走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

122 / 249
うすあじ。


友達を紹介するミホノブルボン

 

「じゃあ今日も終わりね……聞こえてないか」

「……ぃ……ぇ……」

「まだ意識あるの? 凄いじゃないブルボン。ちょっとびっくり」

 

 

 ダービーも直前まで迫ったある日。今日もブルボンとスカーレットを潰した私は、ターフにしゃがんで二人を水で冷やしていた。スカーレットは完全に気絶、ブルボンは虫の息……っていうと瀕死みたいだけど。疲れてるだけね。

 

 やっぱりこの二人は凄い。二日に一度気絶するまで追い込んでいるのにモチベーションが留まることを知らない。それに、ブルボンに至ってはダービーに向けて高めた強度を既に克服し始めた。

 

 

「スピードの伸びも良いし。やっぱり効率良いわね、スズカと走るの」

「…………ぁ」

「無理して喋らなくて良いのよ。寝てたら運んであげるから」

「…………」

 

 

 仰向けのままゆっくり首を振るブルボン。今度はあれかな、気絶するまで追い込まれてもなお意識を保つ自分に喜びを感じているとか。そんなことに喜び感じないで? 

 

 さて、それでこっちはこっちでやることがある。いつも通り走り続けるサイレンススズカを何とかしなければならない。一応対処法は確立されている。

 

 

「スズカー」

 

 

 こっちに向かってくる周回を見計らってメガホンで声をかける。

 

 

「終わりよー」

「!?」

 

 

 対処法というか、スズカも少しずつ良い子になってきているのだ。最初の方は理性無く走り続ける悲しきモンスターだったものの、今では私の声に反応を示すようになってくれた。

 

 ……ちなみに、スズカ自身の聞き分けが良くなったわけではない。単純に普段から走れるようになったから欲求不満が多少なりとも抑えられているだけだ。

 

 

「はい、終わり!」

 

 

 そして、私の声に反応して脚が人間レベルまで落ちたところで、走るスズカの目の前に飛び出す。物凄い衝撃とともにスズカに押し倒される形になるが、すぐに足と足を絡める。

 

 

「ぅぎゃっ……と、トレーナーさん、もう一周……二周だけ……!」

「何伸ばしてるの」

「ぁぅぁぅ」

 

 

 スズカの体重そのものは大したことはない。スピードさえ無ければ走っていてもギリギリ……まあ結構痛いんだけど、覚悟さえしていればぶつかっても大丈夫。ちなみに本気で走っているところに飛び出したら双方ただでは済まない。

 

 逃れようともぞもぞ動くスズカの頬をうりうりして、額を指で弾く。早めに退いてくれないと周りに誤解されるからね。抱えるみたいに立たせて、ウマ娘用の手錠をかける。私と繋げばもう暴走はできない。

 

 

「酷いです、横暴です」

「何が横暴よ。たくさん走ったじゃない」

「これは走ったうちに入らないです……」

「はいはい。また考えてあげるからスカーレットを担いであげて? 部屋に帰るよ」

「あい……」

 

 

 実際今の期間はスズカのランニング禁止もかなり緩い。キツくしてもスズカは勝手に走るから関係無いけど、私からのお墨付きありと無しでは気持ちが違うんだろうね。え、そうだよね? そう思っておいて良いよね? 

 

 

「よいしょ……っとっとっとっ」

「あっ危ないですよトレーナーさん」

 

 

 ブルボンを持ち上げた……のは良いものの、少しふらついてしまった。後ろにブルボンごと倒れそうになる私の腕をスズカが掴んだ。片腕でスカーレットを持ち上げながら二人分を止めるとは流石ウマ娘。

 

 

「ありがとう。ちょっとふらついちゃった」

「助けてあげたので走っても良いですか?」

「それはだめ」

「……二人とも私が抱えますから走っても良いですか?」

「だーめ」

 

 

 そんな……なんて消え入りそうな声で呟くスズカ。この子はまったく何かにつけて。

 

 

「じゃあ帰るわよ。よいしょ」

 

 

 肩掛けのバッグはスズカに持ってもらって、トレーナー室へ戻っていく。肩に担ぐみたいに抱えているわけだけど、まだ意識があるはずのブルボンはこれどんな気持ちなの。

 

 

「……マスター」

「ん? どしたの」

 

 

 しばらく歩いて校舎に入った頃。ブルボンがか細い声で呟いた。

 

 

「以前……ライスと会いたいとおっしゃっていました」

「私が? うん。言ったけど」

「今から私の指示通り動いてください」

「え……あ、会う約束とかしてるの?」

「いえ、ライスは付いてきていますので裏を取ります」

 

 

 取ります、じゃないが。

 

 

 でも興味はあるのでブルボンの言われた通り校舎内を練り歩く。今更良いんだけど、担当を抱えて歩き回る私ってどういう風に見られてるのかしらね。あと普通に疲れてきたし。

 

 

「次、右折したらすぐに走って左折してください。六秒以内です」

「いや無理無理。抱えたまま走れないって」

「……ではルートを変更します」

 

 

 そして、しばらく歩き回って、いい加減私の腕も限界、何ならブルボンが回復して一人で歩けるんじゃないかと思い始めた頃。ブルボンが私の肩を叩き止まらせた。もう良い? 本当に疲れたんだけど私。もう階段登れないって。

 

 

「振り向いてください、マスター。あれがライスです」

「ほう」

 

 

 なぜ歩かされたのか解らないけど、まあスズカと一緒に振り向く。そこに、小さめのウマ娘がいた。長い黒髪で、片目が隠れている。何かこう……思ってたのと違う。

 

 もうちょっとロックな感じの子だと思ってた。なにせ誘拐の手伝いをしたり、ストーキングしたりする子だから。ところがどっこいこう見ると、とても大人しそうというか、どちらかと言えばおどおどしているタイプだった。

 

 

 ……いや待て、本当にそうか? おどおどしてたら見付かった時点で逃げ出すような気もする。私とスズカが見ているのに、物陰からちょこんと顔を出したまま逃げようともしない。一歩ライスシャワーに踏み出すと、一歩下がっていく。

 

 

「ここからどうするの?」

「彼女は会話ができます」

「そりゃできるだろうけど……ブルボンが話しかけたら?」

「解りました。ライス、聞こえますか」

 

 

 びくっとライスシャワーが一瞬身体を隠し、すぐにまた出てきた。

 

 

「今日は元気そうですね、ライス」

「……!?」

「いえ、これはトレーニングの結果です。不健康から来るものではありません。ご安心ください」

 

 

 ちょっと距離があるので私にはライスの言葉は解らない。話している間に少しずつ近付いていく。

 

 

「え、あ、ええ。こんにちは。サイレンススズカです」

「スズカさん、会ったことがあります」

「えっ……そうなの……? あ、ああ、思い出したわ。確か会ったわね」

「スズカさん……ああ、ライス。マスターの聴力では聞こえません。あと十メートルほどお待ちください」

 

 

 またこの子は。担いだスカーレットで顔を隠すスズカ。ライスシャワーとの距離もそこそこ詰まってきて、彼女も物陰から出て物凄い勢いで頭を下げてきた。

 

 

「こ、こここ、こんにちは!! ライスシャワーです!」

「あら……こんにちは。可愛い子ね」

「はい。小動物を思わせるとクラスでも評判です」

「そう……」

 

 

 確かに少し震える声は庇護欲をそそる。これが母性……? 普段スズカに感じてるのは母性じゃなかったのね。良かった……良かったのかな。

 

 ともかくライスシャワー。思っていたイケイケヤンキーではなく、普通におどおどした小さめ、小さく見える子だった。これに拉致を手伝わせたの、ブルボンは。

 

 

「ど、どうしたの……あの、め、迷惑だった……?」

「いえ。ついてくることについては以前もお話ししたようにまったく問題ありません。今日はこちらの……私のマスターがライスと顔合わせをしたいと」

「あ、あの、あ、ら、ライスシャワーです、ブルボンさんには、えと、お、お世話になってまひしゅ……ぁぅ」

 

 

 ぺこぺこと頭を下げるライスシャワー。よくブルボンと仲良くなれるわね、こんな感じで。真逆とかのレベルじゃなくない? ブルボン、言葉選びとか間違えてライスシャワーにダメージを与えてたりしない? 

 

 

「こちらこそいつもブルボンと仲良くしてくれてありがとうね。ちょっと挨拶がしたかっただけなの。驚かせちゃったらごめんね」

「あ……い、いえ、大丈夫、です……ライ……私こそその、大きな声出してしまってごめんなさい……」

「ううん。大丈夫よ」

 

 

 さて。ライスシャワーの目を見て能力を見せてもらう。これが大きな目標だ。

 

 うーん……普通。別に他のウマ娘とそう変わらない。やはり何度見てもブルボンに届き得る能力ではない。これが何か爆発力を以てブルボンを超える可能性……もちろんマチカネフクキタルとかいう世界のバグがいるのであり得ない話ではない。

 

「少しお話したいなと思ったけど……時間とか大丈夫?」

「え、えと、えっと……」

「マスター。食べ物で釣りましょう。ライスはこの体躯ですがとてもよく食べます。私と同じタイミングでトレーニングをしているでしょうから、恐らく現在ステータス:空腹と思われます」

「ブルボンさん!? い、言わないで!? と言うか釣るって何!? ライスお魚さんじゃないよ!?」

「じゃあ甘いものでも食べようか?」

「良いですね。行きましょう、ライスさん」

「あっあっあっ」

 

 

 大人の私とスズカとに言われ、ライスシャワーは混乱して黙ってしまった。軽く暴露をかましたブルボンが私の肩から降りて、ふらつきながらもライスシャワーの手を握る。

 

 

「行きましょう」

「えっ……あ、えっと……は、はい……じゃあ……」

「良かった」

 

 

 こういうパワーバランスかあ。スズカフクキタルの正反対とはまた違う感じね。何よりブルボンが他の子と仲良くしてるのを見るとこっちまで嬉しくなる。スズカからスカーレットを受け取り、財布を渡しておく。

 

 

「私はいらないから先に頼んでおきなね」

「はい。じゃあ行きましょうか、ライスさん」

「は、はい、よろしくお願いします……」

 

 

 スズカも少しだけ気を張ってくれているし、これで安心だ。あとは私も個人的にライスシャワーと話せるようになって、色々把握しておかないと。

 

 

 ……でも、やっぱりこんな気弱そうな子が飛ばしてくるとは思えないけどなあ。まあそのうち解るか。ダービーまでに何か掴めると良いんだけど。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。