走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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アストンマーチャンが出したかっただけ?それはそう。可愛い。


ツン成分が薄すぎるダイワスカーレット

 

「あ、スカーレットからメッセージ来た」

「珍しいですね、こっちに来ないで伝えてくるのは」

「ね」

 

 

 ある日。スズカとトレーナー室でオセロをしていると、スカーレットからメッセージが届いた。基本的にエルナトの子達は……まあブルボンは事情が事情だから仕方無いとして、スマホでの連絡はあんまりしない。直接会って話せば良いし、よっぽどのことでなければ私が怒らないのを知っているからだ。

 

 私も甘いので大抵のことは二つ返事で許すし。わざわざトレーニングジムの予約をとったのに当日朝に「今日はランニングをすると凶らしいので運命に抗って走ってきます」と言われてもまあ許す。お仕置きはするけど。

 

 

「今日ここで勉強会するって」

「……? 今ですか? 中等部はテストがあるんでしょうか」

「いや、日程は中高一律だったと思うけど」

 

 

 夏休み明けのテストはあったが、もちろんうちは優秀な子ばかりなので何の問題もなかった。ブルボンはいつものほぼ百点、スカーレットはついにブルボンを超え全科目満点を達成、スズカも二人に比べれば劣るけど普通に優等生の範疇だ。

 

 トレセンは変なところで厳しいので、あまりにも成績が悪いとレースに参加できなくなったりもする。時々サクラバクシンオーがブルボン達に連れてこられるのはそのせいね。

 

 

「友達を連れてくるのか。ちょっと片付けましょうか」

「あ、じゃあお菓子を買ってきますね」

「ん? ここにいっぱいあるじゃない」

「お客さんに対してそんなの失礼ですよ。私買ってきますから」

「お菓子買いに行くのにシューズに手を伸ばす人もそうそういないでしょ」

 

 

 やだあ……と喚くスズカをシューズの棚から引き剥がし、ソファに寝かせて片付けを始める。むむむ、と唸っていたけど、少し経つとスズカも勝手に手伝い始めてくれた。

 

 

「良いお菓子屋さん見付けたんですよ。評判が良いらしくて」

「へえ、ちなみにどこにあるの?」

「港区です」

「港区まで走るつもりだったの……?」

「往復でも80kmくらいですよ」

「くらいですよ、じゃなくてね」

 

 

 止めて良かった。せめて府中内なら少しくらい許せたのに。

 

 

 スズカの助けもありあらかた片付けて、とりあえず勉強ができるスペースを確保。とりあえずこれで良いか。

 

 ……と、ノック。流石にスカーレットだろう。扉を開けて招きつつ、先にコップを用意しておく。

 

 

「お疲れ様です、トレーナーさんっ」

「お疲れ、スカーレット」

「ども、こんにちは」

「こんにちはウオッカ」

「お邪魔しますです」

「はーい」

 

 

 やはり聞き慣れた猫なで声。チームでは声が低い……低くはないが媚び成分がゼロになるスカーレットが来た。そして後ろにはウオッカと……誰だ。あんまり見たことないわね。少し小柄で、頭に王冠を乗っけている眼鏡の子がいた。

 

 

「……ふー……ほら、適当に座りなさいよ」

「お、おう……じゃあ失礼します……」

 

 

 スカーレットとウオッカは早速席に着く。ウオッカに教えるってことかな。スカーレットが誰かに教わる成績とは思えないし。ウルトラCでウオッカが希代の天才だったら面白いけど。

 

 で、残りのもう一人は席に座ることなく、じっとこちらを見てくる。スズカ達と違って明確に私より小さいところからちらちらと上目遣いで見つめてきている。

 

 

「えっと……ど、どうしたの?」

「こんにちは。アストンマーチャンです」

「はい……こんにちは。スズカのトレーナーです」

「アストンマーチャンです。復唱してください。アストン?」

「マーチャン……?」

「素晴らしいです。お近づきの印にこちらをあげます。マーチャンブロマイドです」

 

 

 なんか貰った。確かに写っているのはアストンマーチャン……目の前の子だ。結構ちゃんとしてるというか、写真を撮る技術を感じるわね。自分で撮ったのかな。

 

 で、まあ癖としてウマ娘の能力は見るようにしている。同世代かな……能力的には悪くはない。悪くはないが……まあ相手が悪い。なにせ世代の中心はスカーレットとウオッカだ。短距離とマイルが走れるとはいえ、マイルでは勝負になるまい。

 

 

 こんな風に、スカーレットにとって脅威ではないと解ると安心してしまうのは私の悪いところだ。

 

 

「そしてこちらがマーちゃん人形です。お腹を押すと声が出ます。尻尾を捻るとオンオフが切り替えられます」

「技術的ね……」

 

 

 私が知らないだけなのかな。もしかしてこの子、ウマ娘ファンの中では知る人ぞ知る物凄い人気の子だったりするの? どこからか取り出して貰ったぬいぐるみもかなり出来が良さそうだし。もちろん、人気商品であるスズカぬいぐるみよりは劣るけど。

 

 

「キーホルダーもあります。是非お家とご実家とトレーナー室に飾ってください。一族郎党ご贔屓に」

「スカーレット、何この子! 怖いけど!」

「マーチャン、この人の家はスズカ先輩のグッズで溢れてるから渡してもあんまり意味無いわよ」

「そういうことじゃなくて!」

 

 

 スカーレットとウオッカは慣れているのか大して気にしていない。面食らっている間に、アストンマーチャンはスズカにもぬいぐるみを渡していた。スズカもあれでまともな面があるので、ぐいぐい来られると普通に引く。

 

 

「スズカ先輩もオマケをどうぞ。こちらはマーチャン印のシューズです」

「え……聞いたことな……これ、最近話題のマイルシューズじゃない」

「シールを貼りました」

「もったいない……私、抽選当たらなかったのに……」

 

 

 落ち込んだスズカが私のところへ駆け寄ってきた。うあー、と悲鳴をあげて、座る私の膝に乗る。友達の前で何してんのよという視線がスカーレットから送られてくるけど、私は知らないわ。何もしてないでしょ私は。

 

 煽るように肩をすくめると少しだけ目尻をぴくぴくさせて、それでもキレることなくウオッカに向き直る。いつの間にかスカーレットがソファ、ウオッカが床に座らされていた。

 

 

「……はい、じゃあウオッカ、相応のお願いの態度をとってもらおうかしら」

「ぐ……た、頼む、勉強を教えてくれ……!」

「ん?」

「教えて……ください……っ」

「んー? お腹の底から声を出してよ。聞こえないじゃない」

「あああ!!!! お願いしますスカーレット様ァ! 勉強を教えてくださいッ!」

「やればできるじゃない」

 

 

 向こうは向こうで何してんだか。何故か部屋にあったムチで、土下座するウオッカの頭をぺしぺしと叩いているスカーレット。似合うわねこの子。そういうお店かと思っちゃった。八重歯とつり目が良い感じに働いてる。

 

 

「あれは何をしてるんですか……?」

「スカーレットは教室で頼まれると二つ返事ですから」

「ああ……引き受けるのは良いけどその感じで引き受けるのは癪なのね」

「そこ! 余計な想像しない!」

 

 

 アストンマーチャンが二人をガン無視して勉強を始めた。眼鏡、外すんだ。

 

 

「三人の時はキャラ付けで着けてます。カッコいい系、可愛い系、そしてマーちゃんは知的なインテリ美少女です」

「あんまり自分では言わないけどね」

「属性はバラけた方が印象に残りますから」

 

 

 勉強の内容は……簿記? なんで? さっきから本当に、スカーレットは一体どんな友達を作ってるの? 悪いことじゃないけど変わりすぎじゃない? 

 

 

「ふう……まあ良いわ。ほらノート出しなさい。少しはやれるようにしてあげるから」

「お、おう……助かるぜ。ありがとな」

「ふん。お礼なら補習を乗り切ってから聞くわよ。できるまで帰さないから」

 

 

 程無くしてスカーレットも気が済んだようで、向かい合って勉強を始めた。せっかくなので少し見てみる。

 

 スカーレットのノートはやはり優等生といったところで、恐らく完璧に板書をしているだろうな、という感じ。ただ、それとは別に手元で広げたメモみたいなものには色ペンでぎちぎちに補足が詰め込まれている。努力を隠すにも限度があるでしょ。

 

 一方でウオッカは……あーこれはダメね。絶対授業中寝てるわ。授業をろくすっぽ聞いていないスズカでももうちょっと書き込んでるわよ。本当に勉強が苦手なのね。

 

 

「あとでノートは写して提出し直しね。それと本試験の問題は……無いわよね。私が持ってるからまずはこれの復習からやるわよ。難しいことは考えなくても良いから、やり方だけ覚えるわよ」

「お、おう……」

 

 

 仮面優等生と見せかけて、別に素でも普通に優等生なスカーレット。面倒見も良いし、偽っているのは割と口調くらいのものだったりする。今回も、他の人の目があるなかで笑顔で応じるのが嫌だっただけで、わざわざ実質マンツーマンで教えてあげているし。

 

 

「スカーレットはツンデレですから。キャラが立っていて良いですね」

「キャラとか言わない。スカーレットのあれは素でしょ。確かにこてこてだとは思うけど」

「聞こえてるわよ!」

「ふふふ」

 

 

 主に私とアストンマーチャンの会話がスカーレットの茶々になりつつ、でもまあ真面目に勉強をするようなのでしばらく静かにしてあげることに。

 

 聞いている感じ結構ウオッカもバカじゃないというか、勉強が嫌いなだけで頭が悪いわけじゃないんだな、とは思う。私もそうだし、学生なんかみんなこんなもんかな。

 

 

「なあスカーレット。なんでこれsが付いてるんだ? 違う単語か?」

「それは主語が三人称だと付くのよ」

「三人称って何だ?」

「私とあなたが入ってないもの全部よ」

「おお。なるほどな。じゃあこれもsが付くんだな」

「過去形には付かないの」

「そうなのか……」

 

 

 こんなに長い間スカーレットが声を荒げていないのも久しぶりね。私達のせいだけど。何度同じことを聞かれてもちゃんと落ち着いて答えてあげるあたり本当に真面目で優しい子だ。

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 

 

「ん、じゃあ休憩。あと二割くらいよ、頑張んなさい」

「ぐえ……」

 

 

 それからしばらくして。どうやら一段落ついたようで、スカーレットが冷蔵庫から飲み物を出してきた。せっかくなので私達も貰うことにして、八連敗中のオセロ盤をひっくり返す。

 

 

「結構長いことやってるけど大丈夫? 空調とか……聞くの遅いか」

「や、大丈夫っす。ありがとうございます」

「スカーレットも疲れてない?」

「ん……ま、ちょっとくらいはね。でももうちょっとで終わるから。疲れたなんか言ってられないわよ」

 

 

 さらっと言うなあ。しばらくずっと座ったまんまだったのに。ウオッカなんか疲れきってテーブルに伏せているし、アストンマーチャンも少し前に勉強をやめて横から少し口を挟む立ち位置に落ち着いてたし。

 

 労いを込めて肩を揉んでみる。はあ、とため息をついて目を閉じるスカーレット。

 

 

「ウオッカはどう?」

「ん……まあまあね。バカじゃないんだし、ちゃんと勉強すればこんなことにはならないのよ。ま、私が教えてるんだから当然だけど」

「一言余計だろ」

「うっさい。元はといえばアンタがこのままじゃアルテミスに出られないとか言うからじゃない」

「え?」

 

 

 そんなに追い詰められてるの? 確かにあまりにも悪ければそういうこともあるだろうけど……まあ、中学の初歩から躓いてるとなればトレセンも目をかけるか。ただでさえスカーレットとウオッカは世代でもトップクラスの風格があるし。スカーレットだってエルナトに自分から来なければ、本来私みたいな若くて実績の甘いトレーナーがとれるウマ娘じゃないのだ。

 

 

「いや違……も、もしかしたらって言っただけだろ!」

「少しでも可能性があるだけでダメなのよ! いい、私と阪神で戦うんだから、もし出られないなんてことになったら絶対に許さないんだからね!」

「ぐ……わ、解ってるよ! 絶対に勝つからな!」

「ふふん! まあ出ても勝つのは私だけど!」

 

 

 なんかこう……スカーレットってやっぱり素直なのかも。元々結構解りやすい子だと思ってたけど、ここまで来ると三周くらい回って清々しいわ。

 

 

「心配なんですね、ウオッカさんが」

「は、はあ!? 何を言ってるか解りませんけど!? 誰がこんな奴心配なものですか! ただ、挑んでおいて逃げられるのは嫌というか! 別にこいつを心配してるんじゃなくて! アタシが消化不良になるというか! それだけで!」

「はいはい」

「その目は何だッ!」

 

 

 クッションを投げ付けられた。今のは私じゃなくない? 相槌でしょ相槌。その前に聞いたスズカに怒るべきじゃん。微笑ましいな、とは思ってたけど。

 

 

「勘違いするんじゃないわよ! アタシが一番になるための踏み台よ踏み台! アンタみたいなのを倒さないと霞むじゃない!」

「アンタみたいな?」

「実力のあるウマ娘、かな……」

「ぶっ飛ばしてやるッ!」

 

 

 顔を真っ赤にしたスカーレットがこっちに飛び掛かってきて、しばらく勉強会は中断となった。怒ってるのか照れてるのかはマウントポジションで殴られていた私には解らないけど、スズカもアストンマーチャンも楽しそうだったし、ウオッカは照れていたからそういうことなんだと思う。まる。




重賞ラッシュ、いくか……(戦慄)
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