走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

140 / 249
うすあじ。


地獄を歩むミホノブルボン

 

 その日の朝の部が終わり、一度限界を迎えたブルボンはリクライニングチェアで食事を取っていた。

 

 

「あーん」

「あー……んぐ……んむんむ……」

 

 

 ブルボンを限界まで追い込むと言った以上、ブルボンにはそれ以外の時間は全て休憩に回してもらう。それに、ブルボンがいくら丈夫でも、運動には休息と食事が付随しなければならない。

 

 よって、トレーニング後は私かスズカがブルボンを担いで布団まで連れていく。そして、昼食なり夕食なりの時間を遅らせないため、まだブルボンが動けない段階から食事を始めることにしている。

 

 

 まあ要するに、現在、疲れきって動けないブルボンの口に食事を突っ込んでいる。

 

 

「んぐ」

「大丈夫ブルボン。苦しくない?」

「……」

 

 

 ほっぺたを一杯にして、ふるふると首を振るブルボン。本当に苦しくないか遠慮してるのか非常に解りにくいけど、たぶん大丈夫だろう。ウマ娘だし。

 

 

「ごちそうさまでした。じゃあ走ってきますね」

「こらこら。手が離せないからってそういうことしちゃダメでしょ」

「えー……だってこの後ただ休むだけじゃないですか。時間が勿体ないですよ。三時間あればどれだけ走れると思ってるんですか」

「時間をランニングで換算しないで?」

「というかよく食べた後すぐに走れますね……いつものことですけど」

 

 

 スズカとスカーレットが先に食べ終わった。この夏は限界を攻めるため、運動食事睡眠を完全に管理する。旅館にも二ヶ月分割増料金を支払い、メニューや量に口を出させてもらった。笑えない額だったけど三冠のためなら安い犠牲である。

 

 トレーナーとして学んだ栄養学と、トレセンのお医者様、スポーツ栄養士の方まで使って全て献立を確定させ、時間も徹底的に管理している。

 

 

「はいブルボン、次はこれ。あーん」

「んむ」

「ちょっと……こっちが気持ち悪くなってきたわ」

 

 

 元々ウマ娘はその人間の理論を無視した力を発揮するとき、人間サイズのその身体からは信じられない量を食べる。ウマ娘によっては自分の体積を超えてるんじゃないかって量も食べる。

 

 しかし、あくまでそれは普通にトレーニングしたりレースをしたりという状態であり、それプラス、当然、飢えていたり消費が大きければその分も食べる。人間のように太ってから筋肉にする、なんてことをする以前に、ウマ娘でも多いような量を食べさせなければ、ブルボンの身体が消費に耐えられないのだ。

 

 

 そのうえで成長も見込むのだから、当然さらに食べる。結果としてスカーレットが、三人で食べるにしては少ないわね、と素で言ってしまう量を詰め込むことになった。もちろん栄養バランスを考えた上でね。

 

 

「スカーレットも休んだ方がいいわよ。夜もやりたければね」

「やりたいし休もうと思ったけど、今はブルボン先輩が見たいわ。本当に食べ切れるの?」

「食べさせるから食べ切れるわよ」

「恐ろしい答えが返ってきたわね……」

 

 

 一気に詰め込むのも、人間と違って極度に太りにくいウマ娘だからできること。それに、まあこれくらいなら食べられるとお医者様達も言ってる量だから、案外大したことはないんだけどね。どっちかといえばトレーニングで疲れきった状態でっていうのが大きい。

 

 表情を変えずひたすら食べ続けるブルボン。暇なのかスズカも食べさせに加わった。三十分かけて全て詰め込み、そのまま倒れていくブルボン。食べた直後なので大きくお腹が出てしまっているが、たぶんすぐ吸収するはずだ。

 

 

「本当に食べ切った……」

「少し身体を起こさないとブルボンが辛いわよ」

 

 

 少しシートを起こして、完全には寝転がらないように。疲れきっているブルボンはこれでもすぐに眠りについた。普段はシャットダウンだの何だのと弄っているけど、その気になれば自分の意思でどこでも一瞬で寝られるのは一種の才能よね。

 

 

 片付けをしてもらい、ブルボンが回復するまでしばらく休憩。将棋をやり始めた二人を眺めつつ、三人のステータスも見ておく。

 

 スズカは相変わらずスピードカンストで、トレーニングも緩いので成長は鈍い。しかし、成長が全てスピード以外に注がれているため、実質的に通常の速度で強くなっている。やっぱりこの子が最強だ。そもそもスズカはそうそう厳しくトレーニングをして強くなるのは向いていない。ストレス耐性が低いからね。

 

 スカーレットは……いや、スズカやブルボンと比べるとアレだけど、じゃなきゃめちゃくちゃ強いわね。問題なくジュニア女王になれるだろう。ウオッカの強さも見ておかないと。見たところで、現状のブルボンとライスシャワーを見るにあんまり参考にはならないけど。

 

 

 で、問題のブルボンはというと、やはり菊花賞をとれない方がおかしいくらいに仕上がっている。正直ここから負ける気がしない……爆発力を持つライスシャワー以外には。どんなにトレーニングをしてもその不安は振り切れない。

 

 

「王手です」

「え……あっ。ま、待った……」

「待ちません。私の勝ちです! やった!」

「トレーナーさん……負けました……」

 

 

 泣き言を言って転がってくるスズカ。結構序盤で完封負けしてるわね。もっと得意なもので挑んだら良いのに、あえてスカーレットを勝たせてあげようとしたとか? 

 

 隣に座ってこてんと頭を預けてくるスズカ。むー、と少し上向きになるスズカの喉をくすぐり、んふふ、と笑うスズカの頬を撫でる。ブルボンにボコボコにされた反動からかスズカをボコボコにして胸を張るスカーレットが、そのまま布団に倒れていった。

 

 

「あんまりスズカをいじめないでね」

「昨日ブルボン先輩にいじめられまくったんだけど」

「負けるのが悪いんでしょ」

「アタシのことも慰めなさいよおたんこにんじん!」

 

 

 スカーレットは普通の夏合宿くらいの強度でしかトレーニングをしていないので、休むといっても活動する余裕がある。投げてきた枕を受け止めスズカに渡して投げ返す。ふぎゅ、と倒れていった。

 

 

「この世は不平等だわ……」

「そもそもスカーレット、こういうの別に望んでないんじゃないの」

「……当たり前でしょ。ただでさえ暑いのにそんな引っ付くなんて」

 

 

 枕を抱き締めながら仰向けにこちらを睨むスカーレット。じとりと絡む視線を向けられ、スズカがさらに抱き寄ってくる。怖いですよ、と白々しく微笑んだ。

 

 

「してほしいなら正直に言ったら良いのに。ちょっとだけならトレーナーさんを貸してあげますよ」

「してほしいなんて言ってませんけど」

「またまたぁ」

「言ってませんけど!」

「ぐえ」

 

 

 調子に乗ったスズカが枕を投げ付けられ崩れ落ちた。先輩よ、そんなんでも。ちゃんと敬えとは言わないけど。

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「はい、百二十二ぃー」

「百……二十……二……!」

「頑張れ頑張れ。浅くなってるわよブルボン」

 

 

 トレーニング、夜の部。というか夕方。目を覚ましたブルボンを連れ出して、夕日の差す中筋トレをさせていた。

 

 

「頑張れー」

「ほらほら。足がつかなくなってきたわよー」

 

 

 足を吊り上げたブルボンの背中に板を載っけて、私達三人でそこに乗って腕立て伏せ。腰掛けている私達の足が地面につくように沈むよう言っているけど、流石に百を超えるとかなりキツそうにしている。最初の五十回くらいは平気そうにしていたのに。

 

 

「百……三十……二……!」

「あと十八回ー。もうちょっとよブルボン。ラストスパート!」

「ぐ……百……三十三……ッ!」

 

 

 疲れているから辛そうだけど、万全ならこれくらいは問題なくできるはずだし。体幹も鍛えつつ、脚には負担をあまりかけないように。カウントも自分でさせて、呼吸も一緒にさせる。

 

 あんまりこれに時間をかけられると困るんだけどね。この後いくつか筋トレして、走らないといけないから。

 

 

「そういえばトレーナーさん。あの、たまには私達もお祭りに行きませんか?」

「え? うーん……まあ、一日二日くらい良いかな」

 

 

 ゆっくり上下する板の上、スズカがそんなことを言い出した。私達は根本的に騒がしいタイプじゃないし、そもそも人が少ない場所を選んでいる都合上、お祭りが行われる場所から少し離れている。行かなくても良いかなあ、なんて二年思い続けていた。

 

 どうして急に、なんてことは言わない。スズカとの付き合いも長いし、大切な愛バなので言いたいことなど手に取るように解る。

 

 

「どうしたんです? スズカ先輩、お祭りとか興味ある人でしたっけ」

「え? うん……少しね」

「じゃあ今年はお祭り行こうか。ね」

「んん……」

 

 

 スズカの頭を撫でる私を見て、スカーレットがはっとした顔で口元を押さえた。

 

 

「あっそういう……私達は留守番?」

「どっちが良い? スズカ」

「……むむ」

 

 

 初日なんかならいざ知らず、夏合宿中の私はブルボンに付きっきりだ。それに朝は早く、そしてそのために夜も早く寝る。色々と、時間が取れていないのだ。首筋を擽られるも、流石にブルボンが大変なので大きくは動けないスズカ。

 

 少し唸って、スズカは尻尾を少し振った。巻き付けるみたいに私の腰にぶつける。

 

 

「……かわいっ」

「な、撫でないで、撫でないで……」

 

 

 そして、そんなスズカを見てニヤつくスカーレット。あなた、小動物感覚で接してない? 先輩よ? そんなんでも。

 

 

「百……五十……マスター……!」

「はいお疲れ。じゃあ五分休憩ね」

 

 

 ブルボンも終わったらしい。すぐさま降りて、仰向けに寝かせる。諸々の処置を終わらせつつ、膝に乗っけて頭を上げる。消耗はあるとはいえ、走っていないだけまだマシかな。

 

 

「お祭りに行くんですか、マスター」

「ええ。ブルボンも行く? 探せば何日間かは行けると思うけど」

「……いえ。留守番しています」

 

 

 そう? と汗を拭き取る。まあ、一日も休みたくないと言うなら良いけど。お祭りに行く日をやや軽くしてってのでも良いと思うけど……まあ疲れたままじゃ楽しめないだろうし、それは全面的にブルボンに委ねるけどさ。

 

 

「ねえトレーナー。ちなみにそれっていつになりそう?」

「んー……調べなきゃ解らないけど、まあお盆の前後だと思うわ。ごめん、すぐ調べとくから」

「ううん。別に直前でも良いわよ。ちょっと友達に誘われてるだけだし。休みは無しだと思ってたから断ってたけど」

「元々スカーレットにそこまでするつもりはないけど」

 

 

 もちろんスカーレットにもキツめのことはするが、別に休み無しなんか言うつもりはない。そう言うと、スカーレットは少し顔を顰めた。

 

 

「ブルボン先輩がこんなにやってるのに、私が遊べるわけないでしょ」

「ブルボンは気にしないわよ。ねえブルボン?」

「はい……ぉぇ」

「おっと」

 

 

 えずいたブルボンの口元を押さえる。戻されるとまた食べさせるのが面倒だ。喉がちょっと嫌な音を鳴らしたけど、まあ誤差よ誤差。

 

 

「私が気にするのよ」

「そう?」

 

 

 ならこれ以上は言わないけど。遊べるなら遊んだ方が良いと思うわ。ブルボンくらいイカれてるなら別だけどね。




今後の予定ですが年内のシリアスなものはブルボンライスのイベントがいくつか、スカーレットのイベントが一つ、残りはスズカの尺です。自由度が高いんじゃ。1話1スズカはノルマなので必ずあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。