走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「え? 一緒にお風呂入るの?」
「入る……入るねえ」
スズカのランニングを終え、ご飯を食べて家に帰って。満腹と疲れで半分寝そうになっていたぽんこつロボットをさっさとお風呂に入れて待っている間、リビングで話しているとスカーレットがそんなことを聞いてきた。
「倫理観とか無いの、トレーナーって」
「人並みにはあるって」
「普通のトレーナーは担当とお風呂なんて入らないっての」
「トレーナーに男の人の方が多いってだけでしょ。同性ならそんなものだって」
スズカを膝に乗せて脚のマッサージをしつつ、ええ、と引きつつあるスカーレットに言い返す。別に私だって下心があるわけじゃないし、そもそも毎日入っているわけじゃないし。骨折してからは毎日だけど、それ以外は三回に一回くらいだ。
「トレーナーさん、結構洗うの上手ですし……温まっていれば全部やってくれるので便利で良いですよ」
「貴族と赤ちゃんしか許されない言い方なんですよね」
「ばぶばぶ」
「ふざけてます?」
ふざけてませんよ、と笑うスズカ。膝を曲げたり揺らしたり、うーん流石に消耗が少ない。ブルボンがアレくらいで怪我をするわけはないと思ってるけど、後でスカーレットにもやっておこうか。
スズカを起こし、ウマッターを始めるのを隣で眺める。最近はより一層フォロワーも増えて、反応も難しくなってきている。ファンサの一環として何となく目についたものには返してみたら? と言ったら、「どうして走るのが好きなんですか?」に対して一晩中悩んでいた。そういうのは良いから。
「やめろとは言わないけどおかしいのは知っておいた方が良いわよ」
「実はみんなやってるかもよ? 女性トレーナーと担当ウマ娘でお風呂くらい」
「もしかして実例があるの? それなら」
「無いけど」
「舐めてんの?」
家にあったお菓子を口に運びつつ、笑顔で青筋を浮かべるスカーレット。怖い。でも、実際どうなんだろう。まあ私とスズカが普通じゃないのは重々承知の上なんだけど、如何せん私にも同性の仕事仲間なんていないし、案外お風呂くらい普通である可能性もあるわけだ。
「いや無いでしょ。トレーナーと担当だし、成人と学生よ」
「……そう聞くといきなり犯罪みたいに聞こえるわね」
「訴えられたら負けるんじゃない?」
「……スズカはそんなことしないし……」
「声震えてるわよ」
でも一応スズカにはこういうことはあんまり言わないように言っておこう。私と何かした系のエピソードトーク禁止で。スズカは好いていないからテレビなんかへの露出は少ないけど、もしあったとしてもね。
『スズカさんおはようございます!』と言うファンに『おはよう』と夜に返すスズカを横で見ながら、気を取り直して私もお菓子を食べる。
「スズカ先輩は何も思わないんですか?」
「思うって、何に?」
「いや……トレーナーとの距離感とか」
「うーん……あんまり。走らせてくれない以外不満は無いかな。お風呂もまあ、別に」
それはもう今のこの感じからすれば今さらだし。久しぶりに走ったわけだし丁寧にストレッチを施す。うつ伏せのスズカに跨がって腕をとる。本当に柔らかいわねスズカは。
「あー……むぐぐ」
「柔らか……やっぱり柔軟性はあった方が良いの?」
「もちろん。まあそれによって悪い影響も無いわけじゃないけど、あった方が良いのは確かだと思うわ。スズカのレースを見たことはある?」
「まあ、何回か。距離適性も似てそうだったし、私も前めで走る方が得意だから」
「みたいね。まあスズカに2500……長距離は長いんだけど」
適性だけを見るならスカーレットはスズカやブルボンの完全上位互換でしかない。二人は逃げしかできないし、スズカは長距離はボロボロ、ブルボンもメインはあくまで中距離である。先行策もとれるし長距離も走れるスズカと言ったところか。
「スズカのあのスパートは柔らかくないとできないと思う。そもそもあんな速さでスパートに入れるのがスズカの強いところだけど」
「……本当にそうよね。意味解らないもん。あれで脚を溜めたらどうなるのかってくらい驚いたわ」
「無理。二人とも全く向いてないわ。先行すらできないかな」
「練習してないからってこと?」
「ううん。気性とか性格の話」
あとは頭の良さね。失礼な話だけど、レース勘みたいなものがよろしくないから。自分が先頭でないと気が済まないスズカと、決められたことをなぞることしかできないブルボン。位置取りやバ群突破、脚を溜めるというのがド下手だから。
「お待たせしました、マスター。入浴と就寝準備を終えました」
「ん。先に寝てて良いわよ。お休みブルボン」
「お休みなさーい……いたたた、トレーナーさん痛い痛い」
「お休みなさい! お疲れさまでした!」
ブルボンがお風呂から出てきた。ホカホカノブルボンを先に寝かせて、色々言われたものの私はスズカと一緒にお風呂に入る。と言うか話を聞いていたはずのスズカも何も言わずについてきた。
「結局入るんだ……」
「スカーレットさんも入る? お風呂広いし、入れるわよ」
「いや、私はいいです」
「放っておけばトレーナーさんが洗ってくれるし」
「恥ずかしいことこの上無いですよね?」
スズカは私のこと何だと思ってるの?
「レースの話とかする?」
「急に魅力的!」
三人で入った。
────
「いや私がソファで寝るって」
「アタシが寝るって言ってるでしょ? 良いからベッド行きなさいよ」
入浴後。ついスズカのレースについて語ってしまいのぼせ気味で出て、特にすることもなく寝ることにした。もちろん三人をベッドで寝かせ、四人では狭いので私がソファに行こうとしたらこれである。
スカーレットが良い子なのは解るんだけど、どうもね。お風呂に入るときはあれほど歳がどうという話をしていたのに、こういうのは引かないんだ、って感じ。
「まだ寒いし体がバキバキになるから。明日のトレーニングに差し支えるわ」
「大丈夫よ。アタシも結構机で寝ちゃったりするし。それにトレーナーこそ体を痛めたら大変じゃない。若くないんだから」
「歳の話はしないで」
「ふふ」
何笑ってんのスズカ。こっちは真剣なんだからね。
しかし困った。引いてくれないし、じゃあと私が寝るわけにもいかない。トレーナーだし、家に連れ込んだ以上保護者でもあるし。そうでなくても客人をそんな扱いは不味い。
髪を結ってナイトキャップまで着けたスカーレットに、どう言えば引き下がってくれるか考えていると、スカーレットの後ろでもぞもぞと動く影。先にベッドに入っていたスズカが手を伸ばし、スカーレットの腕を掴んだ。
「えいっ」
「ひゃっ!?」
「トレーナーさんも来てください。喧嘩しちゃダメですよ」
「喧嘩じゃないけど……うわっ」
近付くとスズカに掴まれる。二人揃ってベッドに引きずり込まれ、四人で川の字にされてしまった。私はともかくスカーレットすら抵抗を許さないパワーは流石の一言。スピード特化とはいえ根本の能力が高い。
いくら何でも四人は狭い。限りなく密着してしまっている。端っこで微動だにせず眠っているブルボンを起こすわけにはいかないので派手にずらすわけにもいかず、結果としてもはや三人で抱き合うレベルになってしまった。ブルボン、スズカ、スカーレット、私で。
「……これはおかしいでしょ流石に」
「私もそう思う」
「温かくて良いじゃないですか。揉めるより平和です」
「身動きすらできないんですけど!?」
「私はトレーナーさんと一緒に寝たいけど、トレーナーさんは譲りたくなさそうだったし……良いでしょ? だめ?」
「ぐ……」
よく見えないけど、またスズカが可愛く頼んでいるってことは解った。顔が良いので本当に卑怯だ。スカーレットが数秒黙った後、陥落して諦めてしまった。
「はあ……まあ、良いですもう。眠いし」
「良かった。大丈夫よ、私もトレーナーさんも寝相は良いし、ブルボンさんなんか見ての通りですから」
「……そういえばこんな騒いでるのによく起きませんね」
「絶対起きないわ。でも、き……起こす言葉を言うと即起きるから」
「矛盾してません?」
またブルボンに余裕がある時試してみようね。再起動し過ぎると壊れちゃうけど。今日は疲れてる……疲れてるのにこんなじっと眠れるブルボンもなかなかよね。
「狭いなら私が出るけど」
「だからアタシが……」
「ダメですよ。もう寝ましょう。眠いので」
「……まあ、良いですけど」
スカーレットが諦めたので、私も諦めて眠ることにする。私達三人は仰向けやうつ伏せでは到底スペースが足りないので、まあ横向きになってしまう。スカーレットの頭を眺めて目を閉じた。
…………。
「……あの、最後に良いかしら」
スズカの囁き声がする。
「どうしたんですか?」
「……場所変えても良い?」
「え、体勢的に無理ありません?」
「いや、トレーナーさんの横が良いから……よいしょ」
ベッドが軋み、スカーレットを乗り越える形でスズカが割り込んでくる。半分私に乗っかるようにして降りてきた。スペースを空けてあげ危ねえ落ちる落ちる。寄れなかった。
「ふぅ……この方が落ち着きますね」
「……それはそうね」
スズカの匂いがする。まああまりにもスカーレットの肩身が狭すぎるけど、それはその、まあその、た、耐えてもらって……? これは仕方無いことだから。抱き枕みたいなものだし。
「……アタシの後ろで変なことしないでね」
「しないよ!?」
「ぁ、み、みみ……みみが……」
────
翌朝。
「おはよう……あれ、トレーナーだけ?」
「おはようスカーレット。二人はあと十分くらいかな。時間通りに起きるタイプだから」
「ふーん……何作ってるの?」
「お味噌汁」
三人より少し早く起きて朝食を作っていると、スカーレットだけが起きてきた。スズカとブルボンより早起きとはやるわね。
基本的に自分用のお味噌汁に近寄ってきたスカーレットがすんすんと鼻を鳴らす。軽快な音楽とともにご飯が炊けた。手伝おうか、と言うスカーレットにお願いして食器を出してもらう。
「スカーレットは朝はご飯? パン? 食パンはそこにあるから焼くけど」
「あんまりこだわりは無いわね。みんながご飯ならそれで合わせるわ。お茶碗はこれ?」
「うん。箸は気になるなら割り箸もあるし、じゃなければ好きなの使って。あ、お味噌汁味見する?」
手際良いなあスカーレット。配置を知っているスズカやブルボンと並ぶくらい早い。こういうお手伝いとか、何なら自分で料理もするんだろう。せっかくだから、と言うスカーレットのお椀に少し注いで渡す。
「……美味しい」
「良かった」
私とスズカの味付けで美味しいなら何よりだ。スズカは味なんか半分気にしていないようなものだけどね。そういう意味ではブルボンもか。初めてまともに味の評価ができる子じゃない? もしかして。
二人は起こせばすぐ起きるので、ご飯と味噌汁をよそうのはスカーレットに任せて一応起こしに行く。しゃもじを渡してお願いね、とエプロンを外していると、ぼそっとスカーレットが言った。
「……私はしばらくあんまり泊まりに来ないようにするわ」
「どうして?」
「……朝御飯の匂いで起きるの、ホームシックになりそう」
「あら」
可愛いところあるじゃない、と言った私に、スカーレットは顔を真っ赤にして騒いだ。