走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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この作品史上もっとも落ち着いているスズカ。


稀に見る落ち着きを見せるサイレンススズカ

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

「はいよろしくお願いします。じゃあミーティング始めますね」

 

 

 翌々日。

 

 早速メールの中からまだマシ……いや本当に申し訳無いんだけど、団栗の背比べの中からまだ見込みのありそうな子を五人選んで、『体験加入をしないか』という返信をしてみた。

 

 すると、全員が一分で参加しますとの返信を寄越してきたし、十分で全員集まってしまった。いやその、ちょっと怖いくらい追い詰められているような気がしないでもないけど。

 

 

「自己紹介は……まあ追々、真面目な話が終わった後にしましょうか。とりあえず練習のスケジュールとかルールとか、そういうのを伝えておきます」

 

 

 希望を持たせて刈り取るような真似であることは解っている。でも、私の心の平穏のために我慢して欲しい。それに、少なくとも私の所にいる間はそれなりに成長できるわけで、やらないより良いと思う。

 

 正規エルナトのうち二人は、私の後ろでベッドに腰掛けて無言で圧をかけている。というか、走れないスズカと無表情のブルボンはそんなつもりがないのに見つめるだけで圧になっていた。

 

 

「どうぞ、先輩方」

 

 

 そしてもう一人はこれ見よがしに出来る後輩アピールに走り飲み物を用意してくれている。集まってくれた子達はクラシックの子、つまりブルボンと同世代が三人、シニアが一人、ジュニアが一人なので基本的にスカーレットの先輩にあたる。

 

 でもまあ、その、ステータスや適性は酷いものでスカーレットにも劣る。いや、スカーレットはごく一部の選ばれた才能の塊なのでそれと比較するのは残酷だけど、それにしても今まで何をしていたんだと思ってしまう。

 

 

「まず期間だけど、基本的には夏合宿までを考えてます。その先は相談しながら。で、私との相性とか考えつつ正式に加入だったりって感じで」

 

 

 適性が壊滅的なのは良い。良くないけど良い。それは本人の才能であって努力ではどうにもならない。にしても芝CダートDとかは私にどうしろって言うのよとは思うけど良い。

 

 一方ステータスは本人の努力も半分くらいある。あと半分は良いトレーナーに巡り会えるかどうか。こっちも酷いのは正直直視できない。シニアでスタミナFとかいくら短距離マイル中心でも限度があるでしょ。スピードFももうちょっと無いの? そりゃ未勝利しか勝てないって。むしろ勝てたのが奇跡じゃん。

 

 

 ……とまあ、こういう風に見てしまうので、私はスズカ達みたいな強いウマ娘しか育てられないのだ。冷静に考えて、ほぼインチキで活動している私よりも、この五人の方が頑張っているに決まっている。私に見下す権利は無い。無いのに、見えてしまうとそう思わざるを得ない。

 

 

「トレーニングはそこに書いてある通り、全員共通でやります。そしてこれからが大事なのだけど、みんなには決して私の指示を超えたトレーニングをしないことと、私の指示の範囲で限界までトレーニングをすることを誓ってもらいます」

 

 

 何を当たり前のことを、と首を傾げたり互いを見合ったりする五人。ごめんね。エルナトは凄いところなの。そう思わせるために犠牲になってもらうわ。怪我はさせないし、ある程度強くはしてあげるから許してね。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「じゃあ次は……」

「ちょ、ちょっと待ってください……き、休憩……」

 

 

 準備運動も終わり、アップで既に疲れている子もいたけど無視してメインのトレーニングへ。長い距離を限界ギリギリの強度で何度も走らせる、エルナトお得意の地獄のようなランニングをやらせてみた。

 

 

 アップをチームの後輩に教えるという仕事を任されご満悦なブルボンと、やや疲れが来ているが今日は猫被りが止められずいつもよりキツそうなスカーレット。うちの子達はいつも通りだ。

 

 

 一方、体験組は完全にバテている。ラスト一本はつい怒鳴ってしまったくらいタイムを無視していた。多少はしょうがないけど、最後の方ほぼ歩いてた子もいる。

 

 スピードとスタミナのステータスを見ながらタイムは設定したけど、少しまだ遅いかな。もう少し早めても良い、と思っていたのだけどね。しかも、その修正をしている間休ませていたはずの五人が何か言ってきた。

 

 

「聞きながら座ってても良いですよ」

「いやその……も……もう少し……」

「……うーん」

 

 

 体力はまだ残っている。怪我率も無い。同じくらいのブルボンとスカーレットは普通に立っているし、消耗への耐性の差が如実に出ている感じ。体力を限界まで使い果たすことを知っているので、それまで動くことができるのだ。

 

 一方五人はそうではない。走った直後の消耗を、根本的な消耗と間違えているのだ。その証拠に喋る余裕がある。初めの方のブルボン達はそれすらできずに倒れていたわけで。

 

 

「まだできるし今十分休んだでしょう。目標タイムを全体的に上げます」

 

 

 ただ、だからと言って手心はない。

 

 

「うそ……むり……」

「無理じゃない。最初に言ったでしょう? 指示の範囲で限界までやってくださいと」

「も……限界……」

「それを決めるのは私です。ブルボン、スカーレット、立たせなさい」

 

 

 追い込むのが目的とはいえ、もちろん怪我はさせたくないしさせない。少しとはいえ責任感もあるから強くはしてあげようと思う。思うが、それとこれとは別の話。

 

 結局、全てはブルボン達のように倒れるまでやることに通ずる。説得も面倒なので一方的に指示を出し、背中を押すようにして位置につかせた。

 

 

「死ぬ気でやりなさい。大丈夫、本気で走ればギリギリ達成できるはずだから」

 

 

 有無を言わさず笛を吹く。何だかんだウマ娘は素直なので、ヘロヘロでも一応真面目に走ろうとはしていた。本人達の覚悟もあるのだろう、思ったより遅いが目標を守ろうと言う意志は感じられる。

 

 ただ、意志があろうと脚が遅いことに変わりない。段々と遅れていき、戻ってくるなりまた座り込んでしまった。初めてなのでメガホン二回目は控えておきます。

 

 

「うーん……遅れてます。もう少し気合い入れなさい」

「無理です……走れません……」

 

 

 うちでやりたいという気合いに比べて根性が無さすぎる。まだもう二回くらい走れると思うんだけど、どうして諦めてしまうのか。いや、私ならもっと早めに諦めてるけど。

 

 

「次」

「うぐ……」

「ブルボン、スカーレット」

「はい」

 

 

 全員手を引かれて連れていかれた。あと二本、少し休憩とマッサージを挟めば追加でもう一本行けるかな。

 

 心なしかブルボンの調子がとても良い。かなり気力が溢れているように見えるし、喜んでいる以上に普通に強くなっている。今日もライスシャワーは見てるんだろうか。

 

 

 そして、再び五人が帰ってきた。帰ってくるなりそのまま倒れ込む。流石のブルボン、スカーレットも立ってはいるが、スカーレットについてはブルボンの肩に手を置いて寄り掛かってもいる。

 

 

「お疲れ。良かったですよ。あなたはもう少しストライド閉じてみましょう。スタミナはそこそこあるみたいだから、距離短縮してピッチで押した方が可能性あるかも。1800とか1600くらいが向いてますね」

 

 

 水分と、一応ちょっと固形物も持ってきてはいる。差し出してはみるが、みんな受け取ってはくれない。喋らなくなってしまった。

 

 

「二人はまだ大丈夫よね?」

「もちろん……です……」

「はーっ……はー……と、当然……じゃない……ですか……げほっ」

 

 

 流石うちの子はヤバい。本調子からの消耗の割合を見るならあまり変わらないはずだけど……才能と気合いの差をこんなに感じることはない。五人がダメなのではなく二人がイカれているのだ。そうしたのは私だけど。

 

 

「水分はとった方が良いですよ、はい」

「……ぃ……」

「いらないなら良いですけど。二人はいる?」

「私は不要です……スカーレットさんは」

「……お願い……します……」

「はい。じゃあ貰いますね」

 

 

 スカーレットを寝かせて、顔にドリンクをかけ始めるスズカ。五人にもやってあげたいけど、慣れてないと普通に苦しいだけなのよね。ついでにジャージも脱がせて背を反らせ顎を上げる。

 

 倒れている五人はどうしようか。もう覚悟しているので今さら心は痛まない……いや痛まないのは嘘だけど、限界までやることに躊躇はない。まだできる。

 

 

「トレーナーさん……その、一回だけ走っても……」

「ダメ」

「そんな……今なんですよ。ちょうど今、一番走るのに適した気温になりました。ほら」

「ほらじゃないが。温度計なんか持ち歩かないで?」

 

 

 スズカにもそこそこ余裕がありそうだ。スズカはスズカで今回の禁止については精神的な鎖が大きい。エアグルーヴのためというのもあるし、私の手が止まって練習が止まるとチームとして良くないというのをちゃんと解っているんだろう。

 

 今回は偶然とはいえ、次からやるにはスズカのストレスが心配なのでできないけど。無理やり禁止させるならともかく、スズカに良い子を演じさせるのは本当に傷付くからね。私もスズカも。

 

 

「もう少しで終わるから、ね」

「んむ……早くしてくれないと我慢できなくなっちゃいますよ」

「はいはい。偉いねえスズカは」

 

 

 抱きしめて頭をぽんぽんとして、もう少し頑張ってもらう。私もほら、責任を負いたくないというのはあるけど、そもそもスズカとの時間を失いたくないってのもあるのだ。推しだからね。最推し。

 

 

「さて……じゃあ五人とも、立ちなさい。約束しましたね。まだできますからまだやります。少しだけペースは緩めますので」

「マスター」

「ブルボン達は別よ。同じタイムで走りなさい」

「……了解しました」

 

 

 嬉しそうね、ブルボン。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「……ふむ」

「ふむじゃないですけど」

 

 

 そして、強引に走らせた結果、死屍累々といったところ。気を失ったのが二人、乙女の尊厳を失ったのが二人、意識はあるが何にも反応しなくなってしまったのが一人。全員がターフに倒れ伏していた。

 

 芝を汚さないようにバケツを差し出したスズカが、中身を見ないようにしつつベンチの裏に置き、私の隣に立つ。

 

 

「どうでした?」

「……まあ、頑張ってたわ」

 

 

 そうですか、と、オマケのように倒れている正規エルナトの二人にばしゃばしゃ水をかけるスズカ。二人は意識もあるしまだギリギリ会話もできる……はず。頭が回っているかは知らないけど。

 

 

「ごめんねブルボン、スカーレット、五人を運ばないといけないからもう少しだけ頑張れる? とりあえず屋内まで運んでくれたら後は私がやるから」

「……ごめ……む……り……」

「……行動…………可能体……力まで……残り……十五……時間……」

 

 

 流石のブルボンもバグっちゃった。ただやり過ぎとは思わない。これを望んだのはブルボンだし、良いところを見せようとしたのか最後の一回で無駄に加速したのは本人だからだ。それくらいじゃ怒らないけど、よくもまあそんなことができたものだ。

 

 しかし、二人が動けないとなると……適当に呼び出せる人手にも心当たりが……いや、待てよ。

 

 

「ブルボン。今日はライスシャワーはどこにいるの?」

 

 

 これくらい頼んだってバチは当たらないだろう。

 

 

 

 なおブルボンを見ながら同じことをしようとしていたライスシャワーも限界だったので、結局力は借りられずスズカと一緒にせっせと運んだ。




結末なんか皆さん予想できるでしょうので、もう次で当然のように全員リタイアしてるか、もう一話くらい狂気アピするか考え中。
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