走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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デート回。


脚で稼ぐサイレンススズカ

 

「ん、これで終わりね。お疲れブルボン。今日もよく頑張ったわ」

「……」

「聞こえてないか」

 

 

 ある日。今日もブルボンを倒れるまで鍛えて、背負って部屋に帰る。スズカとスカーレットは今日はいない。夕方からお祭りに行く予定になっているので、せっかくだからと浴衣を借りに行った。

 

 敷いた布団にブルボンを寝かせ、振動で目を覚ましたブルボンにゆっくり飲み物を飲ませる。哺乳瓶はこういうとき便利だ。吸わないと出てこないからブルボンのペースで飲める。

 

 

 こくりこくりと喉を鳴らすブルボンの前髪を弄りつつ待ち、水分補給が終わったら服を脱がせて汗を拭く。マッサージを挟みつつ、ご飯が届いたらそれを食べさせる。

 

 

 

「どう、ブルボン。調子は」

「良好です」

「明日もトレーニングできる?」

「問題ありません」

 

 

 最初の数日は目を白黒させていたブルボンだったが、やはりその適応力は半端ではない。疲れきってはいるしほとんど動けなくはなっているが、意識は保てるようになってきた。

 

 まあ、だからといって劇的に強くなったとかじゃないけど。ゆくゆくは劇的に強くなってもらうが、今のところは慣れただけかな。怪我が怖いのでこれ以上は攻められないから、とりあえずこのままで。

 

 

「本当にお祭り、行かなくて良いの?」

「はい。回復プロセスを中断できません」

「そっか」

 

 

 口ではそう言うブルボンだけど、やはりウマ耳が少しへにょっている。疲れているだけかもしれないけど……結局はブルボンだって一人の女子学生なわけで、そりゃあ、私と一緒じゃなきゃいけないなんてことはないけど、夏休みの全てを捧げるのに積極的であるはずがない。

 

 

「菊花賞に勝ったら秋のお祭りに行こうか」

「……開催されているでしょうか」

「お祭りが無い季節なんか無いわよ」

 

 

 ぴょんとウマ耳が立った。頭を撫でると少しだけ口角を緩めて、私のその腕を握る。

 

 

「是非行きましょう。スケジュールに記録しておきます」

「二人で行く?」

「む……選択しなければなりませんか」

「両方でも良いのよ」

「ではそうします」

 

 

 ふふ、と少し笑って、そのまま胸の辺りまで私の腕を持っていくブルボン。しばらくスズカがするように私の手を弄っていたけど、そういえば、と視線を自分の鞄に向けた。

 

 

「私の携帯を取っていただけますか」

「え? うん」

「手を借ります」

 

 

 持っていってあげると、私の指を使って操作をし始めた。もうこの携帯、ブルボン以外の五人くらいの指紋でロックが外れるようになってるもんね。セキュリティとかさ、無いの? 

 

 しばらく何かをしていたブルボンだったが、用を済ませたのか画面を消した。何回か通知音が鳴っていたから、誰かに連絡をしていたんだろう。実家は……今は連絡できないだろうから、別のところか。

 

 

「ありがとうございます。ではこれよりスリープモードに移行します」

「そう。お休みブルボン」

 

 

 ブルボンが眠るまで撫で続け、眠ったら薄いタオルケットをかけておく。空調も調整して、起きたら飲めるように水筒も用意しておく。あといらないと思うけどお菓子をちょっとだけ。

 

 ブルボンを置いていくことにあんまり心は痛まないけど、できるだけ早く連れていってあげよう。どうせこのまま夏が終ってもしばらく厳しくするわけだし。まあ、九月は今と比べれば大分マシになるとは思うけどね。こんなこと一日中一緒じゃないとできないから。

 

 

「さて……よし」

 

 

 夜はスズカとお祭りだ。ブルボンの代わりに楽しんで来よう。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「お腹空きましたね」

「ね。何食べようか」

 

 

 そして夜。三人でお祭りに来た。スカーレットは友達がいるとのことで別行動で、私とスズカの二人になっている。レンタルした浴衣に身を包み、小さな巾着を持ったスズカ。髪を纏めているのを見るのはとても新鮮で可愛い。

 

 流石のスズカも下駄では走れまいて。大人しく横を歩いているスズカも新鮮というか。たまにはスズカだって、隣で歩くのも良いとか言って良いと思うんだけど……残念ながら「どうせ歩くなら走った後でも良いですよね」とか言う子なんだよね。

 

 

「なんですか、じっと見て」

「ううん。スズカもこう……たまには隣で歩くだけで幸せとかあるのかなって」

「トレーナーさんのですか?」

「うん。走ったりしないで隣にいてくれるとかさ」

「……? 走った後隣にいればお互い嬉しいんじゃないですか?」

 

 

 首を傾げるスズカ。やっぱりそう言うと思った。髪型を決めてるので撫でるのはやめて、顎下を指でなぞる。んー、と目を閉じるスズカ。その後、すんすんと鼻を鳴らして目を開き、ちょっと遠くの屋台を指さした。

 

 

「私あれが良いです、トレーナーさん」

「ん。じゃあ食べようか」

 

 

 スズカご所望のたこ焼き屋さんに向かい、数人待っておじさんに頼む。間が悪く、作り置きの最後の一つが残ってしまっている。いっそ十人前くらい頼めば出来立てにならないだろうか。スズカなら食べられるし。

 

 

「二人とも美人さんだし、出来立てをやろうね」

 

 

 と思っていたら、なんと新しく作り直してくれた。ウマ娘は顔が良くて助かる。世の中顔よ顔。しかもよっぽどお気に召したのか、二人前貰った。でも私が屋台の大将でも、浴衣のスズカが来たらそれくらいすると思う。本当に。

 

 

 二人前のたこ焼きと他にもいくつか買った食料を持って少し歩き、人が少なめの適当な階段に座る。レンタルの浴衣が汚れないようにタオルを敷いて、からんころんと音を立てていた下駄を脱ぐ。鼻緒が少し痛かったらしい。怪我をしてはいけないので私の靴下と靴を捧げて履き物を交換。普段着に下駄というヤバい成人女性が爆誕した。

 

 

「これで走れる……? あのトレーナーさん。せっかくだし服も取り替えませんか?」

「こんなところで? バカじゃないの」

「私は気にしませんよ?」

「やかましゃっ」

「んむ、は、ははふ、はふ」

 

 

 走りたいがあまり羞恥心を捨ててしまったスズカの口にたこ焼きを突っ込む。わちゃわちゃして飲み込むスズカ。火傷しました、と舌を出した。

 

 

「もうちょっと恥ずかしいとか思った方がいいわよ」

「でもトレーナーさん。ちゃんと下も着てますよ。ほら」

「ほらじゃない。無人じゃないのよここ」

 

 

 浴衣の襟元からちらりと中身を見せてくるスズカ。いつもスズカが着けている走ることしか考えていない色気の無い下着ではなく、しっかり浴衣用の肌着を着ていた。暑そう。せっかくならちゃんとした着付けをしてもらいなとは言ったけど、そこまでちゃんとしてるんだ。

 

 

「そもそも襦袢でも恥ずかしいものは恥ずかしいでしょ。羞恥心がイカれてるの?」

「言葉がストレート……」

「それくらいびっくりしてるの。はい。美味しいから走るの忘れられるでしょ?」

「舌を火傷しててそれどころじゃないんですけど」

 

 

 無視してまたたこ焼きを突っ込む。はふはふしながらも今度は美味しく食べられたらしい。道中買ったペットボトルのジュースを一息に半分飲みきり、むむ、とこっちを緩く睨み付けた。

 

 

「熱いじゃないですか」

「美味しいでしょ」

「なんでさっきからトレーナーさんが誇らしげなんですか? 美味しいですけど」

「私が食べさせてあげてるからでしょ」

「無理やりですよね。私もやってあげますよ。ほら口を開けてください」

「熱いじゃん」

「熱いですよ」

 

 

 そこそこ熱い思いをしつつ私もたこ焼きを食べさせられる。というか普通に火傷したよね。揃って猫舌なの、私達。悶絶する私を見て、珍しくスズカがけらけら声をあげて笑っていた。

 

 ゆっくりめに残りを食べて、スズカはさらに三屋台分くらいを次々平らげていった。お腹が空いているというのは嘘ではなかったらしい……でもおかしいわね。今日のスズカは人間の出力しか出していないし、そもそも宿でもちゃんと食べているのだから、そんなにお腹が空くとは思えないけど。

 

 

「あ、そういえばトレーナーさん。お金、返しますね」

「うん……うん?」

 

 

 スズカに預けていた小さな財布を返してもらう。手に持つと、ちゃりんちゃりんと小銭の音がした。おかしいな。私確か、電車賃はお釣りが出ないように細かいのを入れておいたはずなんだけど。

 

 

「どうかしました?」

「ううん。何でもないのよ。ところでご飯は何を食べたの?」

「色々あって食べられなくて。その分も残ってます」

 

 

 食後のりんご飴に入ったスズカ。財布の中身を見てみる。電車賃と、軽く食べるお昼代と、浴衣の色々に使うお金と、何かあった時の諭吉二枚。ちゃんと計算して渡したはずが、何故か小銭が残っている。

 

 

「お昼は食べてないのよね? じゃあお金は使わなかった感じ?」

「はい」

「浴衣のお金って確かそこそこきりが良かったと思うんだけど」

「ですね」

「……じゃあこの小銭って何の小銭?」

「……あっ」

 

 

 あっ、じゃないが。やったわねスズカ。いや、私も油断してたけどさ。

 

 

「走ったでしょ」

「ほ、ほんの二駅ですし、ちょうど遅延しててっ」

「そういう話じゃないでしょーっ」

「ふぁいふぁいふぁい」

 

 

 小銭をがめる悪さも無い、トレーナーさんが間違って計算してましたよと押しきれるわけでもない、なのになぜ誤魔化せると思ってしまったのか。スズカの頬をつねって上下左右に動かす。油断も隙もあったものじゃない。出発する時は普通に普段着だったからまさか走らないだろうと思ってしまった。

 

 

「あの服で走ったの」

「いえ……す、スカーレットさんの荷物にジャージを入れてもらって、駅のトイレで……」

「こらこらこら」

 

 

 やけに用意周到じゃない。そんでスカーレットはそこそこ荷物軽そうだったのにどういう収納術なの。これが女子力? 

 

 

「花火は見ないで帰ります」

「え、嫌です……見ましょうよ花火」

「走るのが悪いんでしょーっ」

「や、です」

 

 

 たこ焼きの串で肌をつついてくるスズカ。くすぐったいなあもう。りんご飴を一度置いて、いー、と私の口を引っ張る。

 

 屋台のライトアップでスズカが照らされている。ちゃんとしないといけないのに、ニコニコしながら見上げられると弱い。いつもの五割増しで美人なスズカが、たぶん自分の綺麗さに気付かないまま、か細いくせに喧騒を貫くいつもの調子で言った。

 

 

「見ますよね、花火」

 

 

 むむ。百万点。

 

 

「……もう。帰ったらお仕置きなんだからね」

「いやでーす」

 

 

 スズカはさらにご機嫌に微笑んで、逃げるように立ち上がった。

 

 

「それよりもう一回りしましょう。花火を見る場所も確保しないといけないですし、もうちょっと食べたいです」

「誤魔化されないからね」

「ふふふ」

 

 

 ふふふ、じゃないんだけど、私がこれ以上追及する気を無くしたことを感じ取ったわね。スズカに手を引いて立たされた拍子に私は転んだ。スズカは笑っていた。二度と下駄は履かないことにします。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「あっトレーナーさん、射的ですよ射的」

「そんな興味ある? 射的」

「見てください、景品」

 

 

 片手で持って食べられるものをちょこちょこ買って繋ぎながら適当に回る。ベビーカステラを物凄い勢いで消費していると、スズカが射的の屋台を指差した。

 

 特に変哲もない射的だと思ったんだけど……スズカが手を引くので連れていかれる。景品の並べられた棚を見ると、なるほど確かに、ちょっと気になる物はあった。

 

 

「スズカもブルボンも人気になったものだねえ」

「トレーナーさんのおかげですよ」

 

 

 スズカとブルボン、あと数人のウマ娘のぬいぐるみ。屋台の景品だしどこかの売れ残り……ということもないんだろうな。時々トレセンから売上報告が届くけど、意味解らんくらい売れてるみたいだし。スズカ単体の人気ももちろん圧倒的だけど、スペシャルウィーク達黄金世代が共通のラスボスみたいな扱いをしてくるので、そっちのファンもセットで手を伸ばしてくるらしい。

 

 

「できるの?」

「できなかったらトレーナーさんがやってください」

「いや、私ができるとは言ってないけど……」

 

 

 少し浮かれているんだろう。私も楽しいよスズカ。空いているスペースに入って、弾を買う。狙うのはぬいぐるみ一択として、こういうのって本当に取れるものなんだろうか。

 

 

「んー……えい」

「外れ」

「えいっ」

「外れ」

「へりゃ」

「外れ……どこ狙ってるの?」

「おかしいですね……?」

 

 

 スズカの撃った弾は掠りもせず、当たっても落ちない可能性など感じさせずに消えていった。首を傾げるスズカから最後の一発を託されたので狙ってみる。

 

 

「ほりゃ」

「外れです。どこ狙ってるんですか?」

「おかしいわね……?」

 

 

 銃身が曲がってるかも。インチキねインチキ。こんな店にこれ以上いたらダメよ。

 

 

「金魚すくいにしましょう」

「良いわね。インテリアとかになりそう」

 

 

 びり。

 

 

「輪投げがありますよ」

「そうね」

 

 

 すかっ。

 

 

「くじ引き……」

「やめようスズカ。今日は何をやってもダメな気がする」

 

 

 五等。

 

 

「あっトレーナーさん。五等はタオルですよタオル」

「屋台の景品にあるまじき実用品ね……」

 

 

 走ること以外ポンコツのスズカと、遊び慣れていない一般成人女性の私では基本何をしても上手くはいかなかった。それに、下駄を履く私が辛くなってきたので、最後に綿菓子を買って花火が見えるらしい高台まで上がる。

 

 屋台に払ったお金がムダになるたびに、スズカは楽しそうにくすくす笑っていた。だったらまあ何でも良いんだけどさ。

 

 

「案外人が少ないですね……?」

「少し離れめだからね。空いてて良いじゃない」

「それはそうですけど」

 

 

 予定ギリギリの到着から適当に座り、友達に送りたいというので二人で写真を撮る。ウマッターにもとスズカは言ったけど、それは普段着にしときな、とやんわり止めた。

 

 ほどなくして、花火が上がった。

 

 

「わぁ……」

 

 

 私にウマ耳を少し塞がれ、花火に見とれるスズカ。ブルボンにも見せると言って動画を回している。マイク近いから、あんまり話さない方が良いんじゃない? 

 

 

「この方が一緒に見てる感じがするじゃないですか」

「そうかな……? そうかも……」

「そうですよ」

 

 

 まあ、スズカがそう言うなら。

 

 花火のほとんどを動画に収め、自分で確認までするスズカ。それが終わると、私の肩に寄りかかってきた。

 

 

「花火、綺麗でした」

「そうだね」

「……定番の、言ってくれないんですか?」

「言ってほしいの?」

「……そこまでじゃないですけど」

 

 

 本当にそこまでじゃない、と言った様子。じゃあ言わない。でも内心はそう思ってるよ。花火よりスズカの方が綺麗だ。

 

 

「花火より速いとかなら」

「火薬より速いのは無理じゃない?」

「む……私が遅いって言いたいんですか?」

「挑む相手を間違えすぎでしょ」

 

 

 綿菓子の棒を手で弄り回して、私が持ち歩いていたゴミ袋に捨てる。私の体を跨ぐように捨てて、その戻り際に私を背もたれに倒れ込んだ。

 

 

「これでもう少しだけ待っていてあげます」

「……何を?」

「トレーナーさんが私のことを放ったらかしにしてもです」

「……仕方無いでしょ? ブルボンも大変なのよ」

「知ってますよ。だからちゃんと待ってるんです」

 

 

 何を? さあ? そんな適当な会話を終え、ひとしきり人が捌けるまで待つ。それから、返却の時間も迫っているので靴を交換して、からんころんと車に戻る。

 

 

「時々こうして思い出させてあげないと、トレーナーさんはすぐに無茶をしますから」

「したっけ?」

「してないなら良いんですよ」

「そう」

 

 

 今日のスズカはえらくご機嫌だ。なぜか。二人で出掛けているから? 勝手に走ることができたから? それとも、私の精神状態が思いの外良かったからだろうか。

 

 

「だったら何も言うこと無いです」

 

 

 私が二つ、スズカが一つ。私が原因だったら良いなあと思いつつ、断言できないのがサイレンススズカでもある。少なくとも私はスズカが幸せそうで嬉しいから、お互いにそうだと思っておくことにした。それが一番平和ね、やっぱり。




【定期】禁句:前はファンに囲まれて困ってたよね?

たぶん髪型変えたら誰だか解んなくなるんじゃない?(適当)
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