走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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スズカ先輩って打つの面倒だったのでスズカさんになりました。一日で距離が縮まったのかもしれへんし。


一段上にいるサイレンススズカ

 

 どうやら、スズカ先輩はそんなに怖い人じゃなさそうです。

 

 

 ライスだけじゃないけど、トレセン学園におけるスズカ先輩はとても怖い……ストイック? 真面目? な人です。

 

 あのエルナトに入っているのもそうだし、レースの時の鬼気迫る表情とか、いつも何を考えているのか解らない態度とか、とにかくミステリアスで不思議な人と思われています。ライスもそう思ってました。

 

 

 でも、トレーナーさんの家に転がり込んで一日、土曜日の昼、ライスは気付きました。あっ、この人はただ気ままに生きてるだけなんだな、って。

 

 

「あ、ここ良いですね。ここにしません? ここが良いです」

「あなた今ランニングコース併設しか見てなかったでしょ」

「そんなことないですよ……?」

 

 

 急遽泊まることになったので、することがありません。スズカ先輩に教科書を借りて勉強をしていますが、同じリビングで、二人は一つのスマホを眺めています。

 

 

「でも一番大事ですよね?」

「でも露天風呂が無いのよ。それに併設されてなくて良いじゃない。どうせ移動するでしょ」

「違います。走った後そのままお風呂に入れるし、お風呂に入った後そのまま走れるのが良いんじゃないですか」

「言っておくけど、いくら何でも走りすぎたら止めるからね」

 

 

 ソファに座るトレーナーさんと、スマホを持つ手を枕に膝の上に寝転がるスズカ先輩。昨日からずっとこんな感じです。距離が近いというか、何というか。

 

 なので、ライスは勉強どころではありません。話し声で集中できないとかではなく、本当にここにいて良いのか、不思議なオーラで追い出されそうな感じです。歓迎されているのは解ってるんですけど……

 

 

「嫌です。半日は走ります」

「だめー」

「むきゅ」

「走っちゃダメよ。はい解りました。うん偉い」

「んぐぐ」

 

 

 ほっぺたに手を回して、うんうんとスズカ先輩の顔を動かしています。

 

 

「走って良いですか? うん良いよ。ありがとうございます」

「いだだだだだスズカ痛い痛い首から腰にかけて死んじゃうから」

「走れるなら安いものです」

「背骨は命に関わるから……!」

 

 

 顔を両手で掴んで、無理やり頷かせています。

 

 

 昨日の夜も普通にお風呂に一緒に入っていました。確かに二人くらいなら入れそうでしたけど、入れるからって普通入りません。ブルボンさんが言ってたこと、本当だったんだ。え? 恋人さんかな? 

 

 

「ここは?」

「そこ露天風呂が混浴じゃん。やっぱり前行ったところが良いんだって。スズカも感触良さげだったじゃんか」

「んー……せっかくだし別のところを探したって良いじゃないですか。解りませんか? この繊細な乙女心が」

「繊細……?」

「ぱんちしますよ」

 

 

 ベッドなんか一つしかないし。一応お客さん用の布団はあったみたいで貸してもらって部屋の床で寝たけど、二人と同じ部屋で寝て大丈夫かな? 邪魔じゃないかな? と昨日の夜はドキドキしてしばらく眠れませんでした。何もなかったのでいけない子なのはライスでした。死にたいです。

 

 だけど、なるほど、ブルボンさんが楽しそうに色々話してくれるのが全部本当だってことも解ったし、あ、ブルボンさんももしかしてこんな感じになりたいのかな、というのも気付きました。

 

 

「ここは……ウマ娘用のプランが無いですね」

「別料金でも良いけど……走らなきゃ人間のご飯でも二日くらい何とかなるんじゃない?」

「一時間で飢えますよ」

「どれだけ走るつもり……?」

 

 

 ちらりちらり二人を眺めていると、結婚するとこんな感じなのかなあ、と思えてきます。もちろん二人はそういう関係じゃないし、それはブルボンさんも言っていたんだけど、もしかしてブルボンさんがよく解ってないだけじゃない? これ。

 

 

「これは?」

「あー……良いかもね。新幹線になるけど。でも大丈夫? 雪が降ってるかもよ?」

「雪が降ってるから何ですか? 豪雪でも走りますよ私は」

「強いなあ」

 

 

 どれだけ走りたいの? 

 

 

「言っておくけど雪でも雨でも降ってたらダメだし、降ってなくても積もってたら走らせないから」

「そんな……残酷な仕打ちですよそんなの!」

「大人の判断よ」

「むぅ」

 

 

 言い合いの途中もずっとお互いに触れ合っているというか……もしかしたらトレーナーが女の人だとみんなこうなのかな。その方があり得るかもしれません。今度誰かに……女のトレーナーさん、あんまり見たことないけど。

 

 

「そうだライスシャワー、お昼は何食べたい?」

「ひゅっ」

「ひゅ?」

「あ、いえ、あの、な、何でも大丈夫です……というか食費……」

「お米と麺どっちが良い? おうどんか……炒飯とか、一つの鍋でできるものなら何でも作るけど」

「じゃ、じゃあおうどん……」

「はーい。スズカ、ちゃんと選んどくのよ」

「あい……」

 

 

 そういえばもうお昼の時間です。ライスは早起きさんなんですが、昨日の夜は眠れなかったし、お二人も「流石にこんな時まで早起きしない」だそうで。こんな時……嵐のことかな。

 

 キッチンは姿が見えて声が届く距離とはいえ、ウマ娘向けの量を作るとなるとトレーナーさんも話す余裕はありません。またスズカさんと二人きりです。

 

 

 むむむ、と唸りながら引き続き温泉旅館を探しているらしいスズカさん。小規模チームはこういう時はちょっぴり羨ましくなります。ライスももっと最初から積極的になれたらトレーナーさんがいたのかもしれません。

 

 ……そうだ。

 

 

「す、スズカさん」

「ん、なに?」

「スズカさんはどうやって、トレーナーさんと契約したんですか?」

 

 

 せっかくなので今日こそライスから話題を振ってみることにします。たぶんお互い黙っていたらいつまでも無言になってしまうと思うので。スズカさんは結構会話無しでいられる人みたいだし、気まずかったらライスから話さないといけません。

 

 

「んー……まあ、別に変わったことじゃないと思うわ。普通の、専属の子達と一緒」

「はあ……」

「夜にいつも通り走ってたらね、突然トレーナーさんが来て、私と一緒に走ってほしいって」

「普通……?」

 

 

 ライス、聞いたことないけどな、そんなの。怖くなっちゃった。知らない人にそんなことされたらビックリしちゃうよ。

 

 

「先頭を好きに走って良いって言うから、良いかなって。色々あったりもしたけど」

「揉めたんですか……?」

「ちょっとだけ。前のトレーナーさんも良い人だったから、ほんのちょっとだけね」

 

 

 確か、ジュニアからクラシック前半までは他のトレーナーさんだったはずでした。そことも確か専属だったはずなので、もしかしたらスズカさんはそういう意味でも凄い人なのかもしれません。

 

 テーブルの上のコーヒーカップを両手で包んで、体操座りのままゆらゆらと揺れています。横顔がとても綺麗でした。嬉しそうに微笑むスズカさんが、あまりにも眩しくて目を逸らしてしまいます。

 

 

「それで、夏で色々あって、今って感じ」

 

 

 夏に何があったの……? 

 

 

「大変なこととか、無いんですか?」

「ちゃんと約束通り走らせてくれるし、先頭で走れてるし、で、勝ててるから……特に無いかな。勝ち負けなんてどうでも良いけど、お金は必要だから」

 

 

 勝ててる、という言葉の重みをライスは知っています。本当なら、「勝ててるから」とか「勝ち負けなんてどうでも良いけど」なんてこと、普通のウマ娘は言えません。上手く言えないけど、やっぱり、ライス達とは根本的に違います。この人は、勝つために生まれてきているんだ、と思いました。

 

 だから、ライスはぽろっと聞いてしまいました。

 

 

「勝って、何か言われたことはあるんですか?」

「何かって?」

「その、わ、悪いこと……とか……」

 

 

 菊花賞の時も、その後も。ブルボンさんは良くないことを言われ続けています。見てはいけない、見ない方がいいと思いながら、ライスはいつまでもそれらを見てしまいます。

 

 そして、ライスにも。もしライスが勝っていたら……という言葉で、勝たなくて良かったなんて。ブルボンさんがそれらを見ることは絶対に無いと思うけど、それでもやっぱり気になってしまいます。

 

 

 こんな質問をされたらスズカさんも困ってしまう、そう思って、すぐにライスは撤回しようとしました。しかし、忘れてください、と一言言う前に、スズカさんはスマホを取り出しました。

 

 

「調べる?」

 

 

 !? 

 

 

「ウマッターで良いか。んと……『サイレンススズカ』、どんなかな……悪いこと、悪いこと……『悪い』」

 

 

 この人は……無敵……? 

 

 

「あ、『遅い』……とか?」

 

 

 何をしているんでしょう、スズカさんは。本当に? 信じられません。わざわざ自分の悪いところを調べるなんて……いや、ライスもやってるけど、なんかそれとは違うような……

 

 

「スズカさんに遅いって」

「え?」

「ひっ……お、遅いって言える人はいないんじゃないかって……」

「ああ……そうよね」

 

 

 今一瞬、信じられないくらいの圧力が飛んできたような……き、気のせいかな? 気のせいだよね。そんな、怖くなるような威圧を出せるウマ娘なんていないよね。うん。

 

 

「『遅い』……『のろい』……『にぶい』……」

「一旦スピードから離れませんか……?」

 

 

 ちゃんと気のせいでした。眉間に皺は寄ってますけど、むむむ、と唸る姿は可愛いスズカさんのままです。検索ワードはおかしいですけど。後ろから覗いてみるけど、いくら何でも今のスズカさんにそんなことを言える人はいません。たまに無理やり言ってる人はいても、流石にそれはライスでも大丈夫なやつです。

 

 

 しばらく検索をしていたスズカさんでしたが、何故か悪口の語彙がスピードに関連するものしかなかったので調べ尽くしてしまったようで、ライスに検索ワードを言うよう要求してきました。

 

 

「えっ」

「私じゃもう思い付かないし……何かあると思う? 私の悪いところで、みんなが知ってそうなこと……」

「ええっ」

 

 

 言えません。まずそこまで知らないというのもあるけど、それ以上にこの状況でそんなこと直接言えるはずがありません。スズカさんは全く気にしていないようだったのでたぶん素なんでしょうけど、ブルボンさんと言いスズカさんと言い、天然さんが集まるチームなんでしょうか。ライスがしっかりしなきゃ……! 

 

 

「あ、あの! ライスはそういうこと、調べない方が」

「トレーナーさんは知ってますか? 私が言われてそうな悪口」

「まあねー」

 

 

 トレーナーさん!? 

 

 

「『つまらない』とか『邪魔』とか『かわいそう』とか『貧乳』とか」

「一個だけ褒められてません?」

「スズカにとってはね。ド直球侮辱セクハラなんだけど」

 

 

 この二人の感覚が解らなくなってきました。心無い言葉は誰であっても傷付ける、とライスは教わってきたんですけど、悪口を言うトレーナーさんもそれを入力するスズカさんも何も感じ入るところはないように見えます。

 

 これが心の強さなんでしょうか? そういう言葉に負けないことが大切ということなのかな。早速検索して出てきた呟きを見ていくスズカさんからも、傷付いている様子は全くありません。

 

 

「結構あるわね」

「え、あ、あの……何ともないんですか?」

「え? 何が?」

「はいはい。何も起きないから検索はやめようね」

 

 

 きょとんとして眺めているうちに、トレーナーさんがお鍋を運んできてくれました。だしと醤油とお野菜のいい匂いがします。鍋敷きを敷いて、ライスの前に置いてくれます。美味しそう……! 

 

 

「ごめんねライスシャワー。たぶんそういう気持ちはスズカには解らないと思うわ」

「む……なんですか、せっかく人が後輩のために頑張ってるのに」

「勝者の悩みとは無縁だからよ。勝った意識すら曖昧なんだから。他に相談した方が良いかもよ、ライスシャワー?」

「あ……はい」

 

 

 聞けば聞くほど、あ、この人はもうライスなんかとは別のところにいるんだな、と思えてきます。成績を見るよりずっと強く、『異次元』という称号が似合っていると理解できます。普通のウマ娘とは明らかに違う。だからブルボンさん、スズカさんは役に立たないときは本当に役に立たないみたいなこと言ってたんだ。

 

 

 ぐうう……

 

 

「あう」

 

 

 あ、後のことは食べてから考えよう……うん、そうしよう。お腹空いたんだもんね。美味しいものを前に出されたらお腹鳴っちゃうのはウマ娘として普通だし。ブルボンさんも、たくさん食べられるのは凄いって言ってたし。これはライス悪くないよ。恥ずかしくない、恥ずかしくない。

 

 

「大きな音ね」

「ぁぅ」

 

 

 恥ずかしくない……! 恥ずかしくない……!




これで株爆上がりやろなあ……
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