走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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急降下ジェットコースター。メインはもちろん後半なので前半は飛ばしてもらってもかまわないやつ。


脅しを掛けるサイレンススズカ

 

「天晴ッ! 素晴らしい快挙だ、エルナト・トレーナー!」

「ありがとうございます」

「サイレンススズカ君もそうだが、歴史を塗り替えたと言っても過言ではないッ! 偉業だな、これは!」

「ええ、本当にそう思います。おめでとうございます、トレーナーさん!」

「本当に、ありがとうございます。ブルボンはよくやってくれました」

 

 

 ある日。エルナトのトレーナー室に、理事長とその秘書、たづなさんが来ていた。生憎、褒められるべき主体であるブルボンは友達に誘われてダービーのお祝いに連れていかれてるし、スズカやスカーレットも是非話を聞きたいと言われ駆り出されているので、私一人で応対することに。

 

 流石はトレセン、部屋にはどう考えても遊ぶためだけの物がいくつもあるが、スズカやブルボンの実績の前にそれを指摘することはない。開き直ってコーヒーメーカーを動かすと、死ぬほど砂糖を入れて飲み始めた。そんなに甘いのがお好きですか。先に言ってくれればココアとかもあるのに。

 

 

「それにしても素晴らしい功績だ。私としても正直な話、夢や心意気は買うが本当に達成可能とは思わなかった。心の底から信じてやれないのは私の未熟さ故。しかし! 努力でそれを覆したことはどんな言葉でも讃えることのできない快挙だ!」

「ええ。ブルボンはとても頑張り屋で、丈夫な子です。無理を言っても頑張ってくれる素晴らしいウマ娘ですから」

「うむ! しかし、スパルタというのもだな、本来は──」

 

 

 たまに暴走すること以外に欠点が無いとまで言われる小さな理事長は、『伝説ッ』の扇子を広げて機嫌良く扇ぎながらいつものありがたいウマ娘についての話を始めてしまった。

 

 

 まあその、ウマ娘のために死ねるようなトレーナーなら冗談ではなく本当にありがたい話なのだろうけど、生憎と私が知りたい情報は二人からは基本的に出てこない。伸び脚や爆発力というのは、その子の限界が見える私にしか気付きようのないものだ。

 

 レースと練習は違う。練習でのタイムよりも本番の方が高いというのはかなり多くの一流ウマ娘に共通する性質でもある。誰が言ったか、『僕らは一人では強くなれない』。まあスズカみたいに一人で勝手に強くなるのもいるし、現状トレセンでもトップのシンボリルドルフ、ナリタブライアン、マルゼンスキーだって別に確固たるライバルがいたわけじゃないけど。

 

 

 お話も数十分続き、理事長は一度トイレを挟んでまで話していた。そして、あらかた話し終えたのか、ぐっとカップの中身を飲み干すと、たづなさんに合図をしていくつかの書類を差し出してくる。

 

 

「世間話はこれくらいにしておこう。本題は二つあるからな!」

「はい」

 

 

 ここから二つあるんだ……

 

 

「細かい説明はたづなに任せるッ!」

 

 

 理事長が言うんじゃないんだ……

 

 

「では、ええと、こちらとこちらですね。説明用のものですので扱いはご自由に。秘匿はトレーナーまででお願いします」

「ありがとうございます……ふむ」

 

 

 渡された書類によると、どうやらいくつもの局や新聞社、出版社から、ブルボンへの取材ないし出演依頼が殺到しているとのこと。まあそりゃそうよね。

 

 たづなさんの説明が始まるが、気持ち丁寧というか……いやたづなさんはいつも丁寧なんだけど、今日は輪を掛けてゆっくり進めてくれているし目線もかなり低い。

 

 

 ……これはあれね、スズカに続いて次はブルボンにスター性を見出だしたから、好き勝手使おうって話ねたぶん。

 

 スペシャルウィーク達はそれこそみんなで切磋琢磨して強くなるタイプの子達だから、五人全員との兼ね合いが必要だ。一方、スズカにしろブルボンにしろ大体の話が単体で完結する。直属の先輩後輩であり、同じ逃げウマ娘というのもあるし、一般人に二人の走り方の違いなど区別などつくまい。最終直線で伸びる逃げは大体同じだ。

 

 

 もちろんブルボンの意思が最重要なのはこの場の全員が解っているので、最終決定だけせずに話を進める。ニコニコと聞いているだけの理事長。あの、猫と遊ぶのはやめません? 可愛いですけど。

 

 

「と、まあこれくらいですね。質問があればいつでもご連絡ください。あ、何ならどこかご飯でも食べながらお話をするでも」

「え、ええ、またそのうち」

 

 

 仕事中に飲みに誘うのもやめませんか、たづなさん。

 

 

「で、続いてなのだが、エルナト・トレーナー。こんなメールでも良いような仕事の話はどうでも良い。大切なのはここからだ」

「……はい」

 

 

 突然、いつにも増して真剣な顔になる理事長。扇子を置いて、厳粛に語り始めた。

 

 

「皐月賞も勝った。ダービーも勝った。ミホノブルボン君の夢はまだ濁ってはいないだろうか。まだ、胸を張って三冠を目指すと言えるか?」

「言えますよ。ブルボンが三冠を諦めることは決してありません。何があろうと菊花賞には出るし、勝つでしょう」

「……君は、どうだ。それを信じ、勝たせるために今と同じことを続けるのか」

「……申し訳ございません」

 

 

 ですが、これはブルボンが勝つために必要不可欠なんです、とだけ繋ぐ。ライスシャワーがいる以上、私達は少しも手を抜くことは許されない。やっぱりスパルタは良い顔をされてはいないが、やめるわけにもいかない。

 

 

「……いや、謝る必要はない。以前も言ったが、君が心から大切に思ってくれているのならそれで良い。残酷なことだが、勝つために捨てなければいけないものは大きい。彼女のような、そもそもが向いていないウマ娘にとってはなおさらだな。君に最大限の理解を示そう」

「……痛み入ります」

「この後も同じようにするという意味だろうか?」

「…………します」

 

 

 私はブルボンを勝たせなければいけない。そういう契約で、私も勝って欲しいからだ。私にできることは全部やる。その上であの子を送り出してやらなければならない。夏でブルボンを圧倒的に強くする。そして、ライスシャワーの致命的な爆発力を超えられるようにする。

 

 私が今まで避けていたことだ。スズカは大大吉マチカネフクキタルに勝てない。最強最速のスズカであってもだ。それを、努力だけで覆そうとしている。

 

 

「ミホノブルボンはそういうウマ娘です。もし私が止めてもやります。そして、あの子が自分でやめたいと言うまで私はやります」

 

 

 つまり、永遠に諦めることはないということ。ブルボンは走れなくなるまでは走る。絶対にだ。精神的な理由でそれを止めることはない。

 

 そうか、と目を閉じる理事長、少し考え込んだ後、普段の満面の笑みに戻って立ち上がり、そのまま扇子を広げた。いつの間にか、『面談ッ』扇子になっている。あの、面談とお仕事の話は分けてもらえると本当に助かるんですけど……。

 

 

「では、また来るからよろしく頼むぞッ! トレーニングに励むように!」

「お疲れさまです。ありがとうございました」

 

 

 ドアを半開きにしてビシッと指をさす理事長と、丁寧に頭を下げるたづなさん。二人を見送りホッと一息。あー緊張した。毎回のことだけど怒られるんじゃないかと思ってしまう。心臓に悪いからあんまり会いたくないわね、二人には失礼だけど。

 

 

「おはようございます、トレーナーさん」

「ああ、おはようスズカ」

 

 

 そして、仕事を片付けつつ夏の予約の準備もしていると、今日はスズカが先に来た。荷物を置いて、制服からジャージに着替え始める。

 

 

「今日のトレーニングのことなんですけど」

「うん」

 

 

 この子も全部脱いでから着替えるタイプなのは何なのかしら。エルナトってそういう警戒心が無い子しか入れなかったりする? 私が女だから? でもスズカとブルボンはトレーナーが男でも普通に脱ぎそおえっ。想像したら脳が破壊されました。

 

 

「トレセントラックの芝よりトレセンの外の土が良いです。外に出ませんか?」

「……ん?」

「今日は一日快晴らしいですから、夜にかかれば星空も素敵ですよ。私が走れば実質流星群です」

「今日はランニングにすること前提で話が進んでない?」

「……ですので」

「ですのでじゃないが」

 

 

 着替え中のスズカにクッションを投げ付ける。ほわぁ、と間抜けな声をあげて、バランスを崩してソファに崩れ落ちるスズカ。下着姿のままバタバタと脚を動かして、ちらりちらりとこちらに目配せを繰り返す。

 

 

「ちらっ? ちらちらっ?」

「今日はプールって言ってあるわよね」

「嫌です……走らないと……今日は走らないと大変ですよ?」

「何が起こるの?」

「爆発しますよ」

「爆発するのは大変ね」

「ですよね!?」

「じゃあ水に浸けときましょうか」

「んなー……」

 

 

 クッションで顔を隠して仰向けになるスズカ。隠すとこ違うでしょ。というかエアコン効かせてるんだから風邪引くわよ普通に。

 

 

「良いじゃない、プール。もう暑くなってきたし、水浴びだと思えば」

「トレーニングを遊び扱いするのは違うと思います」

「はっ倒すわよおバカ」

 

 

 ちょうど手元にあったスズカぬいぐるみを投げ付けると、カウンターでクッションが飛んできた。椅子ごと後ろに傾く圧倒的パワー。手加減して手加減。もうちょっとさ。鼻潰れちゃうから。

 

 

「というか服着なさい。誰かが来たらどうするわけ?」

「走らせてくれるなら着ます」

「自分を何だと思ってるの。そんなこと言っても走らせてあげないからね。下着のままいれば?」

「変態……」

「私が見たいみたいに言わないで?」

 

 

 ウマ娘ってみんなこうなの? いや、トレセンは事実上女子校なわけだし、そのうえ身近な大人も女となればこんなんになるのかな。それとも家庭環境から来る歪みかな。後者だと触れづらいし前者は改善できないし。

 

 

「このまま走ります……」

「バカバカ。二人纏めて犯罪者じゃん」

「でもトレーナーさんが走らせてくれないのが悪いですよね?」

「そんなわけないでしょ。ほら着なさい」

「やー……あー……」

 

 

 寝転がるスズカにジャージを持って歩み寄る。流石に服を着せてあげるのはやり過ぎなので自分でやって欲しいんだけど、走りたい走りたいになってしまった以上何を言っても無駄かもしれない。しょうがないから着せるか。

 

 

「ほらスズカ。着なさい」

「どうしてですか……まずは走る方が先のはずです……!」

「着る方が先でしょ」

「わー」

 

 

 抵抗するスズカ。このっ、やはり力が強すぎる。無理やりどうこうできるようなパワーの差ではない。こうなったら一旦ふにゃふにゃにしてから着せるか、とジャージを投げ捨て脇に手を伸ばしたところで。

 

 

「あっトレーナーさん外に」

「エルナト・トレーナー! 一つ言い忘れていたことがあるの……だが……?」

 

 

 ドアが開いた。半裸のスズカに襲い掛かる私。死んだ。

 

 

「なん……で鍵を掛けてないのスズカ……! 理事長! これは違います!」

「いや……も、もちろん、と、トレセンは恋愛禁止などとは言わん……ウマ娘が卒業後トレーナーと結婚するようなことは日常茶飯事だ……ど、同性カップルへの理解も……このご時世……」

「待ってください理事長! 行かないで!」

 

 

 どうしてこんなタイミングで戻ってくるんだこの理事長は。タイミングが悪すぎる。ヤバい、変な誤解をされる……! 

 

 

しかし、大切にとはそういう意味ではなくだな……

「違……理事長!? 理事長!」

 

 

 そっと閉じられた扉を、私は強くこじ開けた。開かなかった。スズカは笑いを堪えていた。服の上と言わず直接お尻叩くわよこのポンコツ。




ブルボンが活躍すればするほど作品がシリアスになるんだよなあ
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