『大和撫子』を捨て『不退転』のグラスちゃんと『朴念仁』のトレーナーの恋の一番勝負
NTR要素はないです
キャラ崩壊注意
タイトルからプロットを思い付いてノリノリで書いてたら、初期のプロットとは全く違う話になったヤツ
グラスちゃんは小細工なしの真向勝負が好きだけど、勝つためならルールの範囲内で手段は問わないイメージ
『乗り換え上手』のグラスワンダー
「私、グラスワンダーは、トレーナーさん、あなたをお慕い申しております」
私とトレーナーさんしか居ないトレーナー室に、私の声だけが響く。
初手は小細工無しの真向勝負。この作戦を立てる前から、そう考えていました。
トレーナーさんは
困惑、動揺、そして、歓喜。彼の心の動きが手に取る様に分かります。
三秒と経たない内に、いつもと変わらない顔に戻り、少し目を細め、私にしか分からないくらい
「僕もグラスが好きだよ」
全く緊張感の無い、明らかに"分かっていない"風を装って彼が答えました。この"逃げ"は想定の範囲内です。すかさず"差し"に行きます。
「私と、恋人として、付き合って頂けませんか?トレーナーさん?」
流石に"恋人"と明言してしまえば、"分かっていない"は通じません。それでも
そんな考えは杞憂に終わり、いつもの柔和な幼い笑顔が崩れ、年相応の顔立ちに変わられました。
チームの皆には見せない"素顔"のあなたの方が、私は好きですよ?
眉根を寄せて、トレーナーさんが口を開きます。
「グラス、それに対する答えは…」
彼が言葉に詰まりました。
正確には『グラスには僕が何と答えるか、分かってるはずなのに、なぜ?』という考えに至ったからでしょうか。
「『後二年、待ってくれないか?』と言うおつもりでしょうか?」
彼が言わなかった言葉を継ぎます。
「申し訳ないのですが、私は三年待ちました。これ以上、待つつもりはありません」
「……なぜ今なんだ?今までに機会はいくらでもあっただろう?それに二年待ってくれれば、必ず僕から言うだろう。なぜ、今なんだ?」
演技ではない、本当に悲しげな顔でトレーナーさんが訊ねてきます。
至極当然の質問ですね。彼の性格からして理由を話した上で、納得して頂かないと首を縦には振らないでしょう。
「まず第一に、あなたが私を好きだと言う確証がありません」
「……僕が君に抱いている想いを、三年間、一番近くで僕を見ていた君が知らない訳がない。それに、口の軽いエルのトレーナーや、押しに弱いセイのトレーナーに聞けば、すぐに分かるはずだ」
「ええ。情報収集は念入りに行っています。今挙げられたお二人にはたくさんお話を聞かせて頂きました」
エルのトレーナーさんはすぐにエルとの惚気話に話題を変えてしまいますし、セイちゃんのトレーナーさんは逆にセイちゃんの話になると必ず話を逸らそうとしていましたが、二人共、あなたのお話はしっかりしてくれました。
キングちゃんのトレーナーさんには体よく
「私の脚、特に、太ももが好きなんですよね?」
トレーナーさんが苦虫を噛み潰したような顔になりました。
咎めるつもりは毛頭ないのですが…
時々、飢えた肉食獣のような目で私の脚を見ていることはよく知っていますよ。その後、煩悩を振り払うために頬を叩く癖も、私以外の娘には目もくれないことも。
「しかし、あなたの口から私への好意を…恋慕の情を直接伺ったことは一度もありません」
「……立場上、僕から直接は言えないからね」
こういう事柄は間接的に伝えられても意味が無いと思うんですけど…
「次に、あなたはウマ娘によくモテます」
「……否定はしない」
先程より渋い顔で彼が答えます。苦り切った顔という表現がよく似合う表情ですね。
「ただ、同期のトレーナー組の中で、取っ付きやすいのが僕だけというのも考慮して欲しい」
エルのトレーナーさんは海外ですし、スペちゃんのトレーナーさんはスペちゃん専属を公言していて、キングちゃんのトレーナーさんは毒舌家、セイちゃんのトレーナーさんは
柔和な顔立ちで、穏やかな話し方、特に問題も起こさず、グランプリウマ娘のトレーナーとなれば、それなりにモテるのは分かります。
「それとは関係なく、私以外の娘に目を奪われる可能性は十分にありますよね?」
「……。」
トレーナーさんが何かを言おうと口を開き、何も発さず力無く
一言、あなたの口から『好き』と言葉にしてくだされば、この問答は終わりなのですが…
「最後に、私の親友四人は全員くっついたんですよ?」
言い終わる前にトレーナーさんの顔が、ひどく疲弊しきった顔へと変わっていきます。
……そんなに露骨に面倒そうな顔しないでくれませんか?
「……その歳で行き遅れを気にする必要はないぞ」
呆れを通り越して、疲れの滲む声が返って来ます。
あまりにもあんまりな言い様に、思わず頭に来てしまい、彼に浴びせる悪態を瞬時に十ほど思いつきます。ただ、私が
「……胸襟を開かせてもらう」
感情の籠らない声で一言、そう告げられ、
一呼吸置いて、
「バカか!お前は!!」
四年目となる付き合いの中で初めて罵倒されました。トレーナーさんが声を荒立てたのも初めてです。
予想外の行動にびっくりしている間もなく、矢継ぎ早に
「俺は教員で、お前は学生!歳の差だって十個は離れてるんだぞ!それに、お前はもうスターウマ娘だ!彼氏作るなんて御法度に決まってんだろ!周りがやってるからオッケーじゃねぇよ!」
荒く息を吐きながら、口を開き、途中で止まり、何も言わないままダラリと脱力してしまいました。
いつも被っている仮面の下の、激情に駆られる彼の顔は、普段のあどけない表情の時よりも一層幼く、私と同年代のような顔に見えました。
キングちゃんのトレーナーさんが『猫被り』と呼ぶのも納得の豹変振りですね。
「……これが俺の素だ。いつもはかなり意識して立ち居振る舞いに気を払ってるだけだ。幻滅したなら、さっさと帰れ。んで、今日のことは忘れろ。いいな?」
有無を言わさぬ口調で命令されますが、この程度で怯むような子供ではありません。
「幻滅だなんてする訳ないじゃないですか。今のあなたの発言は、全て私のことを思ってのことです。つまり、普段のあなたと素のあなたは言葉遣い以外何も変わっていませんよ」
むしろ、あなたが裏表の無いヒトだと分かって、私としては、とても好感が持てますよ?
「……グラス。俺はどうすればいいんだ」
ついに彼は頭を抱えて、
「私としては今すぐ交際を始めたいのですが、このままでは水掛け論でしょう」
ここからは次の作戦です。
「なので、私と一つ賭けをしませんか?」
「……最初から、この流れに持っていくつもりだったんだな」
ボソリとトレーナーさんが呟きます。
そうですよ。いずれお互いに平行線なことを再確認することは、『火を見るより明らか』でしたから。
そして、あなたは絶対の自信を持って、この賭けに乗ってきます。
「明日から一ヶ月間、四週間の方が語弊が少ないでしょうか。私はあなたを誘惑します。その間に、あなたが私に手を出したり、『好き』と私に言えば、私の勝ち。それらを行わなければ、あなたの勝ち。ということでどうでしょうか?もちろん、勝った方が負けた方を好きにするということで」
「……開始の時間と終了の時間の詳細は?」
「日付が変わったら開始で、四週後の日付が変わったら終了ということで」
「……上等だ。十個も下のヤツの色仕掛けなんかに負ける訳ねぇよ」
三年間、どれだけ私がアピールしようと、手を出さなかったあなたが言うと中々に説得力がありますね。
「では、いざ尋常に勝負。ということで、お願いしますね?」
早速、彼の腕に飛び付きました。
賭けが始まってから二週間が経過した。
賭けが始まる前の彼女は、トレーニングとミーティングが終わった後もトレーナー室に居座って、勉強をしたり、本を読んだり、他愛のない会話に興じたりしたものだ。
賭けが始まってからは、腕に抱き付いて来たり、何気ない風を装って太ももに触れられたり、偶然を装って着替えを見せつけようとしたり、露骨な行動が増えている。
とある日なんか、自宅に帰ったら、裸にエプロンだけを
流石に、半裸の好きな娘と一つ屋根の下とか
それ以来、毎日帰っていたはずの家には不定期に帰ることにしている。
不定期に帰るようにしてから、グラスと鉢合わせたことはないが、これ見よがしにグラスの服や下着が置かれていたことがあり、ここまでやるか、と思わされた。
ちなみに、指一本触れずに放置してある。
そして、今日、トレーニングが終わり、ミーティングが終わるや否や、グラスはトレーナー室を出ていって、ついぞ戻ってくることは無かった。こんなことは初めてだ。
これも作戦だろう。
そう思い気にも留めなかった。
グラスがトレーナー室に戻って来なかった翌日。
その日もグラスはトレーナー室を出ていって戻ってくることはなかった。
流石に二日連続となると気になったが、追いかけるとグラスの思う壺だと思い、追わなかった。
思わず悪態を吐きそうになり、自分自身驚きつつも口元を押さえ、物陰に隠れる。まだ気付かれていないはずだ。
今日もミーティングが終わるとグラスはトレーナー室を出ていってしまった。
仕事を終わらせ、たづなさんに書類を提出しようと外に出た時、"それ"を見てしまった。
セイのトレーナーがグラスワンダーの額にキスをしている。
中庭のベンチで二人っきり、このシチュエーションだけ見れば、どこからどう見てもカップルにしか見えないだろう。
……これもグラスの作戦だろう。
"これ"を俺に見せつけることで、嫉妬を煽り、告白を誘う作戦だろう。
そこまで分かっていても、この全身を焼くような緑色の感情は、形容し難いほどに強烈に思考力を奪っていく。
今すぐ割って入りたい体と、わめき散らしたい心を無理矢理に押さえつけ、歯を食い縛って、その場を後にした。
次の日、キングのトレーナーがグラスの手の甲にキスをしているのを見かけた。セイのトレーナーじゃないのは、セイに妨害されたのだろうか?
何にせよ、これが俺に見せつけるためだけのデモンストレーションであることを確信する。もし、セイのトレーナーだったら、鞍替えされたのかと思って、掛かっていたかもしれない。
その次の日は、スペのトレーナーがグラスの頬にキスをしているのを見かけた。
……他に候補はいるのか?グラスと交流のある男性なんて数えられる程しかいないぞ?
そう思っていたが、スペのトレーナーの次は、タイキとハグしているのを見かけた。
なるほど。同性でもいいなら幾らでも候補は居るな。だが、同年代の女性と抱き合っていても微笑ましいな、としか思わないから嫉妬させる作戦としては失敗してるだろ。
結局、毎日のようにグラスと誰かがキス、または、ハグしている光景を見せつけられた。毎回無視を決め込んでいたが、流石にスペにのしかかっているのを見つけた時は止めに入った。
そして、遂に最終日となる二十八日目がやってきた。
トレーニングが終わり、
ミーティングが終わり、
今日もグラスはトレーナー室から居なくなった。
グラスが何を準備して待っているか分からないから、日付が変わるまでトレーナー室から出ない。そのために色々と持ち込んである。
ノートパソコンを開き、時間を確認する。
18:32
仕事は終わっているし、退勤報告も入れているが、余りにも手持ち無沙汰なので、適当に息抜きを挟みながら、トレーニングの改良案でも考えるか。
そう思って、動画サイトのウインドウを開きながら、トレーニングを考えて、暇を潰した。
フッと顔を上げると日が暮れていた。時間を忘れて没頭していたようだ。
唐突に扉が開く音がする。
音がした方を向くと、グラスがこちらを見て
パソコンを閉じ、グラスと視線を合わせる。
グラスはスッと目線を逸らし、一点を見つめる。
釣られて、同じ方向を向くと、壁掛け時計が視界に入った。
そう言えば、この部屋にも時計があったな。
短針が11を過ぎ、長針が9付近を指している。
明らかに寮の門限どころか消灯時間も過ぎているだろう。
グラスに視線を戻すと、向こうもこちらを見ていたらしく目が合った。
「トレーナーさん?」
グラスが問い掛けてくる。そこには緊張の色も諦めの色もなかった。
「日付が変わったらな」
グラスと両思いなんだと理解してしまった以上、約束ぐらいしないと不誠実だろう。
それ以上に、自分の気持ちが抑えきれないだけでもあるが。
俺の言葉を聞いて、グラスが距離を詰めてくる。
が、椅子を持ってきて、机を挟んで彼女が座った。
お互いに無言のまま見つめ合い、カチカチと時計が時間を刻む音をBGMに過ごす。
永遠にも思える須臾の時間を、グラスと二人だけの世界で見つめ合う。
「……そろそろ時間ですね」
グラスが壁掛け時計の方を向く。
追従して、俺もそちらを向く。
短針と長針が12の辺りで重なろうとしている。
「……グラス」
時計を見つめながら呟く。
「はい」
短針と長針が重なる。
「……もう二年だけ、我慢して欲しい」
グラスの方に向き直って言う。
「……トレーナーさん、好きです。あなたからも、一言『好き』と言ってくれませんか?」
藍玉のような瞳に見つめられる。
「……分かった」
思いの丈を述べようとし…
違和感を覚える。
グラスの瞳の奥から闘志が消えていない。
むしろ、燃え上がっているような…
嫌な予感が頭を
23:53
まだ日付は変わっていなかった。
「よく気付きましたね、トレーナーさん」
グラスが満面の笑みを浮かべているが、耳は絞られ、尻尾は不規則に揺れていて、悔しげな雰囲気が隠しきれていない。
「こうなっては、どうしようもありませんね。潔く負けを「好きだ、グラス」……えっ?」
「好きだ、愛してる」
間の抜けた顔のグラスに畳みかける。
「俺の負けだ。ここまで言い寄られて断るなんて、俺には出来ないわ。……長い間待たせて悪かった」
さっきまでは待たせるつもりだったが、気が変わった。
そもそも大和撫子のグラスに、ここまでさせるほどに想われているんだ。どのくらい想われているかは『推して知るべし』だ。
「……トレーナーさん」
再び、違和感を覚える。
グラスの瞳の奥で、煌々と闘志が燃えている。
嫌な汗が背筋を伝う。
「……私が、負けず嫌いなことはご存知ですよね?」
非常に固い声音でグラスは話す。
「ああ…」
彼女が人一倍負けず嫌いなことは、俺が一番良く知っている。
「勝ちを譲られても、私は納得いきません」
「だろうなぁ…」
言葉の選択を間違えた。今更後悔しても遅いかもしれないが。
「そういう訳なので、次は『どちらがより相手を想っているか』デートプランで勝負しませんか?」
打って変わって、弾むような口調でグラスが告げる。
「あなたを想う気持ちは、誰にも負けない自信がありますよ?」
「……分かった。次のオフは俺のデートプランで、その次はグラスのデートプランで行こう」
「楽しみにしていますよ?」
机を乗り越え、腕を伸ばしてきたグラスを抱き止めながら、どこまでがグラスの筋書き通りだったのかに思いを馳せた。