走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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レース条件変更を加味するの面倒すぎる高校卒業なので、この世界では菊花賞トライアルは三つあります。


風を読むサイレンススズカ

 

「むむむ……」

「……何してるの?」

 

 

 夏合宿もつつがなく終わり、私達は日常に帰ってきた……帰ってきたのかな。ブルボンはいまだスパルタの風に飲まれている最中だし、夏も終わったし厳しくしてくれるのよね? というスカーレットの真っ赤な目に負けて、スカーレットにもその風が吹き散らかしているけど。

 

 

 そして、そんな中唯一スパルタの風には飲まれなかった栗毛が、トレーナー室でくるくると左に回っていた。

 

 

「あ、トレーナーさん。お説教は終わりましたか?」

「お説教って決めつけるのはやめて? 私そんなに不真面目じゃないから」

 

 

 これでも勤務態度評価はかなり良いのだ……まあトレセンのトレーナーは一部を除いて素行は良いし、評価にはウマ娘への情熱による補正がかかるので、相対的に見ると別に上位とかではないんだけど。

 

 それに、実際ほとんどお説教を受けたようなものだった。帰ってくるなり理事長に呼び出され、尋問かってくらいの圧でブルボンの無事を確認されたし。たぶんブルボンに傷の一つでもあったら殺されていたと思う。

 

 

「トレーナーさんは不真面目ですよ。たまにフジ寮長に言われますから。外泊が多すぎるよねって」

「それは……まあ」

 

 

 くるくると回りながら、頬を触ったり首を傾げたり。隙間を縫って座るが、回るのはやめない。

 

 

「でもウマ娘がトレーナーの部屋に行くのは禁止じゃないから。逆は不味いけど」

「良いですけどね。トレーナーさんもスペちゃんも大切ですから」

「浮気者……?」

「ふふふっ」

 

 

 今日はスズカがやけに楽しそうだ。何かあったかな。トレセン的には何の行事も無かったはずだし、走る許可を出したわけでもないのに。

 

 

「今日はやけにご機嫌じゃない」

「はい。見てくださいこれ」

 

 

 そう言ってスズカが差し出してきたスマホに、天気予報が表示されている。今日は九月にしてはとても涼しい。明日からまた暑くなるらしいけど、こと今日に関しては外を歩いたら汗だく、みたいなことにはならない程度には。

 

 

「今日は絶好のランニング日和です。なんと最高でも25℃しかないんですよ。運動するなら今です。今日はみんなで走りましょう」

「え……無理……」

「なんでですか」

「一般女性は25℃は暑くて死んじゃうから」

「ひ弱……!」

 

 

 というか大体の人間はこの気温で真面目に走ったら身体を壊すわ。ウマ娘とは身体の出来が違う。暑さにも寒さにも強い種族と一緒にしてもらっては困る。

 

 というかご機嫌な理由がこれ? そんな、これを見せれば私が走るのを許可するだろうと思ってたってこと? 考えが浅すぎるでしょ。いや確かに私もそんなに深いことは考えてないけどさ。

 

 

「そんなこと言わずに走りましょう? あ、私一人で走っても良いですよ。トレーナーさんはお家でご飯を作って待っていてください」

「何時間走るつもりなの??」

「十時には家に戻りますから」

「五時とかならまだ悩めたんだけどねえ」

「でも五時までだと全然走れませんよ?」

「それが狙いだもん」

 

 

 むむむ、と普段の顔には似合わない風に目元を吊り上げて、スズカはスマホをソファに投げてから私の横へ飛ぶように腰かけた。私の首元をぐりぐり指で押しつつ、唇を尖らせる。

 

 

「気温も湿度も風向きも最高ですよ?」

「ちなみにどれくらいが最低条件なの」

「気温は0℃から30℃、湿度なら40%から80%、風は……まあ前が向ければどれくらいでも良いです」

「毎日じゃない」

 

 

 特に暑すぎる日と寒すぎる日以外は走るってことね。だと思ってた。スズカの指先を掴んで、パーにして纏めて頬を撫でる。

 

 

「じゃあ冬は北海道にでも行こうか。寒いし」

「良いですね。雪の中を走るのが一番好きです」

「やっぱ沖縄にするわ」

「暖かな日差しの下で走るのが一番好きです」

「こやつ無敵か」

 

 

 頬を私の肩に擦り付けるスズカ。私と同じ匂いのする栗毛が勢いで肩に絡んでくる。ばさばさ言ってるのは尻尾を振ってるからね。

 

 

「とにかく走ります」

「何がとにかくなの。ダメ。今日はマシントレーニングです」

「いつもじゃないですか!」

「そりゃそうでしょ」

 

 

 猫パンチじみた拳をぶつけてくるスズカ。こんなんでもめちゃくちゃ痛い。種族差が重すぎる。でも手加減のためにスピードが無いので手首から掴み、そのまま膝の上に倒す。

 

 あぅ、ぅわ、と背中を叩いて鳴かせながらパソコンを開く。ブルボンの次走の登録が既に終わっている。京都新聞杯だ。まあ、トライアルに出なかったところで菊花賞から弾かれるはずがないんだけど、一応ね。優先出走権があるに越したことはない。

 

 

 で、他にも既に多くが登録しているのだけど……まあ予想通りライスシャワーがいる。やっぱり追ってきたか。彼女の適正は中長距離Aと私には表示されているが、実際彼女は長い距離の方が得意ではある、と思う。彼女がそう思っていれば、精神的にも少しは変わる。

 

 セントライトか京都か神戸かはマジで何でも良かったので適当に決めてはいる。まあ一応菊花賞も京都だし、それに合わせる感じで。

 

 

 ギリギリまで粘って決めても良かったけど……夏合宿の感じからして、ブルボンの闘志を上げるのも菊花賞の勝敗に絡みそうだったし。それによって菊花賞を待たずして負ける可能性も出てきてしまったし、トライアルで当たることでさらにライスシャワーが強くなることも否定はできないが。

 

 

 まあどちらにせよ、ここで勝てないなら菊花賞でも勝てない。私の契約は「ブルボンを可能な限り最善な状態にしてクラシック三冠に出走させる」ことである。どうせライスシャワーは今もストーキングを続けており、爆発力がどうなっているか想像もつかない。だったらこの一レースでの意味はブルボンの方が上、だと思う。

 

 

「またいますね、ライスシャワーさん」

「いるねえ。というか登録順凄いわよ。マジでブルボンの直後に登録してる。ここまでやられると清々しいわ」

「直接対決もするんですか? ブルボンさんを煽るために?」

「まあ……そうね。やらない意味は無いだろうし」

 

 

 そうなんですねえ、とスズカが呟いて、知っている子がいるかどうか天皇賞(秋)のトライアルを見始めた。

 

 本人に言うと調子に乗るので言わないけど、こういうことはあくまでブルボンだからやることだ。スズカにはやらない。ブルボンはそもそもラップタイムで走る都合上、闘志や勝負根性はあくまで最終直線でしか発揮されない。あるいはスパートまでか。

 

 対ライスシャワーではその粘りで勝てる可能性があるからやるだけで、スズカにその必要はない。何故なら、競りかけられることはないからだ。出会った時からずっと、スズカに最終直線で並びかけられるウマ娘などそうそう存在しないし、それがある時はスズカが負ける時に他ならない。

 

 

「……? なんでこっち見てるんですか?」

「いや……スズカは速いなあと思ってね」

「え? んふふ……もっと褒めても良いんですよ」

 

 

 言っちゃったや。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「マスター」

「うん?」

「明後日、これを使用することになりました」

 

 

 その夜。みんなで鍋を食べていたところ、ブルボンが、ばばん、とSEでも付きそうな勢いで懐から例のあれを取り出した。生徒会三冠ウマ娘と直接対決ができるあのプラチナチケットである。

 

 

「じゃあ今度はナリタブライアンね」

「はい。連絡の際生徒会室でルドルフ会長に会いましたが……『少し気難しいが実力は本物だ』と言われました」

「でしょうねえ」

 

 

 なにせ三冠ウマ娘だ。そりゃ強いに決まっている。気難しさも……直接話したのは拉致された日だけだけど、まあシンボリルドルフが言うならそうなんだろう。今日も強めに鍛えたにも関わらず、勝負への喜びでブルボンのウマ耳がぴこぴこと動いている。

 

 

「マスター。現時点での私と副会長の勝率はどの程度でしょうか」

「走り方にもよるわね。何回か走っての勝率? それとも初見一回目の勝率?」

「変わるの? いくらブルボン先輩でも、流石に相手が悪いでしょ」

「どうかな」

 

 

 今言っても信じてもらえないだろうし、諸々の理由はその時に言うとして。先輩じゃ絶対に勝てないと暗に言ってしまったスカーレットが鍋からざばぁと大量の肉を奪われていった。

 

 

「ブルボン先輩!?」

「私は三冠ウマ娘になります。ブライアンさんは三冠ウマ娘です。力量は互角であるべき……いえ、後発のウマ娘の方が能力に優れるのは当然の傾向です」

「だからって全部取ることあります!?」

 

 

 必死に抵抗するスカーレット。肉を箸で直接取り返しに行くのではなくブルボンの手首を直接掴むあたりマナーが……いや食卓で暴れてる時点でか。

 

 消耗度はブルボンの方が上だけど、それでも基礎スペックで徐々にお肉がブルボンの鍋に近付いていく。暴君極まれりって感じね。両手で引っ張ってもなお持っていかれている。

 

 

「良いトレーニングです」

「この……っ、絶対に負けないから……! バカにしないでよ……ッ!」

 

 

 スカーレットのスイッチが入った。妙に辛辣なブルボンも合わさって、スズカがさっきから口元を隠してくすくす笑い続けている。スズカが笑ってるなら適当に対応しても良いか。元々仲が良いんだから鍋をひっくり返しそうになったら止めるくらいで良い。

 

 

「喧嘩しないの」

「喧嘩!? 一方的に略奪されてるんだけど!?」

「では宣言してください。ミホノブルボンは三冠ウマ娘になるウマ娘です。学園で最速であるべきです」

「は?」

「あっ」

 

 

 ブルボンが地雷を踏んでしまった。

 

 

「ブルボンさん?」

「……いえ、私が最速です」

「おおっ」

 

 

 ブルボンがスズカの圧に負けなかった。初めてじゃない? 

 

 

「え?」

「……スズカさんの次に速くあるべきです」

「ああ……」

 

 

 やっぱダメだった。なんであの透明感のある声でこんなに威圧感が出るんだろうね。怖いね。

 

 ギリギリ許せなかったのかブルボンの肉が全て持っていかれた。向かいの席に座るスズカがふふふ、と笑って自分の鍋に入れてしまう。奪い返そうにも、身を乗り出すとスズカはともかくブルボンは鍋をひっくり返してしまうので、ブルボンとスカーレットの戦いは続く。

 

 

「はいはい。まだお肉はたくさんあるから。ね?」

「奪われたって事実が大切なのよ……ッ」

「じゃあ走って決めない? 一着がお肉全部、二着がお野菜全部、三着はそこのにんじん」

「デスマッチ過ぎるでしょ」

「上等じゃない! やってやるわよッ!」

「こらこら」

 

 

 一回火がつくと絶対に勝負から引かない気性だけ何とかならないかな。うちのウマ娘はこんなのばっかりだ。何とか全員を宥め……というか勝負を後日に回すことで一旦落ち着いてもらい、その場は事なきを得た。得たかな。得たってことにしておきたい。




ブルボンが主役並にストーリーを進めるおかげで

トレーナー:主人公
スズカ:ヒロイン
ブルボン:後輩

から

トレーナー:語り手
スズカ:語り手の嫁
ブルボン:主人公
スカーレット:後輩

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