走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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一週間で取り上げられるサイレンススズカ

 

「じゃあトレーナーさん、行ってきますね」

「待った」

「……? なんですか? 何かありました?」

 

 

 ある日。いつも通り走りに行こうとするスズカを、私は止めていた。

 

 そう、『いつも通り』走りに行こうとするスズカを。

 

 

「まあ座りなさい」

「でも走りに行くのに座っちゃダメですよね?」

「良いから」

「……もう」

 

 

 ぴっと私の向かいを指さしたのに、私の隣に座ってくるスズカ。そんなスズカの頭を抱えて膝に抱えてから、私は逃げられないようにスズカのウマ耳をぴこぴこと動かしつつ問いかける。優しくね。

 

 

「昨日のスズカは何をしていましたか」

「走りました」

「一昨日は」

「走ってました」

「一昨昨日は」

「走ってます」

 

 

 膝枕にあおむけになって、ウマ耳を弄る私の手を擽るスズカ。そう。なんとこの子は怪我が治ってから今まで毎日のように走っている。それも、私と出会った当初のようにトレーニングそっちのけで。

 

 

「走り過ぎです」

「……! 待ってください、放し……あっあっあっ耳、耳がっ」

「走り過ぎだねえ!」

「ぅあ……みみが……こわれる……」

 

 

 控えめに大声でスズカに言いつける。もちろん、スズカのトレーニングなんて今やあってないようなものではある。そもそもの話走る……脚を使うようなトレーニングは大抵はスピードを鍛えるためにやるものであって、スズカはその段階にはいない。

 

 ただし、それとスズカが走っても良いかは別問題だ。常軌を逸した速度で常軌を逸した距離を走るスズカは、ある程度制御しなければどうなるか解らない。普通に脚が心配だし、走ることへの執念が強さの秘訣なのだ。そんなもの無くてもたぶん勝つけど。

 

 

「もう一週間になるわね」

「待ってください、こういう考え方はできませんか? まだ一週間です」

「もう一週間だけど」

「あれ、あれ……トレーナーさんが頑固……」

 

 

 ぱたぱた脚を動かして逃げようとするスズカ。流石にウマ耳を掴まれている状態からはなかなか抜けられないものの、それでも私の体ごとドアの方へ逃げ出そうとしている。流石のパワー。しっかり肘と腿でスズカを挟んで抵抗しながらしっかりと語り掛ける。

 

 

「聞いてスズカ。もう良いでしょう。一週間スズカは自由に走りましたね」

「や、やです」

「これからは扱いを元に戻します」

「やぁー……」

 

 

 呻いて、私のお腹を顔面で押し込むスズカ。痛い痛い。

 

 

「ふぁふぁふぁ」

「聞こえないって」

「トレーナーさんは意地悪です。また私から奪っていくつもりですね。悲しいです……」

「話を重くしようとしても無駄だからね。ダメったらダメ」

「ぅぁぁ」

 

 

 私の腰に手を回し、んん、と体を揺さぶるスズカ。ソファから脚を降ろしてずるずる滑り落ちていこうとするスズカの脇を支えて起こすと、わー、と口を開けて歯を見せつけ威嚇してきた。動物かおのれは。

 

 

「がっかりですよがっかり。トレーナーさんはこんなもので私が満足していると思ってるんですか?」

「いくら走っても満足しないでしょ。私がスズカのことを知らないと思って?」

「……んもう」

 

 

 うわっすがって登って来た。

 

 

「調子の良いことを言えば良いと思ってますよね」

「そんなこと無いって。私は本気でスズカはいつまでも満足しないヤバい奴だって思ってるから」

「それはそれで嫌ですね……」

 

 

 ずずず、と滑り落ちて膝にうつ伏せになるスズカ。上から背中を押さえつけると大分大人しくなり、うぐぐ、と呻きながら観念したのか動きを止めた。

 

 

「せめて最後に一回だけ走らせてください……今日だけ、明日から頑張りますから……」

 

 

 依存症の言い訳なのよ。

 

 

「ダメ。明日も同じこと言うでしょ」

「……言いませんよ」

「今の間は何?」

「わあーっ」

「わーっ」

 

 

 スズカはあまりにも雑な泣き真似をしつつ、そのまま動かなくなってしまった。終わったかな。まあ気持ちは解るけどね。私の止めるタイミングも悪かった。走る気持ちを整えてからだったからね。まあだからと言って許さないんだけど。

 

 

「お疲れ様です……何してるんですか?」

「お疲れスカーレット。ちょっとね」

「はあ……今日はスズカ先輩、走りに行かないんですか?」

「そうよね? 走りに行った方が良いと思わない、スカーレットさん」

「ええ……いや、その方が良いって話じゃなくて、聞いただけなんですけど……」

 

 

 すんっと体を起こし、私の隣に座り直すスズカ。合流したダイワスカーレットはまだスズカの暴走を見ていない……まあ怪我明け初日の暴走は見ていただろうけど、たぶん何か、現実を認識するのをスカーレット自身が拒んだのかもしれない。明らかにイカれてたし、半年走れなかったことへの何かだと思っているのかも。

 

 

「ウマ娘は走る生き物よね、そう思わない?」

「まあ、走るために生まれてきたんだなあとは思いますけど」

「じゃあ走った方が良いわよね」

「そ……うですね、たぶん」

 

 

 鍵をかけて、制服からジャージに着替えだすスカーレットにスズカが絡み出す。まだよく解っていないうえ、着替え中で生返事気味なスカーレットなら丸め込めると思っている可能性がある。賢くなったわねこの子も。

 

 

「ほら」

「ほらじゃないのよ。ダメ」

「やです……走らないと頭がおかしくなります……一回、一回だけ……」

「もしかして薬とかやってます?」

「……ふふふっ」

 

 

 下着姿であまりにも辛辣な言い方をするスカーレットのギャップに噴き出してしまった。ばっさりとやられて撃沈したスズカが肩に頭を預けてくるのを受け止めて、仕方ない子ねえと撫でる。心なしか涙目のような感じもするけど、まあ走れないショックで泣くスズカに構っていても仕方が無いのでね。

 

 

「今日は何のトレーニング?」

「プールの予約が取れてるからそれかな。ブルボンは平地だから順番で」

「別なの? 珍しいじゃない」

「ブルボンはプールはあんまりやらないからね」

 

 

 スタミナは足りているし、足りなくても坂路で良い。たぶん泳ぐブルボンを見ることはそう無いだろう。ブルボン的には疲れれば何でも良いと思っている可能性はあるけど。

 

 

「私も走ります……」

「ダメ」

「うああ……」

「っ……ふう。良いんじゃない? 別にただ走るくらいトレーナーがいなくたって良いでしょ。昨日までそんな感じだったんだし」

「ですよね!」

 

 

 あっスズカが調子に乗っちゃった。一気に笑顔になって、ふふふ、と私をじっと見つめる。スカーレットは事情が解っていないし、第一スズカのトレーナーじゃないでしょ。

 

 

「トレーナーの許可なく走ることは許しません。普通のウマ娘はそうよね、スカーレット」

「まあ……そうね」

「裏切られた……」

「良いじゃないですか。今日のところは走らなければ」

「スカーレットさん…………なんてことを言うの」

「そんなおかしなこと言ってませんけど」

 

 

 着替え終わり、ソファの向かいに座りテーブルのお菓子を摘まむスカーレット。私も一つ取って、うるさいスズカの口に押し込んだ。リスみたいにさくさく食べて飲み込んで、すぐにまた寄りかかるスズカ。

 

 

「この際スカーレットさんが一緒でも良いですから……」

「私は嬉しいですけど、なんか引っかかる言い方なんですよね」

「やめておいた方が良いわよ。前の地獄をまた見たいのでもなければ」

「地獄って……いくら何でも言いすぎじゃない? あれはしばらく走ってなかった反動みたいなものでしょ」

「甘いわね。スズカがそんなマトモなわけないでしょ」

「アンタ自分のウマ娘に何言ってんの?」

 

 

 本当なのよねえ、としみじみしながらスズカに餌付けをしていると、ブルボンが入って来た。今日も本調子で、今月末に迫ったスプリングステークスに向けてやる気も十分。勝ったな。

 

 

「お疲れブルボン。着替えたらすぐ行くわよ」

「承知しました。すぐに着替えます」

「ブルボンさん……トレーナーさんが走らせてくれないです……」

「データログを参照中。スズカさん、『スズカさんが悪いと思います』、です」

「あああ……」

 

 

 あわれスズカ。撃沈してしまった。よしよし。大人しく二人のトレーニングを見ていようね。頑張ろうね。大阪杯も出られるように調整してあるからね。

 

 

「え……大阪杯に出るの? 本気?」

「本気だけど」

「いや……ステップレースとか、オープンで叩くとか……」

「いらないでしょ。スズカだし。何も不安材料は無いわ」

 

 

 この一週間でも解るし、怪我から復帰した瞬間からの騒動でも解るけど、スズカにスランプなんてものは無い。当たり前と言えば当たり前だ。スズカは元々レースをレースとして走っていない。本来的に、自分一人が走っているのが大好きなのであって、それはレースでなくても問題は無いのだ。ただ、レースとなれば一人で走るためには先頭でなければならないというだけで。

 

 つまり、考えながら走ったり、練習の成果を出したり、並のウマ娘とは走り方が違う。一つの戦法しかとれない代わりに、その戦法は体に染みついた魂のものだ。何年休もうと錆び付かない。一応走ることそのものが鈍る可能性は考えたがそれも無い。だったら問題は欠片も無い。

 

 

「マスター、トレーニングウェアへの換装が完了しました。いつでも開始できます」

「ん、じゃあ行こうか。ほらスズカ、見ていたいなら見ていても良いし、嫌ならここで寝てる?」

「……見てます」

「じゃあ行くわよ。スカーレットも」

「了解……っと」

 

 

 とぼとぼ着いてくるスズカ、気合十分のブルボン、首を鳴らしながらやる気に満ちているスカーレット。うーん個性的な子達……大変だなあ……

 

 

「ところでトレーナーさん」

「ん?」

「もしあれなら私、併走しても構いませんよ? 先輩、落ち込んじゃってますし」

 

 

 猫を被ったスカーレットが囁いてくる。うーん……どうせ中途半端にやっても耐えられなくなるだけだと思うんだけど。私だってスズカが十分のランニングで満足できるならやらせてるけど、我慢できなくなってそのまま暴走するのが目に見えてるし。

 

 

「……まあ、アレよね、スズカが我慢できるって示せればいいのよ」

「できます」

「即答してきたわね」

 

 

 そこまで言うのならやってもらおうじゃない。絶対に無理だと思うけど、一応挑戦権くらいは与えてみようかしら。よく考えたらスズカだって一週間走っているわけだし、落ち着いて我慢できるかもしれない。

 

 

「じゃあスズカ、ブルボン、スカーレットで併走して、スズカが三番手だったら走って来ていいわよ」

「……っ」

 

 

 ぴたりと歩みを止めたスズカ。気にせず進み続ける私とブルボン。これでまったく気にしないブルボンも凄いわね。スカーレットだけは心配して立ち止まっている。

 

 

「良かったじゃないですか。私も一緒に走れて嬉しいです」

「……むり」

「え?」

「絶対に無理です……!」

 

 

 涙声のスズカ。

 

 

 そして、無理だった。スズカは結局自分に勝つことができず、二人をぶっちぎった。まあ、そうだろうなあ、と、私とブルボンは驚きもしなかった。




新シナリオのせいでステのインフレが起こり、ステータスをパッと見て強いと断言できなくなったので、特に理由なくスズカを上方修正する可能性があります。

というかクラシック始まるぞ!!!スポ根だ!一部!
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