走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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二話投稿です(威風堂々)

スズカ編とスペシャルウィーク編を二話ずつお届けしますが、時系列は微妙にずれています。
また、スペシャルウィーク編はシリアスなので苦手な方は読み飛ばしてもらって大丈夫です。


ワガママになるスペシャルウィーク

 

「あれ、グラスちゃん、もう食べないの?」

「はい。スペちゃん食べますか? 最近その、減量中で」

 

 

 天皇賞が終わり、私の食事制限も少しだけ甘くなりました。なんと一品までデザートをつけても良いという大盤振る舞いです。おかしいな、北海道にいた時はいくら食べても良かったのに。

 

 一方、グラスちゃんは逆に制限を喰らってしまった……なんてことはありません。グラスちゃんのこれは嘘です。単純に食欲がないだけ。それを言うとみんなが心配するから、適当なことを言っています。

 

 

「……そっか」

 

 

 残ったものは私が食べるとして、やっぱり、ずっとグラスちゃんの様子はおかしいです。いえ、彼女だけではありません。黄金世代の他のみんなもきっとそうです。もちろん、私も。

 

 

 天皇賞は私が勝ちました。いえ、勝ってしまいました。本当に、その言葉が一番しっくり来ます。一緒に走ったみんなには悪いけど、私もみんなも、全力で走っていたとは到底言えません。

 

 だって、あそこにはスズカさんがいなかった。あれは私達同士が決着をつける場であり、誰がスズカさんに勝つかを試す場でもあったはずです。マーク先を失ったグラスちゃんや、作戦を組み直さざるを得なくなったセイちゃん。私やキングちゃん、ツルちゃんにも影響がなかったかといえば嘘になります。

 

 

 王者不在の天皇賞。そう言われても仕方がないです。私達もそう思っています。全員が狂わされたまま、私は勝ってしまった。

 

 

「ごめんなさいスペちゃん、私この後、用事があって」

「え、あ、うん。行ってらっしゃい。大丈夫だよ、片付けもしておくから」

「いえ。スペちゃんの分を持っていきますね。ありがとうございます」

 

 

 私のプレートを持っていくグラスちゃん。彼女へのダメージが一番大きかったはずです。天皇賞の前、グラスちゃんは言っていました。初めて会った時圧倒され、一緒にトレーニングをして伸びた鼻を叩き折られ。私達同期のライバルとスズカさんの間で揺れ、ようやくスズカさんだけを見る決意をして、深々と謝ってきたんです。

 

 

『ごめんなさい、スペちゃん。私、天皇賞はスズカさんだけをマークします。そうでなくては勝てない。他のみんなを見ることはできません』

 

 

 一着をマークして最後に抜かせば一着。なるほど簡単です。グラスちゃんにはそれをするだけの力がある。でもそれは、マーク相手が勝つと確信しているからできること。私ではなくスズカさんをマークするというのは、つまりそういうことです。

 

 

 それでも良かったんです。私は嬉しかった。ついにグラスちゃんが本気になれたんだと思って。でもスズカさんは消え、動揺したグラスちゃんは本番までに意識を移せなかった。脚は良かったけれど、あの鬼のような気迫が無かった。

 

 

「……グラスちゃん。私、こんなの嫌だよ」

 

 

 歯車は狂わされました。他ならぬスズカさんの手で。もちろん事情は知っています。それに、スズカさんとトレーナーさんが二人で決めたことなら、それが一番スズカさんにとって幸せだったんだと思います。

 

 だけど、それはそれとして、スズカさんがいれば。こんな考え方は間違っていると思います。私達は一つ一つのレースで、相手が誰であっても、全力で走らなければなりません。

 

 

 ……でも。

 

 

「これじゃダメだ……絶対」

 

 

 それだけスズカさんは、私達にとっての圧倒的な壁は大きかった。ウマ娘は目標無しでは走れません。私達にとっての目標は、スズカさんの存在であり同期のライバル達の存在だった。

 

 全員が落ち込んでいる。動けるのは私だ。何故なら勝ったから。勝った以上、私は絶対に首を下げてはいけない。私は、私が蹴散らした全員を背負っている。

 

 

「……よし」

 

 

 頬をぱんぱんと叩いて気合いを入れます。次はジャパンカップです。今回のジャパンカップには、エルちゃんを凱旋門で負かした欧州最強のウマ娘、モンジューさんが来ます。一方で、日本のウマ娘は黄金世代では私だけ。ありがたいことに日本総大将なんて呼んでいただいています。

 

 期待には応えなきゃ。だって私はスペシャルウィークなんだから。日本一になるんだ。止まっていられない。

 

 ……どこまで行ったって、その先にスズカさんはいないのに。本当なら日本最強(ここ)はスズカさんのもので、私は勝ち取ったんじゃない。譲られたんだ。

 

 

 ……そんなこと考えてる場合じゃないか。とにかく全力を尽くさないと。エルちゃんの敵討ちとしての意味合いもあります。今回も全力で、本気で。

 

 

 今日のトレーニングも頑張らないと。そう思ってプレートを片付けて歩き出した時、後ろから不意に声が掛かりました。

 

 

「やあ、スペシャルウィーク」

「ひゃあぃっ!?」

「すまない、驚かせてしまったかな」

 

 

 肩を叩いてきたのは会長さん……シンボリルドルフさん。色んな人に話し掛けているイメージはありません。速いし、仕事のできる人だとは思いますけど、まさか話し掛けられるなんて。そういえばエアグルーヴさんが言ってたっけ。話してみると意外とユーモアがある、みたいな。

 

 

「い、いえ。大丈夫です。どうかしましたか?」

「いや、少し話があってね。歩きながらで良いかい」

「はい。もちろん良いですけど……」

 

 

 促されとりあえず歩き出します。目的地とか一切無く歩くんでしょうか。と思ったら、話し始める前に既に外に出て、トレセンの門も潜っていました。

 

 

「あの、どこへ……」

「散歩さ。こういうのは目的地を決めずに自由に行くべきと友人が言っていてね。せっかくだからその通りにしようと思ったんだ」

「はあ……」

 

 

 街中に出てきてしまいました。大丈夫でしょうか。私も会長さんもそこそこ有名人です。何も対策無く出てきてしまって、話し掛けられたりしないかな。

 

 

「さて、スペシャルウィーク。話というのはだな」

「はい」

「これだよ。見たかい、モンジューのインタビュー記事だ」

「インタビュー記事?」

 

 

 それはまた随分気が早い……いくら一月を切ったとはいえ、まだ向こうもヨーロッパにいるでしょうに。

 

 しかし、会長さんがどこからか取り出して渡してきた雑誌には、確かにインタビュー記事が載せられていました。これ、月刊トゥインクルですね。スズカさんのところによく取材してるあの女の人がいるところ。私、あの人苦手なんですよね。言ってないことを言ったことにされるので。

 

 

「安心すると良い。流石にあの記者も他国のウマ娘にそんなことはしない。あれで相手は選んでいるんだ」

「それってなおさら悪いんじゃ……」

「まあ、気にすることはない。それに、あの人は誇張はすれど嘘は書かない。あの悪癖があってなおトレセンで取材ができているのにも理由があるんだ」

 

 

 とにかく受け取って、適当なベンチに座って読み始めます。最初の一文は、『日本で調整を続けるモンジューに直撃インタビュー』……え、もう日本にいるの? こういうのは、エルちゃんみたいに前哨戦を走るのでもなければ一、二週間前が精々なのでは。

 

 

「そうだ。当然早く現地に入った方が万全な形で走れる。それだけ向こうも本気ということだ」

「本気……ヨーロッパのウマ娘が、わざわざ日本のウマ娘を相手にですか?」

「残念ながらそうなるな。日本の方がレベルが低い、欧州の後追いというのは否定しきれない。その上で、だ」

 

 

 会長さんが自販機から温かい飲み物を買ってきてくれます。私は雑誌を持っているので、蓋まで開けてくれました。

 

 

「向こうの目的はサイレンススズカだ。彼女はあまりに圧倒的過ぎた。警戒され過ぎている。わざわざ日本のレースまで見てペースを掴み、芝や空気にも慣れて、万全な状態で挑もうとしている」

 

 

 そこまでして……いえ、そこまでさせた。確かにそうです。もし私がジャパンカップのメインならこうはならなかった。私はグラスちゃんやエルちゃん、セイちゃんにも負けているし、キングちゃんにも先着されている。実力は五分かそれ以下であって、モンジューさんがエルちゃんに勝っている以上そこまで警戒はしない。

 

 だけど、スズカさんは違う。誰にも負けていない。どんな相手でも大差に近しい実力差で捩じ伏せてきたのがスズカさんです。そのスズカさんがジャパンカップにいて、しかも欧州最強としてそれに挑むなら。入念な対策がとられるはずです。

 

 

「つまり、モンジューさんは移動の負担やバ場の違いなんて無く全開で来るということですか」

「そうだ。しかし問題はそこではない。そのモンジューだが、ここに来て回避を匂わせている」

「は?」

 

 

 記事に目を通します。字が小さくて漢字が多いので読みにくい……けど、どうやら何となく書いていることは解ってきました。スズカさんを警戒して来て、入念な準備をした。しかし、スズカさんは出ないし、代わりに総大将とされている私は一度彼女にボロ負けしている。スズカさんに負けたグラスちゃんやエルちゃんにも負けている。

 

 これでは来た意味がない。日本と欧州の激突として面白くもない。賞金目当てならともかく、こうなるとわざわざ怪我のリスクを背負って走る必要がない、と。

 

 

「スペシャルウィーク。君には悪いが言っていることは尤もだ。URAも誘致にあたって、お互いに最強を決めようと言って誘っている。欧州のウマ娘にとって日本の芝はスピードが出過ぎて危険なのも事実だ」

「スズカさんがいない今、走るに値しない、と?」

「そういうことになる。もちろん、URAも止めるだろうがね」

 

 

 こんなところまで波及してるじゃないですか、スズカさん。何してるんですか……走らない理由も、もちろん解りますけど。

 

 

「それで、だスペシャルウィーク。これを伝えたかったのが一つ。もう一つは個人的な話なんだが」

 

 

 つまり、これを私に伝えるのは個人的ではなかったということ? トレセンか、URAか……もちろん知らせられることは嫌ではないですし、むしろ教えてもらってありがたいです。トレーナーさんはこういうのもしっかり見ているでしょうが、私に言うかは解らないので。

 

 

「君は、今のままで良いと思っているか?」

「どういう意味ですか? モンジューさんに軽んじられていることなら、事実しょうがないとは」

「違う。それもそうだが、そもそも舐められているのはどうしてだ? 君がサイレンススズカに勝てなかったからだ」

「……何が言いたいんですか」

 

 

 こんなに直接、気にしていることを。大体、スズカさんの引退は今さら私がどうこうできる問題ではありません。言ってしまえば運命のようなものです。そもそも、一度戦えただけでも幸運だったんです。あの時、天皇賞で二度と走れなくなる可能性だってあった。元気になってくれただけでも、私は。

 

 

「君が良いならそれで良いんだ。しかし、しかしだスペシャルウィーク。君は物分かりが良すぎる。運命だの宿命だので片付けてしまうならそうすれば良い。だが、時には抗って覆すことも必要だよ」

 

「……会長さん」

 

「我々はそもそも、別の世界の誰か、あるいは何かの名前を受け継ぎ、その魂に引かれて走る運命にある。私もそうだ。別の世界のシンボリルドルフが三冠をとったならそれに応えて、とっていなければそれを託されて三冠をとった」

 

 

 会長さんが雑誌を手にとって、どこかにしまってしまいました。私の隣で、私ではなく前を向いて、人一人分の間隔にコーヒーを置きます。

 

 

「だが、私達は私達だ。いくら進む道が決まっていようと、それに支配される生き物ではない。私は私の力で勝ったんだ。運命によって勝ったんじゃない。私が負かしてきたみんなも、負けるために生まれてきたのでは断じて無い。もしそうなら、私達に走る意味など無い」

 

 

 越えてこそだよ、と会長さんは言葉を切りました。越える。何を? 運命を。私が、スペシャルウィークがジャパンカップでモンジューさんに勝ったのかどうかは解りません。でももし勝っていても負けていても、それは私が勝てる理由にはならない。

 

 私の力が及べば勝てる。及ばなければ負ける。とても簡単です。とても簡単で、でも、忘れてしまいそうなこと。ウマソウルや運命的な何かを感じられる私達が、間違えてしまいがちなこと。

 

 

「だから、不満があるなら立てスペシャルウィーク。君は何のために走っているんだ。私達には走れる脚があるんだぞ。やりたいことは何だ、言ってみろ」

「……私、は」

 

 

 やりたいこと。何故走るか。そんなのずっと一つしかない。私はずっと、今も昔も、いつかの約束を、私の夢を追って、ここまで来て。

 

 そして、憧れに届きたかった。あの日見た風を越さないと、私は胸を張って日本一を名乗れない。

 

 

「サイレンススズカに、勝ちたい……」

「だが彼女はもういない。どうするんだ」

「関係無い……! このまま勝ち逃げなんかさせない、もう一度、何がなんでも走ってもらう! 私が、そうしたいから!」

 

 

 つい力が入って、持っていた缶がぐしゃぐしゃになる。そこらに紅茶が飛び散った。私は、やっぱり諦められない。ずっと目指していたんだ。最強無敵のあの輝きを。

 

 

「会長さん!」

「うん?」

「私、やります! 必ずもう一度スズカさんと走って、それで、私が勝ちます!」

「……うん。その目が良い。君の強さはきっとそういう強さだ」

 

 

 缶の残骸を会長さんが持っていって捨てます。そして、今にも走り出したくて、何かが爆発しそうな私の肩をぽんと叩きました。

 

 

「ついでに私からも言わせてくれ……君は日本の代表だ。その称号は重いぞ、日本総大将」

 

 

 その低い声で、また一つ力が沸いてきたのが解りました。だから、私は強く答えることができました。

 

 

「その方が頑張れるんです、私」

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