新サクラ大戦2 巴里編 ~失われた愛を求めて~   作:ユウーザ

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お待たせいたしましたかな?
霊子戦闘機回です。
第一話の締めです!


Partie4

 テアトル・シャノワールには地下がある。

 アニーが着いた格納庫兼任のシャノワール工廠の敷地内。

 その部屋には支配人とメイド二人、スタッフ一人がいる。

 その名を作戦指令室といった。

「付近住民の避難、終了確認!

 残っているのは、警官隊だけのようです!」

 書本サイズの紐育製蒸気端末を動かすメル・レゾンが声を上げる先には、天井の部屋より下げられた、木枝のような大型アーム椅子に座るグランマがいる。

「エクレールの発進準備は?」

 グランマは、机いっぱい液晶の中の書類にサインを書き回していくエラン。

「もう終わります!

 しっかしどうしてここまで手間かかるんですかねっと!」

 メルと同じく書本サイズの蒸気端末を動かすシー・カプリスはこう言って苦笑する。

「再開したばかりだからね~巴里華撃団」

 苦笑を受け流すメルは、蒸気端末の液晶を見下ろしていると、怪訝に片眉を曲げる。

「ジュスタン機、搬入かん……? 誰か乗っています!」

 メルの端末内液晶に指が入ると、グランマの後ろの大型モニターにいるはずのない少女の顔が映る。

『た、助けてくださ~い!』

 滝のように涙流すアニーの顔に、どへーっとバランスを崩す一同。

「アンタなんでそこにいるんだい!」

「貴賓室で待っててくれって言ったじゃない!?」

「シャノワール工廠、シャノワール工廠!

 これはどういうことですか」

 シーが通信をかけた地下工廠の相手は、若きタンクトップの整備士長ニコラ・エピーヌ。

『貴賓室から降りてきたみたいだ。

 首からほっぺなら、霊子甲冑を動かせるだろ?』

「バカニコラ! この娘は舞台も戦闘も素人だよ。

 訓練段階にも入ってなかったから、都市防衛のことを伏せてたっていうのに、あんたって娘は戦闘服も着せないで……」

 シーの液晶へ声を上げるグランマに対し、眉を顰めるエランは問いかける。

「待ってください? 貴賓室が工廠に繋がってるなんて、聞いてませんよ!?」

「エラン……あんた知らなかったのかい?

 他国の華撃団の見学用にと通路を設けていたんだよ」

「うそぉ!?」

「あ! 霊力感知式だから知らなかったんだ、エランくん」

『早く出してくださ~~い!』

 大きなモニターに対して、落ち着きなアニーと、優しめながら厳しい声調を揺らがずに少女をたしなめるグランマ。

「あんたが乗ってるそいつは、降魔のような霊的脅威を倒すための鎧だよ」

『えっ、オバケやっつけるんですか!? これで!?』

 周りの蒸気機器を見回しながら、アニー、次にこう告げる。

『無理ですよ、蚊しか潰したことないのに、オバケなんて!』

「いや! 今、その必要はないよアニー。

 右も左も分からないあんたを戦わせるわけにはいかない。

 良いかい、そいつは、呑んだくれのマジシャンだけが扱える鎧なんだ。

 ジュスタンにそいつを届けたら、速やかに脱出して、さっさと逃げるんだよ。

 脱出の指示はこちらでやるからね!」

『は、はぁ……? あの人のですか……』

 現実感を掴めないでいるアニー、目を数度開閉する。

 

 地下鉄。

 地上からの微かな振動に不安か違和感を感じる市民達。

 顧客と電車の境目に鉄柵が落ちる。

 鉄柵の向こうを目にも留まらぬ速さで突っ切る列車が一台。

 雷のようなそれは、弾丸列車エクレール。

 巴里全域に霊子戦闘機を輸送する、高速輸送車両である。

 

 爆発飛び交う戦場の中に、何かが垂直に落下する。

 それは霊子戦闘機フルールIII。

 丸い全身の紫色に金の星を所々にあてらい、丸い両肩部と短めの両腕にトランプのパックのような四角形を装備している。二つずつの丸いアイが前面上を走るレールの上に載り、下半分は短めの足として分かたれている。

「おお、来たかジュスタン機」

 胴体が下に開くと、上に空いた口から女子が出てくる。

「……は!? キミ、さっきの……」

 アニー・スリジェには、トランプの奇術師の顔に見覚えがあった。

「あっ、ホントに呑んだくれさん!」

「いやそうじゃなくて!?」

 アニーの後ろが爆発した。 ジュスタンが言動に突っ込みつつ、アニーの頭に食らいつかんとした降魔にトランプボムを放ったのだ。

 驚いたアニーはぎゃわわわわわわと叫びながら、ずでんと背中から地面に落ちる。

 そんな彼女を二名の警官がそそくさと丁寧に抱き連れて行き、その隙を突くようにジュスタンは開いた霊子戦闘機に乗り込む。

「エラン、今のなんだ!?

 こいつから降りた娘だよ」

 ジュスタンは胸元を引き上げつつ、悪友に向けて通信で問いかける。

『新人のアニーちゃん!

 とはいえ色々素人だからさ、そいつ送ってもらって、逃げてもらったんだ。

 文句は無理矢理載せたニコラ達に言って』

「だったら送ったてめーらにも責任あんだろーに」

 ジュスタンの奇術師服の節々から四角い白の突起が浮き出て、その突起の薄い穴に光が吸い込まれていく。

『ジュスタン機、開幕!』

 周囲に蔓延る降魔の群々に向けて、日本舞踊歌舞伎のように曲げた腕と伸ばした腕を向ける。

 短い両腕上腕を覆う四個ずつのパックの一つから無数の札が射出されていく。 ジュスタンが使うものと同じトランプボムだ。

 降魔の軍勢が瞬く間に爆ぜていく。

 足裏のグランドホイールが回り、地を滑り走る。

 ある一体の背中を足場にして走り飛び上がり、宙返りして地上に二つの目を向けると、両肩のパックの口が開き、トランプボムが雨のように歪な亡霊達へ降り注ぐ。

「す、すごいです、あんな感じに戦うんですね……」

 広場端の即席バリケードの向こう、季節外れの肩掛けを肩にもらったアニーは多くの警察官に庇うように囲まれ、驚愕と動揺と感嘆の複雑な感情をジュスタンの駆る鎧に向けている。

「なにを当然のことを。 どこの国だろうと、華撃団がいれば街の平和は安泰さ」

「どこの国?」

 またも耳慣れぬ用語について警官に問おうとしたら、その身体に影がかかる。

 上を見れば、自分に衝撃を寄越した仏頂面がそこにはあった。

「うわっ! た、たしかシャスールさん?」

「あなたも戦うの」

 手を優しく掴まれると、およそ一時間前の浮遊感覚が足の裏から戻っていく。

「おわわわわっ!」

 空飛ぶ二人は、警官達の静止の声を振り切り、降魔の猛襲を幾多の弾丸で振り切る。

(うげぇ……アレやっぱりシャスールさんのせいだったんだ)

 グロテスクに穴だらけになった降魔と、一時間前に見た降魔の死体の類似性を見て思ったアニー。 次に鞄を台無しにされた怒りがふつふつと湧いてくるかと思ったら、目下に地面が急速に近づいてくる。

 降りていくのを察知すると、わわわっと、繋いだ手と、自由な足を回していき、綺麗に靴裏を地面に立たせる。

 そして、すぐ近くに、丸めなものを目に捉える。

「え、これ、りょうしせんとおきって奴ですか?」

「ううん、りょうしかっちゅう。

 霊力があれば動くから」

 アニーより綺麗に着地していたシャスールは、霊子甲冑の上に上がり、そこにある機器を弄ると、霊子甲冑の前面が下に開いていく。

『は!? なにやってんだアイツ!?』

「あの光武F3スペアの燃料は、空穴じゃないのか!?」

 フルールIIIの中のジュスタンと、逃げ遅れの避難誘導をしていたエビヤン警視の動揺をよそに、アニーは冷や汗かきながら。

「……わたしも戦うのって、もしかして……」

「少し念じれば絶対動く」

『目が見えるぐらいだろ、殺す気か!!!』

 爆殺の合間に流れたジュスタンの怒声の次に、アニーは目と手をわたわたと大袈裟に振り回す。

「無理ですよ無理ですよ、喧嘩なんて数えるくらいしかもやったことないし、勝ったことだって、お裁縫対決ぐらいだし!」

「降魔は人が恨めしくて仕方ない」

 冷気を一筋感じたと思ったら、それは狩人の瞳だった。

「あいつらは死んだ自分達に代わって生きてる人達が羨ましくて、妬ましくてしょうがない。 だから殺すの」

 そう冷たく言った女の顔を見て、今更にアニーは気づいた。

(この人……わたしと同じくらいなのに……)

「危なーいっ!」

 横から大きな声がかかり、横を見ると。

 血飛沫が上がった。

 こちらに両手を伸ばした警察官の脇腹が、ごっそりと抉り取られて、真っ赤な肉が剥き出しになっていた。

 抉り取った元凶は、弾丸によって穴だらけの降魔の死骸となっていた。

 アニーの喉から上がるはずだった悲鳴をせき止めたのは、その顔を染める強い恐怖だけではない。

 それより強い驚愕と、こんな風に殺すのかという納得もあった。

『クソッ、よくも!!!』

 義憤の紙々が他の降魔達を爆ぜていく。

 その内一体の尖り歯は、逃げ遅れた子供の近くまで迫り、一足遅かったら咀嚼されて肉塊になっていただろう。

 アニーの目がよく凝らしてみれば、その子は5ユーロのミモザの少年ではないか。

 そして近くには、血に塗れて男が倒れている。

 その服は少年の父が着ていたものと、アニーは思った。

 親子二人の去り際の笑顔が、脳内で反復される。

 さきほどのシャスールの言葉も反復される。

――降魔は人が恨めしくて仕方ない』

――あいつらは死んだ自分達に代わって生きてる人達が羨ましくて、妬ましくてしょうがない

――だから殺すの

 眼前に見えるのは、脇腹を食われた警官の死体。

(それでこんな風に?)

――人の幸せを貪れる?

「……ふざけんな…………ざっけんな!!!」

 

 予備武装の整備などで、喧騒慌ただしいシャノワール工廠。

 アニーの忘れ物が一つ置かれていた。

 旅の直前に、『二度と手放すことなかれ』と村長から託されたケース……お守り籠。

 それがカタカタとひとりでに揺れていくのを、誰も見なかった。

 そうして浮いていくのを不意に整備士の誰かが見た。

 整備士長!と呼ばれてニコラが横目に見たのは、ケースが浮いて旋回していく有様。

「なんだぁありゃあ!?」

 興味から知的好奇心が強く湧き上がり、身体が思考と同等にすぐさまケースに走っていく。

 周囲からの静止の声を振り切り、ニコラの手が小さい竜巻に突っ込むと。

 おわあああああと喘ぐ彼女の全身も竜巻を軸に回転し、

 お守り籠ごと、工廠の壁を突き抜けた。

「エピーヌ整備士長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 モニター上には、まだ戦いも知らない新入隊員が、霊子甲冑の開けた蓋の胴体前面を這い上がり、露出したコクピットに乗り込む。

「新入り!?

 そいつは巴里華撃団の所有物だが、エネルギー切れのポンコツだ!

 動かせるわけねえ!」

 ジュスタンの声を遮らないように、エランからの通信が入る。

『いや、アニーちゃんがII世に舐められたところは首からほっぺだった。

 相当に霊力が高い証拠だよ、でも……』

 ナポレオンII世は霊力の強い人間、特に乙女に靡く。

 本能で舐める箇所は、霊力の強弱によって長く短くなる。

 首から頬は霊子甲冑レベルは、首筋だと霊子戦闘機レベル、指の先だと普通人間レベル、霊力がなければ舐めもしないし、そもそも靡かない。

 旧型である霊子甲冑は、新型である霊子戦闘機よりも搭乗条件の必要霊力量が高い。

「燃料追加できても、素人が上手く動かせるわけがねえ!

 冗談じゃねえやっ」

 一瞬愚痴を放ちながらも、自らの腕を通した機体腕部から紙形爆発物を世を呪う化生に配っていく。

 アニーの乗った霊子甲冑に、降魔が食らいついたのはそのときだった。

 

「ぅわああああああああ!!!」

 アニーを襲うのは死の恐怖。

 どう動かせば良いのかと四苦八苦していたところに、鋭い牙が迫ってきた。

 咄嗟に横に伸びた腕が、コクピットの横穴に通った。

 霊子甲冑の身体が、食らいつく降魔を横回転で押し返す。

「えっ!?」

 胴体前面が自動的に閉まりながら、霊子甲冑がカクカクと動く。

 アニーは自分の腕が入った横穴に気づき、その中で手指を動かし、腕を伸ばすか動かしているのだ。

 転んだ降魔が殺意を以て、胴体に噛み付いてくる。

「うおお!?

 こんのっ!!!」

 光武F3の三本指が降魔の身体を捉える。

「おまわりさんがっ、おどれに食われて!!

 どれだけ痛くて!!」

 怒りで殴りかかっても、拳になってないために三本のマニュピレーターが折れていく。

 そんなとき。

 旋回物体が、飛んできた。

 ニコラを巻き込んだケース。

「お守り籠!?」

 アニーが初めての霊的直感で感じた瞬間、籠はF3の肘に当たって砕け散り、周りに衝撃が走った。

 降魔を転倒し、辛うじて衝突から逃れたニコラは宙を回転し続けている。

 驚くジュスタンが回転少女を保護する中、右腕の三本指の折れかけた一柱が盛り上がって、関節そのものが外れたかと思うと、指より短めの鋭角が飛び出ていた。

 ライフルの銃口に、ナイフが生えるように差し込まれている。

 銃剣だ。

「……これが、お守り籠の中身?」

 仰向けに倒れて呻く降魔。 その首に、銃剣指が突き刺される。

「……村長様……なしてこんなものを私に与えよったか知りません、が……」

 炸裂音。 コクピットにつながる装置によって引き金が引かれ銃剣の刃からの霊力エネルギーが放たれ、化生の身体を破裂させたのだ。

「そこなオバケどもをぶっ殺させていただきます!!!」

 アニー・スリジェの義憤による殺意が、光武F3スペアの全身に込められた。

 ドタドタと大足開いて何度も転びかける危うい走りを見せる霊子甲冑は、爆傷に喘ぐ怪物頭に、銃剣の指を突き立て、そのまま横に払って、頭をかっさばいて返り血を浴びる。

 視界の汚れをものともせず、息絶えた降魔を足場にして飛び上がる。

「死にくされええええええっ」

 五体満足の降魔に銃剣を突き立て……ようとするが、一歩届かず、地面に刺さる。

 抜こうとしても、どうもうまくいかぬまま、二匹の降魔に食らいつかれる。

 二匹から離れようとじたばたとしているF3スペアへ、他の降魔がそこへ群がってくる。

 すると、銃剣の暴発で地面が爆発し、その衝撃にF3スペアと二匹の降魔が飛び上がって離れる。

 仰向けで大地を少し歪ませるF3スペア。

 そこを羽根を羽ばたかせる三匹の降魔が牙を剥き、開けた口に火を溜める。

 その口にハートの12とクラブの8、スペードの10が放られると、降魔達は頭から大爆発を起こし、足までこの世から消え去った。

『やれやれ、お仕事多くて大変なことで』

 霊子甲冑の前に立つのは、両腕にトランプパックを携えた霊子戦闘機フルールIII。

「の……飲んだくれさん?」

『ちょっとは頭冷えた? 素人が無茶してんじゃねーの。

 ここはアレ、幽霊(ファントム)の死に方、殺し方を学んでいくんだな』

 ジュスタンが長々と言ってる合間に、フルールIIIのトランプは、群がってくる降魔達を一部か全身丸ごと抉っていく。

 頭を無くした怨霊は声なき悲鳴を動きで上げると一気に溶解、右半身を残した個体も同様に溶けていく。

 上空から穴だらけになった降魔の群れが落ちていき、いずれも地に到達する前に溶け、消えていく。

 雲を背に異色の翼を羽ばたかせるは、少女狩人(シャスール)

 光武F3スペアの中、アニーの顔色は、悪くなっていた。

(あれが、未練を残してオバケになってしまった人達の、最後……?

 やっつけられたら、溶けていって…………生きてる人を食べたから、自業、自得……?)

 アニーの中の怒りが、妙な申し訳無さに置き換わった。

 ザザザという音に気づかないでいた。

 

 シャノワール工廠では、エクレール発進を促す設備がある。

 そこは霊子戦闘機のアシストをするオペレートルームでもあり、戦闘時メルとシーは優先的にそこでジュスタンの補佐をしている。

『アニーと連絡つかないのかい?』

 司令室からのグラン・マの問いかけに、シーは答える。

「該当する蒸気電子番号ですけど、やっぱりアニーちゃんの霊力でしか動いてないから、通信繋がりません」

 続いてメルも答える。

「大戦以降、整備もなされてなかったスペア機ですからね……。

 あれでは周りの音を拾えてるかどうか」

 司令室のエランも、悪友へ通信をかける。

『そもそも、なんであのスペア機が広場なんかにあったのさ』

『コッタール卿って貴族いるだろ?

 フランスのどっかに埋められてたのをわざわざ掘り返してな、んでもってぶっ壊そうなんてバカをしかけたのさ、この広場でな。

 なに考えてんだか』

 悪友が降魔を爆殺対応しながら長々と説明する中、グラン・マは納得をした。

『なるほど……奴さん、WLOFとどっぷり浸かってたからね。

 WLOF名誉回復から自分の利益につながると勘違いしたんだろう』

『先代巴里華撃団はWLOF華撃団の大先輩。

 それに泥を塗るような真似、許されるわけがない』

 エランの言葉に頷いてると、メルの目と、液晶は大きな霊力反応を捉える。

「大型降魔反応、来ます!」

 

 晴天のある一点だけが暗くなる。

『新入り!

 早く逃げろ、大物出るから』

 旧い霊子甲冑は、霊子戦闘機の音を拾えない。

『デカい降魔出んだよ』

 ジュスタンの言葉と共に、一点から巨体から降り立ってくる。

 霊子甲冑と、それと同身長の霊子戦闘機の三倍は大きい。

 一対の翼を広げ、頭、胸、両腕、両足に西洋鎧を着こなした降魔だ。

 頬を覆う牙の間で口を大きく開けば、口が四つに裂けたように感じる。

 アニーは思った。

 あの大きな口で食べられたら、霊子甲冑も霊子戦闘機も丸ごと食べられるのでは。

 アニーは想像した。 その中での惨劇を。

「マジシヤンさん、逃げて!!」 

 霊子甲冑を通して声は放てない。

『やれやれ、腰抜かしてんのかな……?』

 一気に六枚の紙爆撃を放つ。

 爆煙から姿を現したのは、やや小さなY字ヒビを入れた鎧だった。

「弱点どこかな……おっ」

 フルールIIIが気配に見上げると、マントと鉄の翼を羽ばたかせるシャスール。

「シャスール!

 あっちの新入りの避難を」

 黒い鉄塊から、純粋な霊力の弾丸が乱れ撃たれる。

「シャスール!!」

 麗しき狩人の殺意の理由は、誰も知らない。

 それは彼女の胸中にある。 だから他ならぬ()()()()()()()()()()()()()()

 それに、彼女には確信があった。

「霊力持ちなら、あんな降魔も殺せる」

 だからアニーを助けに行かない。

『さっきまで光武の歩き方知らなかった素人にか?』

 一瞬で重機関銃の引き金が止まる。

『バカみたいに霊力高くたって、ちゃんとした使い道知らなかったら、足手まとい!!

 トーキョーのサクラ・アマミヤが証明してるようなもんだ』

 ジュスタン機、ヒビに向かってトランプパックの一つを射出する。

Feux d'artifice de luxe(フゥ・ダルティフィス・デ・ルゥクス)

 赤白二色の花火(霊子爆発)が、巨大降魔を軽く呑み込んだ。

 爆煙が晴れると、胸の鎧は消し飛び、ダイヤ形の爆傷が生じている。

 巨大降魔は痛みに呻きながら名に進む。

 霊子甲冑のモニターは映した。 悲鳴を上げる大口が、こちらを見下ろすシャスールを捉えんとするところを。

 アニーの中の怒りが、再燃した。

「いー加減に、しろ……!!!」

 降魔の大口から、間一髪且つ余裕で逃れたシャスールは、光武F3スペアの全身に光が滾っていくのを見た。

 いや、その光の中心は、銃剣を生やした右手にあり。

「どれ、だけ……おどれ、らぁぁぁぁ……!!!」

 とっくに錆びていたはずの足裏のホイールが、霊力を纏って回り出す。

「人様恨んで、なにするかああああああ!!!」

 霊子甲冑は危ない音を立てて、大地を滑走する。

 その行く先は、痛みに発狂する巨大降魔。

『アニーちゃん、巨大降魔へ向けて特攻!?』

『なにを無茶な!』

 光武F3スペア、宙へ飛び出す。

 二回り小さな鎧へ、巨大降魔の、大きな掌と鋭い爪が大きく振りかぶる。

 しかし、爆発と弾丸雨が大きな両手を妨げる。

 胸のダイヤ跡に、光武の銃剣指が刺さり込まれる。

 銃に支えられる輝く刃、刺されたダイヤから新たな光が描かれる。 夜の輝くであろうはずの星の花を。

「ぶっちぬけ!!!」

 丸い光が、怪物の胸を、ダイヤごと背中まで抉り取った。

 降魔は後のめりに倒れていき、地に触れた瞬間、溶けて消えた。

 重力に従って落ちていく光武F3スペア。

 それを下から止めて支えたのが、霊子戦闘機フルールIII。

『ったく……見せ場を新人に取られるなんて、我ながらとんだ先輩だ』

 自嘲を言いつつも、ジュスタンの心中はこうだった。

(首からほっぺってところか? マジでとんだ逸材引き当てたもんだ、グラン・マ……。

 ますます俺の出番もなくなるってもんだ)

 光武F3スペアをなんとか地に降ろすフルールIII、しかし瞬間、スペアの右腕が、瓦礫となって分解し、地面に散らばった。

『あらら……うわ?』

 光武F3スペアの前胴も前のめりに外れ、フルールIIIにぶつかる。

 フルールIIIは前胴をどけると、中身のアニーは呆然としていた。

 そこから見える景色は、フルールIIIと夕焼けだった。

 美しかったものの残骸と、溶けていく死骸が夕陽に照らされている。

 アニーの胸中は、不安と恐怖に呑まれている。

「お疲れ」

 体育座りを組んだ直後に、ジュスタンの声がした。

「説明する暇もなかったみたいだが……こういうことが華撃団。

 夜は歌舞で人を癒やし、土地の魔を鎮める。 俺はそこサボってばっかだけど……。

 時を問わず、今みたいなバケモンが都市を襲えば、コイツみたいな人型蒸気に乗って、悪を滅ぼし、この都市と人々を守り抜く……それこそが華撃団の使命ってワケ」

 ぎゅっと、足を抑える力が強くなる。

「出来るんですか、わたしに」

 その言葉に、ジュスタンはなにも返さず。

「怖いんです、さっきやっつけた奴らが。

 カッチューに噛み付かれたたんびに、すごく怖かったです。

 戦って、やっつけて溶かして消すのだって、怖いし……。

 でも、あいつらに噛まれて殺された人達は、わたしより怖い気持ちで死んでいったって思うと……戦ってる最中に、そんな感じに死んだりするのかって思うと……怖くって……」

 腕を生やす両肩から伝播して、全身が震える。

 村から出るんじゃなかった。 都会に来るんじゃなかった。 勝手に動くんじゃなかった。

 そういった後悔で、今すぐにでも逃げ出したかった。

「第一、歌も踊りも好きなだけで、舞台で出来るかどうか……」

「やるんだよ」

 強い女の口調に誘われ、頭が少し上がると、いつの間にか近くにいたグラン・マは厳しい目を向けていた。

「あら、支配人、いつの間に」

「出来るかどうかじゃない、やるんだよ。

 使える力があるのに、出し惜しみしてたら、色々無駄になる。

 今回の場合に出し惜しみしてたら……もっと多くの犠牲が出たよ」

 顔を上げる。

「やる気になったかい?」

 強く頷いた割には、アニーの面持ちはどこか冴えなかった。

 ただ、胸の内には負のものだけではなく、勇気が入っていた。

 巴里華撃団桜組爆誕まで、あと八ヶ月

 

次回予告

「アハハハハハハハハハ!

 アタシは大天災詐欺師ルーシーよ!?

 無霊力者がいくら死のうが構うもんですか!

 全ては、ステファニィのために~♡」

次回、新サクラ大戦2

『災厄を退けるは使命』

愛の御旗のもとに

「わたし、戦います!」

 

 




えー、第一話書き終わりましたこの作品は。
サクラ大戦の現行シリーズ『新サクラ大戦』の、自主制作続編になります。
発売直後に買ってクリアした二年前から迸らせてきた妄想を、ここハーメルンに解放していくわけです。
公式から新生巴里華撃団出される前に、こじらせてきたものを解放していくんです。
まあ当然、私オリジナル中心なんですがね。
太正と同じ世界のパリに私オリジナルをぶち込んでくわけです。
オリキャラって、自己顕示欲みたいで、書いてる私も正直イヤなとこあります。
とはいえ作品作りって、突き詰めたら自己顕示欲ですからね……。
それは置いといて、この新サクラ大戦2と名付けた同人作品で、守りたいものは
『漫画版サクラ大戦リスペクト』
『勧善懲悪』
『男女ハーレム』
『フランス語多様』
アニーちゃんは、外伝除いてサクラ大戦初の女子主人公を意識しています。
でも本家花組みたいに男1:女8な感じでは個人的になんか……こう……勝手に足りない!とか思っちゃいまして
そこだけが個人的ネックなんですね、旧サクラ大戦リスペクトなどと言っておきながら
ですから……これから女も隊員に出します。
誰が隊長か決まってませんが、アニーちゃんが主人公です。
つまりハーレム先です。
男女混合ハーレムなんて、斬新だと思ったまでです。
これから男女がアニーちゃんの元に集っていきます。
愛くるしい女子を取り囲む男女な感じです。

新サクラ大戦もサクラ革命もリスペクトが足りなかった(個人的に憎めないながらも)
もう少し旧ファンを喜ばせていれば、もう少し旧作をリスペクトしていれば、大目的の金もわんさか入ったというのにセガも勿体ないことを
これは私の勝手な願望ですが、香村純子先生が新サクラ大戦に参加してくれれば、売れると思うんです。
政一九先生には参戦の意思はないのが残念でなりません。

ところで、これと同時進行で日本側……本家新サクラ大戦チームの続編もオリキャラ込み旧キャラ込みで行いたいと思ってます。
開始はなかなか遅れると思いますが。

ではでは、これからよろしくお願いします。

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