走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
グランドライブシナリオ、メインキャラ昇格おめでとうございます。
二次創作してる身として一番怖いのは公式解釈に真っ向から歯向かってしまうことなんですけど、まあなんかスズカさんならこんなものだろうなあって感じではありました。良かった。
「はーいどうぞ。お待たせしました」
「わあ……ありがとうございます」
「ゆっくりしていってねー」
気の良さそうなおばちゃんが、漫画で見たことありそうな三色の団子をはじめ、いくつもの団子の皿を置いていった。通りから少し入ったところの野外テーブルで、私とスズカは先に出されていたお茶を啜る。
「いただきます」
「いただきます」
うん、美味しい。
宝塚記念前日。私達は二人で京都に来ていた。特に何か理由があるわけではない。阪神レース場で行われる宝塚記念に際して前乗りしたのだが、ホテルでじっとしていたら我慢できなくなります、とスズカが言うのでせっかくだからと少し遠出してきたのだ。
いつも通り私がキャンピングカーを動かして来ているので、そこにちゃんとブルボンやスカーレット、他の臨時エルナトの子達も乗ってきてはいる。ただし、阪神レース場併設のトレーニング施設で全員潰してきた。今頃は大阪のホテルで倒れていることだろう。
よってスズカと二人きりだ。何も話さなければお淑やかで綺麗系なスズカなので、あまり騒がしくない場所の方が合っている。ウマ娘らしく団子の数はちょっと引くくらいだけど。
「あっトレーナーさん大変です……」
「ん?」
「最初にみたらし団子を食べたら、他全部味がみたらしになっちゃいました……」
「ぶふっ」
「あぅ、き、汚い……ちょっとトレーナーさん、きな粉を飛ばさないでください」
「んぐ……ご、ごめん……アホだなあって……」
「直球……」
昼食は少し少なめにしてあるので、いくら食べても構わないと言えば構わないけどね。お店も事前に連絡をしてあるから。何とか舌を戻そうと湯呑みを傾けたまま止まりお茶を舐めるスズカ。
しばらくして諦めたのかみたらし団子を全て私に押し付けて、他のを食べ始めた。
「んー……美味しいです」
「ね。心が落ち着くわ」
「いえ落ち着きはしませんけど。今すぐ走り出したいですけど」
「外でも内でも我慢できてないんじゃない」
「当たり前です。走らないとダメなんです」
意味が解らないけどとにかく力説してくる。団子を頬張っていなければもうちょっと言い返しても良かったんだけど、可愛いので適当に流しておくことにした。すると、むむむ、と頬を膨らませて串を私の足の隣に刺してきた。
「あっぶな」
「ちゃんと聞いてますか? この頬っぺたを見てください」
「いっぱい食べれて偉い」
「頬張ってるんじゃありません。拗ねてるんです」
つんとそっぽを向くスズカ。でも頭を撫でるとちょっとこっちに傾く。可愛いねえ。この調子で頑張って我慢しようねえと声をかけていると、お店の人が……ご夫婦かな、二人で並んで外に出てきた。
なんでも、せっかくなのでスズカにお店の宣伝をしてほしいと。スズカにできる宣伝はウマッターくらいだけど、それでも良いそうで。一番奥の人目につかない場所に陣取らせてもらってるし、たくさん食べさせてもらったのでもちろん承諾。スズカとお二人のスリーショットを撮った。
「えっと……保存……んー……トレーナーさん、文面とかどうしたら良いんでしょう」
「お店の名前入れて、ここでお団子食べました、みたいなので良いんじゃない。美味しかったですって」
「なるほど……」
ご厚意でお代がちょっとだけ安くなりつつ。お店を出る支度をしながら、スマホを見ながら首を捻るスズカに適当に返す。あのご夫婦がスズカをどう思ってるか知らないけど、世間一般にとってのスズカは『異次元の逃亡者』だ。ギラついて先頭しか見ていないウマ娘に凝った宣伝など求めてはいないだろう。
……まあ、ウマッター上では結構化けの皮は剥がれてるけど。夜におはようの返信をするとか、好きなポーズで自撮りが欲しいですとかいう半分セクハラに対して走行中のぶれまくった自撮り写真を送ったり、チャームポイントを聞かれて何故か私の写真を送ったり。最後のは叱った。
それでもレース前後の目付きと、『あのエルナトにそんなウマ娘がいるわけがない』という謎の偏見によって、まだまだスズカは格好いいタイプのウマ娘に思われていそうだ。
「じゃあ……うん、投稿っと……」
「え? あっ待ってスズカ今じゃない」
「え? もう投稿しちゃいましたけど」
「あー……」
またこの子は何も考えず。スマホを取り上げて呟きを削除する。トゥインクルシリーズ一億人のファンが見ているのだ。それも、阪神で大レースが行われる日の前日の京都である。
「えっサイレンススズカ!?」
「嘘! ここじゃん!」
そりゃこうなる。滅多に呟かないぶん、通知とかしてる人もたくさんいるんだろう。道の方からざわざわと結構な人数が入ってきてしまった。
「あっトレーナーさん、なんでお団子を取り上げるんですか……」
「ファン対応の時間だからよスズカ」
「えー……むむ……」
不服そうにしながらも口を拭って日陰の方に座るスズカ。私はお店の人にめちゃくちゃ頭を下げて、お団子を買ってからファンサということで許してもらった。ウマ娘に続いて数えるのが面倒な数のファン。夏の売り上げはもう良いんじゃない?
スケッチブックを借りて、時間を区切って書いておく。あとはこれを渡しておけば、最後尾まで回っていくはずだ。ファン感謝祭でもプラカードで同じようなことをしているし。
……トレセンにも連絡しておこう。京都レース場辺りから警備の人を送ってもらえるかもしれないし。他のウマ娘ならともかくスズカならいけるでしょ。
「本当に大好きで、まさかこんな近くで会えるなんて、あの、あ、明日も応援してて、そのっ」
「あ、あの……な、泣かないでください。落ち着いて……」
突然のファンミーティングに、列に並んでいる人達もかなり喜んではいる。まあその、近くにスズカがいるからって突撃してくるファンというのは否定できないけど、一言言っただけでちゃんと一列に並んでくれてるし、荒れている様子もない。
「トレーナーさん、あの、写真を……」
「ああ、はい。じゃあこっち側に座ってもらって」
「いえ、私とトレーナーさんの写真が欲しいらしくて」
「……ん? うん」
なんで???
────
「あー……疲れました……」
「お疲れ。これに懲りたら気を付けなね」
「はい……」
時間を区切ってファン交流を乗り切り、何とか抜け出した先。勝負運で有名な神社に行くことにして、スズカに変装を施した。お団子屋さんまでは数人にバレるくらいで済んだんだけど、一度バレているのでちょっとだけ入念に。
「握手で手がバラバラになっちゃいます」
「応援されてる証じゃない。後で揉んであげるわ」
「応援は嬉しいですけど……目の前で走るのを見るとかで満足してくれないでしょうか……」
「無理でしょ」
スズカのレース出走ペースはかなりゆったりしているから、それだけでも満足するファンもいるかもね。
「何とか私が走るだけで済むファン交流を考えてください。このままじゃ私の握力と写真が大変です」
「走りたいだけじゃん」
「何か問題がありますか?」
「ありまーす」
やや色の付いた眼鏡、普段は被らない鍔付きのウマ耳隠し帽、髪もポニーテールに纏めてられていてとても可愛い。服もやっぱりどっちかというならマニッシュ寄りの方が似合っている。尻尾もパンツに隠しているし。格好的に撫でられないので、代わりに手を繋いでスズカの腿を叩く。
「もう少しこう、節操というか」
「節操で走れるんですか?」
「子供みたいな反論しないの」
「子供ですぅ。子供なので走ります」
「学校と部活が終わってから夕方のチャイムが鳴るまでね」
「ゼロじゃないですか」
ファンサ決定の瞬間より不服そうにしないで?
「今だって人がたくさんいるから我慢してますけど、脚がウズウズしてるんですよ。こんな格好させるから」
「別に変な格好じゃないし、何ならあなたの私服でしょ」
「ズボンは全部です。走りたくなります。ジャージに似てるので」
「今度スカート買いに行こうか」
「スカートは脚を動かしやすいので走りたくなります」
「無敵だなあ」
何でも良いらしいスズカにその辺で買った抹茶の何かを買い与えておき、ゆっくりと神社へ歩いていく。美味しいですよ、と一口貰った。美味しかった。
そして長いこと歩き、境内も見えてきた頃。すれ違うように、エアグルーヴと出会った。
「あら、偶然」
「本当にな。お前達も祈願に来たのか? 珍しい」
「あなたもじゃない? 神頼みとか好きなタイプだっけ?」
「努力に追加してのことならな。それに、明日でトゥインクルを引退するんだ。少しくらい良いだろう」
隣にトレーナーを連れ、スズカとは違いほとんど変装もせずに過ごしているエアグルーヴ。スズカとのメディアでの扱いの差が出ている。スズカは単に露出が少ないだけだが、エアグルーヴは明確に嫌っている節がある。そんな彼女を街中で見掛けても、積極的に寄っていくことはないんだろう。
向こうのトレーナーさんはスズカや私とほとんど話したことがないので、必然的に少し下がる形になる。何か気を遣ったのか、飲み物でも買ってくるよ、とどこかへ行ってしまった。
「お前達こそ祈るタイプじゃないと思ってたが」
「トレーナーさんとデートよ。いいでしょ」
「……お前、ついに教え子に」
「違う違う違う。変な誤解しないで? ただスズカがじっとしていられないって言うから遊びに来たの」
冗談だ、と冗談ではない顔で言うエアグルーヴ。あなただってトレーナーと二人じゃない、とか言ったら殺されるんだと思う。
「まあ良い。ここで会えたのも運が良かった。スズカ、少し話したいことがある。お互いのトレーナーは抜きでだ。本当は今日の夜辺りに電話でも良かったんだが」
「ん? ええ。良いわよ。今から?」
「ああ……すまない、スズカのトレーナー。スズカは責任を持って走らせないし、話が終わったら必ずあなたの元に帰す。良いか?」
「良いけど」
今も学園では毎日会っているはずで、積もる話なんか無いと思うけど、かなり真面目な顔をするエアグルーヴの圧に負ける。彼女ならスズカを走らせないこともできるかな。はなから私達に祈る気なんかないし、必要ならスズカを連れていかれても問題ない。大観光地で突然女一人トレーナーが生まれるだけだ。
「じゃあスズカ、行こう。歩きながらで良いから」
「ええ。じゃあトレーナーさん。また」
「ん、また」
それにしても、エアグルーヴがこうして祈りに来るなんて。本気なんだなあ。今も彼女のステータスは私に見えている。速い。強い。相変わらず超一流と言って良い。実力の話をするなら黄金世代と比べても遜色無い。レース経験も含めればかなりかなり有利だろう。
だが、惜しむらくはやはり、彼女には爆発力がない。スズカに勝つには、ここ一番で理不尽になれる何かが無ければならない。それは彼女も解っているはずで、だからこそ、実力以上の何かを求めて来たのだろう。
逆に、だからこそ私やスズカは祈らないのだ。ほんの少しもスズカの勝ちを疑っていない。明日もスズカは勝つだろう。エアグルーヴが弱いのではない。スズカがおかしいからだ。
禁句:以前の話では普通に街中歩いてませんでした?