相変わらずズブいミラ子概念
結局は純愛しか勝たん
追記:
誕生日おめでとうミラ子
ホームでめっちゃびっくりしたぞミラ子
偶然なんだけど、誕生日小説ということでひとつ
ヒシミラクルは気付かない
「トレーナーさん、今日の晩ご飯どこ行きます?」
上機嫌で話し始めたヒシミラクルはスキップでもするような足取りで距離を詰め、トレーナーの腕にしがみつく。そして、すぐさまやめなさいと
「わたし、重賞勝っちゃったんですよ?これはもう贅沢に外食するしかないですよね?」
彼女の中では既にトレーナーと二人で夕食を摂ることは決定事項である。外食は断られるかもと思っているが、二人で食事をすることに疑念の余地は一切ない。
「あそこのファミレス行きません?それで帰りにコンビニでケーキ買って食べましょうよ?」
屈託なく笑うヒシミラクルに、しょうがないなぁと形ばかりの難色を示すトレーナー。
ヒシミラクルは気付かない。普通のウマ娘は祝勝会とはいえ毎回毎回担当トレーナーと二人きりで夕食なんて行かないし、担当トレーナーの家に入り浸ったりなどしないことに。
付け加えるなら、トゥインクルシリーズで重賞勝利を勝ち取ることができるウマ娘は中央でメイクデビューしたウマ娘の中でも5%未満の選りすぐりの上澄みだということを彼女は知らない。
「やっぱりポテトとドリアはマストですよね~。それにハンバーグとピザと……野菜も食べないとですね~。あっ、フリードリンクは絶対頼みますよ。トレーナーさんもワインとか頼みます?」
勝手知ったるファミリーレストランと言わんばかりにメニューを選ぶヒシミラクルに、学生の前でお酒は飲まないよと至極真っ当なことを答えるトレーナー。
「今日は祝勝会なんですから、たまにはトレーナーさんもパーッとやりませんか?お酌くらいならしますよ?」
なぜか食い下がるヒシミラクルに、じゃあグラス一杯だけね、と折れるトレーナー。
「じゃあ、お酌はできませんけど乾杯はしましょうね」
ヒシミラクルは気付かない。トレーナーが彼女の耳と尻尾がわずかに下がったのを見て手のひらを返したことに。
さらに言うと、彼女自身は耳や尻尾を動かしたつもりはないし、なんなら上手にお願いできたとすら思っている。
「早速乾杯しましょうよ。わたしたちの勝利に……なんて、ちょっとカッコつけすぎですかね?」
ワイン片手に微笑むトレーナーを前にして上機嫌なヒシミラクルが芝居がかった動きでジュースのグラスを
ヒシミラクルは気付かない。トレーナーが同じ食卓でお酒を飲んでくれることが、無意識に耳と尻尾が揺れるくらい嬉しかったことに。嬉しげに揺れる彼女の耳と尻尾を見てトレーナーが笑顔になったことに。
「やっぱりここのドリアは絶品ですね~」
耳と尻尾を上機嫌に振るヒシミラクルは多量の料理をパクパクと
「トレーナーさん、そっちのグラタンはどうですか?」
食べる手を緩めて会話を投げるヒシミラクルに対して、エビがプリプリで美味しいよ、とトレーナーはあまり上手くない食レポを返し、ヒシミラクルの目が明るく輝く。
「グラタン、いただいてもいいですか?こっちのドリアとかハンバーグとか食べていいですから」
またかい?と問うトレーナーに「はい。またです」と返すヒシミラクル。くすりと小さく笑ったトレーナーがグラタンの皿を彼女の方へと差し出す。
「ありがとうございます~。……んー!このグラタンも美味しいですねー!」
ヒシミラクルは気付かない。当然のようにトレーナーが食べていたところからグラタンを食べている自分に。トレーナーはヒシミラクルが手を付けていないところのドリアを食べていることに。
言うまでもないが、普通のウマ娘は担当トレーナーと料理をシェアしたりなどしない。
「やっぱりケーキと言えばショートケーキですよね~。あっ、トレーナーさんはレアチーズケーキの方が好きでしたよね」
チョコケーキも好きだよ、とレアチーズケーキを食べ終え片付けまで済ましたトレーナーが答える。そんなトレーナーとショートケーキをペロリと平らげ、続けてチョコケーキを頬張るヒシミラクルの視線が交錯する。
ヒシミラクルは気付かない。いくら専属の担当トレーナーとはいえ普通のウマ娘は担当トレーナーの食の好みなんて知らないことに。
「むぅ。しょーがないですね」
カチャリとフォークが置かれる。仕方ないという言葉とは裏腹にヒシミラクルの口角は上がっている。
「トレーナーさんもチョコケーキ食べてくださいよ」
えっ、と声を上げるトレーナーにケーキとフォークの乗った皿が差し出される。
「どうぞどうぞ。半分くらい食べちゃってくださいよ」
ワクワクした様子でトレーナーを眺めるヒシミラクル。じゃあ……いただくかな、と何か言いたげな雰囲気のトレーナーであったが何も言うことなく、差し出されたフォークを手に取りケーキに手を付ける。
「ふふっ♪なんか、こういう普通の幸せって、いいですね♪」
満面の笑みを浮かべるヒシミラクルに対して苦笑を浮かべるトレーナー。
美味しかったよ、と律儀に半分になったケーキがヒシミラクルの前へと返ってくる。
「やっぱりこれ美味しいですよね~。だからトレーナーさんにも食べて欲しかったんですよ」
言葉と同時にヒシミラクルは返って来たチョコケーキを頬張る。
ヒシミラクルは気付かない。なぜかさっきケーキを食べていた時よりも自分の鼓動が高鳴っていることに。トレーナーが何かを言おうと何度か口を開き、結局何も言わなかったことに。
「わたしも、もう少ししたら卒業か~」
どことなく他人事のような、現実感のないような間延びした声でヒシミラクルが呟く。実際、彼女の卒業は遠い話ではないけれど火急の話でもない。
進路はもう決めてるの?とトレーナーがその独り言に問いかける。
「それが、ぜーんぜん決まってないんですよ。なにから始めればいいかわかんないくらい」
ぐでーっと机に突っ伏すヒシミラクル。器用なことにオレンジジュースの入ったコップはこぼさずに手に持ったままだ。
将来何かやりたいこととかないの?と麦茶のコップを傾けながら対面に座るトレーナーが再び問いかける。
「やりたいこと……むむむ……美味しいもんいっぱい食べたいとか?」
そういうことじゃないなぁと笑うトレーナーに、ヒシミラクルはですよね~と顔だけを上げて笑いかける。
「でも、レースの時もそうでしたけど、わたしってでっかい夢みたいなのないんですよね~」
むむむ、とオレンジジュースの水面を見つめヒシミラクルは
焦らずに遊びでも勉強でもしながら探せばいいよ、とトレーナーがあえて軽い口調で助言する。深刻に考えすぎないようにとの気遣いなのは流石のヒシミラクルでも気付いた。
「……英語、また教えてくださいよ?」
冗談めかした本気の懇願に、もちろん、と柔らかい即答が返り、ありがとうございます~と間の抜けた声が続く。
「あっ、やりたいこと見つけたかもしれません」
へにゃりと笑うヒシミラクルに、何がやりたいの?と微笑むトレーナーが尋ねる。
「大学生になっても、大人になっても、こうやってトレーナーさんとご飯食べたりお話したり、とにかくトレーナーさんとずーっと一緒に居たいですね~」
意気揚々とヒシミラクルは語り終わり、オレンジジュースに口を付ける。
ヒシミラクルは気付かない。今語った内容が将来の夢だとすると、とんでもなく大胆なことを語ったということに。
ヒシミラクルは気付かない。あまりに直接的な言葉にトレーナーが照れていることに。それを悟られないように顔を背け、グラスを傾けていることに。
「……なんか言ってくださいよ。なんか恥ずかしくなってきたじゃないですか~」
ヒシミラクルは気付かない。自分が恋をしていることに。トレーナーがそれに気付いていないふりをしていることに。