走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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前こんなの書けって言われた覚えがありました。言われて無いかもしれません。



脳を破壊されるサイレンススズカ

 

「やです」

「ダメ」

「やーでーす」

「ダーメー」

 

 

 ある日。日曜日に天皇賞を控えたスズカに、私はランニング禁止を課そうとしていた。

 

 

「おかしいです。トレーナーさんはいつもそうです。私のことを何だと思ってるんですか。ウマ娘は走らないと死んじゃうんですよ。トレーナーさんは私が死んじゃっても良いんですか」

「一週間やそこらで死ぬものじゃないでしょ」

「私が特異体質かもしれないじゃないですか」

「いや実績があるし」

 

 

 ソファに座る私と、トレーナー室のドアノブを握っていつでも逃げられる構えのスズカ。逃げないのは何故か。さっき隙をついて、私とスズカの脚をロープで繋いだからである。

 

 ひとしきりスズカを説得したら、腕も繋ごうと思っている。

 

 

「とにかく、解りました。じゃあ今日だけ。今日だけ走ります。それで良いですよね?」

「そう言って明日も走るんでしょ」

「それは明日の私に言ってください」

 

 

 むむむ、と眉を顰め、尻尾もウマ耳もびゅんびゅんに動かすスズカ。こっそりロープを踏んで千切ろうとしていたので引っ張って妨害しておく。ロープに脚を取られスズカが浮いた。

 

 

「ぅぁー……」

「何してるのあなたは」

 

 

 ドアノブとロープで支えられて宙吊りになったスズカ。ロープを引くとハンモックみたいに揺れる。ドアノブを離したら顔面から落ちるけど、まあウマ娘の力なら大丈夫。

 

 しばらく吊られたスズカを楽しんだ後ゆっくり降ろし、酔ったのかそのまま寝そべってしまった愛バを抱えてソファに戻る。手錠を繋ぎ、腕と腕を縛って隣に寝転がらせる。

 

 寝たまま腕だけ私に引っ張られているの、事件性を感じるわね。

 

 

「おに……あくま……」

「そんなに残酷じゃないでしょ」

「残酷です……外を見てください、こんな日に走らないなんてどうかしています……」

「今にも降り出しそうな曇り空だけど」

「台風じゃないんですよ」

「ハードルが地面に埋まってるのよ」

 

 

 バタバタ脚を動かして猛抗議するスズカ。別にやりたければ私ごと引きずれるしロープも手錠も引きちぎれるんだけど、とりあえず今回はかなり理性が強そうだ。

 

 スペシャルウィークにも色々言われてるらしいし。直接呼び出されて、絶対に走らないでくださいね、と強く詰められたらしいし。先輩の威厳とは。

 

 

「時間がありませんトレーナーさん。週末は大荒れです。天皇賞だってできるか解らないんですよ」

「そしたら禁止期間が一週間延びるだけよ」

「約束が違います……」

「約束なんかしてないからね」

 

 

 うぅぅ、と呻き始めたスズカを抱き寄せて、膝に乗せてお腹を撫でる。私のボタンを弄り始めたのでとりあえず一旦抵抗はやめたらしい。唇を尖らせて、むむむ、とブラウスを引っ張る。お腹出ちゃうって。

 

 でもまあ、実際天皇賞は無理そうなのよね。嵐が来てるから。そうなると都合二週間の我慢になるけど……まあ大丈夫でしょう。偉い子だし。

 それに、黄金世代もトレーニングの期間が増えて助かるでしょ。相も変わらず勝てるわけはないと思うけど。

 

 

「スズカ飲み物飲む?」

「いちご……」

「ん」

 

 

 ところで、エルコンドルパサーが凱旋門で負けたらしい。結構びっくりした。あの世代で誰が一番強いかと言えば間違いなくエルコンドルパサーだったから。ともすればシンボリルドルフのような才能の暴力ができるステータスを持っていた。もっと育てば、だけど、スズカとも勝負ができたかもしれない。

 

 だが、欧州最強と名高いモンジューの前に二着に終わった。一応日本のウマ娘が凱旋門で二着というのは快挙というしかない。だけど、ギリギリまで粘っていながら最後に差された精神的ダメージは大きいだろう。

 

 私は性格が悪いので大して何も思わないけど。海外でやってる分にはスズカの脅威にもならないし、別に二着でも凄いものは凄いし。日本最強と欧州最強じゃレベルが違う。向こうは何ヵ国も含めての話だし。

 

 

 ……ああ、ただしスズカは除く、ね。この子はウマ娘の理論値だ。芝に慣れるまでは手こずっても、一度慣れてしまえば負けることはない。相手がどこの誰であろうと能力比べなら勝てる理不尽の化身がスズカだ。

 

 

「むぅ……なんですか? 走って良いよって言うつもりになりましたか? ええっ、良いんですか!? やったっ、じゃあ走ってきますね! トレーナーさんありがとうございます!」

「何も言ってないでしょーっ」

「ぁぅぁぅぁぅ」

 

 

 頬っぺたをうりうりして調子に乗らないようにしておく。いつの間にかベルトも外されていた。何してるんだか。

 

 

「脱げちゃうでしょ。腰細いんだから」

「でも夏よりフックの穴が一つずれてません?」

「そういうこと言わないで」

 

 

 恐ろしい。今度ジムとか契約しようかな。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「ところでさあ、トレーナーはさあ」

「うん」

「元カレってどんな人だったの」

 

 

 しばらくして、部屋にスカーレットが合流した。トレーニングの予約時刻まで少しあるので話していると、突然そんなことを言い出した。

 

 

「なに、いきなり」

「いや……あるでしょ、そういう話がしたい気分の時」

「あるけど、私あなたより十近く歳上よ」

「クラスでしてもさ……『私はまだまだですから、そんなこと考えてる場合じゃないですよ』って言うしかないじゃない」

「声の切り替えが凄い」

 

 

 別人がいるかと思った。トレーナー室で声が低いダイワスカーレットか。常に電話しているお母さんモードみたいな。そもそも別に色恋の話くらい優等生でもするでしょ。

 

 猫被りの台詞中は顔も可愛い笑顔に変わり、そうしていると可愛い優等生そのものになる。変わり身が凄いし、なるほど確かにこの顔の子が彼氏いますとか言うわけないと思うわ。

 

 

「変に噂が立って、異性交遊反対の先生がいたらどうするのよ。そもそも本当に全く無いんだから話そうにも全部嘘じゃない」

「まあ、そりゃそうか……出会いも無いものね」

「トレーナーが男だったらそういう匂わせもできたんだけどね。良い感じにエピソード盛っとけばそれなりに話せるでしょ」

「匂わせって……」

 

 

 別に好き好んでやるようなものじゃないでしょ。私が男だったとして、中学生に手を出したみたいな風評が立つ可能性があったってこと? スカーレットはそれで良いの? 

 

 

「で、どうなの」

「別に取り立てて話すようなことがある人じゃ……顔は良かったかな」

「良かったんだ……スズカ先輩何やってるんですか」

「いえ別に……」

 

 

 お姫様抱っこの体勢に上がってくるスズカ。下から私の顔を撮り始めた。撫でてあげると満足そうにどこかとチャットを始める。せっかくだから脚上げで腹筋をさせているけど、まったく堪えた様子がない。流石のパワーだ。

 

 

「トレーナー顔は良いもんね」

「顔はって何? 私だって傷付くけど」

「じゃあ他の取り柄があるの?」

「結構尽くすタイプよ」

「だからスズカ先輩とお風呂入ってるの?」

「彼氏とお風呂なんか入らないでしょ」

 

 

 ゼロかと言われると何とも言えないけど。少なくともスズカとは二日か三日おきに入ってる……というかスズカが寮にいる時以外は入ってるから同列にしちゃいけないでしょ。

 

 ……いやゼロだな。思えば一回も無い。まあ最後に付き合ったの高校だし当たり前か。

 

 

「好きなタイプとかいるの?」

「えー……別にこれと言ってかなあ」

「足が速い人ですよね」

「そんな小学生みたいな基準はないでしょ」

「でも私のことは好きですよね?」

「当たり前でしょーっ」

「わふわふ」

 

 

 抱き締めて顔を塞いだり放したり。今ウマ娘の好みの話はしてないのよ。隣に座らせて、スズカのスマホを覗き込む。スペシャルウィークに私の写真を送っていたらしい。

 

『見て』

『はい?』

『可愛いでしょ』

『はあ』

『え? 何ですかこのメッセージ』

『スズカさん?』

 

 

 ……マジで何してるの? 

 

 

「何これ」

「別に」

「……まあ良いけど、知らない人には送らないでね」

「フォロワーさんは?」

「良いわけなくない??」

 

 

 そうですか、と言いつつウマッターを開くスズカ……ああリプ返か。良かった。天皇賞のことでたくさん応援を貰ってるし、多少はそれに返さないとという意識もあるみたいだし。答えなくて良いタイプのやつだけ口を出しつつ、あとはスズカの首筋を撫でて眺める。

 

 

「強いて言えばとかで良いのよ。私のこの……欲を満たして」

「えー……」

「栗毛ですよね」

「別に毛の色は気にしたこと無いけど」

 

 

 尻尾やら髪やらを巻き付けてくるスズカ。もちろんスズカの毛を汚いと思うことは無いけど、何よりあなたが鬱陶しくない? 動きづらいでしょ。

 

 

「でもそれで言うなら黒髪の方が好きかも」

「えっ……」

「人間の男の話ね」

「へー……他には?」

 

 

 ぐいぐい来るなあ。語れば語るほどスズカがくっついてくるからあんまり深掘りしてほしくないんだけど。私のお腹で何かをもぐもぐしている。私の服がぐちゃぐちゃよ。

 

 タイプの次は元カレのことを質問攻めされ、十分くらい経ってひとしきり満足したらしいスカーレット。というより、自分からは話せないことに気付いてやる気を無くしたのか、つまらなそうな顔でため息をついて私の隣に座った。

 

 

「はあ……まあこれくらいで良いか」

「ま、満足した……? あの、スズカ、痛い、背中が折れちゃう」

「むー……」

「むーじゃなくて……あああおれおれおれる助けてスカーレット」

「昼間から抱き合うのやめなさいよ」

「そんなんじゃないのわかるよね! あ、あのスズカ、それ以上はやばばばばば」

「むむむ」

 

 

 スズカからの熱烈なハグが止まらない。背中が軋んできた。なんでこんなことに、私はただ恋バナをさせられていただけなのに。愛バからの愛が痛すぎる。折れる、痛い痛い痛い。

 

 額をぐりぐりしてベアハッグを続けるスズカ。煽った原因たるスカーレットが機嫌良く勉強を始めてしまったので、甘んじて受け入れるしかなくなっている。あの子、私とスズカなら何してても放置で良いと思ってるでしょ。

 

 

「す、スズカ、わかった、わかったから、ごめん、軽率に元カレの話は良くなかった、ごめんって」

「むむむむむ」

「ぐぐぐぐぐ」

 

 

 ウマ娘の独占欲を甘く見ていた。スズカはそういうの薄い方だと思ってたし、一応同性なのに。話すごとにふにゃふにゃになってすり寄ってくるのが楽しくて私も悪ノリしてた部分はあるから痛みは受け入れるけど。

 

 もちろん引き剥がすことはできないし、まあ走りたい走りたいとごねて逃げ出すよりはマシなので……いやマシか? 普通に今の方が苦痛じゃない? 私じゃなかったら絶叫してるよ。

 

 

「こ、こんにちは……ひぇっ、な、何してるんですか……?」

「ライスシャワー、ちょうど良かった助けて、死ぬ死ぬ死ぬ」

「えっ、え?」

「黒髪……」

「あだだだだだだライスシャワー早く助けてブルボンが目じゃないくらいの怪我する」

 

 

 ブルボンの病院まで毎日送り届ける約束をしているライスシャワーが来てくれて、戸惑いながらも引き剥がそうとしてくれた。

 

 ……まあ力の差で引き剥がせなくて、結局ライスシャワーの送りの時間になるまで抱き付かれたまんまだったけど。ごめんて。




『こんな態度の二人だが』

『トレーナーが恋愛感情を自覚するとバッドエンド一直線になる』
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