走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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二連あっさりなんて誇りは無いんか?


幸せな朝を過ごすサイレンススズカ

 

「んー……ぁ」

 

 

 翌朝、起きるとスズカが目の前で寝ていた。

 

 

「あー……まあ良いか」

 

 

 まだ時間ではないので起こさないで良いとして、私は起きて朝ごはんを作ることにする。

 

 昨日は大変だった。走りたい走りたいとワガママを言うスズカを何とか宥め……ることは無力な私達にはできず、シンボリルドルフがうまく隠れきったから良いものの、そのまま暴走気味にトレセンを飛び出してしまったのだ。

 

 よくスズカを見てみるとランニングのジャージのままだし、髪を梳くと少し汚れている。というかシーツがまた汗と泥でダメになっちゃった。

 

 

 支度を済ませていると、誰かがキッチンに入ってきた。足音からしてスカーレットか。泊めたっけ。疲労困憊だったし自棄になっていたから本当に覚えがない。たぶんお互い面倒になってここに来たんだと思うけど、そうなるとスカーレットはどこで寝たの。

 

 

「あ、トレーナー。起きてたんだ。おはよう」

「おはようスカーレット。え? 今日どこで寝た?」

「普通にトレーナーのベッド。トイレ借りてただけよ」

「そっか。まあ良いや」

「泊まっておいてなんだけど、アンタ家に他人がいる事実をもっと重く見た方が良いわよ」

 

 

 そう言って隣に来てくれるスカーレット。手伝ってくれるそうなので、遠慮なくいくつか頼んでおく。家に他人がいる……と言ったってスズカとスカーレットだし。これが人間なら何であれ怯えていたけど、ウマ娘、しかも自分の担当ともなれば嫌がるトレーナーはいないと思う。

 

 と言うか今日は三人だったんだ。ブルボンは帰ったのかな。聞いてみると、食器を出しながらスカーレットが答えてくれた。

 

 

「ブルボン先輩もいるわよ。リビングで寝てるわ」

「え? ベッドで寝なかったの?」

「親御さんに電話するんだって。かけてって言われたからかけて、先に寝てて良いって言うから」

 

 

 珍しいこともあるものね。まあ流石に四人で寝るのは狭いし仕方無いか。どうしようかな。ベッドを増やすか、特注で特大のを買うか。分けて寝るのも何か味気無いと言うか、今の感じだと私とスズカとブルボン、スカーレットで分かれてしまいそうで嫌だ。

 

 少し背伸びをしてリビングを探すと、なるほど、ブルボンは床に倒れて寝ていた。死んでるんじゃないかってくらい大人しく寝ているから気付かなかった。これは起きたらマッサージが必要ね。身体がガタガタになりそう。

 

 

「スカーレットも食べる? 朝ごはん」

「んー……そうね。お願い」

「はいはい。ブルボンのスマホだけ充電してあげて。たぶん切れてるから」

「了解」

 

 

 スカーレットをリビングに行かせ、四人分の朝ごはんを作る。作ったら二人を起こして……ブルボンは大丈夫かな。どう考えても家族に電話したまま寝落ちしてるけど。夜通し親と電話することある? 

 

 

「おはようございます、トレーナーさん……」

「おはようスズカ。何か言うことはある?」

「んー……楽しかったです」

「このっおばかっ」

「ふゃふゃふゃ」

 

 

 しばらくして、ご飯ができたあたりでスズカが起きてきた。たらふく走ったからかかなり目覚めの良いスズカがこちらに来たので一応聞いてみたんだけど、やっぱり反省してないなこいつ。頬っぺたをふにふにしておく。

 

 

「泥だらけでベッドに入っちゃだめでしょーっ」

「ち、違いますトレーナーさん、誤解です」

「何が誤解よ」

「走った後そのまま寝るのが最高に気持ちいいんですよ」

「このっ」

「うぁううぁううぁう」

 

 

 あなたのおかげで私も朝風呂に入らないといけないんだけど。別に嫌いじゃないから良いけど、それはそれとしてムカつく。今更シーツの洗濯の頻度を気にすることもない私も毒されてるな……? 

 

 

「お風呂に入らずに寝るの、嫌じゃないですか?」

 

 

 と、ご飯待ちのスカーレット。ド正論をぶつけられたスズカだったが、やはり怯むことはなかった。

 

 

「普段はそうですけど、走った後は別です。あのふわふわとした良い気分と、少し疲れて眠たくなった感じのままトレーナーさんのいるベッドに入ってそのまま寝るととっても気持ちいいんですよ。それはもう寝付きも目覚めも良いですし、心から幸せを感じることができます。もちろんお風呂に入ってお布団というのも良いものですけど、夜中の涼しい時に走った時はそのままの方が良いと言うか」

「……でもほら、シーツの洗濯とかあるじゃないですか」

「些細な問題です」

「洗濯するのは私だけどね」

「じゃあ私がコインランドリーに行きましょうか」

「走って行くからダメ」

「そんなぁ……」

 

 

 よし、完成。じゃあブルボンを起こそう。ふにゃふにゃになって寄ってきたスズカは気にしない方向で、スカーレットに頼む。

 

 

「あんなぐっすりなのに起こせる?」

「いや、耳元で『ミホノブルボン起動』って言えば秒で起きるから」

「は?」

「シャットダウンって言うと寝ますよ」

「は?」

 

 

 食事を並べる間にスカーレットが起こしに行っている。あ、スカーレット信じてないな? ブルボンを起こすのにそんな頭を近付けたら危ない……あっ。

 

 

「っあ……いった……」

「……スカーレットさん」

「な、なんでそんな平気そうなんですか……!」

 

 

 ブルボンは起きるとき目をぱっと開けて上半身を起こす。思い切り頭をぶつけたスカーレットがひっくり返った。平気そうに見えるかもしれないけどブルボンも声が震えてるし涙目よ。そりゃ痛いでしょうね。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「ごちそうさま。美味しかったわ」

「良かった」

 

 

 食事後。前回来た時もそうだけど、スカーレットは私の味付け……つまりスズカの味覚と相性が良いらしい。スズカとスカーレットは本当に美味しそうに食べるわね。ブルボンは甘味以外は表情を変えないのでよく解らないけど、まあ文句を言われてもスズカ向けの味付けは変えられないので困る。

 

 

「じゃあスズカ、お風呂入りな。急いで。遅刻するから」

「多少遅れても走れば良いですよね? 速いですよ?」

「そういう問題じゃないのよ」

 

 

 確かに車よりスズカの方が速いし早いけどさ。これ見よがしに走ろうとしなくて良いのよ。

 

 

「スカーレットも送ってく?」

「……待って。今めちゃくちゃ考えてるから」

「何を?」

「いや……外泊した上車で行くとか流石に私のイメージが……」

「ふーん」

 

 

 全然解らない。私が学生なら、車で行けるものなら車で行きたかったし行ってた。そもそも外泊の時点で今更じゃない? みたいな。外面を固めるのも大変と言うか、日々頑張ってるんだなあと。悩み始めたスカーレットは置いておいて、片付けを手伝ってくれているブルボン。

 

 

「ブルボンはさ、昨日はずっと電話してたの?」

「はい。強制スリープまでお父さんと話していました」

「へー。やっぱり皐月賞の話とか?」

「広く解釈すればそうです」

 

 

 気になる言い方だけどもはやわざわざ言うのも面倒だ。ブルボン語は難しいし、特に意味がない時もある。皐月賞以外にもいくつか話したというくらいの意味だろう。お父さんと仲が良くて何より。

 

 

「マスター。皐月賞ですが」

「うん」

「勝てるでしょうか」

「九割勝てるだろうねえ。負ける相手がいないよ」

 

 

 弥生賞上がりにしろ若駒上がりにしろ特に怖くはない。格が違うというのはこういうことだ。流石にG1、ライバルの調査は進めているけど何度見ようがブルボンに並ぶような子はいない。

 

 もちろん、絶対とは言わない。結局私は永遠にマチカネフクキタルやグラスワンダーのような爆発型に怯え続けなければならないのだ。本当はスズカにもブルボンにも、必ず勝てると断言してあげたいんだけど。

 

 

「ライスシャワーはどうでしょうか」

「ライスシャワー……ああ、あの変な子」

「変な子……」

 

 

 友達のストーカー兼友達のトレーナーの拉致に一枚噛んだとかいうやべーやつ、ライスシャワー。直接話したことはないし会ったことも無いけど、たぶんえげつないヤンキーみたいな子なんだと思う。

 

 

「脅威だと思う?」

「私に徹底して執着する気概は評価に値すると思います」

「なるほど……確かにそれはそうね」

 

 

 グラスワンダーみたいな感じかな。彼女もたぶんだけど、ライバルを決めてそこに打ち勝つことに全てを懸けられる子っぽいから。スズカにそれが向けばっていうのは何度か考えた。スズカの場合は安定型なのか爆発型なのか解らないから結論は出ていないけど。

 

 もし本当にそういうタイプならいくらブルボンでも普通に危ない……というか負けかねない。いや、恐らく負けるだろう。爆発力というのはそういうもので、安定タイプでは抗うことは不可能と言っても良い。

 

 

「不安?」

「……いえ、マスターが勝てると言っていただけるならば勝てるのでしょう。ごく小さな懸念です」

「そうね……」

 

 

 こればっかりは不安を取り除いてあげることはできない。何故ならまずもって私が断言できないから。ウマ耳をしょぼんとさせてしまったブルボンを撫でながら、何て言えば良いかを考えて……うーん……まあ解るわけないなあ。私が教えてほしいくらいだ。

 

 

「とりあえずライスシャワーともっと仲良くしてみたら良いんじゃない」

「仲良く」

「敵を知れば何ちゃらかんちゃらって昔の偉い人も言ってたし」

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず、でしょうか」

「そうそれ。ブルボンは賢いわね」

 

 

 よく勉強してて偉い。撫でてあげよう。私のうろ覚え、少しもかすってなかったけど。

 

 とにかく相手を知らないことには何も始まらない。かといって私が探るのもあからさまだし不自然だし。知ったところで何も起きない可能性もあるけど、とりあえずね。

 

 

「了解しました。オペレーション、『ライスと仲良く』を遂行します」

「ん。頑張ってね」

 

 

 愛称で呼べているあたり何も問題はないどころか既に仲良しだと思うけどね。こういう作戦無しで仲良くしてるなら何よりだし、ウマ娘はそれができる種族ってことは解ってたし。ともあれ今度ライスシャワーを連れてきた時に引かないようにだけ気を付けよう。また拉致とかされないよね……? 

 

 

「トレーナーさーん……お風呂……」

「あっごめんね。今行くから待って。じゃあブルボン、ごめんだけど片付け頼んで良い?」

「お任せください」

 

 

 仕事を任せるとキラキラするブルボンをキッチンに残して、私はスズカとお風呂に入った。スカーレットは悩んだ挙げ句歩いてトレセンに向かっていた。

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