ちはだかる『試練』としてクリスは君臨し、打倒の風潮を作り出し、日本のレース界を一段階上へと押し上げて、私たちは革命を成した。

 

「……ロブロイの、輝きに、惹かれて──トゥインクルシリーズでの、決着も、果たした」

「うん。クリスもロブロイも素晴らしい走りだったよ」

 

トゥインクルシリーズでの引退を撤回し挑んだ3回目の有記念。私たちは敗北した。

 

クリスに憧れ、クリスが焦がれた英雄。遅れてきた英雄の史上2人目の秋シニア三冠という偉業を()ってして、前人未到の三連覇の夢は(つい)えた。

 

されど望んだ対決に後悔なぞある訳がない。

 

「……ドリームトロフィーリーグでの、ギムレットとの再戦も、果たした」

「うん。ギムレットとの対決は楽しかったね」

 

ドリームトロフィーリーグに移籍して日本ダービー以来のタニノギムレットとの再戦。見事復活を果たした破壊神は強かった。

 

何度もぶつかり合い、何度も勝利し、何度も敗北した。そこに友情こそあれど悔恨はない。

 

「Mission Accomplished──やり残したことは、ない……はずだ」

「私もそう思うよ」

 

Hmm…とクリスは再び思索に耽る。

 

わからないことを私に尋ねて、結局私にもわからない訳だから、再び困るのは必然だろう。

 

「ひとまず今日はもうトレーニングの時間だからターフに行こうか」

「……了解した」

「またモヤモヤした気分になったら、その時教えて?」

「……善処する」

 

着替えてくる、と退室するクリスは入室した時とは違って少し安心した顔をしていた。

 

 

 


 

 

 

在校生の中を卒業済みの漆黒の帝王が駆ける。ドリームトロフィーリーグに移籍し出走機会は減ったものの、クリスはトレーニングを欠かさない。

 

「君はもう少しフォームを意識してみようか。(りき)んで拳を握る癖は直しておきたいね」

「は、はいっ」

「……お前は、闘争心が強すぎる。Stay cool. ゴールとの距離を、意識すると良い」

「……やってみますっ!」

「みんな休憩してからね」

 

もちろん体が鈍らないようにという理由もあるが、トレーナー志望のクリスが私のチームのサブトレーナー役として、担当ウマ娘と最も物理的に近い距離で経験を積むためでもある。

 

私のチームの娘たちはクリスに憧れて入ってきた娘が多く、その大半が口下手なクリスに理解があるのも環境として良い。

 

「……トレーナー」

 

全員の体調を確認して再度ターフへ送り出したところで少し硬いクリスの声が響く。何かあったのかと振り向くと、不思議な表情をしたクリスと目が合った。

 

「どうしたの?」

「──?……すまない。なんでもない」

「? わかった」

 

なんでもなくはなさそうに見えたけれど、クリスに話す気がない以上、私から働きかけることはしない。必要なことは必ず話してくれるとクリスを信頼しているから。

 

だから、

 

「Well──…………──つまりは、これが……」

 

クリスが話そうとしないことを問い(ただ)そうとは私は考えなかった。

 

 

 


 

 

 

「トレーナー」

 

その日の夕方。担当の娘たちは全員帰した後。いつもより神妙な顔をしたクリス。

 

「……モヤモヤの理由を、理解した」

 

結局、自己解決しちゃったか。役に立てなかったな。なんて心の中で自嘲しつつも「何が理由だったの?」と唇は軽快に言葉を紡いでいる。

 

だからこそ、

 

「I love you.」

 

──意味はわかっているのに、脳が理解を拒むって創作の話じゃなくて現実にあるんだ。

 

だからこそ、クリスの、生真面目な彼女からの突然の告白に、私は対応できなかった。

 

固まった私を見て何を思ったのか、それとも何も思わなかったのかクリスは淡々と二の句を継ぐ。

 

「胸が、モヤモヤするのは……お前が、他の担当を見ている時や、お前と、別れる時が、多かった。──これを、嫉妬、寂しいと、言うのだろう」

 

くすりとも笑わずに──されどいつもより柔らかい表情で──クリスは続ける。

 

「私は──『冷たい』と、よく言われる。だが……お前と一緒に居る時の、胸の『暖かさ』は──本物だ。

 お前が、私を支えたいと、思ってくれたように──私も、お前を、支えたい」

 

──ようやく内容が理解できるようになってきた。

 

今、私はクリスから告白されているのだ。

 

未成年の元教え子から、愛の告白を。淡々と。情熱的に。

 

「もうすぐ、私は……成人する。──返事は、それからで……問題ない」

 

私がクリスの思考を読めるように、私の懸念はクリスにも伝わっているらしい。

 

少なくともクリスが成人するまでは私は告白を断るしかあり得ないし、その辺りはクリスも理解しているということ。

 

私はあくまでもウマ娘のトレーナーでありたいのだ。未成年と交際する訳にはいかない。

 

それをわかった上で、交際したいくらいにクリスは私のことを好いてくれていると。

 

「……それに、断られようと──お前を支えたいという、想いは、変わらない」

 

それは……私が逆の立場でも同じことを想うだろう。交際や結婚は過程であり手段でしかなく、結局は目的が『相手を支えること』なのだから。

 

私がクリスを嫌いになることがあり得ない以上、クリスは『私のことを支える』というmissionを必ず遂行するだろう。私が『日本のレース界に革命を起こす』という使命を果たしたように。

 

「Be with you. 私は──いつでも、お前の味方だ」

 

珍しく私の返答を待たずに、失礼する。と普段通りの無表情のまま──若干頬が赤かったが──クリスは退室して行ったのだった。

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