走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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いっぱい感想やここすきが欲しいし、2話投稿は読みづらいかなと思ってやめました。

ただ、この作品を見に来てスズカ不在のシリアスだけ見させられるのは馬鹿馬鹿しいと思いますから、次の話(スペ編)はその次のスズカ編の準備が終わってから、それらの間隔を一日として投稿します。よろしくお願いします。


あなたとこれから、サイレンススズカ

 

「トレーナーさん、はやくはやく」

「はいはい。ちょっと待っててね」

 

 

 ご飯、めちゃくちゃ美味しかった。なにぶんウマ娘向けのメニューは量重視になるので盛り付けが雑だったりするんだけどそんなこともなく、おしゃれかつたくさんの料理が出てきた。

 

 美味しかったのでお礼に後でご飯の写真とか載せようと思う。今載せるとお前謹慎中に何してんじゃいとなりそうだから、年明けにね。いやほんと、謹慎中に何してるんだろうね。

 

 

 で、お腹いっぱい大満足になって、荷物を旅館に置いたところで、今日のメインイベント……私は絶対に違うと思ってるけど、スズカにとってはメインイベント。

 

 

「待ちきれません、もう行きます、すぐ行きます今行きます」

「わー待って待って。あった。はいこれ。発信器」

「なんてもの買ってるんですか……?」

「スズカが位置共有アプリを使ってくれたらこんな出費しなくて済んだのよ」

 

 

 そう、何を隠そうランニングである。あらかじめ買っておいた発信器を服につけるスズカ。流石に土地勘が無いし、しっかり位置は把握しておきたい。

 

 発信器をつけたら、あとはランニングウェアのスズカが自由に走るだけだ。本当は結構、スズカが走るところを見たいんだけど……残念ながら私の視力では走るスズカは遠目からでしか解らない。

 

 

 ……実際見なくても良いんだけどね。どう考えても超高速で走り回っているに決まっている。スズカは気持ち良さ最重視だし、誰も見ていない、自分一人の方が良いだろう。

 

 

「もう良いですか? もう行きますよ?」

「もう少し落ち着くとかできないの?」

「無理です。見てくださいこの景色を。走らない方が失礼ですよね」

「景色とは眺めるものよ」

「私自身が景色になります」

 

 

 何を言っているのかは解らないがとにかく走りたいことだけは伝わった。そこそこ広い和室の客室で、畳の上で正座するスズカ。この子は本当に、もう。もう少しゆっくりしてからとかないの? 

 

 この会話すら、走って出ていこうとするスズカを腕を掴んで強引に止め、押し倒すようにして動きを封じてやっと始まったのだ。

 

 

「六時には帰ってくるのよ。私はその辺で足湯にでも行ってるから」

「おばあちゃんみたい……」

「いくらスズカでも歳のことは怒るからね」

「ぁぅぁぅ」

 

 

 肩を揺らして鳴かせる。別に負け惜しみとかじゃなくて普通に私は若いし。でも私も高校生だったら私の歳はおばさん……いやいくら何でもじゃない? まだ私高校生とかで押し通せるって。

 

 

「あと、途中でお土産とか買わないでね。明日じゃないと荷物になるからね」

「何を言ってるんですか? 走ってる時にそんなもの考えられるはずありません」

「そういうと思った」

 

 

 何だかんだ頬を膨らませる姿は可愛いので頭をぽんぽんしておく。ウマ耳がぺたんとなって受け入れてくれる。でも手を横に動かそうとすると物凄い形相で睨まれた。走る前に髪が乱れるのはNGらしい。

 

 一瞬撫でられて思考が止まったものの、すぐにはっとなって立ち上がるスズカ。あなたが動いたせいで髪の毛が乱れたけど。むむむ、とこっちを睨む。私が走るのを邪魔するとでも思ってるんだろうか。

 

 

「そうはいきませんよ」

「何が」

「また誤魔化して走るのを止めようとしてるんじゃないですか? 今日は誤魔化されません。一回許可を貰いましたから」

「いやいや……流石によ。流石にそんなに鬼畜じゃないって」

 

 

 目を吊り上げて怒るスズカ。全然怖くない。先頭狂の時は本当に背筋が凍るくらい怖いんだけど、私はもう慣れちゃった。頬っぺたをうりうりして額を弾く。あぁ……とか細い声をあげて倒れて……行くと思いきや斜めで止まった。腹筋すご。

 

 

「じゃあ走ってきますね」

「ん。行っておいで。時間は守るのよ」

「あい。行ってきます、トレーナーさん」

 

 

 ……今、言い終わる前にスイッチ入ってたな。まだ部屋だし、ここから館内を歩いてから外なんだけど。大丈夫だよね? 屋内を走ったりしないよね? 

 

 

 開け放された扉から覗いてみると、ちゃんと大人しく歩いていた。良かった。流石にそこまでじゃなかったわ。走ってたらお説教だったよ、本当に。

 

 

 じゃあ私はしばらく寝ようかな。四時くらいで良いか、動き出すのは。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 あったけー。

 

 

 温泉地だけあって……温泉地なんかそうそう来ないけど、足湯も結構あった。まだ冷え性とかは無いし、スズカと寝ることが多いから夜が寒いことはほとんど無いんだけど、でも温かくするのに越したことはない。

 

 冬らしくかなり日も落ちてきた六時、山……丘? 山の遊歩道に併設された足湯スペースで一人で寛ぐ私。周りからはどう見えてるの、これ。他に誰もいないから良いけど。

 

 

 スズカの現在地はずっと把握しているので、メッセージで場所を教えた上で近くでこうして待っている……いや、走ったまま来られるところにした方が良かったかな? 多少歩かせて落ち着かせないとヤバいかなと思ってこうしたけど。

 

 

 先頭狂はスズカの力の源だ。だけど本質じゃない。スズカはいつだって、たった一人の景色が見たいだけなのだ。だから今日も、人がいないところを選んで走っているんだろう。どんどん山道に逸れていっている。それに合わせて半端とはいえ山登りをした私を褒めて欲しい。

 

 

 でもその分足湯は気持ち良いし、空いているからずっと入っていられる。マナーなんて知らないけど、誰も待ってないなら営業時間中は大丈夫でしょう、たぶん。

 

 そうしてしばらく温まって待っていると、スズカではない誰かに話し掛けられた。

 

 

「こんにちはーお姉さん。お一人ですか?」

「……え」

 

 

 振り向くと、私と同い年か少し下くらいの男が二人。お姉さん……私よね? 私以外いないし。きゅっと心臓が縮む心地がした。二人とも謎に笑顔なのが逆に怖い。

 

 

「えと」

「びっくりしましたよー。旅行か何かですか? 俺らもそうなんすよ。男二人で小旅行? みたいな? まあ電車で数駅なんですけど」

「お姉さんみたいな人がお一人なの、結構珍しくて声かけちゃったんですけど……あ、もしかして誰か待ってたりします?」

「ええ、その、一人、連れが」

 

 

 畳み掛けてくる。しかも、私の言い方から何かを……私が彼氏と来ているんじゃないことを察しでもしたのか、一気に距離が詰まった。

 

 

「へー! じゃあちょうど二人と二人で良い感じですよ! 夜ご飯まだだったりします? 良かったらどこか飲みに行きません?」

「あの」

 

 

 こういうオラついた感じの人は苦手だ……本当に。二人で話してくるものだから私が話すタイミングが掴めない。高校まではそこそこ明るく遊んでたんだけど、大学はトレーナー試験に全てを懸けてしまったので色々経験が足りない。

 

 

「ネットより良いお店も知ってますし、美味しいのに客が入らないタイプのとことか……全然、普通のチェーン居酒屋でも良いですけど」

 

 

 両隣に座られてしまった。私は私で裸足なので逃げ辛い。というか私の荷物とタオルを退かして座られた。え、どうするの私。どうにもならないんだけどこれ。

 

 

「いえでも」

「ね? 良いじゃないですか。こうして会えたのも何かの縁ですよ」

「あちょっと」

 

 

 肩を抱き引き寄せられ、思考が止まる。怖い。え、力強、あ、私これ無理だ、全然無理。やだやだ。逃げなきゃ。

 

 

「行きましょ行きましょ。予約とかできる?」

「おーしとく。とりあえず、ね?」

 

 

 私、終わった。

 

 

「あ、トレーナーさんいた」

 

 

 スズカが来てしまった。走った直後で息も荒いまま、早足に近付いてくる。携帯持ってる……もしかして連絡しようとしてくれてた? マナーモードのままだったか。

 

 

「もうトレーナーさん、ダメですよ。走って来れるところで待っててくれないと困るじゃないですか」

「トレーナー……?」

「あれでしょ? レースの。へー、トレーナーさんなんですね。俺らウマ娘レースも結構見てるんですよ。お話とか聞きたいなあ」

 

 

 すぐにスズカにも標的が移る。適当なことを言いつつ口説きにかかった。

 

 

「……?」

 

 

 二人を見て、それからこっちを見て、数ミリだけ首を傾げるスズカ。解ってるけど、何があろうとスズカに何があるわけじゃないのは知ってるけど、それでも、スズカは逃がさなきゃ、とその一心で、喉が引き攣って、

 

 

「スズ──」

「あ、あった。トレーナーさん、またこんな安物のタオル使って……すぐにダメになっちゃいますよ」

「ん? ああ。それで、君もこの後一緒に」

「罰として走ってきますね」

 

 

 訳の解らないことを言いながら私を抱き上げるスズカ。もちろんほとんど力を入れることなく持ち上がり、脚で支えて抱えたまま私の足を拭くことすらできている。流石の筋力とバランス力だなあ。

 

 そして、ほぼ無視された形になる男達だったが、それでもスズカ……走った後という世界一可愛いスズカを前に退く選択肢は無かったらしい。そのままスズカの肩を掴み、強引にでも振り向かせようとして、

 

 

「危ないですよ、触ると」

 

 

 一ミリも動かせなかった。当たり前といえば当たり前だ。私はもちろん成人男性と比べても、ボディビルダーと比べようとウマ娘のパワーは圧倒的であり、どちらかといえば細身に見える彼らではどうにもなるまい。本気で引きずろうとしたなら重機でも持ってくるしかないのだ。

 

 

「うおっ……!?」

「よいしょ。はいトレーナーさん、靴を履いてください」

 

 

 ビビって身動きのとれない私を拭いて、適当ながら靴下を履かせる……ここまで抱えながらやっていて、それでいて外から力を加えられても微動だにしない。本当に恐ろしい種族だ、ウマ娘は。

 

 私をおままごとの人形のように軽々と振って、靴を履かせるスズカ。そして、私の持っていたハンドバッグを取り上げると、ぎゅっと腕に抱きついてきた。

 

 

「さあ行きましょう。向こうの方にトレーナーさんでも走れそうな場所がありましたよ」

「あっちょっと」

「夜景が綺麗でしたよ」

 

 

 終始二人をガン無視するスズカが怖くもありつつ、全然目が怖くない……欠片も怒っている様子が無いので、もしかすると本当に眼中に無いのかもしれない。何が起こってるかは解ってるよね? ナンパよナンパ。

 

 

 すたすた歩くスズカに背中を押され、かなり遠くまで歩いてしまう。あの二人、ウマ娘と直接触れ合ったことが無かったんだろう、パワーの差を恐れて立ち竦んでしまっていた。

 

 

「ありがとうスズカ、助かったわ……」

「ダメですよトレーナーさん。すぐに逃げないと」

「ああ、何されてたかはちゃんと解ってるんだ……」

「私のことを何だと思ってるんですか?」

 

 

 スズカに寄り掛かって靴下を直し、靴もちゃんと履く。常識があるんだか無いんだか……走ること以外はマトモなのはいつものことか。タオルをジップロックにしまいつつ、スズカはわざと神妙な顔で言った。

 

 

「私だって色々知ってますよ」

「でもどうでも良いと思ってるでしょ? その色んなことを」

「うーん……まあ、まあ……そうですね」

 

 

 しばらくゆっくり山を降りていく。途中、適当に話しながら。快晴で、星がよく見えていた。

 

 

「元気が出ない時は走るに限ります。走れば元気が出ますよ」

「元気が出ても体力が無くなるのよ」

「体力は休めば回復します。でも元気は休んでも回復しません」

「そういう問題じゃなくてね」

 

 

 ちょっと寒いかも。上着はスズカに渡す。ランニングウェアは流石に寒過ぎる。迷わず着込んだし結構感じてたみたい。気付かなくてごめんね。ともかくゆっくり降りて、そのまま宿まで歩いて帰った。たらふく走った後だからか、スズカはとても大人しかった。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「んー……美味しい」

「よく食べるわね本当に」

「お腹が空いちゃって……たくさん走ったし、夜も……ね?」

「ね? じゃないけど」

 

 

 夜。せっかく二人で旅行に行くということで、そこそこ遅くまで起きて誰もいない時間に露天風呂に行くことにした。まあ見た感じ他にお客さんいないしそこまでする必要なかったけど。

 

 それまで時間潰しに二人で調べながら色々買ったり、スズカが持ってきたボードゲームをやってみたり。で、今はご飯を食べている。

 

 

 私はお刺身とか、ちょっとした小皿とかがたくさんの普通のコース。見るだけでも普通に楽しめるというか、お高めの料金相応に手が込んでいて豪華。おしゃれな料理、私も作れるように……なってもなあ。食べさせる相手がいないしなあ。スズカは量の方が大事だし。

 

 そのスズカは卓上コンロを出されてひたすらお肉を食べている。すき焼きと、しゃぶしゃぶ。総額からしてそこまで高いものじゃないはずだけど、それでもものともしない。ウマ娘は顎も胃袋も強いからお安い固めの肉でも良くない脂の多い肉でも美味しく食べられる。

 

 

「走っちゃダメって言うんですか? この二日間は無制限と聞きましたよ」

「走ることは止めないけど、大人として九時からとか十時からとか、そういう時間に走りに行かせて帰ってくるのは旅館にも迷惑でしょ。明日もあるし」

「む……それを言われると何とも言えないんですけど……」

 

 

 会話の最中も一切手を止めないスズカ。空になったお盆が横に積まれ、従業員さんが持っていった。十までは前払い、それ以上は二十まで追加料金、それ以降はお断り……だったかな。まあ流石にそこまでは食べないはずなので関係無いし、足りなかったらどこか連れ出して食べさせても良いし。

 

 

「どうにかならないですか? 一回聞いてみません?」

「スズカが十一時とかに帰ってくるならギリギリ交渉できるんだけどね。あなた二時とか三時に帰ってくるじゃない」

「十一時までと約束すれば良いですか?」

「約束できるならね」

 

 

 走れるチャンスは得たが、ここで走ると私が真面目に怒ると解っているので即答はしない。実際十一時でも遅いものは遅いけど……騒ぐわけでもなし、静かに入ってくれば、まあ、まあ。

 

 

「ぐぐ」

 

 

 しかしスズカは約束できなかった。走ると我を忘れるので、結局のところ終わりの時間を決めてもどたばたになってしまう。ちゃんと自分のことを解っているスズカの鍋からお肉を一枚貰いながら、あとで褒めてあげよう、と思い至るのだった。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 その夜。結局スズカは走れないので、代わりと言ってはあれだけどちょっとした散歩に出てきていた。

 

 旅館の浴衣はお風呂上がりに着るのでまだ普段着。スズカも絶対に突然走り出さないと誓って気分だけでもとランニングシューズを履いているが、一応普段着ではある。

 

 

「良い空気です。流石に東京とは違いますね」

「ね。こういうところに暮らしたいわ。府中のど真ん中よりも」

「じゃあ毎日長距離通勤ですね 」

「うーん勘弁だなあ」

 

 

 もしそうなったら田舎は田舎でもレース場がある田舎に行きたいな。そうすればトレーナーとしても働き続けられるし、もしスズカがターフで走りたいと言っても対応できるはずだ。

 

 ……でもそうなると、私、地方のウマ娘を相手にするの? 嫌だなあ……私、最低のこと考えちゃう。地方のウマ娘、全員オグリキャップにならないかな。

 

 

「まあ大丈夫ですよ。私だってそんな贅沢言いません。週四回連れてきてくれれば」

「いくら使う気なの……?」

「私もお仕事しますよ」

「仕事しながら週四で……?」

 

 

 ダメですか? と笑うスズカが月明かりで光る。風に吹かれて少し髪がそよぐ。仄かな汗の香りのなかに、スズカ自体の……おっと。

 

 

「危ないですよ」

「ありがと……なに、この段差」

 

 

 見惚れていたら転びそうになった。スズカに手を引かれて持ち直す。本当に綺麗だよ、スズカは。ちょっとドキッとするくらいには。

 

 

「そもそもトレーナーさん、トレーナーのお仕事できるんですか? 遅い子は担当したくないみたいなこと言ってませんでしたっけ」

「その言い方だと私がクズみたいじゃん」

「クズでも好きですよ」

「クズってところを否定して?」

 

 

 事実とはいえ。

 

 

 しばらくそのまま手を繋いで歩いていって、気付けば温泉街ど真ん中まで来てしまった。ちょっと距離があるはずなんだけど、全然疲れていない。スズカもどこか楽しそうにしてくれている。走れなくてストレスかと思ったんだけど、ご機嫌だ。

 

 

「何か食べる? まだ色々開いてるけど」

「ん……大丈夫ですよ。それよりこのままもっと先に行きませんか」

「ランニングコースでもあるの?」

「……そんなに風情がないように見えます?」

 

 

 むむむ、と目尻を吊り上げてこっちを睨んでくるスズカ。おー怖い怖い。違うの? と頬を撫でると、違わないですけど、と擦りついてきた。可愛いねえスズカは。甘いものでも買ってあげよう。

 

 

 夜も明るいお店から適当に饅頭を買ってみる。不思議な甘みの饅頭をスズカと分け合い、適当に道の端で食べる。私は普通の、スズカはフルーツの。うん、美味しい。

 

 

「食べる?」

「あーん」

「あーん」

 

 

 スズカはともかく私は丸々一個は多いし、シェア……というか私は半分私、スズカのを一口貰う。あーんと口を開けるので私のを突っ込んでおく。一緒に買った温かいお茶、渋めね。

 

 

「さむ……」

「くっついた方が良いですよ」

「ん……座るところあるかな……」

 

 

 適当な道端のベンチしか無かった。ハンカチ、流石に一枚しか持ってないな……まあスズカで良いか。

 

 敷いて、二人で座ってくっつく。流石にウマ娘のスズカは体温が高くて気持ちが良い。私が持つ饅頭をあむあむと横から食べていくスズカ。んー、と頬が緩んで、たまに下からこっちを見てにこにこ笑う。幸せだ。

 

 

「当たりですよ当たり。美味しいですから」

「なんでも美味しいって言うじゃない」

「なんでも美味しい方が幸せで良いですよ。それになんでもじゃないです。トレーナーさんのご飯が一番好きですから。週に一回はケーキを作ってくださいね」

「無茶言うなあ」

 

 

 まあウマ娘なら大丈夫なんだろうけど。人間の私や絶賛アスリートのウマ娘は栄養管理とかあるけど、現役を抜けたウマ娘ならそんなもの気にする必要はない。栄養が偏ろうとカロリーが過剰になろうとちょっと動けば大丈夫な種族だ。一生毎日ケーキでも健康に生きていけるだろうね。もちろん作る側の私は死ぬけど。

 

 

 饅頭を食べ終わって、ついでに買っていたゆでたまごを一口で飲み込むと、満足したスズカが私の肩に寄り掛かってくる。ぐりぐり髪を押し付けるようにして、機嫌良く、んー、と高い声を出した。

 

 腕を開いて膝枕にしようとして……ここが外だったと思い直し、胸で受け止めるように止めて腕を回し撫でる。イヤーキャップ越しのウマ耳を擽ると、喜んで尻尾を振った。私もスズカの頭に頬を擦る。

 

 

「そろそろ戻る?」

「んー……もう少し」

「そ。満足したら言ってね」

「じゃあ走るまで帰れませんね」

「即帰ぃー」

「ぁー……」

 

 

 立ち上がると引き摺られてスズカは倒れる。ベンチに転がるスズカを起こしておでことおでこをぶつけると、にっこり笑って蕩けた顔をした。

 

 肌寒い夜の道を再び歩いて帰る。でもやっぱり最初から最後まで、スズカは今にも走り出しそうなくらい前を向いていた。

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