走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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意に介さないサイレンススズカ

 

 ある日。今日も今日とてスズカは走りたがっていた。

 

 

「どうしてダメなんですか?」

「次は宝塚よ。走る量を少なくしていきましょうね」

「やー……」

 

 

 ソファで私の隣に座り、足をばたつかせながらこてんと頭を寄せてくるスズカ。そう、もう六月も少し経ち、今度はスズカの宝塚が迫ってきている。

 

 ファン投票は堂々第一位。恐らくそのまま一番人気になるだろう。他は……宣言通りスペシャルウィーク、それについてきたグラスワンダー。そして、エアグルーヴがトゥインクルシリーズでのラストランを決めている。

 

 元々、エアグルーヴはシニア二年でドリームリーグに昇格する予定だったらしい。しかしスズカの怪我を受けて、三年目で最後にスズカとの決着をつけてから行くと、春シーズンだけ延長することを発表した。

 

 

「そんなエアグルーヴに報いようとは思わないのあなた」

「だから走った方が良いですよ? 練習しましょう?」

「あなたに限っては正論じゃないのよね、残念ながら」

 

 

 何度も言っているがスズカの強さは根本のスピードと先頭への執念から来るものだ。そして、スピードはいまだ全く伸びていない。今更走るだけのトレーニングでは何も変わらないどころかマイナスにもなり得る。もちろん、どんなにたらふく走っても、レースとなればスズカは燃えてくるんだろうけどね。

 

 

「エアグルーヴも走ってほしいと言っているはずです」

「言うわけないでしょ。何年一緒なのあなた達」

「言いますぅ。エアグルーヴは泣きながら『走れスズカ。走ってくれ』って言ってましたー」

「それ脚が折れてる時の話じゃないの」

「むむ……」

 

 

 私の太ももをぱしんぱしんと叩くスズカ。まだ完全禁止期間に入っていないからこそ、スズカのおねだりも少し落ち着いているような気がす痛い痛い痛い足がバラバラになるって。

 

 

「はーしーるー」

「だーめー」

「なーんーでー」

「筋トレならたくさんやるけど?」

「それじゃ! 走れないじゃないですか! もう!」

 

 

 もう! じゃないのよ。走らせないためにやってるんだから当たり前でしょ。ちゃんとトレーニングルームもとってあるんだからね。足りないところを伸ばすのは大事だ。これ以上長所が伸びないんだから。

 

 

「風……風が……風が私を呼んでいます……」

「今日は風なんか吹いてないけど」

「走れば吹きます」

「相対的風かあ」

 

 

 私をゆっくり押し倒して、上に乗ったままむむむ、と私のボタンを付け外しし始めるスズカ。これからこんなんで、もうすぐ来る禁止期間を乗りきれるんだろうか。レースの度に困ってるわ私。お互い様ではあるけど。

 

 

 しばらくスズカと過ごしていると、スズカのウマホに連絡。スペシャルウィーク達が来るらしい。一人でこっちに向かっていたが、途中でグラスワンダーやエアグルーヴと合流したんだとか。あの三人は対スズカの第一人者だからね。

 

 スズカに勝とうと思ったら……まあ他もそうだけど、基本的に知らないと勝てないわけだ。三人はスズカがどういう存在かをよく知っている。走ることしか考えていないし、自分の速さを微塵も疑っていないモンスター。

 

 

 普通、自分の力を疑う段階というのは誰にでもある。負けた時とか、伸びが苦しい時とか。スズカはマチカネフクキタルには何度か負けているし、タイムなんか計っていないが恐らく大きくは伸びていない。

 

 それでも、スズカは自分が一番速いことを欠片も疑っていない。良い悪いの話ではなく、特異なのだ。そして、それらを全て知っていてなお、力押しではまず勝てない。

 

 

「三人とも大変なんだねえ……」

「あの、私も人のこと言えませんけど、そんな適当な……」

「スズカが負けるわけないもんねえ」

「……もう。褒められると走りたくなりますよ」

「アホ」

「直球の悪口……」

 

 

 スズカが私の膝に落ちてきた。鼻をつついてぷぁぷぁと鳴かせているうちに、ノックの音。はーい、と返事をすると、来客は普通にドアを開けて入ってきた。

 

 

「こんにちは、スズカさん、トレーナーさん!」

「お二人とも、お疲れ様です。お邪魔します」

「邪魔をする……ふっ。いつも通りで何よりだ」

「いらっしゃい。適当に座って。飲み物もお好きにどうぞ」

 

 

 スペシャルウィーク、グラスワンダー、エアグルーヴ。現在のトレセンにおいて、恐らく打倒スズカを堂々と掲げている三人だ。メジロドーベルやメジロブライトは路線が微妙に違うのと、マチカネフクキタルは……何してるんだろう。まだトゥインクルにいるとは思うんだけど。彼女はもう勝ってるから違うか。

 

 私の見立てで言うなら、まあグラスワンダーは怖い。しばらく会っていないうちに何か吹っ切れたようで、特に何の柵もない微笑みを見せてくれている。可愛い。

 

 

「宝塚前の視察ってことで良いの?」

「はい! 万が一にもスズカさんが本気で走れないなんてことがあると困りますから!」

 

 

 スペシャルウィークが燃えている。いや、エアグルーヴとグラスワンダーもそうか。一応会いに来てくれたということで身体を起こしたスズカを、少し煽るような笑顔で見ている。なるほど、これがスズカでなければ少し怯えてしまうほどの迫力がある。事実私はちょっとビビっている。

 

 

「ありがとう。でも大丈夫よ。トレーニングもしっかりできるし。今日もこれから走りに行くの」

 

 

 しかし、スズカは違った。異次元の逃亡者と呼ばれるのは伊達ではない。どちらが強いかはともかくとして、異次元から殺気が飛ぼうと挑発されようと何の影響があろうか、ということだ。文字通り次元が違う。

 

 

「行かないよ。ジムだよ」

「え……言ってることが違います。今日は疲れて眠くなるまで夜道をランニングだって話でした」

「よくもまあ一言も言ってないことを捏造できるわね……?」

「あーあ。もう本調子じゃなくなっちゃいました。宝塚は本気で走れません。ごめんね三人とも。私、もう走れない……」

 

 

 ついに友達の負けん気を武器にすることを覚えたようだ。賢い。しかし、まだ自分と友達、後輩の関係性が解っていない。ポンコツ。

 

 

「いや、走らないで良いですよ? その方が物凄い走りをするじゃないですか!」

「ふぇ」

「同感だな。いつも通りランニング禁止を……今から始めるのはどうだ? 長ければ長いほど強くならないか?」

「もう、お二人とも……そんなはっきり言わなくても……」

 

 

 スズカに対して妙に辛辣なスペシャルウィークはともかく、笑顔だけなら優しそうなグラスワンダーすら強く否定はしない。親友といってもいい間柄に裏切られたとでも思ったのか、スズカはわっと泣き出したようなリアクションの後私に抱き付いてきた。

 

 ちなみに、私自身がスズカを制御しきれていないからやっていないが、禁止期間を長くしたら青天井で強くなるのかは私も気になる。ああいや、やらないよ? 本気で泣かれると嫌だから。

 

 

「たくさん走った方が良い成績を残せるわ。ね?」

「普通のウマ娘はな。スズカは違うだろ」

「私、ウマ娘。ふつう」

「お前が普通のウマ娘なら、私だってこんなにお前を……まあ、なんだ。とにかく、スズカの禁止には私も力を貸すからいつでも言ってくれ」

「わぁ助かる」

「トレーナーさん!」

「痛い痛い痛いメイクが、メイクが落ちる」

 

 

 クッションで顔面を殴り飛ばしてくるスズカ。顔はやめて顔は。ガードはするが怒りのスズカは止まることなく連打を繰り返す。

 

 

「がっかりしました。三人もよ。私のことを解ってくれていると思ったのに……」

「誰よりも解っているとも」

「その上で、走らないでください、スズカさん!」

「へぅ」

 

 

 スズカ、撃沈。

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 

 

「はいロープ。縛る練習をします」

「はいじゃないのよバカトレーナー」

「宝塚記念へ向けてであれば少し早いですが、何か理由があるのですか?」

「引っ掛かるのはそこじゃないんですよ」

 

 

 いつもの決意表明VS挑発が終わり、三人と入れ違いになってブルボンとスカーレットが来た。三人の希望通り、早速スズカに荒縄を差し出す私を見て、スカーレットは眉を顰め目を見開いた。

 

 

「親友と後輩から頼まれたのよね、スズカ」

「りょ、了承していません……」

「あの三人のために頑張ろうとは思わないの?」

「三人を盾にするのは卑怯です……!」

「スズカに言われたくないなあ」

「大体事情は把握しました」

「え……理解早くないですか?」

「ダービーウマ娘ですから」

「関係無……それ流行ってるんですか?」

 

 

 それに値するほどの名誉ではあるものの、ブルボンはダービーウマ娘であることをことあるごとに誇ってくるようになった。あら可愛い。これで三冠取ったらこの子はどうなっちゃうんだろう。

 

 

「どんな縛り方が良いか言ってみなさいスズカ。聞くだけ聞くわ」

「何言ってんのアンタ」

「縛られたくないです……」

「そりゃそうでしょ」

「強いて言うならで良いから」

「あるわけないでしょバカ」

「手が使えないので後ろ手は嫌です」

「何であるのよ!」

 

 

 今日は練習なので、とりあえず体育座りをするスズカの手足を縛って転がしておく。ブルボンとスカーレットが来たので仕事をしないといけないのだ。

 

 スカーレットもツッコミはしている……が、まあ、縛られたスズカを解こうとはしないし、何か恐ろしいものを見る目を向けつつも飲み物を出してきたあたり慣れてきている。そうでなくては困るわ。

 

 

「とりあえず二人には連絡事項ね。スカーレットのメイクデビューは二週間後。ほとんど最速だから、順当に勝てればジュニアのうちに重賞も取れるし阪神ジュベナイルフィリーズにも間に合うと思う」

「頑張るって言うべきかしら……それとももっと目の前の現実に向き合うべき?」

「ブルボンはまたいくつか取材とか入ったから、確認してみてね。一個トレセンの方から是非出てほしいって言われたのがあるんだけど」

「承知しました。どんなオーダーでも受け付けています」

「ラジオ生放送よ」

「……撤回します」

 

 

 こっちも、仕事と言っても大したことじゃないけどね。スズカもブルボンもできることとできないことがはっきりしているからこういう仕分けもとても簡単なのだ。従順だし賢いので説明も最低限で良い。スカーレットもたぶんそうだろう。

 

 

「何なら一回で良いからスズカとブルボンでゲストにって言われてるわ」

「走って良いなら行きます」

「では特別メニューを組んでいただけるなら行きます」

「ダービーウマ娘の誇りはどうしたんですか誇りは」

 

 

 こいつら。スズカのついでにブルボンも縛った。お茶の間に見せられない感じになったのですぐに解いた。ラジオの仕事はせっかくなので受けた。




次元が違う(ギャグ時空とスポ根時空)
スズカはスポ根に混ざっちゃいけないってそれ一番言われてるから。
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