走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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私の特技は……地の文を……削ぎ落とすことです


後輩然とするミホノブルボン

「あ、ブルボンさん、こっちよ」

「おはようございますスズカさん、みなさん」

 

 

 四月二十三日、記録者、ミホノブルボン。本日はスズカさんに誘われ、昼食を共にすることになりました。

 

 スズカさんが私を誘うのは珍しいことではありません。週に一度程度の定期的なペースで誘っていただけています。多くはスズカさんが友人と何か活動を行うに際して私が参加する形になります。

 

 

 本日は食事ですが、やはりスズカさんの友人達が食堂に揃っていました。エアグルーヴさん、メジロドーベルさん、スペシャルウィークさんのお三方です。

 

 

「申し訳ありません。私が最後で」

「大丈夫よ。こっちも勝手に食べてるから」

「勝手に食べてるのはお前とスペシャルウィークだけだ。一緒にするな」

「別に良いのに。ブルボンさんはそういうの気にしないわ。ね?」

「はい。特には」

 

 

 お三方ともクラシック・レース……つまり、三冠とトリプルティアラを走りきり、結果を出した方々です。それぞれが冠を被り、シニアになっても活躍、あるいは活躍するだろうと目されています。

 

 

「不満があれば言った方が良い。スズカは言わなきゃ解らん……いや、言っても解らない時はあるが」

「言われたら直すわよ流石に」

「じゃあ私と遊びに行った時に突然走りに行くの禁止ね」

「……限度はあると思うわ、私」

 

 

 私が到着したことで、エアグルーヴさん、メジロドーベルさんも食事を始めました。元々私はあまり話さず、スズカさん達の話を聞くだけですので、今日も同じように。

 

 

「何が限度だ。風だの天気だのよく解らない理由で走りに行く癖に」

「解るでしょ? エアグルーヴだって天気が良かったら走りたくなるし、風を切るのは気持ちいいんじゃないの?」

「でもスズカさんって雨でも走りますよね」

「冷たくて気持ちいいし……」

「つまり何でも良いんじゃない」

 

 

 あるいは、せっかく誘っていただけたわけですし、レースの話をするべきでしょうか。皐月賞後にこうして誘っていただくのは初めてです。

 

 ですが、それぞれ別のレースやトレーニングを抱えているのも事実です。私の話をするわけにもいきませんし、そもそも会話は不得手です。

 

 

「そういえばブルボンさん、この間の皐月賞はおめでとうございます!」

「……ありがとうございます」

 

 

 ですが、話題は意外にもスペシャルウィークさんから為されました。

 

 

「次はダービーですよダービー! 思い出しますねえ……」

「思い出すほど昔でもないだろう」

「あはは……まあそうなんですけど。でもほら、副会長さんだってオークスのこととか思い出しません?」

「ふっ……そうだな。まあなんだ、聞きたいことがあれば聞いておくと良い。私達が答えられることなら大抵は答えよう」

 

 

 ……! 

 

 

「私もクラシックの話ができたら良かったんだけど……」

「スズカがもしダービー走っててもろくなこと言えないでしょ」

「どうしてそういうこと言うの……?」

「普段の行いじゃないですか?」

「試しに……そうだな、宝塚へ向けて何か言ってみるといい。言えるものならな」

「え? うーん……が、頑張る……?」

「やっぱり」

 

 

 聞きたいこと……何を聞くべきなのでしょうか。勝ち方、戦略、トレーニング……いえ、それらは私にとってほとんど意味の無い情報です。マスターに一任し信頼することが最良であると判断しています。

 

 

「スズカさんはそういう頭空っぽなところが良いんですから、自信持ってください!」

「言葉が悪すぎるのよね、フォローにしては」

「スペチャン……」

「まあ、それについては普段から何も考えていないのも事実だろう」

「そんなことないわ……今日もほら、どこを走ろうかなあとか、何て言えばトレーナーさんが走らせてくれるかなあとか、ずっと考えてるもの」

「さっきまで授業だったんじゃないの?」

「何故お前の成績が良いのか理解に苦しむな」

「良いなあ……私ももう少し成績上がらないかなあ」

「スペちゃんは授業中寝てるだけでしょ……?」

 

 

 では、聞くべきこととは。精神的な何かでしょうか。

 

 

「……では」

「ん、なんだ」

「……クラシックレース勝利時、皆さんはどう思われましたか」

「……ふむ」

 

 

 プレートのほとんどを食べ終え、先程まで自由歓談中だった皆さんが一斉に考え出します。少なくともスズカさん以外は五月後半、ダービーもしくはオークスを勝った方々です。

 

 エアグルーヴさんとメジロドーベルさんはオークスを、スペシャルウィークさんはダービーを。それぞれクラシックの中心とも言えるレースに勝ち、栄光を掴んだ方々です。

 

 

「そうだな、私の場合は……嬉しかったよ、本当に」

「嬉しかった」

「ああ。母と、私の理想と……見たかったものが見られたと確信した。女帝と成り、ひたすら理想を追うような、そんな道に踏み入ることができたと思った。震えたよ」

 

 

 懐かしむように目を細め、エアグルーヴさんはお茶の入ったカップを口に運びました。耳飾りを揺らし、優しく微笑みます。

 

 

「私も……その、嬉しかったし……強くなれたと実感が湧いた。次が楽しみでしょうがなかったよ」

「次」

「うん、秋華賞……結局さ、走る理由があって、それを達成できたら、ひたすら嬉しくて……それだけになっちゃうんじゃないかな」

「……ありがとうございます。参考になりました」

「あれ? 私の番は? 何言おうか今物凄く考えてたんですけど……!?」

「私の気持ちが解った? スペちゃん」

 

 

 スペシャルウィークさんの話はスズカさんから日常的に聞いていますし、マスターがいてもその話題になることが多々あります。ダービーウマ娘として喜ぶと同時に、トレーナーさんや、母親の誇りになれたこと、認めてもらえたこと……一晩中語られたのだとスズカさんが言っていました。

 

 

「……その、では失礼ながら追加で質問させていただきます」

「こ、今度こそ私! 私が答えますからね!」

「背伸びをした先輩面は見苦しいぞ、スペシャルウィーク」

「私そんな風に見えてますか!?」

 

 

 その後も会話は続き、いくつかの有益な情報を得て昼食は終了しました。なお、まだ話し足りないとの皆さんの申し出によりオペレーション:『甘味バイキング』に移行することとなりました。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「ん、そう。楽しんでおいでね」

 

 

 ある日。今日はトレーニングを休むとブルボンやスズカから連絡が来た。スカーレットは元々休みなので、あら不思議、今日の仕事が無くなってしまった。やったねすごいね。

 

 スイーツバイキングか……まあエルナトではそんな厳しい食事制限は無いんだけど、スペシャルウィークとか大丈夫なんだろうか。また地獄のダイエットが始まらない? 

 

 

「……暇になっちゃった」

 

 

 スペシャルウィークのトレーナーさんの心配はともかく。私は基本的に、三人がいないとやることがない。午前中で当日の仕事というのは割と終わるのだ。ファン感謝祭の話も、去年同様会議を軽く通して終わっている。

 

 今年はスズカも変わらず大人気だが、黄金世代……スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダー、キングヘイロー、セイウンスカイの五人の通称というか、異名みたいなものである。そっちがプッシュされている。ライバル関係と言うのは人を熱くするのだ。スズカにはライバルとかいないからね。

 

 

 五人が色んな催しに参加して、裏でスズカもいると。トレセン……URAも興業に抜かりがない。こういう風に毎年スターが生まれるというのも凄いことなんだけどね。来年の今頃はブルボンが無敗の三冠ウマ娘として神話になっているだろうし。

 

 

 そういえば、もうブルボンとスズカの誕生日だ。スカーレットも五月に入ったらだっけ。

 

 

「なーにが良いかな……」

 

 

 スズカにランニング、ブルボンに通知表は確定だ。たまにブルボンのお父さんから通知表の話も出るし。普通のトレーナーはあんまりこういうことはしないからね。タイムや見た感じで評価するから、他人に具体的に教えることができないのだ。

 

 ただまあ、それはアスリートとしての二人に贈るものであって、学生の二人に贈るものではない。いやスズカはそれでも良いか。物あげても喜ばなさそうだし。

 

 

 ブルボンは何だろう……やっぱりそういうおもちゃとかになるのかな。トレーニング用品は論外だし。でもなあ、私があんまり詳しくないし、お父さんに聞くとどうせ長くなるしそんなの貰えない! とか拒否されるしなあ。お母さんへ直通の番号が必要だ。

 

 

「調べるか……何かこう、良い感じのものを……」

 

 

 調べつつ、書きかけの通知表も眺める。ブルボンの項目は大体書き上がっているけど、ライバル……同期の子達のものがあんまりって感じ。

 

 めぼしい子を見てステータスを覚えるだけなら簡単だし、大体見終わったんだけど……ブルボンから聞いた、ライスシャワーの情報は気になる。本人もライスシャワーと仲良くするということで、そのうち解るのかもしれないけど……うーん……

 

 そもそもダービーは運のあるウマ娘が勝てると言われるほど時に荒れる。実力が同程度なら外枠を回されれば非常に不利にもなる。ダービーでは人数が揃わないなんてこともないし、スズカ並みに圧倒的な実力が無ければ安定はしない。

 

 そんなレースだからこそ、伏兵としての力というのが脅威になるのだ。それに2400は限りなく長距離に近い。スタミナ勝負に持ち込まれた場合はワンチャンスがあるかもしれない。

 

 

 もう少し、スパルタしようかな……やりたくないけど、やっぱりそれが一番良いなあ。スプリントとかダッシュを中心に……いや坂路で良いか……もし大外でも楽勝になるくらいのスタミナは欲しいし。あーあ。またブルボンがサイボーグになってしまいます。私のせいです。

 

 

 

 ……ふー……あーあ。

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 

「ただいま、トレーナーさ……ん?」

「ただいま戻りました」

「おかえりスズカ、ブルボン。楽しかった?」

「はい。私は座ってただけですけど」

「私も動作上はそうです」

「どういう集まり……?」

 

 

 二人が帰ってきた。揃ってお腹を膨らませている。バイキングの経営者もここまで食べられると気持ちいいんじゃないかな、たぶん。残りの三人がどんな感じかが解らないけどたぶん同じようなものだろう。ウマ娘だし。

 

 

「じゃあ行ってきますね」

「どこに?」

「たくさん食べたのでお腹を引っ込ませてきます」

「ああ、プールとか?」

「……」

 

 

 すっと目を逸らすスズカ。

 

 

「……ほんの一時間くらいで帰ってきますから」

「走る気でしょ」

「ひゅ、ひゅー……」

 

 

 吹けない口笛を吹きおってからに。嘘をつかないのはご立派だけど、それと許されるかは別なのよ。

 

 

「走る気でしょーっ」

「あっあっあっトレーナーさんお腹はダメですお腹は」

 

 

 スズカを取り押さえてソファに転がし、制服からせり出た丸いお腹をぱしぱしと叩く。流石に苦しいのか口元を押さえるスズカ。食べ過ぎたウマ娘のお腹は太鼓みたいでとても叩き心地が良い。

 

 

「ブルボン! 取り押さえてブルボン!」

「ま、待ってください、ずる! ずるです! どうして私だけ!」

「ブルボンは走る気無いでしょ!」

「ちがっ、あっうっむっ、こ、この、この話はブルボンさんがっ」

「えっ」

 

 

 くるりとブルボンに向き直る。ブルボンはブルボンで自分のお腹を擦りながら、非常に他人事というか、何も気にしていないいつもの無表情で立っていた。

 

 

「ブルボンが言ったの?」

「いえ、摂取カロリーを考慮し、通常以上の消費が必要だと話しただけです」

「それだねえ! それだよ!」

「けぷ」

 

 

 ソファのクッションを投げ付ける。顔面にそれを受けつつ体を揺らすブルボン。何その表情は。私悪くありませんみたいな顔をして。スズカにとってのカロリー消費なんか走る以外に無いんだからね。

 

 

「もー……」

「ま、ま、まって、お、おなか、おなかがくるしい」

「ブルボン。余計なことを言ったお仕置きです。来なさい」

「はい」

 

 

 スズカのぽんぽんをぽんぽんしながら手招き。ブルボンが私の前に立った。大きく張ったお腹を指で押し込む。

 

 

「変なことをスズカに言ったらダメでしょーっ」

「うぁ、けぷ」

 

 

 どうやらたらふく食べたらしい二人の体重はあっけなく増えた。メニュー、組み直さなきゃ……。

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