新サクラ大戦2 巴里編 ~失われた愛を求めて~   作:ユウーザ

3 / 4
Partie3

 通路を歩く、スペアドレスのアニーと、長い栗髪のメイド。

「シーさん、でしたっけ。

 わたし、上手く舞台できますかね?

 歌も踊りも昔っから好きですけど」

 不安げな新人候補に、メイド……シー・カプリスはにこやかに答える。

「上手くなるための練習がありますからぁ。

 それにぃ、今は人手不足でしてぇ。

 役者がサボりがちだと、若いスタッフくんの面白いトークで場を持たせるのも一苦労なんですぅ」

 それだけでなく、モギリや雑用、オペレーターまで卒なくやってくれる青年スタッフには、感謝してもしきれないでいる。 それはシーだけでなくメルもイザベラも同じ。

 皺の見える手がドアを開くと、その先の光景は、アニーの好奇心と、感動に瞳を輝かせ、感嘆の声を上げさせた。

 天井がガラスで覆われ、中央にはベンチに囲まれて、観葉植物が咲き、その傍で青年が跪いている。

「ここはどこですか~」

 目を輝かせ続けているアニーに微笑みながら、入口に続くエントランスロビーですよ~、と答えた。

「えんとらんすろび~~~。

 あの綺麗な草はなんですか~~~」

 斬新による興奮に浮いて、くるくると回る少女にクスっと微笑むメイド。

「これは観葉植物といってぇ、お客様に見てもらうために栽培してるんですよぉ」

 へぇーと観葉植物を近くまでまじまじと見るアニー。

「あ、あの……?」

 すぐ近くの声にびくっとした。 隣を見ると、男の顔があった。

「わわわわわわごめんなさああい!?」

 アニーはシェーといったポーズで三度跳ねて、青年から離れる。

 青年の服はワイシャツの上に黒ジャケット、膝を曲げた足は黒いズボンに包まれている。

 その両手には、ハンカチとじょうろを持っている。

「エランくんお疲れ様~」

「ああいえ……彼女は?」

 従業員が見慣れぬ少女に訝しむと、新人よぉ、とシーは言った。

 急速に畏まって腰を正したアニーは、アニー・スリジェですっ、と綺麗にお辞儀をする。

「かわいい……」

 そう、若い男の小さい声を、女達の四つの耳は捉えた。

 大人がくすくすと笑う中、アニーはかわいいの意味がわからず、首を傾げる。

 青年は、すぐにハンカチとじょうろを地に置いて、綺麗に立ち上がる。

「ええと、新人ということはその娘、ナポレオンII世に懐かれた、ということですか?」

「そうそう。 あ、華撃団の方はまだ秘密だから。

 この娘、まだ素人だし」

「? 華撃団……?」

 台詞にある通り、歌劇団と日本語の読みは同じかげきだんだが、ここは仏蘭西。

 華撃団という言葉は、アニーの耳に入るのは初めてなのだ。

「ああ、ぼ、僕エランっていいます。

 ここの雑用で、モギリとオペ……色んな雑用をやってます」

 エランのほんのり赤い頬に、大先輩は微笑む。

「もぎり?」

 耳慣れぬ言葉に首を傾げるアニーの質問に、エランはこう丁寧に答えた。

「モギリはですね、お客様のチケットを切って、劇場内に入ってもらうお仕事です」

「? チケットって、切っちゃうんですか?」

「へ? ええ、チケットには切れるところがありまして。

 チケットは大抵その日の内にしか使えないものなんです」

 はぁ、と言いながら半ば理解しきれていないアニー・スリジェ。

 実物を溶けてしまったことを思い返して心中でまた落胆する少女。

「あ、そうだエランくん。 アニーちゃんの劇場案内取り次いでもらえる?」

 へっ!?とエランは驚く。

 アニーは素朴にシーさんと名前を呼ぶ?

「ごめんなさい、溜まってたお仕事消化しなくちゃならなくって。 そ・れ・に~」

 にやにやとエランとアニーを見比べる。

「な、ななんですか」

「じゃ、よろしくね~」

 エランの問いに答えず、そそくさと庭園から立ち去るシー・カプリスであった。

 頭にはてなを置くアニーが発した声は、小さかった。

「……男性の召使い服、かっこいいかもです」

 びくっと身体を強く震わせるエラン。

「い、いや!? 召使い服じゃなくてその!

 制服! 制服っていうんだコレ、あははははは!」

 青年の挙動不審を訝しんで見やるアニーであった。

 

『以上のように、燃料切れのスクラップであろうと、巴里華撃団の所有物に変わりはない。

 さっ、渡してもらおうか』

 暗い室内を照らすのは、ジュスタンが貴族に詰め寄っているカラー映像。

「ムカつく面ねぇ~、女平気で騙す顔じゃない。

 巴里華撃団って男子禁制じゃなかったの?」

 ドレスを揺らして、女の声が鳴る。

「前の隊長さんは海の外の男だったよ?

 それに、霊力者が華撃団に入れるレベル低くなったから、男隊長多いんだよイマドキ。

 ねー?」

 低いながら子供っぽい声調の主は、大柄なシルエットに頬を擦る。

 女は苛立って舌を打つ。

「さーーてと……実力テストと行こうかな」

 男は笑って、パチンと指を鳴らす。

 途端に後ろがガラスの割れる音と共に照らされる。

 ガラスを破った降魔が高い高い天井へ上がっていく。

 

「それで、ここが貴賓室。

 お金持ちの方をお迎えするところ」

 薄紫の壁に囲まれた、豪華な部屋に、アニーとエランはいる。

「おおー……ここもまた……って、んん!?

 なんですか、あのおっきな目がありますよ!?」

 壁の御影石の区画には、大きな猫の目が張り付いていた。

「ああ、これはね。

 マジックミラーという作りになっていて、ここからステージと客席を見れるようになってるんだ」

 恐る恐るアニーは近づいていき、猫目の窓を近くまで見ると、別側面だが、舞台の別側面が広がっていた。

「おおおー……ホントです!

 でも、ステージにこんな窓があったなんて……」

「マジックミラーっていうのは、こっちから見えるけど、あちらからは見えないようになっててね。

 つまりステージと客席の方からは、この部屋は気づかれないようになってるんだ」

 最初のぎこちなさはどこへやら、三十分足らずの間に、アニーとエランはすっかり打ち解けていた。

 部屋から部屋へ行く合間に住んでいたところのカルチャーギャップを堪能し、互いの家族のことを話し合い、友人への愚痴まで共有し合った。

 ただ、自ら姉のことを口にした瞬間のエランの顔が、どこか重かったことが、アニーには引っかかっていた。

「でもどうしてこんなお部屋をお作りに?」

「お金持ちといっても、色んな人がいるからね。

 庶民や貧乏人から恨み買ってるような奴ほど、ここに案内するのさ」

「ええー……なしてそんな人連れてくるんですか」

 エランの顔に苦笑が浮かぶ。

「やむを得ない事情って奴。

 十年近くぶりに再開したばっかだから、維持とか大変で。

 お偉い方との根回しも必要なのさ……」

「よくわかりませんけど、大変なんですね……」

 我ながら他人事みたいに言うものだ、とアニーは思った。

 彼女の耳が耳障りな警報を拾ったのはその瞬間だった。

「!? なんですかこの音? うるさいですね」

「アニーちゃん!」

 急に両肩を掴まれた先には、エランの真剣な面持ちがあった。

 自然と頬がほんのり熱くなる。

「これは警報音といって、危ないことが起こったときにしか鳴らないものなんだ」

「あ、危ないことってなんですか?」

「まだ話せないこと。

 とにかく、この貴賓室なら安全のはずだ。

 僕が戻ってくるまでここを動かないでくれ。

 しばらくかかるけど!」

 さっと踵を返して、貴賓室から出ていくエラン。

 置いてきぼりのアニーは近くのソファに座り込んで、数秒の沈黙を破る。

「……どゆこと?」

 

 牙から滴り口を汚すは、酸性の唾。

 血肉を求めて、降魔の群れが広場に大挙している。

 色とりどりな花火が群れ成す怨霊の身体を削り落としていく。

「やけに大所帯じゃないか。 今日はおたくらの吉日だったのかい?」

 群れの中心にいるのは、霊子引火性のトランプを手札と腰に携えた奇術師、ジュスタン。

(局地爆発で一斉撃破を狙いたいが……)

 トランプボムによる爆発範囲と威力は、カードの数目に応じて変動する。

 Aだと、範囲狭しの高火力。 13だと、13発連続爆破(一つ一つはAの1/13)による広範囲。

 因みにスートだと、爆煙の形と色が変わる。

 この大人数でも殲滅も容易いと思ったが、爆破を察知して離れられて殲滅数が減ると、紙が切れるのが先になってしまう。

(知恵ある親玉か参謀がいるのは確か……無茶だが一点突破を狙って、そいつを探すか)

 紙はあと半数を切っている。

 意を決したとき、上空の翼を見据える。

「助かった」

 霊子シャスール。 本名不明。 どこの国の華撃団にも入っておらず、独自に降魔を殺害している。

 背中には、昔に航空会社で没を食らったはずの霊子飛翔補助翼を背負い、隻腕にぶら下げる得物の蒸気重機関銃”ウリエル”は、降魔の

「いいか無理してはいかん。 霊子戦闘機が来るまで持ちこたえるんだ!」

 老いていて高い声の方をチラリと見て、ニッと微笑む。

 薄い色のコートがやや太った体型に押し出されている、初老の男性。

 その正体はジム・エビヤン警視。

 巴里市警を束ねる、歴戦の勇士。

 十一年前の大戦以降、各国華撃団に協力を惜しまず、勇猛果敢な警官達を率いて、降魔撃退任務に助力している。

 他国の華撃団ほどではないが、心から頼りになる同志だ。

「ここらでかっこ悪いとこ見せらんねえわな」

 指の間より投じられたハートの11は、十一匹の内三匹を塵に、四匹を死に至らし、五匹の身体の一部か半分を現世から抉り取った。

 

「ホントに暇になっちゃいましたねー……」

 ソファの上で靴をぶらぶらしてる間、全身になにか違和感が募って仕方がないアニー。

「……見るだけ見るだけ」

 しびれを切らして立ち上がると、部屋中のものを見ていく。

 先程まで暇つぶしに見回していたものの、近場まで見ると違うので、目を輝かせる。

 ちょっとだけちょっとだけ、とタンスの高貴な紋章に恐る恐る触れる。

 そしてそれは光り出して、ガコンと音が鳴った。

 音の方を見ると、部屋の角が開き、降りの階段が露わになっていた。

「えっ!? ……え……!?」

 恐怖と高揚感が胸を強く鳴らす。

 恐る恐る。 中に入って、階段を降りていく。

 壁の煉瓦模様が、知らぬ白銀へと変わっていく。

 降り切った先は、鉄臭かった。

「……ここはどこでしょう?」

 アニーの視界には、丸い胴体に手足のついたものが何体か並び、作業衣の男達がそれに張り付くように作業をしている。

 別組の男達が大きい鉄製のものに対して作業を行っている。

 その中心に、大声を張り上げている、タンクトップの少女がいる。

「オラオラ手ぇ動か……あ”? 誰だァてめえ」

 アニーを目視した少女の顔は、苛立ちで険しかった。

「ははははい!

 なんかこう、巴里歌劇団!の新人になった?アニー・スリジェです!」

 その言葉を聞いた少女の顔は柔らかくなって満面の笑顔が咲き、猛スピードでアニーに急接近した。

「新人! 黒猫にどこ舐められた?」

 アニーはその勢いにたじろぎながらも、首筋から頬をなぞる。 そして手を掴まれる。

「よーし来なァ!!」

 声を上げる間もなく引っ張られていった先、それは先ほども見かけた丸めの胴体に、手足のついた機械……霊子戦闘機の前だった。

 

 




次回!
霊子戦闘機回です
時間かかりますが、お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。