走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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あなたといっしょに、サイレンススズカ

 

「いーやーでーすーぅ」

「だーめーでーすーぅ」

 

 

 ある日。スズカと旅行に行く日の朝、私は出発の時間からは考えられないくらい早く起きて、スズカを全力で説得していた。

 

 

「流石に電車で行こ? ね?」

「嫌です。この旅行中は好きに走って良いと言われました。行き帰りも走ります」

「無茶だって。100kmあるんだよ? しかもどんどん田舎道になってくしさ」

「100kmなら一時間半で着くじゃないですか!」

「それはそうだけどさあ……」

 

 

 スズカが誘ってくれた旅行だったが、一応色々考えた結果、大きな温泉街のメイン位置から外れた旅館をとることにしていた。やっぱり全体の規模は大きいところの方が良い……私は。スズカはあんまり関係無いだろうけど。

 

 で、そこまで大体100kmとちょっと。確かにまあ、スズカなら楽に走破できる距離だ。この子はそれくらいなら平気で止まらずに走り切ってしまう。

 

 

 だけどまあ、旅行は行き帰りの交通も含めて旅行である。しかも昨日までスズカも電車を乗り継いで行ってくれると言っていたはず。なのに突然、今朝になって、『やっぱり走って行きます』と。何があったの。

 

 

「お願いしますトレーナーさん。ここで走らないなんてウマ娘の名折れですよ」

「勝手にウマ娘を背負わないで?」

「絶対にトレーナーさんは待たせませんから。電車より早く着けば良いんですよね? 簡単ですよ」

「落ち着いてスズカ。私はスズカと一緒にのんびり行きたいなあ」

「向こうでいくらでものんびりできるじゃないですか!」

 

 

 朝ベッドでそれはそれはたまげた。昨日は確か三人で寝ていたはずだったのに、いつの間にかスズカが消え、走る時に着ける本当に小さなポーチだけ着けたジャージ姿のスズカがいたのだ。何ならこっそり出発しようとしていたし。

 

 

「お菓子買ってあげるから」

「嫌です。花より団子は風情がありません」

「その場合の花は絶対に流れ行く景色のことは指してないのよ」

「先頭に咲く華と言われたことならあります。つまり花が咲くんです」

「字が違う……」

 

 

 絶対にランニングしかできない格好で、正座するスズカ。尻尾をぶんぶんに振って、隙あらば立ち上がって逃げようとするので、私はソファに座って、スズカの体を足で挟むようにしている。

 

 

「これも計画だったでしょ? 予定は守ろう」

「ラップタイムのことですか?」

「耳付いてる? 予定って言ってんの」

「解りました。時速70kmは出さないと約束します」

「この話が無ければ出す気だったの?」

「嘘だと思っていますね? 解りました。出します」

「話聞いて?」

 

 

 私が悪かったな。走る許可は現地に着いてから出すべきだった。東京から許可を出せばこうなることは予想できていたのに。たかたかと私の足を叩いて、何かあれば滑り抜けようとしているスズカ。この子の柔軟性なら楽勝だろう。

 

 何て言えば説得できるのか……アスファルトで過剰なスピードを出すことは脚への負担が半端じゃない、というのはまあ一般論だ。固さもあるし、単純にウマ娘は速さの割に身体が脆い。

 

 

「逆に70kmを切ったら終了でも良いですよ」

「道交法って知ってる?」

「走り屋はそんなもの守らないと聞きました。私は走り屋です」

「その場合の走り屋は絶対に自分の脚で走ることは指してないのよ」

 

 

 しかしスズカは違う。走ることの天才でありランニングジャンキーだ。小さな頃からどんな場所でも構わず走ってきた経験がある。砂場だろうと岩場だろうとコンクリートだろうと走るし走れる。何ならターフが一番経験が少なくて苦手なんじゃないかってくらいに。

 

 天性の才能により、たとえアスファルトだろうとスズカは問題なく走れてしまう。身体がそういうランニングに適合しているのだ。天皇賞の速度はウマ娘としての限界を越えてしまったが、アスファルトでの70kmは普通のウマ娘でも出そうと思えば出せるし。

 

 

「どうしたら走らせてくれますか? マッサージしますか?」

「私がマッサージしてあげる。だから電車で行こう?」

「嫌です。こっちは人質取ってるんですよ。大人しくしてください」

「いたたたたたスズカダメダメ死ぬ死ぬ死ぬ」

 

 

 トレセン指定の健康診断では何の問題もないし、まだ若い私でも、スズカの握力で足ツボされると悶えるほど痛い。暴れてもスズカの指一本弾けないことに戦慄しているわ、私。薄々解ってはいたけど。

 

 

「さーん、にーい、いーち」

「待って怖すぎる! 何そのカウントダウン!」

「ぜろっぜろっぜろっ」

「ああああああ壊れる! 足が壊れるってスズカ!」

 

 

 なまじ力加減が完璧なので、激痛を与えつつ本当に壊しはしない、本職マッサージ師並みのダメージが来ている。もちろん素人なので痛いだけだけど。

 

 

「何騒いでんの朝っぱらから……」

「スカーレット助けて足が粉々になる!」

「おはようスカーレットさん。説得を手伝ってくれる?」

「おはようございます……足が壊れるのは説得じゃなくて拷問だと思うんですけど」

 

 

 私がうるさくしたのでスカーレットが起きてきた……と思ったけど普通に起きる時間だから起きてきただけだった。眠そうにもしていないし、文句を言う様子もない。

 

 勝手に牛乳を持ってきて、携帯を弄りながら私達の対面に座る。お互い、流石に一晩経てば恥ずかしさも消え……た。消えてる。大丈夫ね。

 

 

「またスズカさんが無茶言ってるんじゃないですか」

「そんなことありません。目的地まで走りたいと言っただけです」

「無茶じゃないですね。無茶苦茶ですね」

「じゃあスカーレットさんはたったの100kmを走破できないって言うんですか? かちーん。絶対に走ります」

「いつもながら自己完結が雑なんですよね」

 

 

 朝から声は荒げないスカーレット。でも何だかんだ戯れにスズカのロックを外そうとして、全然パワーが足りず諦めてしまった。

 

 

「とにかく走ります。これはもう決定です」

「何とかしてスカーレット」

「アンタがどうにもできないのに私が何とかできるわけないでしょ……朝御飯食べよ。キッチン借りるわね」

「私作るよ?」

「良いわよ。大変でしょ、今」

 

 

 私達が留守の間、スカーレットがここにいてくれることになった。ウオッカと顔を合わせるのが恥ずかしいらしい。どんな会話をしたのかはついぞ教えてくれなかったけど、まさかウオッカともお風呂で語り合ったとか……それはないか。

 

 それにしても、トレセン、というか寮長はもうちょっと厳しくした方が良いと思う。エルナトなら良いや、が極まりすぎてない? 今回に関してはそもそもスカーレットが一人で外泊する形になってるんだけど。許しちゃダメでしょ。

 

 

「ところで二人は何か食べて行くんですか? せっかくだしついでに何か作りますけど」

「じゃあサンドイッチかおにぎりみたいな」

「ものを絶対に作っちゃダメよ。時速70kmおにぎりウマ娘が爆誕するから」

「都市伝説みたいになってるじゃない」

「しかも走りながら食べるわけないですよね、流石に」

 

 

 スズカにマトモなことを言われるのが一番腹立つ。

 

 

 電車で行くならどこかの駅か目的地で食べようと思っていたのでわざわざ作ってもらうようなことじゃなかったんだけど、どうやらスズカは何を言おうと走るつもりのようなので諦めるしかなさそうだ。鼻息荒く気合いを入れるスズカを止める方法があまりにも無い。

 

 縛ったりリードを着けたりすればいけるけど、それで外に出たら間違いなく職質されるし。

 

 

「もう……そろそろ電車の時間だからね。私行くからね」

「あ、待ってください。荷物荷物……」

「え? 走るんじゃないの?」

「え? この荷物を一人で持って動くんですか? 大変ですよ?」

 

 

 きょとんとした顔で私を見るスズカ。

 

 

 宿泊に際しての着替え、色んな身だしなみの道具、走るための用具とかパソコンとか、諸々。スーツケースが一つと、バッグが二つ。そりゃ重いなあとは思ってたけどさ。

 

 いざそれらを一人で持つスズカを見ると、なんだかんだ言ってスズカにも人の心が残っていたことを感じられる。他の冗談は基本全部解るんだけど、走ることについては一生解らない。というか毎回本気で言ってるのは一旦間違いないと思う。

 

 

「からかってたのね」

「いえ八割本気でしたけど……いけませんか?」

「……良いけど。ギリギリ許す」

「むむむむ、ほっぺ引っ張るのはゆるひてないれす」

 

 

 急遽決めた旅行だから荷物を送れなかったのよね。軽々と全部玄関に運んでくれるスズカ、とっても助かる。結果的にちゃんと二人で行動してくれそうなのも含めて。

 

 朝御飯を用意中のスカーレットに諸々話しておいて、私も出発の準備を整える。スズカも荷物を運んでから謎の早着替えを見せ私服に着替えている。スカートにタイツは変わらず、上に一枚ミドルコート。勝負服にしろ私服にしろ、やっぱり白緑がよく似合う。

 

 

「じゃあよろしくね、スカーレット。走りたくなったら連絡して」

「あいあい。行ってらっしゃい。楽しんでくださいねー」

「走りたいです」

「スズカには言ってないのよ」

 

 

 今日はちょっと暖かいかも。上着はいるけど、昼になったらギリギリ脱いでも良さそう。

 

 

「駅までは車ですか?」

「タクシー呼んであるわ」

「駅までは走った方が良いんじゃないですか? 健康です健康。あと節約」

「スズカは使いもしないシューズを衝動買いするのをやめてから言おうね」

「待ってください。あれは全部使うために買ってるんです。明日私が短距離に目覚める可能性もあるじゃないですか」

 

 

 あるわけないでしょ。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「空いてて良かったですね」

「ねー。本当に」

 

 

 東京から電車に乗って少し。何度か乗り換えをして、県を跨ぎ移動中。だんだん下っていくわけで、当然ながら人気も減っていく。平日だし、出勤通学からも外れた時間のローカル線なんてこんなものよね。

 

 二人で座って、なおかつ荷物を横に置いても絶対に怒られないだろうってくらい空いている。カタンカタン揺れるのに合わせて隣のスズカが頭を乗せてきた。脚を揃えて手を合わせて、本当に黙っていれば清楚で可愛いんだけど。

 

 

「これで走ってよかったら完璧なんですけど」

「走りたいあまり日本語が崩壊してるじゃない。今電車の話してたよね?」

「日本語って難しいですね」

「勝手に難易度上げないで?」

 

 

 適当に話しながら進んでいくけど、本当に人が乗って来ないな。すかすかじゃん。車両によるのかな。

 

 不思議に思いつつ数駅、流石に眠くなってきた。朝早いし、一昨日はスカーレットの諸々で眠れなかったし。うとうとしてスズカにもたれ掛かってしまう。

 

 

「寝ても大丈夫ですよ」

「ん……ごめんスズカ、ちょっとだけ」

「はい。ちゃんと目的地で起こしますから」

「いや一個前にして……?」

 

 

 同じ時間に起きているはずのスズカは全然元気で、私を押し返すことなく顎あたりを擽ってきた。この差は何だ。種族差か? そりゃそうだ。人間はウマ娘に勝てない。

 

 だから、もたれ掛かって寝ようとしたのに、無理やり膝枕させられるのにも抗えない。もう大人なんだから、いくら人がいないからって電車の座席で寝るのはまずいって。

 

 

「お休みなさい」

 

 

 ……まあいっか……暖かいし。

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「起きてください、トレーナーさん」

「ん……ごめん、ありがと……」

「よいしょ」

 

 

 次に起こされたのは、ちょうど電車がとある駅に到着する時だった。私が起きるのと同時に少し人が入ってくる。良かった、空いてるから寝かせてても良いかとかスズカが思わなくて。

 

 

「あと三駅か……」

「すぐですよすぐ」

 

 

 私の姿勢を起こしてから、飲み物を出してくれるスズカ。案外長く寝ていたみたい。電車でそんなに眠れないと思っていたんだけど、流石に横になると違うか。

 

 

 まだ頭が眠っているのをお喋りで起こしながら、目的地の駅へ着く。流石にここまで来るとそこそこ人はいた。ど真ん中ではないとはいえ観光の街だから流石にね。駅を出ると、ありがちなようこその看板が出迎えてくれる。

 

 

「どこかご飯屋さん探しながら歩こうか。そんなに遠くないから」

 

 

 移動は徒歩かタクシーか。あんまり歩かせるとスズカもストレスだろうからそこは気を付けないといけない。まあストレスは車でも溜まるし飛行機でも船でも電車でも変わらないけど。

 

 

「はし……?」

「あなたが走った瞬間はぐれるけどそれで良ければ」

「…………スマホ、よしっ」

「はぐれる覚悟決めないで?」

 

 

 逃げられないように手を繋いで目的地へ。ちょっと調べた感じでは食べるところはいくらでもあるし、観光地だけあってウマ娘への用意をしているところもかなりあった。まあ、そもそも食べ放題とかじゃない限り、食べた分お金を払うだけなんだけどね、普通は。スズカはそんな異常に食べるタイプでもないし。

 

 

「トレーナーさんは何が食べたいですか?」

「スズカの好きなもので良いよ」

「じゃあレンタルキッチン探します?」

「そういうのじゃなくて」

 

 

 じゃあ何でも良いですよ、と言うスズカに、それじゃ困るでしょ、と返すと、じゃあトレーナーさんは何かあるんですか、と聞き返されてしまった。

 

 ……まあ、私も特に無いけど。スズカと一緒だし。

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