走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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ついに走れたサイレンススズカ

 

「んぐぐぐぐ」

「お疲れ様で……何してるんですか」

「す、スズカがいつもより強くて……痛いか痛くないかの瀬戸際を攻められてる……」

「聞いても解んなかったわ」

 

 

 ある日。私はスズカからベアハッグを受けていた。ソファに座ったままスズカに抱き付かれ、ぐりぐりと頭を押し付けられている。

 

 

「理由とかあるの?」

「ゆ……夢を見たって……」

「夢?」

 

 

 部屋に来たスカーレットはそのまま飲み物とお菓子を出して、恐らく今日の分だろう復習を始めていた。真面目な子だ。毎日とは言わないけど、多くの日で勉強をしている。

 

 

「わ、私が突然いなくなる夢って……痛い、スズカ!? ち、力抜こっか、もう少しで良いから」

「……思い出させないでください」

「ご、ごめん……」

 

 

 どういう夢だよとは思ったものの、まあ私も天皇賞の時は毎晩のようにスズカが死んだり折れたり私に手を掛けたりしていたし。そういうこともあるんだろう。にしても背骨がギリギリだけど。

 

 というわけで、今日は会った瞬間からスズカが引っ付いてきている。取り立てて仕事は無いから良いんだけど。ゆっくり頭でも撫でながら過ごすことにした。

 

 

「夢ねえ。まあ、時々恐ろしい悪夢を見る時だってあるけど……こんなんなる? 普通」

「なるんだねえこれが。スズカはこう見えてメンタルが脆いかららららららら」

「メンタル脆いウマ娘はトレーナーの骨を折ろうとしないと思うんだけど。あと人前で抱き付いたりもしないわよ」

 

 

 圧力から逃れるために寝転がる。しっかりくっついてきて、そのままのしかかってくるスズカ。よしよしと頭や背中を撫で回し、テーブルのコーヒーに手を伸ばす……と、スカーレットが取ってくれた。

 

 

「ん。溢すわよ」

「ありがと。スカーレット中等部でしょ? 何か解らないことがあったら言ってね。教えられるから」

「……高等部だと教えられないの?」

「……恥ずかしながら」

 

 

 科目によるから。そんな目で見ないで? 頭が良いとは言わないけどバカ扱いはちょっと嫌だ。私はほら、大学期間はほとんど勉強せずにトレーナー資格を取るのに本気出してたから……決してサボってたんじゃなくてね? 

 

 

「トレーナーさーん……」

「どしたの」

「走りに行きたいですー……」

「困った子ね」

 

 

 走りに行くも何も走れないでしょ。本当にゆっくりジョギングで済むなら良いけど……こればっかりはいくら考えてもどうするべきか解りかねている。

 

 スズカが走りたい欲に負けて本気を出してしまう、というのが基本的な考え方として、一方で、流石のスズカもお医者さんに「また折れるぞ」と止められれば自分を抑えることができるのではないか、というところ。マジで解らない。

 

 

 いや、普通に考えれば後者なんだよ。絶対に。でも今のスズカは都合三か月くらい全く走れていない。三か月分のフラストレーションをスズカが抑えられるのか……それだけが不安だ。

 

 

「ちょっとだけでも良いですから、ね? ね?」

「うーん……」

 

 

 顔を埋めながら、うあー、と呻くスズカ。どうするか……怖いなあ。

 

 

「少しくらいなら走らせてあげたら? スズカ先輩だって参っちゃうじゃない」

「スカーレットは知らないから言えるのよ。スズカを走らせるというのがどういうことか」

「ウマ娘が走ることに何の問題があんのよ」

「そうですよトレーナーさーん……私、ウマ娘です……」

 

 

 うーんスズカが援護を受けてしまった。どうすれば良いんだこれ。まあ、スズカの良心と理性に期待して、ちょっと走らせるくらいは……まあ、これまで頑張ったんだし、少しくらい息抜きをするのは良いことかもしれない。

 

 それに、今日はメンタルが崩れていそうだし、頑張って我慢させるというのは酷かな。

 

 

「じゃあスズ」

「走って良いんですか!?」

「遮られたからダメ」

「そんなぁー……」

 

 

 冗談冗談、とウマ耳を揉み解す。尻尾が、尻尾がムチみたいに私を叩いてきてるのよ。痛い痛い。

 

 

「ちゃんと速度を出さないって守れる?」

「…………もちろん」

「何、今の間は」

「……45kmですよね?」

「25kmよ」

「何言ってるんですか、先輩」

 

 

 課題をやりながらくすくすと笑うスカーレット。まだ冗談だと思ってるな。まあそう思っていてほしい。すぐに覆るんだから。

 

 

 抱き着いたところから顔を上げ、ふんすふんすちゃんとできます、とでも言いたげなスズカ。まあ、まあ……ちゃんと言っておけばいいか。

 

 

「言っておくけどスズカ。お医者さんは『再発するかもしれない』から速度制限を付けたのよ。それを破るとどうなるかスズカでも解るわよね」

「……解ります」

「走っても良いけど超えたらダメよ」

「……頑張ります、けど」

 

 

 ウマ耳がへたれてしまった。自分で言っていても自信が無くなっちゃったか。じゃあやめなきゃなんて思っているわけじゃないだろうね。絶対に、何と言えば走らせてもらえるかを必死に考えてる。

 

 

「……でも走らないと死んでしまいます。もう我慢しなくて良いですよね?」

 

 

 考えた末強引に押し切ろうとしてくるのか……

 

 

「じゃあ解った。走ってきて良いよ」

「本当ですか!?」

「うん。でもどうせスピード出しすぎちゃうから、ブルボンとスカーレットが一緒に走るなら許可しようかな」

「……まあ、走れるならそれでも良いです。スカーレットさん、良いですよね?」

「え? でも私まだ予習が」

「良いですよね?」

「でも」

「良いですよね?」

「はいって言わなきゃ進めないRPGみたいな感じですか?」

 

 

 こら、と頭を小突く。流石に後輩の勉強の邪魔はしちゃいけない。それにブルボンもまだ来ていない。走るのは夜と決めて、既に結構立ち直ってそうなスズカと過ごした。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「はい、じゃあ」

「待って」

「……どしたの」

「どしたの、じゃないんだけど。何それ」

 

 

 その夜。約束通りブルボンとスカーレットを連れて、私達はトレセンのランニングコースに出ていた。人気もほとんど無いし、何があっても騒ぎにはならないと思う。ちなみにブルボンは二つ返事で引き受けてくれた。

 

 

 そして、どうすればスズカがスピードを出しすぎないか、私考えました。そして出た結論がこちら。

 

 

「何ってロープだけど」

「……それをどうするのよ」

「スズカに結ぶ」

 

 

 うきうきでストレッチ中のスズカ、指示なので特に何も考えることなく突っ立っているブルボン、自分を抱いてすっと距離を取るスカーレット。私が持っているロープを見て引いている。

 

 

「アンタ……やたらスズカ先輩と距離が近いと思ってたらそういう……?」

「違う違う。マジで違う。ほんとに。彼氏もいたことあるしノーマルなお付き合いしてたから。それにロープはブルボンとスカーレットにも結ぶし」

「ごめん、アタシそういうのは……ひ、否定はしないけどアタシは違うし……」

「だから違うんだって。スズカも何か言って? 今私達あらぬ誤解を受けてるわよ」

「あぁー……」

 

 

 くそっ聞いちゃいない。ブルボンに前屈を手伝われながらぺたんと地面についている。ほんとこの子身体柔らかいわね。

 

 

「ハーネスにしようと思ったけど三人分無かったのよ。スズカの分しか無くて」

「何言ってんの?」

「私とスズカを繋ぐとそのまま引きずられちゃう可能性もあるし」

「何言ってんの??」

「三人を縛って繋げばスズカが暴走しても止められるでしょ」

「だから何言ってんの???」

 

 

 まだよく解っていないスカーレット。でもまあこうして素直についてきてくれているんだし、説明も長くなるとスズカが我慢できなくなっちゃうからやめておこう。ジャージとシューズを着けて、もうスズカは今にも走り出したくてやっとのことでブルボンが羽交い締めにしている段階だから。

 

 

「ブルボンは時速25kmと言ったら倒れるまで時速25kmぴったりで走れるから、これでスピードを縛って、ブルボンだけだと仮に暴走した時困るからスカーレットと二人がかりで止めてもらおうかなって」

「アンタの中のスズカ先輩は何なの? 暴走モンスターか何か?」

「言い得て妙かも。はーいスズカー、ブルボーン。ロープ縛るからこっち来てー」

「行きましょうスズカさん」

「は、早く、早くしてください、私もう……あぁっ……」

「今この空間でマトモなのって私だけ?」

 

 

 二人の胴をロープで繋ぐ。スカーレットも何だかんだやってくれた。これでたぶん大丈夫だろう。しばらくのためにハーネスを買っておこうかな。とにかく三人を縛って繋げたので、これで準備が整ったことになる。

 

 

「じゃあブルボン。目標速度は時速24.5kmね」

「了解しました。しかしマスター」

「ん?」

「継続して長時間走ることへの影響は無いのですか」

 

 

 それは聞いてある。あくまでも一時的に衝撃や負荷をかけなければ良いわけで、軽めを長くやる分には問題ないらしい。スズカのことも考えおかしな仮定もぶつけたがそれでも平気とのことなので問題無い。心配してくれたブルボンはなるほど、と一言返して戻っていった。

 

 

「じゃあスズカ、後ろの二人が倒れる前にやめるのよ。良い?」

「二人とも、よろしくお願いしますねっ」

「は、はあ……」

 

 

 そして、スズカの三ヶ月ぶりのランニングが始まった。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 四時間で終わった。後ろの二人が倒れる前にちゃんと切り上げ、スズカは止まった。まあその、結構ギリギリっぽいけど。ブルボンはともかくスカーレットがヤバい。

 

 

「お疲れ。大丈夫、スカーレット」

「っはー……ぃ、ひ……はぁっ……お、おかしいんじゃないの……いくら何でも……ぶっ続けでこんな……」

「ごめんね。はい酸素。ゆっくり吸って。落ち着いてー」

 

 

 何となく理由は解る。私が見ても解るくらい、スズカは精彩を欠いていた。普段より圧倒的にスローペースなランニングに満足できない心と、でも走れるから楽しい気持ちがぶつかった末四時間で折り合いがついたんだろう。

 

 

「ブルボンは大丈夫?」

「残存体力イエロー。思考、心身ともに余力があります」

「流石ね。で、スズカ?」

「はーい……」

 

 

 ロープを解きスズカを呼ぶ。一応大分不満も解消されたのか、そこそこ落ち着いていた。まあまだちょっと目付きが鋭いけど。

 

 

「はいスズカ」

「ふにゃっ」

「ん。二人にお礼言って今日はおしまい。時間が時間だからみんな巻き込まれてお泊まりなんだからね」

「はい……ありがとう、二人とも。助かったわ。本当にギリギリで……」

 

 

 怖い言い方。ロープを始末していたので三人の会話はあんまり聞いていなかったけど、終始スカーレットが困惑していたのは解る。新鮮だなあ、スズカのおかしさに困惑する子。

 

 

「これでもう少し我慢できるわね」

「……」

「ええ……?」

 

 

 やはりできない約束はしないらしい。それは我慢してよ。困るじゃん。

 

 黙ってしまったスズカや他二人を連れて、私は部屋に戻ることになった。流石に私がソファで寝るべきかなこれは……人目を避ける目的とはいえ、門限に間に合う時間にするべきだったか。

 

 

 ……まあスズカが楽しそうだし良いか。




みなさんのご愛顧のおかげで、この小説も100話を迎えることができました。ありがとうございます。

色んな理由で更新が遅いこともございますが、これからも変わらず読んで頂けると幸いです。高評価、コメント、お気に入りなどもよろしくお願いします。また、既にしてくださっている大勢の方、ありがとうございます。

まだまだ本作は完結しませんがキリの良い話数ということで、改めて色々とお伝えしておきます。

こんな話が見たい、なども変わらず一部受け付けておりますが、加えて、読みにくい点や改善すべき点など、運対に掛からない範囲で教えていただければ検討させていただきます。今のところ、レースを行う会はサブタイトルに少し追記を行おうかと思っておりますので、良ければ是非もご意見ください。もちろん、感想と併記していただけると嬉しいです。


長くなりましたが、これからもよろしくお願いいたします。
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