クラウンには年相応に女の子な反応して欲しい
GW中に何本か書きたいなぁ……
早書き練習するか……
『好き』と誤爆するサトノクラウン
好き。
そんな単語が画面に浮かんでは消えてゆく。
「あなたはどう思ってるのかしら…?」
お互いにお互いの考えが読めるくらいには信頼し合っている。そう自負しているし、彼も同じことを言ってくれるはず。
でも、私が勝手に一緒に香港へ行く計画を立ててしまった時のように、言葉にしないと伝わらない思いもある。私の想いは見透かされているかもしれないけれど、彼の想いは私にはわからない。
もしもこのまま送信ボタンを押してしまえたのなら。ベッドの中でLANEの画面を見つめ、彼の反応を頭の中に思い描く。
『僕も君のことが好きだよ。クラウン』
微笑みながらストレートに返してくれる優しいトレーナー。
そのままデートの約束なんかしちゃうのもアリかも。
『えっと、何が好きなの?』
困惑ぎみに質問を返してくる鈍感、もしくは大人な対応のトレーナー。
これが一番現実的かしら。あんまり情熱的ではないけれど、落ち着いた大人としての経験が滲んでいて、そこはかとない色香が漂ってるかも。
『二人だけの秘密ができちゃったね?』
イタズラっぽく返してくる意地悪なトレーナー。
普段から『君のその目が好きだ』とか『君以上に魅力的なウマ娘はいない』とか『一生大事にする』とか人を勘違いさせるようなセリフ回しを好む彼なら、また私を勘違いさせるような返事もあり得るかもしれない。
「はぁ、本当に送ってしまえたらねぇ……」
最近の日課となっているこの文字を打っては消す非生産的な行為は、私がオンオフを切り替えるための新しいルーティン。
サトノ家のお嬢様として育てられた私にだって女子高生と成人男性、しかも教職員相当の人が付き合うリスクくらい理解している。もし仮に告白した場合、受け入れられても断られても一番困るのは彼の方。
だから、これは私に都合のいい妄想。断られる場面なんて浮かびもしないのもそう。
現実的ではない想像を働かせて、自分を一時的に現実と切り離す。
たったそれだけで簡単に、かつ素早くリラックスできる。
「はぁ、好き……」
目を閉じて彼の姿を思い描く。当然、スマホの画面には触らないように注意しつつ。
抱きしめられたり、頭を撫でられたり、耳を揉まれたり───
そんな現実では絶対にしてくれないような妄想に
だから、
「戻った」
「ッ!?」
「クラウン、伝言だ」
「えっと、誰からの伝言かしら?ドゥラメンテさん」
足音を聞き逃してしまって、突然開いた扉の音とドゥラメンテさんの声にとても驚いたのは仕方ないのよ。
そして、
「えっ……うそ……」
驚いた
「いやいやいや、どーすんのよ?!」
全然仕方なくないじゃん!!!と内心は実際の声以上に叫んでいる。
何度も
「落ち着きなさい。サトノクラウン。落ち着くのよ……」
窮地こそ、逆境こそ落ち着くべきよ。発注の時に一桁間違えた時と状況はそんなに変わらない。後悔するより先にリカバリーの方が先よ。
まずは状況の再確認から。
メッセージは送信済みになってる。
既読も付いてる。
返信は、無い。
返事がない理由は脈絡もなく『好』とだけ送られてきても意味がわからないから。もしくは逆に、私の気持ちがわかった上で返事を保留したか。
なら、急いで弁明する必要はなさそう。少なくとも、私がこれからを考える時間はある。
次に考えるべきは、こちらから先に言い訳をするか、それともトレーナーとのコミュニケーションが発生するまで保留するか。
「……怖いなぁ」
断られるのが怖い。
不可抗力とはいえ告白してしまったみたいな事態だし、可能な限りごまかすつもりだけど、それでも彼に拒まれることが怖い。
彼と一緒に居られなくなるのが怖い。
「……気付かなかったことにしよう」
メッセージを間違って送ったことも、それを朝になって知ったことも、全部全部気付かなかった。だから、私が何もしないのはおかしくない。
そんな理論武装で私は問題を先送りにしたのだった。それが悪手だと理解していたのに。
「おはよう。トレーナー」
「ああ、おはよう。クラウン」
ドキドキしながらトレーナーと出会ったその日の朝。
「じゃあ、また後でね。クラウン」
「ええ、またね。トレーナー」
……あら…?
トレーナーは別れるまで何も言わなかった。
「もう一本走ったら今日は終わりにしようか」
「わかったわ。いつも通りドリンクとタオルの用意をお願いね」
「もちろん」
朝のちょっとした会話の中でも、トレーニングの合間の会話の中でも、
「お疲れ様。はい、タオルとドリンク」
「ありがとう。トレーナー。この後シャワーを浴びてからトレーナー室でミーティングでいいのよね?」
「そうだね。急がなくていいからね?」
トレーニングの後の会話中にも、
「じゃあ、今日のミーティングは終わりにしようか」
「そうね。お疲れ様、トレーナー」
「お疲れ様、クラウン」
日課になっているミーティングの時にも、その後の雑談の最中でさえ彼はLANEの話を出さなかった。
私が間違えてメッセージを送ったこと自体がなかったかのように錯覚するくらい。おそらくは彼なりの気遣い。私が無かったことにしようとしていることを察してくれての行動。
心の底から彼と通じてるみたいで、ちょっと気恥ずかしいけど、それでも胸の奥から温かい想いが溢れてくる。やっぱり彼は私の一番の理解者なんだって。
なのに……いえ、だからこそ、
「そういえばLANEの話なんだけど」
「……え?LANE?」
日が傾いてきて赤い陽の光が差す頃合いになってからLANEの話題を出されたことが信じられなかった。
「そうそう。昨夜の『
「あ、あれね…!」
もちろん彼からその理由を聞かれた時の
「クラウン、もし君がお酒を飲めるようになっても気持ちが変わらなかったら、もう一度、今度は君の声で聞きたいな」
「あれは、間違えて、って……えっ!?」
もう一度聞きたいってことは、それは、
「それまで俺は待ってるから。ゆっくり考えて欲しいな」
「えぇーーっ!!??」
待ってるってことは、それは、
「じゃあ、用件も済んだし、また明日ね」
「……あっ、ちょっと!」
言うだけ言って彼はトレーナー室から出て行く。反応が遅れた私に彼を止められるだけの時間的猶予もなく、手を振ってウインクする彼の姿は扉の向こうへと消えてゆく。
赤い夕陽の差し込むトレーナー室には、まだ混乱してる私一人だけ。
それは、結果的には良かったかもしれない。
今、私が彼を追いかけても、きっと周りの人に、彼に迷惑をかけるだけだろうから。
ゆっくり深呼吸して、ゆっくりと背もたれにもたれかかって、ゆっくりと目を閉じる。
もちろんまぶたの裏に映るのは彼。
「……トレーナーの
思い付いた悪態が口を
だって、わざわざ今の今までLANEの話をしなかったってことでしょ。つまりそれは、わざわざ私が油断するまで待ってから話題にしようって魂胆だったってことでしょ。言いたいことだけ言って逃げるために。
「はぁ、そんなところも好き……」
それがわかっていて、なお彼のことが好きだと想ってしまう私は、とっくに彼の術中に
「いいわよ。そっちがその気なら私にだって考えがあるわ」
今日のところは私の負けにしておいてあげる。
去り際に頬が赤かったことも忘れてあげる。
でも、知ってると思うけど私は負けず嫌いなのよ?
「……クラウン、距離が近くないか?」
「そう?気のせいじゃないかしら」
「……まあ、いいけど」
やっぱり照れてる。普段はあんなにキザなセリフを言えるのに、案外ピュアなのね、あなた。
なお密着してる私たちをしっかりとダイヤに見られて、後々面倒なことになったのはここだけの話。