走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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今回は二話投稿です。『一番知ってる、ダイワスカーレット』よりお読みください。


一番近くで、ダイワスカーレット

 

 スカーレットと連絡を取ろうとしたけど、あの子、ずっと通話中だ。トレーナー室で定期的に連絡を取りつつひたすら待つ。

 

 でもそろそろ門限なのよね。申し訳無いけど今日はライスシャワーとスズカには歩いて帰ってきてもらうことにして、私の方から歩き回るべきかな、なんて考え始めた頃、電話が掛かってきた。

 

 

『今行くから。家で待ってて』

 

 

 それだけ言って切れた。よく解らないけど言われたからにはそのまま家に戻る。どうもこう、スズカやブルボンが厄介な時みたいな圧力を感じる声だった。

 

 

 車を走らせ少し、家にたどり着く。電子ロックを開けて、健康のために階段で自分の部屋に向かうと、ドアの前にスカーレットがいた。

 

 

「……遅かったじゃない」

「いや……うん、ごめんね。寒いでしょ?」

「ううん。走ってきたから」

「そっか」

 

 

 少ししおらしくなっていた。別にこれから家に入るだけだけど肩を擦る。確かに少し体温が上がっていやあっつ。思ったよりちゃんと体温上がってるな。これじゃ逆に寒いでしょ。

 

 ともかく家に入れて、お風呂も沸かしておく。タオルを首に巻いたスカーレットがリビングのソファに陣取っていた。話さなければいけないので私も隣に座る。

 

 

「お風呂入る?」

「……入る」

「じゃあその後に話が」

「アンタも」

「え?」

 

 

 提案でぴっと立てた私の指をスカーレットが掴んだ。私ではないどこかを見つめて、小さな声で言い切る。

 

 

「アンタも入りなさいよ」

「いや……まあ、良いけど……」

 

 

 さっき私を睨んでいたとは思えないくらい少し弱気で、でも渦中にいるとは思えないほど視線はまっすぐだった。脚を抱え込んで座り、口元を隠している。こんな状況でもなければ、告白でもされるんじゃないかってくらい殊勝な雰囲気だ。

 

 

 それからお風呂に入るまでは特に会話もなく、スカーレットが可愛いのでギリギリ気まずくないくらいの時間が続いた。見れば見るほど、私この子をあんなに怒らせたんだ、と憂鬱になる。

 

 スズカは8:2とは言ったけど、実際私が悪いんだろう、たぶん。自覚はないけど、そりゃ私だって、めっちゃ仲良い子に突然媚びた顔で「明日からも友達でいてね」とか言われたら訳が解らない感情になる。怒……りはしないかもしれないけど。

 

 

 お風呂が準備できたので二人で入る。先に脱いで洗い場にいたスカーレットが、私が入るなり手招きをした。

 

 

「ん」

「なに?」

「洗って? 尻尾も」

「……ん」

 

 

 ご所望のようなので、洗わせていただく。うちで一番髪が長いのがスカーレットだ。他二人より格段に気を遣っていて、触れるだけでそれが解る。一人で入る時もお風呂が長いのはそういうことだ。私もその分丁寧に丁寧にやる。何ならスズカにやるよりも。

 

 

「こんな感じで良い?」

「……ん。上手いじゃない」

「でしょ? トレーナーだからね」

「関係無っ」

 

 

 コンディショナーまで終わらせて、流石に体は自分で洗って、それから尻尾。寒いしお風呂に浸からせて、しっかり暖まってからお尻だけこっちに向けて突き出してもらう。

 

 

「どんな感じにするとかある?」

「え……バリエーションがあるの?」

「スズカがいっぱいテールオイル持ってるのよ。纏まるタイプとかさらさらになるやつとか」

「美容室みたいになってるじゃない……じゃあスズカ先輩と一緒で」

「はーい」

 

 

 いつものスズカのやつ使って良いかな……まあ良いか。たっぷり使っちゃお。スカーレットの尻尾のケアなんてそうそうやることないだろうし。

 

 揉み解して馴染ませながらぎゅっと絞っていく。付け根辺りはまだ神経があるので慎重に。擽るとスズカは嫌な顔をするし、スカーレットも近付くとちらりとこっちを見てくる。

 

 

「スズカ先輩にもいつもやってるの?」

「ううん。スズカは尻尾は結構自分でやりたがるわね。たまにやらせてもらえるけど、メインはスズカかな」

「ちなみに時間かけすぎじゃない?」

「まだスズカの二割も経ってないわよ」

 

 

 まあでも五分くらい経ったかな。ウマ娘の尻尾は本当に触り心地が良い。それに、髪や肌のように体の調子をそのまま反映するので、今日も健康なスカーレットの尻尾もそれに準じてふさふさでふわふわになっている。

 

 寒いので私もお風呂に入り、膝の上で同じ体勢になってもらって続行。ちょっと尻尾が動くのは……ああ、流石に恥ずかしいのかな? しばらく尻尾を弄くった後、タオルで拭いておしまい。スカーレットがお風呂を出る……かと思ったら、そのまま浸かり直した。

 

 

「え……オイルもったいなっ」

「ああ……まあ、一旦待ってよ。私もこう……アンタと話さないとじゃない?」

 

 

 ……まあ、良いけど。浴槽で向かい合って、髪を纏めたスカーレットがじっとこっちを見ている。話さないとも何も、私が悪いんだから、それは私の役割なんだけど。

 

 でも、スカーレットは自分から何か言おうとしているし、待った方が良いかな。スカーレットが許してくれれば……じゃないや。こういうことを考えているから怒らせちゃったんだよな。

 

 

 そうしてしばらく待っていると、スカーレットがため息とともに語り出した。

 

 

「嫌かなあって、思ったんだけどさ」

「うん?」

「全然嫌じゃなかった。アンタに尻尾を触られても嫌じゃない」

「そう……なの」

 

 

 ぱちゃぱちゃ小さく拍手をして、スカーレットは私の胸元を見つめている。嫌じゃないと言われるのは嬉しい。もちろん、スズカやブルボンだって嫌がることはないけど、尻尾って言うのがどれくらい大切なものかは何となく解るし。

 

 

「嫌だったら、まあ、違ったんだけど。でも嫌じゃなかったから、もうダメなんだなあって」

「……何が?」

「ねえ、アンタさ。ブルボン先輩が大怪我したじゃない。それで三冠とってさ。謹慎だっけ。お給料も減らされるんでしょ? そういうのって。解らないけど」

 

 

 スカーレットが答えてくれない。台本でも読んでるみたいに自分の言葉を押し付けてくる。

 

 

「まあ、そうね……少しね」

「それで良かったって思う? ブルボン先輩、もしかしたら死んじゃうかもしれないことしたんでしょ。それでアンタがもしトレーナーを続けていけなくなったり、するかもしれないでしょ」

「まあ、良くはないけど」

 

 

 良くはないけど、ベストではないんだけど、悪くはないし後悔もしていない。それが必要だったならそれに甘んじるしかない。ブルボンの覚悟がそれだったなら、トレーナーとして殉ずる責務がある。

 

 

「良くはないけど、受け入れるわ。そういう約束だもの。ブルボンもきっと後悔しないし、私も後悔はしない。私達が悪かったとは思ってない」

「……そう。よく言えるわね、そういうこと」

「そういう女だからね」

 

 

 スカーレットが少し上気して、体操座りでぎゅっと近付いてきた。そのまま手を伸ばして私の手を取ると、縋るみたいに両手で包む。

 

 

「そうよね。そう、そう……うん、私、間違ってなかった。アンタはきっとそう言うと思ってた」

「え」

「ねえトレーナー。私ね、私、決めたの」

 

 

 さらに引かれて、スカーレットに覆い被さるような体勢にされる。ざぷん、とお湯が一気に溢れた。

 

 

「私、絶対にエルナトで勝つから」

 

 

「アンタの下で、アンタの教えで勝つから。それで一番になる。私、トレーナーやブルボン先輩が間違ってるなんて思ってない。誰にもそんなこと言わせたくない。私、他のところに行っても勝つわよ。そしたらアンタどう思われるの? 三人が強いだけって思われるわ。それで良いわけ?」

 

 

 ……一旦事実ではあるんだけどね。私じゃなくて、スズカやブルボン、スカーレットが強いだけ。そう言われても否定できない。でも、スカーレットが目を潤ませて見上げてくるので、いつもの癖で抱き……抱えそうになり、慌てて撫でるだけにした。距離感。

 

 

「ありがとうね、スカーレット」

「……良くないとは言わないんだ。そうなんだ。そうよね。トレーナーはそういうこと言うわよね」

「みんなそうよ。トレーナーはみんなそう思ってるの。凄いのはいつだってウマ娘で、私達は大したことはできない」

「でも、アンタじゃないとスズカ先輩もブルボン先輩もああはならなかった」

「……まあね」

 

 

 撫でやすいようにウマ耳が避けていく。今度はスカーレットが私の方に寄ってきた。足の上に乗るようにして寄り掛かる。吐息がかかる。少しずつ目がきらりと光っていく。

 

 

「だから、私はそれで良い。アンタについていくわ。私ね、一番になれれば何でも良いなんて思わない。誰もが認めるように一番になるの。だから一緒にいて。私をアンタのウマ娘と思っていなさい。二人はとっくにそうなんでしょ? そこに私が増えるだけ。ね? 解るでしょ?」

 

 

 鼻先が当たる距離。スズカとも滅多に無いくらいの距離感で、スカーレットはそう宣言した。普段の強い語調ではなく、言い聞かせるみたいな淡々とした言い方だ。こんな声も、こんな話し方もできるんだ、この子。お互いに熱が上がっていて、流石にドキドキしてきた。

 

 スカーレットも、私のウマ娘。そう。だけど、スカーレットは、ううん、そう。合ってる。私のウマ娘だ。スズカと、ブルボンと、スカーレット。私の大切なウマ娘達。

 

 

「私が怒ってたとしたら、それだけ。言ってよ、トレーナー。自分が正しいと思ってるなら。私もついていくから。アンタの力だけで、私を一番にして。ここで誓って、当たり前って顔をして?」

 

 

 私はなんてことをしてしまったんだろう。こんな健気な子を信じていなかった。送り出したら戻って来ないと不安になった。私はこの子達のトレーナーだから、何が起きても信じ続けないといけないのに。

 

 それができなくて、またみんなに余計な、似合わないことをさせてしまった。衝動でそのまま抱き寄せて、二人で肩まで浸かる。少し温くなってきていた。風邪ひいちゃうなあ。

 

 

「ありがとう……ううん、ごめんね」

「……うん」

「信じてるわスカーレット。あなたのこと。ちゃんと私のところにいなさいね。必ずあなたを一番のウマ娘にしてみせるから」

「スズカ先輩よりも?」

「いや……まあ、それは、まあまあまあ」

「腹立つぅ」

 

 

 いたたたた。頬っぺたつねらないで。それだけは譲るわけにはいかないんだってば。

 

 

「いつか言わせるからね。私の方が上って」

「いやあキツいでしょ」

「絶対に言わせる。もう怒った」

「ぶぼぶば」

 

 

 お湯に沈められくしゃくしゃになる。数秒で解放されて顔を拭った頃には、スカーレットはもう湯船を出て扉を開けていた。ふふっと悪戯っぽく笑って、小さなタオルを私に投げつける。

 

 

「言いたいことはそれだけよ。悪かったわね。チームの件はウオッカのところに籍だけ移すから。それで良いのよね」

「……ん。よろしく、スカーレット」

「良いのよ。それより風邪ひかないうちに出なさいよね。明日からスズカ先輩と出掛けるんでしょ?」

「ああ……うん、出るね。スカーレット、タオル取って」

「ん。ええと、タオルタオル……」

「あ、いるじゃない。もう、返事くらい……して……」

 

 

 脱衣所のドアが開いた。お風呂の中まで視線が通っている。そうよね、そりゃ帰ってくるわ。こんなにお風呂でちんたらやってたら。

 

 

「す、スズカ先輩……」

「……? どうしたの? どうかした?」

「い、いえ、目が怖──」

「そんなことないと思うんだけど……」

 

 

 そこにスズカが立っていた。私はもちろん、スカーレットも真面目に話していたので音で気付かなかった。スズカは合鍵で入ってくるし、大方走って帰ってきているから堂々と声をあげたりもしない。

 

 

「違うんですスズカ先輩、ちょっと、色々ありまして……私もどうしてこんなことをしてしまったのか自分でも解らなくて、へ、変なテンションで誘っちゃったんですよ」

「え? いや、別に言い訳しなくても、何も言ってないから……」

 

 

 本当に何も思っていないし考えていないので言い訳をされると困るスズカと、やらかしたと思って慌てるスカーレット。噛み合わないなあ。それと、あんまり冷静にならないで? 私も今じわじわ来てるから。いくら何でも距離が近過ぎた。全裸の距離じゃなかったかも。

 

 そして謎の罪悪感。別に付き合っているわけでもなし、スズカに申し訳無く思う筋合いはないはずなんだけど、いざこうして目の前で見られると何となく心が痛むような気がする。

 

 

「本当に違うんです……ただ話していただけで……!」

「それは……まあ、お話以外することないでしょ、お風呂で……」

「ぐぅ……トレーナー……! 何か言ってよ……私、殺される……!」

「いえ、本当に何も言ってなくて」

「あー……うん」

 

 

 良くない誤解が絡まっているような気がするなあ。この場の全員が困ってるじゃん。地獄よ地獄。作ったのは私達だけど。

 

 

「トレーナー!?」

「あの、トレーナーさん、スカーレットさんが壊れちゃったんですけど……」

 

 

 愛バ達の言葉を聞き流しつつ、時間がかかりそうなので追い焚きボタンを押した。私、全然長風呂派なのよ。スズカと入るとタイミングが合わないだけでね。




「ところで親御さんへの連絡は良いの?ジュニアは全部捨てるんでしょ?」

「ここに来る前に電話したけど」

「ええ……?」
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