走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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誕生日も煽るサイレンススズカ

 

「ねえスカーレット」

「何?」

「誕生日プレゼント、何が良い?」

 

 

 ある日。エルナトにはスズカとスカーレットがいた。ブルボンは明日の特別メニューに備えて一日休養、スカーレットもそうだが何故か来ている。

 

 スズカは今日のトレーニングを終え、ソファで作業をする私の横に座っている。机にジグソーパズルを広げて、そこそこ機嫌良く大人しくしてくれていた。

 

 

「まあ……うーん……ブランドバッグとか、香水とか?」

「あら普通。助かるぅ」

「普通って何よ。とびきり高いの要求するわよ?」

「あっあっあっ」

「冗談だって」

 

 

 ファン感謝祭もつつがなく終わっ……いやスズカのクイズはボロボロで無事とは言い難かったけど、終わった。まあそれは良い。世間のスズカに対する好意というのは素晴らしいもので、ついぞ一度もボタンを押さなかったスズカが叩かれることもなかった。心配が杞憂に終わるのは良いことだ。

 

 感謝祭が終わったら次は三人の誕生日である。ウマ娘はその多くが春に生まれるという謎の生態があるため、基本的に誕生日は近い。よってこうしたラッシュが起こる。

 

 

「何でも良いし無くても良いわよ。誕生日なんかよりレースで勝ったらお祝い、の方が嬉しいし」

「そうはいかないんだけどね……ただでさえスズカやブルボンにもろくなもの渡してないのに」

「それを聞いてさらに貰うわけにはいかなくなったけど」

「いえ、貰ってますよ? でもその、私達そういうの苦手なので」

「ちなみにスズカ先輩は何を貰ったんですか?」

 

 

 うーんと、とパズルを解きながらスズカが語り出す。八割くらいは気持ち良く走れたという話だったが、一応カメラも記憶の片隅に残っていたらしい。あまりにも使っているのを見たことがないから忘れてるのかと思った。

 

 ふんふん、と話を聞いていたスカーレットも、カメラかあ……と首を傾げてるし。いや私だってさ、微妙だとは思ってるよ。でもしょうがないじゃん。スズカって物欲無いんだもん。今年もパズルとかにしようかと思ってたよ。幼稚園児か? 

 

 

「にしたってもうちょっとあるでしょ……」

「いや、まあ……そうなんだけど」

「ブルボン先輩には何あげたのよ」

「時計と通知表……」

「アンタ自分の担当を何だと思ってんの。思春期の女の子に渡すのがカメラと時計って。彼氏か」

 

 

 ぐうの音も出ない。私だってチョイスがずれてるのは解ってるって。でもしょうがないじゃん……! こればっかりは二人の喜びポイントの方がおかしいって……! 

 

 

「というか通知表って何? 学園で貰えるじゃない」

「いや、レースウマ娘としての通知表というか……見る? 今原稿書いてるんだけど」

「へー。変わったことする……のね……?」

 

 

 スマホを置き、身を乗り出すスカーレットに書きかけの通知表の向きを変えて見せる。今書いてるのはブルボンのライバル達の欄だから、スカーレットが見たところで何にも使えないけど。

 

 ……あ、でもあれか。スカーレットってば勘が良いから、私の能力について見抜かれるかもしれない。

 

 

 ぴたりとスカーレットが動きを止めた。じっと項目を読んで、原稿を私に返す。ふう、と息をつき、自然な流れで紅茶を淹れて戻ってきた。あ、ありがとう。ちょうど何か飲もうと思ってたの。

 

 

「なんてもの作ってるのよ……!」

「えっ」

 

 

 噎せるところだった。あっぶねえ。

 

 

「お、怒らないでスカーレット……」

「い……や、いやいや、怒ってない、怒ってないけど……! こんなの全ウマ娘が喉から手が出るほど欲しがってるやつじゃない!」

「私を信じられるならそうだろうけどさ」

「アンタ自分の名声を自覚した方が良いわよ。試しに誰かに聞いてみたら?」

「うーん何も言えない」

 

 

 隣のスズカを撫でる。私の諸々の評判はこの子のおかげでもあり、この子のせいでもあるのだ。それに、スズカにしろブルボンにしろ私が見出したと思われているのは仕方がない。実際見出しているし。

 

 

「だからって私のこれをちゃんと信じられるかは怪しくない? 結局は他人だし新人だしさ、ベテランの方を信じた方が良いと思う」

「私は信じてますよ?」

「ありがとねスズカ。ブルボンも喜んでくれてれば良いけど」

「でも……うーん……そういうことなのかな……」

 

 

 通知表を返してもらい、引き続き書き込んでいく。調べは既についているのであとは写すだけなのだけど……そういえばライスシャワーのことはどうなっただろうか。ブルボンが仲良くなるとは話していたけど。

 

 まあ二人とも変わった子だし仲良くなるのは早いかも。変な子は変な子と引かれ合うのがウマ娘の基本のき。

 

 

「とにかくそう簡単に見せちゃダメよ。暴動が起こるわ」

「それは言い過ぎ」

「どうかしら。賭けても良いわよ」

「強気だなあ」

 

 

 隣でふむふむ、と何か頷きながら通知表を覗くスズカは何も言っていない。そこの感覚は私には解らなくて困る。個人的にだけど、見ず知らずの相手に勝手に数値化されたものをありがたくは思えないからね。もちろんトレーナーとウマ娘の違いはあるんだろうけど。

 

 

「今年も誕生日は走って良いんですよね?」

「良いよー。どこ走りたい?」

「また温泉旅行に行きたいです。自然の中の夜道が良いです」

「良かった。前のところの予約をとってあるからね」

「やった、ふふ、楽しみです……あぅ、想像したら走りたくなってきました……ちょっと行ってきます」

「スカーレット」

「はいはい」

 

 

 立ち上がったスズカをスカーレットが掴んで止める。非常に自然な流れで走りに行こうとしたスズカだったが、こちらも手慣れてきたものだ。問題は、スズカの方がパワーがあるため止めきれずに引きずられていることである。

 

 

「止めないでください、スカーレットさん……!」

「いや止めます……と、止められてないんですけど止めますよ!」

「むむむ……仕方無いです。トレーナーさんに言われたんですものね。でしたらこうしましょう。並走して私が勝ったら私が走ります。負けたら諦めましょう」

「この……っ……か、勝つ気で賭けを持ち掛けるなんて……」

「乗っちゃダメよスカーレット」

「解ってるわよ!」

 

 

 久しぶりに何をしてでも走ろうとするスズカが見られた気がする。こうして平和で、何もすることがないとこうなってしまうのだ。忙しければそれを察して何となく我慢してくれるんだけどね……困った。

 

 落ち着いて……落ち着くのよスカーレット……と顔を真っ赤にして自己暗示を始めたスカーレット。この子もこの子で煽り耐性が低すぎるでしょ。スズカのこと、完全に放しちゃってるけど。

 

 

「ぐ……っ」

「ふふふ」

「か、勝った気で……う、うぅ……!」

「じゃあ走りに行ってきます」

「ま、待ちなさい……! やるわよ、やってやろうじゃない! 勝ちゃ良いのよ……! そうよスカーレット、アタシが一番なんだから……!」

 

 

 雲行きが怪しくなってきたわね。

 

 

「こらスカーレット。揺れないの」

「はっ……ゆ、揺れてない……アタシが一番、アタシが一番、アタシが一番……!」

「ぐらぐらじゃない」

 

 

 スカーレットが頭を抱え始めたので寄っていってスズカを引き取る。やー、と嫌がっていたものの、私相手に強引にはなれないので引きずられて戻ってきた。

 

 

「暇ならせっかくだしコメントとか書いたら? ブルボンもきっと喜ぶでしょ」

「暇じゃないですー。これから走りに行くんですー」

「走るの禁止だから暇じゃないの」

「やー」

 

 

 ぽすんぽすんと頭突きをされる。内なる自分を押さえながら席に戻ってきたスカーレットに飴を渡しておき、わがままスズカに通知表の原稿を渡してみる。

 

 

「むー……どこなら書いて良いんですか?」

「この辺。ここに私が書くから」

「む……何を書いたら喜びますかね……」

「……何だろうねえ」

 

 

 ペンを取って、うーん、と考え込むスズカ。どんなことを言ったらブルボンが喜ぶかなんて私が知りたい。レース前にブルボンに暗示をかけるのは喜んでるのかな。それともシンプルに不安なのか……うーん。ブルボンの感情もそこそこ解るようになってきた……というか、ブルボンは無感情であるという先入観が無くなってきたから、もう少し解り合いたいかもね。

 

 

 しばらく考えるスズカを眺めていると、少しして、どこかに電話をかけ始めた。

 

 

『はい、もしもしスズカさん?』

「あ、もしもしスペちゃん。あの、ちょっと相談があるのだけど……」

「直接後輩に聞いた……」

「プライドとか無いの、唯一の直属の先輩として」

『あ、トレーナーさんいらっしゃるんですね。こんにちは』

「はいこんにちは」

 

 

 まあスズカの頭では出てこなかったか。こう、スズカらしいと言うか何と言うか。つくづく自分の走ることしか考えていないんだなあ、と。

 

 

『それで、相談って?』

「あ、うん。その、ブルボンさんの誕生日プレゼントにメッセージを書きたいのだけど」

『あ、え? はい。な、内容ですか? ごめんなさい、私もそういうのは……お母ちゃんに書いたことくらいしかなくて』

「あ、ううん。書く内容、思い付いたんだけど……もしスペちゃんだったら嬉しい? って聞きたかったの」

『……え? スズカさんそういうことできたんですか?』

「スペちゃんも最近トレーナーさんみたいなこと言うわよね……」

 

 

 あなたのせいですよ、とばかりにこちらを睨むスズカ。いや……私も驚いている。まさかスズカにそんなことができたなんて。

 

 そして、スズカがスペシャルウィークにメッセージ案を語る。非常に簡潔に纏まったそのメッセージに、スカーレットは震え私は呆れ、スペシャルウィークは。

 

 

『……大丈夫だと思います。物凄く、欲しくなりますよ。私も、凄く、ちょっと羨ましいです』

 

 

 その声が、明らかに燃えていた。

 

 

 電話が切られ、スズカが我が物顔で棚からシューズを取り出す。うーん、まあ、良いか……ブルボンが喜ぶならそれが一番良いわけだし。ただまあ、今からはちょっと厳しいかもね。

 

 

「行きましょうトレーナーさん。よろしくお願いしますね」

「夜にしましょう。勝負服も着て、ね」

「むー……じゃあウォーミングアップに走ってきます」

「だめでーす」

「やー……」

 

 

 

 嫌がるスズカを引き留めて、私は通知表の最終推敲に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「ただいま戻りました、フラワーさん」

「お帰りなさ……ぶ、ブルボンさん? なんですか、それ……」

「マスターに頂いた誕生日プレゼントです」

「え、あ……よ、良かったですね……?」

 

 

 四月二十五日、日曜日。記録者、ミホノブルボン。本日は、私、ミホノブルボンの誕生日です。今年は催しとして、マスター、スズカさん、スカーレットさんの料理を食べ比べるということを行いました。スズカさんはいつになったら味付けを覚えるのでしょうか。

 

 また、それぞれからプレゼントも頂きました。世代、年齢、収入を鑑みスカーレットさんには前もって不要と話しておきましたが、マスターとスズカさんからは頂いています。

 

 

 スズカさんから、何枚かのタオルを頂きました。私のデータベースにはありませんが、全て異なるメーカーの、異なる材質を用いた品だそうです。是非次に買う時の参考にして欲しい、と言われました。

 

 そして、マスターからいつか話したVRゴーグル……を、玩具向けに改造したものを頂きました。撮影、外部接続機能はありませんが、内部カメラにより全方位が見える上、音が鳴ります。高揚感を覚えたので着けたまま帰宅しています。

 

 

「あ、ブルボンさんっ」

「誕生日プレゼントなら不要です」

「う……じゃあ、せめて、これ、今日の私のおやつなんですけど、ショートケーキ、ブルボンさんに食べて欲しくて」

「……しかし、フラワーさんから誕生日プレゼントは貰わないようにマスターに」

「私今日、甘いものの食べ過ぎは良くないってトレーナーさんに言われちゃったんです。だから、はんぶんこしましょう? 助けてくれると嬉しいです」

 

 

 解析中。誕生日プレゼントの授受にはあたらないと判定。普段お世話になっているフラワーさんの手助けであると思われます。マスターの指示には反しないと判断。

 

 

「……では、いただきます」

「良かったっ。じゃあちょっと、切り分けちゃいますねっ」

 

 

 どこかから包丁を取り出したフラワーさんが、悩みながらケーキを切り分けようとしています。その間、私はマスターからの二つ目のプレゼント……十数ページの冊子を取り出します。マスターからの通知表です。

 

 

「……」

 

 

 ゆっくりと開きます。ほとんどは、私と共にクラシック路線を走るウマ娘達のことが書いてあります。また、去年と一昨年のダービーウマ娘の、ダービー勝利時のステータスも表示されています。歴代でないのは手間でしょうか? それとも、何か要因があるのでしょうか? 

 

 

 そして、最後三ページ目。そこにある、私のステータス。

 

 スピードD+

 スタミナC

 パワーD+

 根性D+

 賢さD+

 

 そして、向かいのページに、総評。

 

 

『ダービー前追切でスピードCは固い。全体的なステータスも素晴らしい、出走ウマ娘で一番。ダービーも大本命一着、無敗三冠も王手。頑張ったわね、ブルボン』

 

 

 ……。三度目です。自分の、感情の、制御も、できています。日々、言われていることです。文面にされたところで、何も、変わりはしません。

 

 次のページ、は。

 

 

『まってます』

 

 

 スズカさんの字です。たったの五文字。これだけ印刷ではなく、手書きで載っていました。そしてその下に、数字の羅列。

 

 

「2200m、二分──」

 

 

 書かれていたのは、タイムでした。スズカさんのサインのように並んだそれらを理解するのに時間がかかります。

 

 

「フラワー、さん」

「え? はい! 苺はもちろんブルボンさんが食べて良いですよっ」

「ありがとうございます……いえ、フラワーさん。芝2200mのレコードタイムをご存じですか?」

「え? うーん……すみません、1600mまでしか覚えてなくて……」

「ありがとうございます。気にしないでください」

 

 

 待っている。スズカさんが、このタイムにいます。越えなければなりません。常に先頭で走るスズカさんを、私は追いかけて、そして……

 

 

「……ブルボンさん?」

「……いえ、大丈夫です。問題ありません」

「そうは見えないですけど……」

 

 

 内側から、謎のエネルギーの増大を確認。トレーニング欲求にも似ています。いけません。今日はダービーへの追切に向け休養をとるように指示を受けています。走ってはなりません。しかし、この感情の昂りは。

 

 

「……っ」

「きゃっ……ぶ、ぶぶ、ブルボンさん!?」

「……申し訳ありません」

 

 

 自制のため、フラワーさんを抱き締めます。人肌は感情や欲求の抑制に有効です。マスターやスズカさんが日々実践しています。

 

 

「な、なんですか、け、ケーキ……」

「……っ」

 

 

 しかし、まだ足りません。胸元の痛みが、腹部の熱が、震える背筋が、今すぐ走り出せと命令を下しています。常に平静で、自分のペースを保たなければなりません。私の勝利のメソッドは一つしかありません。ですから。

 

 

「フラワーさん……こちらへ」

「あ、え!? ま、まってくださいブルボンさん、あ、あの、その、一緒に寝るのは子供みたいで、あっまっ、せ、せめてお風呂、お風呂に入ってからじゃないと汚れちゃ、あ、あっあっ」

 

 

 セカンド・プランをとります。エルナトの常識に従って、ですが。




この後めちゃくちゃ説教された。次回、ダービー追切。
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