走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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知識はボロボロなサイレンススズカ

 

「次に行くぞスズカ」

「トレーナーさん……たすけて、たすけて……」

「まだ始めて十五分よ」

 

 

 ある日。トレーナー室でエルナトのメンバーに加え、エアグルーヴがスズカに詰め寄っていた。

 

 テーブルにつき、ポンとおもちゃの早押しボタンを渡されたスズカと、並んで座るエアグルーヴ、分厚い本を開き向かいに立つブルボン。スカーレットは私が仕事をするデスクに寄り掛かって見ていた。

 

 

「問題。無敗の三冠ウマ娘であり、七冠の栄誉に輝いた我らが生徒会長、シンボリルドルフ。彼女の過去三度の敗北レースとは、何?」

「……スズカ?」

「……え……っと……ぉ」

 

 

 現在、四人はクイズの練習中である。

 

 何があるかと言えば、ファン感謝祭だ。基本的に自分が何をするか他人に任せているスズカは、今年はクイズ大会に回されてしまった。スズカは基本的に成績優秀だし、レースも一流だ。なればこそ、こうして知識を問われる場に出ても問題無いと思われたらしい。

 

 

 問題自体はウマ娘やレースに関するクイズであり、熱心なファンや……それこそ私達トレーナーなら即答できる内容でもある。しかし、それはつまりウマ娘にとってもそこそこ簡単ということ。

 

 そんなクイズ、まさかサイレンススズカが一問も取れないなんてことになったら。URAやトゥインクルレースは興行でエンターテイメントだ。他者に全く興味が無いウマ娘が最強というのは……まあ少なくともエアグルーヴはそれを心配していた。

 

 

「スズカ?」

「……わ、わからない……」

「ええ……」

「冗談だろうスズカ。会長のことだぞ。いや、なんだ、三つは言えなくても二つは言えるだろう」

「……だ、だーびー……」

「三冠ウマ娘です、スズカさん」

 

 

 知ってるレースを適当に言ったわね。

 

 

 あのナリタブライアンでさえ、強者には一定の興味と知識があった。それに、孤高というのもあの性格にあっている。しかしスズカは違う……ということで、それら諸々を心配したエアグルーヴが対策問題とともに殴り込んで来たのである。

 

 

「解った。スズカも走ったレースだ。これでどうだ?」

「……はぇ……」

「お前は普段何を考えて生きてるんだ?」

 

 

 しかしこのポンコツ、予想以上だった。マジで走ること以外に興味が無い。レースの名前すら曖昧で、それが他人のものとなればなおさらだ。流石にダービーくらいは知っていたようだけど。

 

 

「わ、わからない……負けたレースなんて覚えてどうするの……?」

「負けたからこそ印象に残るんだ。特に会長はな」

「さ、三人はわかるの……?」

「「「ジャパンカップ、秋の天皇賞、サンルイレイステークス」」」

「ぁぅ」

 

 

 三人とも賢いしちゃんとそういうのは学ぶタイプの子だからなおさらスズカのポンコツが目立つ。本番で何か一問でも取れれば、後は他に譲ったとか、早押しが苦手とか、言いようはいくらでもあるのだ。

 

 

「おかしい……!」

「おかしくはないんですよ会長のことだし」

「い、いじめられてます……!」

 

 

 まあ圧倒的に向いてないけど、クラスでの会議も適当に聞き流したツケが回ってきたわね。これに懲りたら外ばかり見てないでちゃんとクラスに参加するように。

 

 

「続いて、問題。その末脚は鉈の切れ味とも称された、史上二人目の三冠ウマ娘であり、日本のトレーナーのスローガンにも名を刻むウマ娘は、誰?」

「え、エクリプス……」

「そっちじゃないですし日本でもないです」

 

 

 むり……と突っ伏してしまうスズカ。しかし今回は……というか今回もエアグルーヴは真剣なので手心が無い。問題はだいぶ手加減されてる感じはするけど、あまりにもレースシーンに興味が無さすぎない? トレセン入学試験や面接ではそこら辺はあんまり問われないとは聞くけど、にしても。

 

 その後も問題が何問か続くも、即答できるような問題は無し。悩んで悩んだ末ブルボンにヒントを貰ってやっとと言った感じ。流石に友達のことはある程度は頭にはあるようだ。

 

 

 しばらくうんうんと頭を悩ませるスズカを見届けながら仕事を終え、コーヒーを淹れようと立ち上がったところで、スズカがソファに倒れながら私にボタンを差し出してきた。

 

 

「ぱす……一回走らせてください……」

「休ませてくださいじゃないんだ……」

「そもそもこの程度の問題、中央のトレーナーが解らんはずがないだろう」

「まあ流石にね」

 

 

 四大難関資格は伊達ではない。現役ウマ娘のリサーチが終わっていないことはあれど、シンプルなクイズで答えられないはずがないのだ。エアグルーヴに脚を掴まれ逃げられないスズカからボタンを受け取り、まあ暇なので、とそのままスズカをエアグルーヴと挟み込む。

 

 

「何でも良いわよ」

「では、レジェンド級を」

「最高難易度みたいな名前してるわね」

「最高難易度です。問題」

 

 

 どんなもんだろうね。言っても受験から結構経ってるし、この前振りで解らなかったら笑えないけど。

 

 

「現在の札幌レース場芝Bコースの一周距離及びその直線距離をお答えください」

「1650.4の267.6」

「一般に大腿四頭筋と纏められる筋肉をすべてお答えください」

「大腿直筋、内側広筋、外側広筋、中間広筋」

「初の三冠ウマ娘であるセントライト。彼女が勝った三冠レースを当時の名称でお答えください」

「横浜文部省賞典新呼娘、東京優駿競走、京都文部省賞典新呼娘?」

「正解です」

 

 

 いえーい。

 

 

「見た? ねえスズカ見た? 凄いでしょ」

 

 

 すべて答えられたのでスズカの頭をぽんぽんと撫でながら煽る。この期に及んで私が答えられないとでも思っていたのか、スズカは大きく目を見開いて、あー……と声をあげながら倒れてきた。

 

 

「裏切られました……」

「裏切ってないって。できないと思われてたの、私」

「いやすみません、正直私も無理だと思ってました」

「お前……審美眼だけのトレーナーではなかったのか」

「よーしお姉さん怒っちゃおっかなー」

 

 

 え? 冗談だよね? まさかエアグルーヴ、本気で思ってないよね? 信じてるよ? 

 

 

「まあ、何だ。スズカも少しは自分のトレーナーを見習うんだな。ここまでとは言わないが、シルバー級くらいまでは答えられるようになってくれ」

「ゃー……」

「頑張んなってスズカ。簡単簡単」

「むり……」

「もう……」

 

 

 転がったまま抱き付いてきたスズカを起こし、涙目のスズカを肩に寄せる。向いてないのは事実なんだけどね……今からでも演目を変えられれば良いんだけど、こう言ってはなんだけどスズカは『その他ウマ娘』じゃないからね。告知の変更も大変なのだ。

 

 

「こんなの無理です……せめてこう、数学とかなら普段やってるし……」

「見てる側も楽しくないでしょそんなの」

「と、都内のオススメランニングコースとかどう……?」

「トレセンでやる必要があるのか?」

 

 

 成績優秀ウマ娘の姿か、これが……? 知識が偏りすぎている。この子、後輩のレースの話を聞くときどんな気持ちで聞いてるんだろう。もしかして聞いてないとか……いや、スペシャルウィークにしろブルボンにしろそこら辺は理解した上で、そもそもレースの話を振らないのかもしれない。

 

 

「ではスズカさん、次です」

「へぅ」

 

 

 そして、次々と投げつけられる問題に対し、スズカは答えを放棄したり適当に答えたり。あるいは友人のことなら多少答えられるようだった。ただそれも、それ自体を覚えているというよりはその友達との会話を思い出してやっとというところ。去年の三冠の勝ちウマ娘で考え込んだ時はどうしてやろうとも思った。

 

 

「続いて」

「ま、待って、ブルボンさん待って」

「待ちます」

「休憩にしましょうエアグルーヴ……あたまが、あたまがパンクしちゃう……」

「まだ三十分だぞ」

「せめてちょっとだけ……ちょっとだけで良いから走らせて……風……風が欲しい……」

「窓開けようか?」

「わーっ!」

 

 

 痛。冗談だからクッションで殴らないで。頭がくらくらしたわ今。

 

 

「もう無理です、やる気無くなりました……おうち帰る……ご飯作ってくださいトレーナーさん……」

「しょうがないわね」

「おいこら、スズカを甘やかすんじゃない」

「まあまあ。無理にやらせても身にならないでしょ?」

「トレーナーさんっ……!」

 

 

 ばっと抱き付いて額を擦り付けてくるスズカ。頭を撫でてやりつつ、呆れた様子のエアグルーヴに笑いかける。

 

 

「一旦休憩で良いじゃない。スズカのモチベーションも大変だから」

「はあ……どうしてこう、普段の集中力を活かせないのか……」

「ダメな子だからね」

「ダメで良いです……だから走ります……ほんのちょっとで良いですから、すぐ戻りますから……」

「嘘じゃん」

 

 

 戻ってくるはずがないことはもはや考えるまでもない。しかし、自業自得とはいえスズカにもやる気が出るようなご褒美があってもいいのかも。すり寄ってくるスズカの喉元を擽りつつ、目を細めるスズカに一応提案は入れておく。

 

 

「あと三十分頑張ろうか。その間正解した数だけ走らせてあげるから」

「えっ……ほ、本当ですか? 本当に走って良いんですか?」

「良いよ。この際この間こっそり走ったことも追及しないであげよう」

「そ……れは……ぁぃ」

 

 

 いつになったらこの子は友人達が監視役になっていることを学ぶのだろうか。もはやこっそり走ることはできないのに。しゅんとしたスズカのウマ耳を立たせる。

 

 

「一問につき十分ね」

「い、言いましたね? 絶対ですよ? 絶対走らせてくださいね?」

「良いよ」

 

 

 私の許可を受け、俄然やる気になったスズカ。ぴこぴこと耳を震わせて私から早押しボタンを奪い、ふふん、と胸を張ってブルボンを見やる。

 

 

「来てくださいブルボンさん。次こそ大丈夫です」

「……そうは思いませんが」

「正解したら走れるんですよ? こんなに良いことはありません。完璧です。さあさあ、どうぞ」

「では、問題」

 

 

 呆れた様子のブルボンが、問題を読んだ。それを聞いて、スズカが再びふふん、と鼻を鳴らす。

 

 そして数秒。スズカは黙ったままでいたが、少し経つとおずおずとボタンを押した。

 

 

「お答えをどうぞ」

「……ふー……」

 

 

 ぱたん、とスズカが私に倒れてきた。仰向けになって手で顔を覆い隠す。そして、か細い声で言った。

 

 

「わかりません……」

 

 

「そりゃそう」

「まあ、解ってはいた」

「やる気で正解が出せるならテストも苦労しないですからね」

 

 

 今日もスズカは走れない……というオチにはならず。ブルボンの優しさで出題された最低難易度問題に二問答え、二十分のランニングを得た。

 

 なお、走りに行ったスズカはそのまま帰ってこなかった。部屋の全員が、だろうなあ、という顔をしていたのが印象的な一日だった。

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