走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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お菓子を手作りするサイレンススズカ

 二月十三日、記録者、ミホノブルボン。

 

 

 本日はスズカさんのご要望により、チーム・エルナトのメンバーで家庭科室に訪れています。明日に迫ったバレンタイン・デーに備え、チョコレートの作成を行います。

 

 

「去年はどんな感じだったんですか?」

 

 

 材料調達は三人で行い、その際『お揃い』のエプロンも購入しました。同一デザインで、緑色、桃色、赤色のものです。紐を結びながら、スカーレットが問います。

 

 

「ちょっと忘れちゃってて」

「あんな距離感でバレンタインを忘れることあります?」

「トレセンのみんなにはあげたのよ。でもトレーナーさんの分を忘れちゃって。今年は思い出せてよかったわ」

「それなら良かったです。もしかして余計なことを言ったんじゃないかと思ってました」

 

 

 エプロンを装着。気分の高揚を感知。衣服を揃えるのは良好な関係性を示す行為として有効です。友人とのコミュニケーションにおいて非常に親密になったという証だと考えられます。お二人は厳密には友人ではありませんが、限りなく類似しているでしょう。

 

 

「うん。助かってるわ。また忘れるところだった……危ない危ない」

 

 

 今回の会合は、スカーレットさんの「そういえばバレンタインとか誰かにあげるんですか?」という発言をきっかけに行われています。雑談の一環としてされた発言にスズカさんは大いに驚き、はっとして計画を立てていました。

 

 私も、友人達へチョコレートを贈るため、そして、他ならぬスズカさんに手伝うことをリクエストされたため参加。スカーレットさんもせっかくなのでと来ています。昨年は入学直後で私も毎日トレーニングに明け暮れていたのでできませんでしたが、どうやら『友チョコ』というものがあるそうです。

 

 

「じゃあやりましょうか。ブルボンさん、お願いね」

「はい。ではまず、全行程の説明から始めます」

 

 

 材料調達の前から、スズカさんよりレシピ役を仰せつかっています。バレンタイン前日で、トレセンの二つある家庭科室はどちらも予約が連続しています。何とか予約は取れたものの、調理工程を考えればほとんど余裕がありません。レシピの確認、再認識を行うよりも、全て暗記したのち指示をした方が効率的です。

 

 

「ではその通りに。何か質問はありますか」

「全部レシピ暗記してるんですか?」

「はい。先ほど全てインプットしました。短期記憶ですが問題ありません」

 

 

 普段であれば準備、片付けまで時間をかければ私一人でも調理は十分可能です。ですが、今回はいかにそれぞれ効率よく調理を進めるかが重要になりますので、全て行動を制御します。お二人に伝えるべきことは全て伝え、調理を開始します。

 

 

「凄いですよね……記憶力」

「ですね。ブルボンさん、頭が良いから」

「インプットのみです。情報処理や思考能力は劣ります」

 

 

 チョコレートを削ります。下処理を進めるお二人に褒められました。情報のインプットは得意分野です。スズカさんとの神経衰弱など記憶力を問う勝負では一度も負けたことはありませんし、それはお父さんとも同様です。

 

 

「テストも点数とか取れるんですか?」

「はい。稀に思考力を問う問題で減点されることはありますが、概ね満点です」

「すっご……す、スズカさんは?」

「私は普通よ。八十点くらい」

「ですよね? あ、焦った……トップウマ娘ってみんなこんな感じなのかと……いやでも、ブルボン先輩みたいな人がいるかもしれないし、やっぱりもっと頑張って満点前提で動いたほうが……いやでも、どの時間で……? というかスズカさんは高等部だし、八十点ってかなり凄いんじゃ……」

「エアグルーヴでも満点はそう取らないから大丈夫よ。フクキタルなんて赤点ばかりだし」

 

 

 会話ログローディング。スカーレットさんはチーム加入時も一番になりたい、と話していました。勉学においても同様の行動目標を持っているということでしょうか。

 

 

「トレセンの定期テストは教科書に載っていない知識を問われることはありませんので、授業中及び教科書の内容をインプットすれば満点が取れます。インプットのサポートくらいなら可能です」

「え……い、良いんですか?」

「はい。後輩ですから」

 

 

 お願いします、と卵を泡立てるスカーレットさんに言われてしまいました。ステータス『高揚』を再び感知。先輩として、後輩のために行動するのは当然です。私はスズカさんのように身をもって目標を示し続けることはできませんから、直接の行動が必要でしょう。

 

 

「と言うか教科書の内容全部覚えてるんですか?」

「はい。小学校まではお父さんの指示のもと身体能力向上に注力していましたが、お母さんがある程度の成績でなければトレーニングの続行は認めないと言いましたので」

「へー……小さい頃はお父さんに鍛えてもらってたんですね」

「はい。勉学を軽視しないよう、お母さんがお父さんを殴打しました」

「反応しづらいエピソード挟むのやめてもらって良いですか!?」

 

 

 チョコチップ・クッキー用のチョコレートの加工完了。スズカさんに生地を作ってもらいます。調べたレシピにより、クッキーのみ一時間の冷却時間が必要と解っています。これは私とスズカさんが配布するものですので任せて、私はチョコレートケーキ用のチョコレート加工に移ります。

 

 

「お父さんも反省していますので問題ありません」

「いや、そういう問題……まあ、別に良いんですけど……す、スズカさんはどうですか? 何か勉強のコツとかあったりしたら是非教えてください」

「え……私はあんまり……復習はしてるけど、そんなに考えてやってないし……」

「それでそんなに取れるんですか!?」

「ブルボンさんも言ってたけど、変な問題は出ないから。躍起になって勉強しなくてもそこそこの点数は取れるわ」

 

 

 スズカさんが勉強しているところを見ることは非常に少ないですが、スズカさん本人が言うのなら間違いないでしょう。どちらにせよトレセンでは特殊な学習が必要になるテストはあまり行われません。文武両道は重要なスローガンですが、それではどうもならない方がいますので。友人であるバクシンオーさんであるとか。

 

 

「それに、成績が落ちたらそれを理由にトレーナーさんが走らせてくれなくなる可能性もあるし」

「あー……それは重要ですね。私も頑張らないと……一番……」

 

 

 お二人の認識に齟齬が発生している気もしますが放置します。

 

 

 クッキーの生地が完了し、生地をスカーレットさんに形成していただきます。その間にチョコレートケーキ作製に回ります。

 

 

「三月にはテストもあるし、学年一位……!」

「頑張ってね。応援してるわ」

「ありがとうございます……」

「スカーレットさん。ブランデーはごく少量です。注意してください」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「トレーナーさーん」

「どしたの……うわっびっくりした」

 

 

 ある日。トレーナー室で色々と作業をしていると、スズカ達がやって来た。用事があるからとトレーニングを休みにしていたはずだけど……って、しらばっくれてもしょうがないか。バレンタインね。程よく甘い匂いがする。それぞれが持つ三枚のプレートと、その上に載ったお菓子。ケーキと、クッキーとチョコかな。食べてみないと解らないけど、流石はブルボンが参加しているだけのことはある。見た目はとても良い。

 

 

「家庭科室の時間がちょっと危ないのでここで仕上げとかラッピングしても良いですか?」

「良いよ。好きにやりな」

 

 

 三人の手が埋まっているので、急いでテーブルを片付ける。女の子らしいことしちゃってまた。三人お揃いのエプロンがとても可愛い。ブルボンのクッキー、スズカのケーキ、スカーレットのチョコが置かれ、出ていく。調理器具を持って戻ってきて、黙々と作業を始めた。

 

 

「スカーレットはチョコ? やたら多いけど」

「まあね。友達と、先生方と、後色々。いくつ必要になるか解らないし、量が少ないと手抜きしたと思われるでしょ」

「先生方にもあげるの? かっこいい人でもいるの?」

「関わった先生みんなよ」

 

 

 ええ……律儀にも程があるでしょ。なかなかしないわよそんなの。人気の男の先生にあげるとかは競ってやった覚えがあるけど。かなり多めのチョコレートを手際よくラッピングしていくスカーレットが、こちらを見ずに返してくる。

 

 

「少しでも印象を良くしておくのが大事なのよ。成績にも繋がるし、心証が良いことで損はしないわ」

「猫被りにストイック過ぎない?」

「全ては一番になるためよ」

 

 

 一番とは。狙ってる一番が広すぎる。そりゃまあ、普段から優等生のスカーレットがお礼って言ってバレンタインを持ってきて悪い気はしないだろうけど。本気だなあこの子も……

 

 

「ブルボンはクッキー?」

「はい。スズカさんと共同製作という形です。友人と、お父さんにも毎年渡しています」

「一個貰って良い?」

「後ほどマスターにも差し上げますので、めっ、です」

 

 

 微笑んで止めるブルボン。スカーレットよりさらにラッピングが速い。機械梱包かな? スカーレットも速いけどレベルが違いすぎる。次々に積み上がっていくプレゼントクッキーを見て、ちょっと引いた。

 

 

「友達と交換とか楽しみね」

「はい」

 

 

 はっきりと返事をしたブルボンは本当に楽しそうだ。尻尾を振って口角が上がっている。友達いっぱいできて良かったね。マスターも嬉しく思っています。

 

 

「で、スズカはケーキと」

「はい。トレーナーさん、甘いのそこまで好きじゃないですよね? 甘さ控えめです」

「え? あ、うん。もしかしてそれ私の?」

「エルナトのみんなで食べようと思って。もちろん、トレーナーさんにも」

「わあ……ありがとうスズカ……」

 

 

 クリームを塗ってスポンジで挟む。嬉しい限りだ。去年は貰えなかったし、スズカはそういうのに興味が無いものかと思っていた。この状況で走りに行って良いよって言ったらケーキほっぽり投げて走りに行くのかな。わくわくしたけどなんかどう転んでも損しかなさそうなので止めておこう。

 

 表面にもクリームを塗って、まんべんなく白くしたら削った……チョコレートかな、チョコレートをまぶす。シンプルで良い。めちゃくちゃ豪華にトッピングしたものをスズカが出して来てもそれはそれで嬉しいけど、この方がらしいというか。

 

 

「できました」

「おー」

「切り分けますね」

 

 

 まずは私の分をショートケーキサイズに、そして残りを三等分に。嬉しい人間サイズを受け取りお礼を言うと、スズカは口元に手を当てて照れたように笑った。くすりと微笑んで、フォークを差し出す。

 

 

「ハッピーバレンタイン、トレーナーさん」

「ありがとうスズカ。とても嬉しいわ」

「片付けとかあるので、先に食べていてください。ブルボンさんもスカーレットさんももう終わりそうですし」

「はい。推定残り時間、一分と三十秒ほどです」

「はっや……あ、あと一分で終わらせます! あと残ってるのウオッカとパパなんで!」

 

 

 どんなところで対抗してるのよ、とおかしくて笑った。みんなで食べたケーキはとても美味しかった。ホワイトデー、考えておかないとね。




可愛いしかない……なくない?やっぱエルナトってチーム『かわいい』だったんだなって。
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