ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
トレーナーに悩みを言えないラヴズのお話

いつもご清覧、評価、お気に入り、ここすき等ありがとうございます。
つまらない私事は活動報告にでも置いておきます。



〈ラヴズオンリーユー〉
言えない"愛"。伝える"愛"。


 ラヴズの様子がおかしい。そう思った俺の行動は早かった。

 ……のだが、

 

「ごめんなさい、トレーナーくん。これは()()()の問題だから」

「俺じゃ役に立てないか?」

「これは()()答えを出さないといけないことなの、だから、ごめんね?」

 

 まさかラヴズに断られるなんて思ってもみなかった。普段から俺たちはコミュメンも含めて助け(あい)だと何度も言っている上に、過去に何度も相談してくれていた彼女が。

 ()()()()。何がおかしいのかはわからない。ただの直感でしかない。だが、確かに違和感を覚える。

 何か兆候があったはずだ。ラヴズが相談してくれなくても、俺なら気付ける何かが。そう頭をひねるも、

 

「もう……そんな顔しないで。深刻な悩み事じゃないし、私の中で方針が決まったら必ずトレーナーくんに相談するから」

「……わかった」

 

 困り顔だけれど元気付けるように明るくラヴズが付け加える。

 担当に気遣われた。本当なら俺がやらなくてはならない役割を彼女が。つまり、すでに立場は逆転しつつある。

 

「さあ、今日のトレーニングを始めましょう!」

 

 その後、心配する俺を余所に、いつも通りどころか自己ベストを更新するラヴズを見せつけられて、結局その場ではそれ以上の追求ができなかった。

 

 

 


 

 

 

『ラヴズの様子がおかしいんです』

 

 ラヴズの不調のことは当然コミュメンにも相談する。大人の基本は報連相。そして、このコミュニティの基本は助け愛支え愛である。俺が見落としたこと、気付けなかったことでも、集合知を活用すればあるいは。そう思っていたのだが、

 

『最近、調子良さそうに見えたんだけどなぁ……』

『俺もいつも通りのラヴちゃんに見える。役に立てなくてすまん。』

『コンディションは落ちてないんでしょ?なら様子見でいいんじゃない?』

 

 そんなコメントで溢れる。

 

「様子見かぁ……」

 

 現状ではそれしかない。ラヴズが待っててと言った時点で、こちらの選択肢はほとんどない。手掛かりがほとんどない中、推理をやらされるようなものだ。

 ただ、それでも不調に気付いた以上はなんとかしてやりたい。自分にできることをしたい。そんなトレーナーとしての自分のワガママでしかない。

 

『架け橋さんはどうして様子がおかしいと思ったの?』

『様子がおかしいって、どの辺が?俺にはいつもと同じに見えるんだが……』

 

 ふと目に入ったコメント。ほんの少しの優越感と、それ以上のラヴズへの不安。上手く取り繕うのが得意な彼女は、こうして毎回一人で悩み事を抱え込むのだろう。

 

『実はぼーっとしてる頻度が増えているんです』

『へー、意外』

『ラヴちゃん、いつも配信とかお喋りとかしてるイメージ』

『休憩も動画編集とかしながらだもんな』

 

 これだけなら俺も変だとは思っても、様子がおかしいなんて思わなかっただろう。

 

『それに最近は単純作業とか反復練習も黙々とこなすのが不自然で』

『それは普通なのでは…?』

『何も考えないの苦手って言ってたね、ラヴズさん』

『畑仕事をしながら高度な計算をしてるのは、ある種の恐怖映像でしたね……』 

『ちょいちょいトレセン関係者いるな?』

 

 ラヴズは何も考えないことがひどく苦手だ。その彼女が、黙々と単純作業をやる。はっきり言って、おかしい。普段なら始まって5分と経たずに音を上げるはずだ。

 

『悩み事があるらしいんですけど教えてくれなくて』

『悩み事の相談すらしないなんて珍しいな』

『……もしかして架け橋さんが問題だったりする?』

『だけど、ラヴちゃんと架け橋さんって仲良いもんね?』

 

 俺が問題……何かあるだろうか。自覚はない。無自覚だったならラヴズが指摘してくれるはず。

 ……指摘できないほどのことなのか。勝手な想像でしかないが、少し心が痛む。

 堂々巡りする思考の中、救いのコメントが書き込まれる。

 

『わかったかもしれません』

 

 それは待ちに待った答えだった。

 

『教えてください。桃色しっぽさん』

 

 迷わずに飛びつく。自分一人ではわからないのだ。担当のために頭を下げるくらいならなんでもない。

 と、思っていたのだが……

 

『ごめんなさい。私からは話せないです。私と同じ状態だと思うので。とにかくラヴズさんを待つしかないです。それだけはどうしても伝えたかったんです。架け橋さん、がんばってくださいね』

 

 謎の応援メッセージと共に桃色しっぽさん側から梯子を外されるのだった。

 

 


 

 

 

 それから数日後の夕方、ラヴズが居ないタイミングで事務作業を片付けていると、急にスマホが震える。

 画面を確認すると、突発的なラヴズの配信通知だった。

 

「今日は配信の予定はなかったはずだけど…?」

 

 配信画面を開くと映るのは、いつも見ている学園のターフ。

 どうやらコースの外側で配信をしているらしい。

 

『今日はね、重大発表がありまーす♡』

 

 重大発表。

 そんなもの、俺は知らない。

 目の前が回っている気さえする。

 ラヴズに一体何があった。

 色んな"まさか"が頭の中を過る中。

 

『心配しなくても、悪い発表じゃないから安心して、ね?』

 

 軽い調子で、でも優しく宥めるような声でラヴズが諭す。

 俺の心配を察した訳ではなくコメントに答えただけだろうけど、少しだけ落ち着いた。

 

 そして、手元のスマホが再び震える。

 

『何も言わないで配信に映らないように、配信場所まで来てくれないかな?』

 

 ラヴズからのメッセージ。

 意図の不明なお願い。

 それから少し遅れて画面の中のラヴズがスマホを操作する。

 

『今からゲストがここまで来まーす♡だから、みんなはもうちょっとだけ待っててね?』

 

 なるほど。サプライズか何かで、俺は待機してて、後から出て来て欲しいということだろう。

 結局、重大発表とやらは最近の悩み事の関連なのか?としか推測できないが、呼ばれたならば行くだけだ。だって、俺は彼女のトレーナーで、彼女のファンだから。

 

 

 

 

 

 夕暮れのターフの一角。まだトレーニングしている生徒の邪魔にならないように、練習風景が映りにくいように、ラヴズは配信を行っていた。

 

「あっ、来た来た。そのまま君はそこで、何も言わないで居て、ね?」

 

 わかりやすいように鷹揚(おうよう)(うなず)くと、ラヴズは少しだけ笑った後、真面目な顔を取り(つくろ)う。

 

「じゃあ、重大発表、するね」

 

 いつも明朗快活な彼女にしては珍しく、ゆっくりと真剣に、少しだけ緊張したようにラヴズは口火を切る。

 

「本当はね、前々から言いたかったんだけど、どうすれば良いのかわからなかったの」

 

 訥々(とつとつ)と語るのはラヴズの迷いの表れだろうか。それでも誠実に語ろうとする彼女の強い意思か。

 

「だって、私は現役のレースウマ娘だもん。レースに専念しないといけない。でも、悩み事は少ない方が良い。でしょ?」

 

 カメラではなく、俺に向かってウインクをひとつ。

 彼女のトレーナーとして首肯を返す。

 

 ……何かがおかしい。なぜカメラではなく俺にウインクを?

 

「それに、私は私だから。やっぱりこうして配信で、動画という形にしたいなって思っちゃったの」

 

 子供の頃から配信をやっているラヴズらしい動機だ。

 

 ……本当に?何かを見落としていると根拠のない確信がある。

 

「だからね?君は何も言わないで。答えないで。そのままそこに居て」

 

 ラヴズがこちらを向く。理由を問いたかったが、何も言わないでとお願いされている。

 つまりは、何も言わずに重大発表を聞いて欲しいのだろう。

 

 ……わざわざここまで呼び出して?カメラに映らない位置で待たせて?何も答えないで?

 そもそも彼女がわざわざ動画で残すのは家族との記念日で──

 

 ぼんやりとした疑惑が形になる前に、ラヴズの方から答え合わせが始まる。

 

「ラヴミー?」

 

 それはいつかのクリスマスの時のように疑問形で、

 

「ラヴユー♡」

 

 それはいつもの配信の時より甘い響きで、

 

「アイラヴユー♡」

 

 それは今までのレースの時と同じくらい真剣な声で、

 

ラヴズオンリーユー(あなただけのわたし)、です♪」

 

 それだけはいつもと同じ挨拶であって、でも視線だけはカメラではなく、こちらを向いていた。

 

 

 

 なおガチ恋勢の半数が現実逃避、残りが炎上。古参組が腕組み訳知り顔。なぜかカップリング勢による大喜利が大バズリと一波乱あるのだが、それはまた別のお話。

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