走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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全て理解しているサイレンススズカ

 

「──とまあ、こんな感じだな。何か参考になっただろうか」

「はい! ありがとうございます、副会長さん!」

 

 

 十月二十二日、金曜日。記録者、ミホノブルボン。本日は、エアグルーヴさんからの要請により病室にて情報交換……情報提供を行っています。私からの開示は終了し、副会長の番です。

 

 甘味をとりながら、ということで、病院近くの甘味処で持ち帰りのスイーツを買ってくることになりました。支払いは副会長です。マスターにも好きにしてこいとの許可を頂いていますので、一日五食期間限定、スペシャルデラックスアップルパフェを注文しました。

 

 

「すまないな、大したことが言えなくて。結局スズカに勝てなかった私の言葉など、何の説得力も無いかもしれないが」

「そんなことありません! だってその、えーっと……その」

「お前のこともそこそこ解っているつもりだ。言葉を選ぶ必要は無いぞ」

「負けた方が得られるものが多いってトレーナーさんも言ってました!」

「没収」

「そんなあぁぁぁ……っ!」

 

 

 常に減量期間中であるスペシャルウィークさんは、今日も小さなアイスクリームに甘んじています。エルナトには太りやすい体質のウマ娘はいませんのでその辺りの事情は解りませんし、過去に行った体重管理も、どちらかといえばハードトレーニングによってがれないようにする措置の方が主でしたから……可哀想ですね。

 

 エアグルーヴ副会長が紅茶しか飲んでいないのは気分だそうです。私は何も気にせずライスに食べさせてもらっていますが。

 

 

「まったく……少しは言葉を選べ」

「言ってることが違うじゃないですか!」

「冗談じゃないか」

「あーっ! 食べましたね! 私のアイスを! 戦争ですよ!」

 

 

 メモリ参照。副会長のスズカさんに対しての戦績は五戦全敗です。その全て、お二人はお互いを認知したうえで走っていますので、当然対策や作戦もその数存在します。性質上、スズカさんから副会長への対策は無いでしょうが。

 

 スズカさんは恐らく今年でトゥインクルシリーズを引退します。ドリームリーグに進むかは不明ですが、少なくとも、トゥインクルでスペシャルウィークさん達と戦うのは残り二戦、天皇賞とジャパンカップのみとなります。

 

 

 ジャパンカップは海外からのウマ娘の招待が多く、日本のウマ娘は枠が限られている都合上──少なくともスズカさんとスペシャルウィークさんが弾かれることはそうそう無いでしょうが、黄金世代とスズカさんの激突は実質上明後日の天皇賞が最後です。

 

 

「でもまあ、お二人のおかげで色々知れましたし、ここからトレーナーさんと相談して、作戦を立てて……うん、良いですね」

「……ところで、ブルボン、君は良かったのか。スズカの走り方や弱点を言ってしまって」

「構いません」

 

 

 マスターにも許可を頂いています。理由は容易に推察できます。一つは、「先頭に立たせない」という究極的な対策は逃げ戦法のとれないスペシャルウィークさんには実現不可能だということ、もう一つは、「スズカさんの走り方などとうに分析されきっているから」でしょう。

 

 そして三つ目の理由は、スズカさん自身が構わないと言ったから、です。

 

 

「私はエルナトに所属している以上、スズカさんの勝利を疑うことはできません」

「相変わらずのチームだな」

「何なんですかね本当に。いや、それが良いとも言えるし、そういうスズカさんを尊敬して目指しちゃったのは私なんですけど……」

 

 

 理解者たるお二人はそれ以上私へ指摘はしませんでした。あーん。ライスの一口は大きめなので少しだけ困ります。食べさせてもらっている以上、指摘はできませんが。

 

 

「それに、皆さんは無為に広めることはしないでしょう」

「それはもちろん! 絶対に言いふらしたりはしません!」

「なら構いません」

「あ……クリームが無くなっちゃった……」

 

 

 ステータス、『驚愕』……アップルソースの部分を食べきってしまったようです。ここからはアップル要素はシャーベットのみ……よく考えて食べさせてほしいです。

 

 

「副会長こそ、一方的に誘い、代金を支払ってまでスペシャルウィークさんにそれを伝えた意図が解りません」

「……まあ、失礼を働いた懺悔の代金だ。お前を代わりにするのに等しいからな」

「副会長さん……」

「私らしくないとは言われたよ。トレーナーにも、会長にも。だが私にはもう挑戦権がない。少し重ねて夢が見たいんだ。そのためならどんな協力も惜しまない。併走を承けたのもそれが理由だ。後輩だから、友人だから、とかではなく」

 

 

 副会長は紅茶を含むと、スペシャルウィークさんが書いてきたメモを取って開きました。スズカさんと多く走ったことから得た様々な知見が書かれています。

 

 マスターは分析力においてはトレセンでも随一……特殊能力と言えるほどに……ですが、どうも偏りがある面や、レース中の挙動は軽視する傾向にあります。スズカさんのことは全て知り尽くしているでしょうが、盲信できる我々でなければ解らない言い方をしますので、エルナト外の分析にも非常に大きな価値があります。

 

 

「要するにだ、一人の友人としてスズカが負けるところが見てみたい。あのトレーナーもな」

「それは……解ります。どんな反応するんですかね、あのトレーナーさん」

「泣いて謝る可能性もあります」

「そうか……まあ大丈夫か」

「それは大丈夫なんですか……?」

 

 

 大丈夫でしょう、恐らく。スズカさんが落ち込むことはないでしょうから。お二人のうちどちらかでも本調子なら、お互いに励まし合って復帰します。その目線からすれば、

 

 

 きゅるるるる……

 

 

「え」

 

 

 ライスが顔を真っ赤にして手をバタバタとさせ始めました。持っているスプーンからクリームが飛び散って私の顔に付着しています。ライスはお二人の予定に無かったうえ本人が拒否したので取り分がありませんが……そもそも大食家なわけですからお腹も空くでしょう。

 

 

「あっ、あのあのあのっ、ご、ごめんなさい、お腹空いちゃってっ」

「え? 今お腹鳴ったのは私ですけど」

「え?」

「え?」

 

 

 ……よく解りませんが、どうしてスペシャルウィークさんはそんなに誇らしげな顔ができるんですか? 

 

 

 ぴりりりり。

 

 

 スペシャルウィークさんに何か言おうとしたとき、私の携帯電話が鳴りました。着信音からしてマスターです。当然私単独では出られませんので、代わりにライスが携帯を取り出して通話状態にしてお腹の辺りに置いてくれました。

 

 

「はい、ブルボンさん。ここで大丈夫?」

「ありがとうございます。もしもしマスター、ミホノブルボンです。何人かいますがこの状態で問題ありませんでしょうか」

 

 

 許可を頂いたので、部屋から出ようとするお二人にはそのままいていただきます。食べかけのパフェはライスにあげることにして、どこか平坦なマスターとの通話を開始します。自分の配分ミスを反省してください。

 

 内容は、少し予測していた通りでした。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「トレーナーさん」

「ん」

「お手洗い……」

「三十分くらい前に行ったでしょ」

「また行きたいかもしれないじゃないですか!」

「あなたの身体も嘘も私が一番理解してるのよ」

 

 

 ある日。台風が週末に迫り、恐らく天皇賞は延期だろうというのがトレーナー達の間でもほぼ確実になった。延期先は……慣例なら月曜日だが、収益を考えるなら天皇賞だけは日曜日にするかって感じ。

 

 そして、そのことを愛バに伝えたところ、血相を変えて走り出そうとしたので、まあまあまあと宥め誤魔化し抱き締めて撫で回して、ようやく部屋の机→私の腕→私の足→スズカの脚を手錠で縛ることに成功した。

 

 

「トレーナーさん、冷静に考えてください、週末は嵐……つまり今がラストチャンスなんです。ここで走らないと走れません」

「トイレに行きたいんじゃなかったの」

「あ、えー……い、今行かないと来週まで行けないんですよ!」

「適当だなあ」

 

 

 普段と違って本気で焦っている様子のスズカ。ウマ耳も尻尾もびゅんびゅんに動かして、妙に早口で私の腕を揺らしてくる。

 今回も普通の手錠なのでスズカなら簡単に引き千切れる……が、単純に引っ張って千切ると私の身体がばらばらになるし、走りたくて限界のスズカにはドアから遠ざかって鎖を持って千切るなんてことはできない。あほなので。

 

 

「やだやだぁ……走るぅ……」

「どちらにせよ今日だっていつ雨が降るか解らないのよ。ほらおいでスズカ」

「あぁ……」

 

 

 手錠を引っ張ってスズカを引き寄せ、膝に座らせる。動けないように髪の毛を掴んで、さらさらの栗毛を三つ編みにしたり、ロールアップにしたり。

 

 泣きそうにはなりながらも、まだ一応スペシャルウィーク達との約束は残っているらしいスズカ。と言っても許可を出したら即走りには行くだろうけど。こうして考えると、後輩達の存在はスズカを縛る鎖にはなるが、その強度はこの手錠と大して変わらないかもしれない。

 

 

「じゃあ今から天皇賞の後どうするか考えておこう? 何したい?」

「走りたいです。今すぐに」

「それ以外で」

「時速50km以上でエンジン音無しで風を切って高速で移動したいです」

「移動系以外で」

「じゃあ無いです」

 

 

 相変わらず単一の欲望しかない女、スズカ。走ること以外頭から抜けている。後ろから首もとを擽って、んー、と頭を擦り付けてくるのを受け止める。ぱたんぱたんと両脚をばたつかせながらも、とりあえず部屋にいてくれている。

 

 

「走る走る走る……もう耐えられません。私はですねトレーナーさん。なんと追い風を選んで走り続けるという特技があるんですよ。見せてあげます」

「見せなくても良いよ。無理だから」

「やってみなきゃ解りません。風は私の味方です」

「本当に味方ならこんな悪天候にならないでしょ」

「私が走らないから機嫌が悪いんですよ。走ればすぐに好転します」

「神話の生き物じゃんか」

 

 

うぁ、うぁ、と鳴き声をあげながら背もたれの私にどんどんとぶつかってくるスズカ。スカートで腰より上に脚を上げちゃいけません。

 

 

「走らせてくれたら考えます。全てはそれからです」

「人前でできるもんならやってみなさいよ」

「……スペちゃんなら何も言いませんし」

「それは喜んで良いの?悲しむべきじゃない?」

「この間……今日は寮にいますって言ったら、え?友達呼んじゃいました、って言われて追い出されたんです」

「ウケる」

 

 

 ……いい加減風が強くなってきたし、今日はもう帰った方が良いかもね。病院にも行かなきゃいけないし、嵐の中運転するのは普通に危ないし。ガタガタ鳴ってきた窓をカーテンで遮って、どっちに帰る? とスズカに聞こうとすると。

 

 

『トレーナーさん? すみません、駿川です。少しお時間よろしいですか?』

 

 

 ドアがノックされた。来ちゃったか。思ったより早かったなあ。週末に天皇賞が予定通り開催されていたら来週になった可能性もあったんだけど……まあ仕方がない。

 

 

「ごめんねスズカ。ちょっと行ってくるから帰り支度だけしておいて」

「……はい。待ってますね」

 

 

 スズカも何となく気が付いているようで、走っているとは言わずに手を振った。そのまま大人しく帰り支度を始めてくれる。ありがとうスズカ。

 

 

「ところでトレーナーさん、もしかしてジャージを着れば家まで走れたり」

「しないよ」

「……むぐ」

 

 

 ごめんね。来週はたぶん走れるからさ。許してね。




スペシャルウィークはスズカのことが大好きだし心から尊敬してます。それはそれとしてダメウマ娘とは思ってますが。
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