走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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心を殺すサイレンススズカ

 

「んー……」

「どうかしました? トレーナーさん」

「んにゃ……大したことじゃないんだけど」

 

 

 ある日。トレーナールームにて、私は悲しい日課になってしまったメールチェックをしていた。

 

 チーム・エルナトの悪評……悪評か? まあ私は悪評だと思ってるけど、悪評は留まるところを知らない。もう八割諦めているけど、スパルタで全てを解決するチームだと思われており、崖っぷちのウマ娘達が頻繁に連絡を取ってくる。

 

 非常に切実なメッセージもかなりある。これに関してはこの間のブルボンのラジオも効いてる可能性もある。ブルボン、スパルタ教の教祖様みたいなところあるもんね。そのブルボンが『悩んでないで行動しなさい』って言ったらそれは行動するよ。

 

 

「また色々メールがね」

「良いじゃないですか、気にしなければ」

「そりゃそうなんだけどさあ」

 

 

 ランニング禁止中のスズカは今日はほんの少し落ち着いている。何でも、エアグルーヴと話して、せっかくだからその覚悟に応えたいんだとか。スズカにもそういう感情があったのね、と言ったら尻尾で叩かれた。なんでよ。

 

 暇潰しのジグソーパズルを組み立てながら、しかし見知らぬ未勝利ウマ娘には流石に興味はないらしい。強者の特権を今日も遺憾無く発揮している。

 

 

「そろそろ病んじゃうよ私」

「大丈夫ですよトレーナーさんだし」

「私のこと何だと思ってるの」

「私がいるじゃないですか」

「それはそうかも……?」

 

 

 スズカが用意してくれたコーヒーを一口。まあ、スズカとその脚のおかげで幾分余裕ができていることは否定できない。何があっても、『でも私にはスズカがいるし』と思えるのは大きい。

 

 とはいえ、流石にここまで積み重なると思うところがないわけでもない。別に何とかできるなら今すぐ何とかしたいとは思っているのだ、私も。来たメールを何とかするというよりは、メールが来ないようにしたい。

 

 

「何か良い考え無いかな……」

「無いんじゃないですか?」

「もっと親身になって?」

「スズカ相談所はランニング10kmで一時間話を聞くことにしました」

「じゃあ一生聞かない。廃業~」

「……ぇぅ」

 

 

 撃たれたみたいにソファに寝転がるスズカ。いい加減私も憂鬱になってきたのでパソコンを閉じる。ルール上着信拒否はできないのが辛いところだ。勝手にスズカが砂糖をドバドバにしたコーヒーを持ってスズカの隣に腰掛ける。カップを渡すと、さも当然のように飲み始めた。

 

 

「甘過ぎない?」

「美味しいですよ」

「そっかあ。いやそっかあじゃないな。砂糖入れすぎね君」

「私の怒りです。今日は走るのに良い日なのに、ぅ、ぅぁ」

 

 

 どんな日でも良い日な癖に。ムカつくのでイヤーカバー越しにウマ耳を弄ぶ。カップを置いて、私にもたれ掛かるスズカ。良い匂いするなあ本当に。ウマ娘からすれば人間が感じ取れるほどの匂いは強すぎるので、つまり私のためにこうしてくれているわけだ。可愛いわね。

 

 

「返信、しなくて良いんですか? 凄い子がいるかもしれないですよ」

「いないわよ」

「そうですか……」

 

 

 実力のある子はよっぽどの変わり者じゃないとスパルタなんかしない。当たり前だ。私がこの力を持ってブルボンやスカーレットがそれを使っているから成立しているだけで、どちらか欠ければすぐに心か脚が折れる。

 

 それ以外にも、多すぎると私はダメになるし、なまじ能力が見えるだけあって平等に扱う自信が無い。この間もスズカのために二人のトレーニングを休みにして物凄い顔で特別メニューを快諾させられた身だ。

 

 

「お疲れ様です、トレーナーさん」

「お疲れスカーレット。早いわね」

 

 

と、悩んでいるうちにスカーレットが来た。ブルボンは今日は実家に呼ばれているらしく来ない。トレーニングは当然スカーレットだけになる。楽で良いわ本当に。これで固定給は変わらないしそこそこ貰えるのバグでしょ。

 

 

「……日直に手伝いを断られたのよ。いつもやってもらって悪いからって。先生が見てたのに……加点のチャンスを逃したわ」

「会話を聞いてれば高評価じゃない? 慕われてる子ってことだし」

「……まあ、それなら良いけど」

 

 

 ドアを閉じて素の口調に戻り、鞄を放って飲み物を取り出すスカーレット。そもそもはこの子も、圧倒的才能に目が眩んで受け入れちゃったのよね。あんまり増やす気は無かったのに。

 

 

「で、何悩んでんの?」

「……解る?」

「そりゃ解るでしょ。めちゃくちゃ顔に出るもん。ですよね、スズカ先輩」

「……私だって解ってるわよ。でもトレーナーさんが話してくれるまで聞かないでおこうって思っただけなんだから。別に解ってたし」

「……よろしく、トレーナー」

 

 

 こいつ。唇を尖らせてぎゅっと私に寄ったスズカが面倒になって逃げた。私達が座るソファの向かいに座り、缶ジュースで口元を隠しながら目を逸らすスカーレット。え、というか私ってそんな顔に出る? 自分の頬を弄くってみるけど何も解らない。個人的にはクールビューティーって感じで行きたいんだけどな、私。

 

 

「ビューティーはともかくクールは無理でしょ」

「なんでよ。行けるかもしれないじゃん」

「まずスズカ先輩の頭から手ぇ離しなさいよ」

「……クールビューティーでも担当を撫でるくらいするでしょ」

「しないでしょ」

 

 

 私のイメージがどうなっているかは後で問い詰めるとしよう。スズカを撫でるのは継続しつつ、課題を開いているスカーレットを眺める。慣れてきたなあ色々と。だからこそ、新しい子を入れるのが物凄く怖いし嫌なのだ。たづなさんは入れろ入れろって言ってくるけど、そんじょそこらのスパルタとは訳が違うんです我々は。

 

 

「で、実際何で悩んでたのよ」

「ん、まあ……チーム加入希望が多くてね……」

「後輩……はできなさそうね。じゃあ何? お断りの文句でも考えてるの?」

「学園のテンプレをそのまま貼るだけだからそれは良いのよ」

 

 

 あのテンプレ、再度の応募も受け入れるみたいに読めるから切実に改変して欲しいけど。

 

 

「じゃあ悩むこと無いじゃない。私が言うのもおかしいけど、このチームは選ぶ側でしょ?」

「でもさあ……ちょっと心に来るじゃない。お断りを出し続けるだけでも」

「ふわっとしてるしどうすれば良いか解んないし。女々しいわよトレーナー」

「女だよ?」

「女ですよ?」

 

 

 おっぱい触るのやめよう?

 

 

「だから前言ったじゃないですか。希望者全員にテストを課しましょう。私に勝てたら加入ということで」

「誰が入れるんですかそのテスト」

「走りたいだけじゃんスズカが」

「どうしてやる前から諦めちゃうんですか? もしかしたら一人くらい……一人……ぅ、ぉぇ」

「おーよしよし。心にも無いこと言えるタイプじゃないんだから無理しないの」

 

 

 たとえ嘘でも、スズカは「走りたくない」と「自分より速い子がいる」は言いたくないらしい。

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「……あ、思い付きました」

「何を? はいお水」

「ありがとうございます……さっきの話です」

 

 

 トレーニングも終わり、ストレッチ中。スカーレットが唐突にぴこんとウマ耳を立てた。どうやら思い付いたらしい。うちで一番賢い子だし、聞く価値はある。順にブルボン、スズカと価値は減る。

 

 

「いっそのこと体験で受け入れてしまえば良いんじゃないですか?」

「どういうこと?」

「いや、生半可な覚悟ではついてこられないってことを広めれば応募も減ると思うんです」

「……そうはならなくない?」

 

 

 スズカに前屈させられながら、どうも頭の悪そうな理論を展開するスカーレット。元々私を頼ろうなんてウマ娘はスパルタか退学かを迫られてるような子だし、そう簡単に折れるとは思えないけど。

 

 

「あんまり他の子をバカにはしたくないですけど……ここのトレーニングが続けられるのはよっぽどの覚悟がありますよ」

「ブルボンとスカーレットはやっていけてるじゃない」

「……それを聞きます?」

 

 

 ぎろり、と他に見られないように私を睨むスカーレット。相変わらずの迫力にひぇ、と声が漏れ、こらこら、とスズカが強く上体を押した。

 

 

「いたたたたたたスズカ先輩、痛い、ヤバいですこれは!」

「ダメじゃないそんな顔しちゃ」

「今日スズカ先輩がおかしいんですけど! トレーナーさん!」

「今スズカは必死に自分を殺しているのよ」

「何を言ってるのか解らない……!」

 

 

 スカーレットが死にそうなので少し緩めてあげて、完全に目が死んでいるスズカを撫でる。どうにかエアグルーヴのために走らないようにするべく、スズカなりに最大限の努力をしているらしい。それができるなら毎回やって欲しかった。

 

 

「でもまあそうね……体験……体験かあ」

「やってないんですか? 私はやったのに」

「スカーレットは才能の塊だったからつい」

「……ふーん、そう」

 

 

 でももし心が折れなかったらそのまま引き受けることになりそうで怖い。私そんなに責任持てないよ。確固たる約束をしたのもブルボンまでだし。

 

 一方で、心が折れるならギリギリ良いアイディアかもしれない。悪評はさらに加速するとしても、応募は少なくなるだろう。と言うか私自身が何も思い付いていないので何を言うこともできない。

 

 

「……まあでもダメ。もし折れなかった時加入させたくないから」

「……チッ」

「今舌打ちした?」

「してません」

 

 

 とは言え、何となく少し体験……というか入部テストという名目で数日間面倒を見るくらいはやっても良いかもしれない。是非、私が才能を見抜けるだけの一般トレーナーだということを知って欲しい。

 

 

「スズカさんも良いアイディアだと思いませんか?」

「……スカーレットさん、静かに」

「そうよスカーレット。スズカは今限界なんだから」

「何言ってうわっ尻尾ぶんぶんじゃないですか」

「すみませんトレーナーさん……め、目隠し……手枷も……無理、ターフが見えるともう……」

 

 

 ウマ耳をぴこぴこ跳ねさせ、びゅんびゅんに尻尾を振ったスズカが助けを求めてこっちを見てきた。目が鋭くなりかけている。まあこっちもしっかりと用意はあるので、目隠しと手錠を着けて座らせておく。

 

 少しずつ呼吸が深くなっていくスズカ。走りたいメーターが上がっていくのを感じる。スカーレットはまだ理解度が足りないわね。

 

 

「そんな走れそうなこと言ったらスズカが困っちゃうでしょ」

「いや……断言しますけど私は悪くないです」

「でも現実にスズカは今必死に戦ってるのよ」

「知らないですよ」

 

 

 宝塚まであと一週間。スズカは果たして我慢できるのか。頑張れ頑張れと呟きながら、私はその日スズカを撫で回して過ごした。




エルナトのメンバーは増えません。いつもの狂気アピです。
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