走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
こんにちは、ダイワスカーレットです。
ブルボン先輩が使ったプラチナチケットのおかげで、私もあの怪物ナリタブライアン先輩の走りを特等席で見ることができました。
一回目はブルボン先輩が勝つとトレーナーが言うので、ああ、ついにこの人の目も曇っちゃったかと思ったんですが、なんと本当に勝ってしまいました。嘘でしょ!?
……って、負ける度に強くなる!?何それ、反則じゃない!爆発力って何でもありなの!?
う、ウオッカがこんなんだったらどうしよう……ううん、負けるな私!必ず私が一番のウマ娘になってやるんだから!
そうと決めたらトレーニング、始めましょうか!次回、「限界を越えるダイワスカーレット」!は?うるさい!アンタ私のトレーナーでしょ!?私のために全部捧げるのが仕事でしょうが!
ある日。
「つーん」
「もうスズカ……謝ってるじゃない。機嫌直して? ほらショートケーキ買ってきたから」
「ふーんだ」
スズカがそれはそれはとてもご機嫌斜めだった。原因は……今回に関してはただただ私が悪いとしか言えない。
先日、ブルボンはプラチナチケットでナリタブライアンと対戦をした。それ自体はまあ……いや、二人ともあまりにもマジな目で「もう一回」をし続けて、最終的に帰りが遅い妹を心配したビワハヤヒデが迎えに来るまで私でも止められなかったけど、まあ別にこんなの今さらでトラブルじゃない。
ナリタブライアンは私も事前に色々映像を見たりして分析していたのだけど、あれは怪我をした段階からほとんど成長していない。弱いとは言わないけど、クラシック水準の強さで止まっている。
にも関わらずドリームリーグの一線級で活躍できているのは何故か。たぶん……というか間違いなく、彼女は爆発力でその辺を覆している。正確には解らないが、もしかすると、負ける度に強さを増す、みたいなインチキ染みたものの可能性がある。
だからこそ、一回目はブルボンが勝てると言った。そして実際に勝った。ブルボンにも少しだけ手加減させたので、本人もどうして勝てるんだ、みたいな顔をしていた。
そして二回目、ブルボンをライバルと認め燃え上がったナリタブライアンに思い切り差し切られた。
で、まあブルボンも熱くなって、ナリタブライアンも勝ったら少し爆発力が弱まって、最終的にはギリギリ勝てそうだけど勝てない、くらいのパワーバランスで落ち着いたのだけど、その二回目のナリタブライアンの差し脚を見て、私はつい感動してしまったのだ。
「はっや……」と。
「トレーナーさんなんかブライアンさんのトレーナーになれば良いんです。速いですよーだ」
「ごめんね。スズカが一番よ。本当よ」
「む……嘘ですぅー」
他の子に構ってるとか放ったらかしにするくらいは割と許してくれるくらいにはスズカは大人だ。精神年齢は私の方が下なんじゃないかってくらい結構余裕があるし、周りのことをよく見ている。
ただ、これはちょっと良くない。そもそも私達の馴れ初め……じゃなくて、出会いはスズカの速さに私が感動して口説き落としたことから始まっている。割と心から他の子の速さに感動してしまった私を見て、スズカがそこから拗ねに拗ねている。
「ほら、あーん。美味しいわよ。食べるでしょ?」
「いらないです」
「そうだ、マッサージしてあげようか。気持ちいいわよ」
「や、です」
「もー、許してよスズカー」
ぷんすこして私の膝に寝転がるスズカに色々やってみるものの、全然機嫌を直してくれない。私もナリタブライアンを褒めた後すぐに気付いて「でもスズカの方が速いかな」までは言ったのでどん底ではないけど、やる気を無くして、ソファについた私の腕に尻尾を巻き付けている。
ぎゅうぎゅうに絞られるウマ耳を何とか元に戻そうと揉みしだくも、肝心のスズカの機嫌が直らない。尖った唇を指で弾く。噛みつかれそうになったので避けて、鼻を摘まんだり放したり。
「言葉のあやじゃない。私が一番速いと思ってるのはスズカよ、本当に」
「んんっ……そんな調子の良いことばっかり言って。結局速ければ誰でも良いんですよね」
「そんなことないわ。スズカのあの速さが大好きなのよ」
「んぐぐ」
私に頭を撫でられながらも諦めないスズカ。バカめ。ウマ耳が戻ってるからちょっと機嫌が直ったのはお見通しよ。そもそもよく考えれば私が責められてるのおかしいよね。私一応トレーナーだもん。そりゃ物凄い脚を目の前で見せられたら感動もしちゃうって。
……なんかダメ男みたいだな。女がいたら見るじゃん、みたいな。じゃあやっぱり私が悪いか。
「今日という今日は騙されませんからね!」
「あっスズカ、どこ行くの」
「ふーんだ」
しばらく抱き締めながら撫で回していたが、これでは怒っているアピールができないと気付いたのかはっとなって私から逃れるスズカ。がおー、と威嚇のポーズをとって、そのまま私が買ってきたケーキを持ってトレーナールームから出ていった。
……まあ良いか。今日は私が悪いんだし、最悪勝手に走っても何も言うまい。
────
「それで出てきちゃったんですか?」
「でも聞いてスペちゃん。これはトレーナーさんが悪くない?」
今日はトレーニングがかなり軽めで、どちらかというと秋の天皇賞に向けての調整やミーティングが主でした。私達は一部の方々のような理不尽な才能みたいなものは無いので、しっかり展開や勝ち方を予測しなければなりません。
私達というのは……まあ、世間の皆さんに黄金世代と言われている私達のうち、エルちゃん以外全員です。
いつも言い争いになるんですが、私達はお互いにお互いを才能のあるウマ娘だと考えています。グラスちゃんの差し脚、キングちゃんの距離適性や根性、スカイちゃんの戦略にはあっぱれです。
ですが、私達には共通の越えるべき壁もありますし、レースの話になるたびにお互いに褒めたり謙遜したりももう面倒なので、全員才能が無いということでそれ以上言わないことに決めました。
……ああ、エルちゃんはその話し合いにいなかったので、私達のなかで唯一圧倒的な才能があるウマ娘のままです。この間『才能無いチームVS才能あるエルちゃん』と描いたプリクラを送ったら珍しくキレてました。
で、その共通の越えるべき壁というのが、私達のおしゃべりカフェテリアに合流したスズカさんです。言葉で言い表すことすら難しいくらい強く、速いウマ娘。走ることに関してだけは掛け値無しで尊敬できる人です。
「ねえキング、これって」
「しっ。余計なこと言わないでスカイさん」
ただ面倒くさいな、とは思いますが。
「ケーキ一つで私のご機嫌がとれると思ってるのがいやよね。私が何に怒ってるのか解ってないの」
「食べ物で釣るのは良くないですね」
「でしょう?」
「そうですかね? 結構良いケーキですよこれ。大体のことは許せるかもしれません」
「スペちゃんは食いしん坊だから……」
「そんなことないですよ……?」
世間では目の上のたんこぶだの何だの言われてますが、スズカさんは私達にとって大切な存在です。レース以外でも仲良くしてますし、じゃあこの五人とツルちゃん以外に誰を誘うのっていえば大体スズカさんです。私は二人で出掛けたりもしますし、何を参考にしているかは解りませんが生き方が参考になるとかでキングちゃんとも仲良くしています。絶対に参考にしない方が良いと私は何度も言ったんですが、誰にも賛同してもらえませんでした。
ただ、誰とどう遊んでいてもスズカさんが取り乱すことはほとんどありません。走ることとトレーナーさんのこと以外ではむしろとても落ち着いた人です。その二つが絡んだ時が酷いんですけど。
「私が怒ったら撫でたら良いと思ってるのよ」
「でもスズカ先輩、嬉しそうじゃないですか」
「嬉しいのと許すかは別でしょう?」
「それは……まあ」
こうしてぷんすかしてるのも珍しいことです。スズカさんが持ってきたケーキ、これ結構高いやつかもしれません。相当美味しいですね。
「でも、ご機嫌をとってくれるだけでも愛されてますよ。ね、スカイさん?」
「そうですよー。セイちゃんなんか今日もこうしてサボってるのに追いかけてもらえないんですから」
「それはあなたが女子トイレなんかに逃げるからでしょ? 今から連絡するわよ?」
「にゃはは」
私以外は遠慮してケーキを食べないようなので、私が全て食べることにします。最近は体重管理が上手くいってるのでこれくらい許され……いや……い、一応トレーナーさんに確認しておこうかな。うん。
「じゃあみんなは自分のトレーナーさんが他の誰かに見惚れてても平気ってこと?」
「私は別に……あ、凄い子を見付けたんだなあって」
「セイちゃんも別に気にしませんよ?」
「キングのトレーナーは目移りなんかしませんので!」
「あら……何人が嘘を言ってるんですかね……?」
……グラスちゃんもちょっと気にしてそうだし。私もまあ少しは嫌ですけど、チームというのはそういうものだと思います。自棄で頼んだ特大はちみーに吸い付きつつ、スズカさんはまだ納得行ってない様子。
「もっとこう……ね? あるじゃない?」
「でも抱き締めて撫でて褒めてもらったんですよね?」
「む……まあ、そうなんだけど」
「あの、白昼堂々そういうことはやめた方が……」
「今さらだよ。スズカさん一緒にお風呂に入って尻尾のケアもしてもらってるし」
「お風呂……? 尻尾!?」
トレセンで一番担当との距離が近いチームはエルナトかもしれません。最近はブルボンさんも距離が近くて……と以前スズカさんに言われた気がします。スカーレットさんにはこうなって欲しくないなあ、逆に。
「もう少し怒って色々買ってもらったら許す、で良いんじゃないですかー? どうせ怒ってないんですし」
「む……でも、別に欲しいものは何もないのよね……あ、でもトイレットペーパーがそろそろ無くなりそうだったかも……あと洗剤……」
「そんな主婦みたいなのじゃなくてですね……」
むむむ、と唸り始めるスズカさん。解ってますよ。別にもう怒ってないんですよね。怒っているアピールがしたいだけなんですよね。スズカさんが本気で怒ってるなら……見たことないですけど、たぶんちゃんと話し合いますもんね。
「はあ……もう、今日は帰ってあげないことにするわ」
「それが普通なんですけどね」
「スカイさん!」
「ありがとうね、話を聞いてもらって」
「いえいえ。楽しかったですよ、色々」
あ、終わりそう。ケーキが残ってしまいました。結局トレーナーさんからの返信が無いので食べて良いのか怪しい……たぶんダメかな……? 仕方無いのでもったいないですけどスズカさんに返そうかな。一口分だけ切り分けたやつはたぶんスズカさんに食べさせようとしたのでしょうし。
「お礼に少し走る? スペちゃん達は次は何に出るんだっけ」
「……ほう」
……友達目に、グラスちゃんのスイッチが入ったのが分かりました。なるほどなるほど。まあ確かに私達も、次走をスズカさんに報告したりしません。いちいち言うのもおかしいもんね。うんうん。そうそう……
……ふう。
「走りましょうスズカさん。次は私達、同じレースに出るんです」
「へえ、そうなの? じゃあちょうど良いわ。五人でってことは中距離ってことよね」
ふー……。
「天皇賞ですスズカ先輩……」
「……え」
「私達が出るの、天皇賞です……ああもう、みんなそんなに怖い顔しないで……スカイさん? スカイさんからも何か」
「セイちゃんビデオカメラ持ってきますね。ちょっと調子が悪いので走らずに撮影って感じで……」
「分析する気満々じゃない!」
お、落ち着け私。こんなのいつものことじゃないですか。そうそう。宝塚も危うく忘れてたくらいだし、こんなことでいちいち色々怒ってたらスズカさんと過ごしてられないというか。
「良いですね。やりましょう。ちょうど食後の運動がしたかったところです」
「じゃあ私、トレーナーさんに許可とってきます!」
「ああ、もう! 私もやるわよ!」
「やった。じゃあ先に行って待ってるわ」
スズカさんは許可取りをしないので、さっさと走っていってしまいました。とりあえずトレーナーさんにメッセージだけ送って、一息つきます。
「はあ……よし!」
気合いを入れ直して、自分で頼んでいたはちみーを飲み干します。
こんなことでは負けていられません。スズカさんに勝つと決めたんですから。それに、どこまで行ってもスズカさんの脅威になれない私達が悪いんです。スズカさんのトレーナーさんは結構してくれそうですけど、スズカさんはよほどでなければそういう意識はしません。
スズカさんに勝てないと、私は胸を張って日本一を名乗れない。私に背中を見せてくれたスズカさんのことをちゃんと追い抜かないと、私は終われない。
「天皇賞、ジャパンカップ……ううん、天皇賞で勝つ。必ず勝つ」
「……ええ。スズカ先輩にも、スペちゃんにも勝ちます」
「望むところだよ、グラスちゃん。グラスちゃんにも、みんなにも、私が勝つから」
体に熱が入ります。次は京都大賞典、それから天皇賞。今の天皇賞はスズカさんの舞台といっても過言じゃない。春に次いで、必ず私が勝つ。
それに、この天皇賞はキングちゃんと戦える最後の機会だ。既にキングちゃんは短い距離への転向を決めています。次からはきっと、ドリームリーグでも、一緒には走れない。
スズカさんとも、きっとそうだ。何となく解る。だから、最後に勝って終わる。日本の芝中距離左回りでスズカさんに勝つ。グラスちゃんとの決着もつける。フランスに行ったエルちゃんにも勝つ。
「行こうグラスちゃん」
「ええ、スペちゃん」
ブルボンVSブライアンはお互い獣の目をしてリベンジを繰り返し、トレーナーがビビり散らかしてるだけなのでカットになりました。
ナリタブライアン
→生徒会では唯一の爆発力タイプ。怪我を契機にほぼ成長が止まっており、カタログスペックは大したことはない。ただし「負けてなお心が折れていない」ことを条件としてルドルフと肩を並べる力を発揮する。勝つと少しずつ弱まる。