ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
ゴルシが菊花賞に出走するお話

kuirui(悔類)様(https://twitter.com/kuirui_monokaki)主催の#ウマ娘SS菊花賞に一作寄稿させて頂きます

急に思い付いて急ピッチで仕上げたので、拙作とはなりますが
なんとか今日中に上げたかった


〈ゴールドシップ〉
『外弁慶』ゴールドシップ


『先行争いですが、早くもゴールドシップ下がっていった』

 

実況を聞きながら、最初の坂をユルユルと駆け上がる。

 

溢れんばかりのスタミナと末脚のキレがアタシの持ち味よ。序盤は適当に流して、他のヤツらとはヤード・ポンド法くらい量の違うスタミナで押し切る作戦だぜ。トレーナーには好きに走ってこいって言われたしな。

 

そんなことを思いながら、前方の集団を眺める。

 

事前の情報通りなら、アタシのスタミナに付いて来れるヤツはいない。怖いのは大逃げからの逃げ切りと、前を塞がれて(かわ)せない場合だろう。なら、ラストスパート前にある程度先頭との距離は詰め、ブロックを意識されない位置から進出し始めるべきだ。

 

第一コーナーを回りながら、ここまでのペースと残るスタミナから仕掛けるタイミングを逆算する。

 

つまり……ここからだ。

 

「面白くなってきたぜぇ!!」

 

『ゴールドシップ!第三コーナーを目前に行ったか!?』

 

淀の坂の下りで仕掛けるのが定石だ。けど、アタシのシャコ並みのパワーと、マグロ級のスタミナなら上り坂から仕掛けても余裕を持って完走出来る。

そして、ここで仕掛けるのは上昇気流とバカだけだ。誰も予想していないからブロックになんか来ない。

 

それに"掟破り"ってのは金星並みに熱いだろ?

 

坂を全力で駆け下り、そのままの勢いで第四コーナーを回る。

 

『一番外からゴールドシップ!ここで先頭はゴールドシップ!』

 

最終直線、後ろから地響きのような音が聞こえるがもう遅い。後は全身全霊で走り切るのみだ。

 

『ゴールドシップだ!ゴールドシップだ!二冠達成!ゴールドシップ!』

 

実況が耳に入って来て、ようやくゴール板を通り過ぎていたことに気付く。グッと握り拳を作り(かか)げる。

 

『最後は無人の大海原を行きました!ゴールドシップ!』

 

軽く流しながら、トレーナーが居るであろう方へ向かう。

 

案の定、トレーナーが出迎えに来ている。

 

微笑を浮かべているトレーナーに、ニッコリと笑いかけ、手を振り、小走りに駆け寄る。

 

いつもならここで手加減したドロップキックをお見舞いするのだが、今日は別のことを試すつまりだ。

 

無防備なトレーナーに更に近寄り、

 

 

 

 

 

ギュッと抱きついた。

 

 

 


 

 

 

「ゴルシ、ニュースは見たか?」

「いや、全く見てないぜ」

 

顔が見えないので推測になるが、恐らく嘘だ。普段のゴルシなら、自分達に関するニュースは細大漏らさずに確認しているはずだし、仮に見ていなくても『何か面白い事件でもあったか?』とか言って、内容を聞いてくるだろう。わざわざ『全く見てない』と言う辺りがかなり怪しい。

 

どちらにせよ、見てない事にしたいんだろう。

追及はせずに話を続ける。

 

「『ゴルシ、デレる。』『不沈艦、恋に沈む。』『メジロマックイーンのトレーナー、浮気発覚か?!』だってさ。昨日の菊花賞での二冠達成より、終わった後のハグばっかり注目されてるぞ」

 

ウィナーズサークルでも、その後のインタビューでも、俺が口を挟む間もなくゴルシが全部煙に巻いてしまったが、それでも憶測が憶測を呼び、根も葉も無いゴシップがネットや紙面の上を飛び交っている。

 

「わりぃな、トレーナー。思ったより大事になっちまった」

 

悪びれた様子も無くゴルシがいつもの調子で答える。

実際、こんなゴシップを気にした事は全く無いが、変なインタビューが増えそうで面倒ではある。

 

「ま、アタシに全部任せてくれよな。どんなヒーローインタビューが来ても"いつも通り"面白おかしく返り討ちにしてやるぜ!」

 

こういうウヤムヤにしたい時、彼女のよく分からない語彙力はとても頼もしい。ただ、今の状況からは"いつも通り"からかけ離れた点が一点。

 

「ところで、ゴルシ、そろそろ離れてくれないか?仕事が「やだ」

 

否定の言葉と共に、俺の頭に回されている彼女の両腕の締め付けが強くなる。同時に豊かな双丘が思いっきり顔に押し付けられる。

……この程度では動じなくなった自分になんとなくやるせない気持ちを覚える。

 

かろうじて呼吸は出来るが、口は完全に塞がれていて喋れない。ギブアップと言わんばかりに、ゴルシの背中を何度も叩くが全く離れる気配がない。

 

「わりぃな、トレーナー。昨日のアレから、ずーっと恥ずいんだよ。だから、今のフラボノイド成分たっぷりのアタシの顔を見られる訳にはいかねぇんだ」

 

"いつも通り"の声音でゴルシが離れない理由を告げる。

 

時計が確認出来ないので正確には分からないが、彼女がトレーナー室に音も無くやってきて、気付くことも出来ずに視界を塞がれてから、体感では三十分以上は経過している。

 

「最近思うんだけどよ、トレーナー」

 

唐突にテンションを下げながらゴルシが語りだす。

 

「やっぱり『ゴールドシップ』と『アタシ』って、似ても似つかねぇと思うんだ」

 

……何を言いたいのかサッパリ分からない。どちらにせよ、口を開くことは出来ないので、彼女の次の言葉を待つしかないのだが。

 

「みんなの知ってる『ゴールドシップ』様なら、昨日の菊花賞の後みたいに今も堂々として、アンタを拉致って遊びに出かけるんだろうけど、アンタの前の『アタシ』はあの時のハグも、今してることも恥ずかしいって思っちまうんだよな」

 

確かに、出会った頃のゴルシであれば、強制連行から無人島行きまで当然の如く実行されただろう。

一方で、最近知った理知的で甘えん坊で奥手の"素"のゴルシであれば、ハグが恥ずかしいと思うのも納得がいく。

 

つまるところ、ファンから期待されている『ゴールドシップ』と、実際の『素のゴールドシップ』の差に彼女自身が悩んでいる。ということだろうか。

 

『大丈夫だ。お前はよくがんばってるよ』

そんな意味を込めて、背中を優しくポンポンと叩き、腕を伸ばして頭を撫でる。

 

安心したのか、ゴルシの抱きしめる力が緩み、視界が開ける。真っ先に目に入ったのは上体を反らして、やや赤みがかった顔で、こちらを見つめるゴルシだった。

 

「ありがとな、トレーナー。アンタとマックイーンの前でだけは『ゴールドシップ』を辞めさせてもらうぜ」

 

普段の『ゴールドシップ』より幾分幼い笑顔で彼女はそう宣言する。

 

「ああ、俺とマックイーンはいつだってお前の味方だ。だから、いつでも頼ってくれよ?」

 

返事として、今日一番の屈託のない笑顔が返ってきた。

 

 

 

「ところで、ゴルシ、そろそろ退いてくれないか?仕事が出来ない」

 

ニヤッと悪い笑顔をゴルシは浮かべる。

……これは面倒なことになるな。

 

「いーや、今日は一日中このままな!」

 

ガバッと抱きつかれ、もう一度視界は闇へと閉ざされた。

 

結局、さらに三十分ほど経ち、いくら待ってもトレーニングコースに現れない俺とゴルシを探していたマックイーンが、トレーナー室に来るまで彼女の体温と鼓動だけを感じることになったのであった。

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