走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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土日で次を出せる目処がついたので初投稿です(構文)

新シナリオ実装で完全に書く手が止まったことをここにお詫びします。


覚悟を背負うスペシャルウィーク

 

「……無理していないですか、スペちゃん」

「無理してるよ。でもやる。私は必ずやるよ。決めたから」

 

 

 私の後ろからグラスちゃんが歩いて追ってきます。私は携帯のメッセージを見つつ、早足にトレセンを歩き回っていました。

 

 モンジューさんは動かせた。かなり無理をしたし、たぶん今ごろトレーナーさんは色んな所に頭を下げに行ってくれていると思うけど、とにかく動いた。ジャパンカップには必ず来る。

 

 

 あとは私の問題だ。スズカさんを引きずり出すにはただの覚悟じゃダメだ。スズカさんに少しでも私を意識させないといけない。

 

 

「私、スズカさんにとってよくいる弱いウマ娘の一人でしかないと思うんだ」

「そんなことは……」

「あるよ。スズカさんはそういう人だから。いつもたった一人で先頭を走ってる。仕方無いと思うよ。私は今まで、スズカさんに並ぶことしかできてないんだから」

 

 

 どんなに傲慢に思えても、スズカさんだけは咎められない理由があります。それは、誰よりも速いということ。私達はウマ娘です。良くないと解っていても、無意識にでも足の速さで格付けをしてしまいます。たとえば、私達中央のGⅠウマ娘が地方の未勝利ウマ娘と勝負するとき、少しの油断もなく全力で走ることができるかといえば、とても難しいでしょう。

 

 その範囲が、スズカさんのそれはあまりにも広いというだけ。ここで悪いのはスズカさん? 違う。弱い私達が悪いんだ。少なくともスズカさんの判断基準は速さなのだから、私は速さを見せ付けなくてはならない。

 

 

 ……つまり、万が一このジャパンカップ、一着を取れないなんてことがあれば、私の立ち位置は何も変わらないまま。圧勝、レコード、余裕、そこまでしてやっと、少しくらいは意識してもらえるかもしれない。

 

 

「だから、絶対に勝たなきゃいけない。でも、今の私じゃきっとモンジューさんには勝てない。もちろんトレーニングもする。だけど、それだけじゃダメだ」

 

 

 トレーナーさんは言っていました。私はきっと、誰かの期待や約束、覚悟が良い方向に働くウマ娘だと。私が押し潰れない限り、背負ったら背負っただけ心が満ちます。

 

 モンジューさんは強い。それに、日本への適応もしてくる。移動の疲れもない。本当の本当に本調子で来るはずです。地力の差は歴然。それを埋めるのは、きっと精神の強さです。

 

 

「スペちゃん……ごめんなさい、私も走れれば、こんな……」

「ううん。大丈夫……あ、いた。エルちゃん」

 

 

 それこそ、グラスちゃんのように。心が強いことはそのままレースの強さに繋がります。あの殺意にも似た覚悟を、私も背負わなければなりません。

 

 

「スペちゃん」

 

 

 一人目。エルちゃん。海外帰りでしばらく休養し、来年からはドリームリーグに進むと決めています。凱旋門賞ではモンジューさんに最後の最後に差され、惜しくも世界一の座を逃しました。

 

 本来のジャパンカップは、とても失礼なことだけど、『あのエルコンドルパサーに勝った』モンジューに挑む私、という構図であったはずです。

 

 

 だけど、私はそれでは足りない。走るのは私で、私の脚にもっと大きな期待をかけてくれないと困る。エルちゃんの敵討ちとかそんな程度ではなく、エルちゃんの代わりに走るような重荷が必要だ。

 

 

「珍しいデスね、突然。しかも、エルのところに行くから待ってて、なんて」

「うん。これは私が行かなきゃって思って。それにさ……エルちゃんも何の話か解ってるでしょ?」

「……もちろん。トレセン中の噂デスよ? スペちゃんがとんでもないことやらかしたって」

 

 

 放課後になり誰もいなくなった私達の教室にエルちゃんはいました。帰国してから少し落ち着いて……ううん、元気を無くして。世界一を逃し、敗北した相手には二人ともに逃げられた。境遇は私と一緒。

 

 私の友達は、私のことを察してくれています。私を見て少し笑っているのがその証拠です。グラスちゃんも私の行動については怒らなかった。

 

 

「モンジューの話デスよね。ううん、ジャパンカップの話」

「うん。私は勝たなきゃいけない」

 

 

 そうしないといけないと感じた。その時点で、そうでなければ逃げたのと同じ。エルちゃんは私を見つめて、それからちらっと私の後ろのグラスちゃんを見て、それから後ろ手に持っていたものを押し付けてきました。

 

 

「これ、読んで。私が書いたの」

「……必敗ノート」

「修正してるの見えませんか?」

 

 

 普通のノートの表紙に大きく書かれたタイトル。エルちゃんらしいなあ。まだ漢字は苦手みたい。押し付けられたそれを受け取ってパラパラと捲ると、どのページにもモンジューさんのことや、ヨーロッパのこと、レースのこと……エルちゃんが、世界一になるためにした努力の証が詰め込まれていました。

 

 

「言っておくけど、スペちゃんのために書いたんじゃないデスよ。いつか必ず私がこの手でモンジューを下しますっ! スペちゃんには一番槍として様子を見させるだけデース!」

「……うん。ありがとうエルちゃん」

 

 

 完全にノートを受け取り持っている私を見て、エルちゃんは少し驚いたようにマスク越しに目を丸くしました。どうしてかは簡単に解ります。今の私でなければきっと、これは受け取らなかったでしょう。これは、エルちゃんの血と汗の結晶に他なりません。

 

 

「これ……本当なら私、これを受け取っちゃいけないんだと思う」

「……スペちゃん」

「これはエルちゃんのものだもんね。私は私の力で勝つ、っていうのが正解なんだよね。エルちゃんの努力を横から奪うようなことはしちゃいけない」

 

 

 それでも受け取って、全部私のものにする。そうして、エルちゃんのことも背負う。

 

 

「でも、ありがたく使わせてもらうね。必ず勝つから。モンジューさんは私が倒す。エルちゃんの分まで」

「……あくまでも私が後で勝つってことは忘れないでよ?」

「もちろん」

「じゃあ良いデス。別に返さなくても良いデスよ。全部覚えましたから」

 

 

 にかっと笑って、バンバン私の肩を叩いてきます。身体が揺れるくらい強くされて、何回も受け入れた後、エルちゃんは私達とすれ違うように通り過ぎて、少しだけ振り向いて手を挙げました。

 

 

「よろしくねスペちゃん! ぶっちぎってあげてよ、私達の力で!」

「……うん。任せてよエルちゃん……あ」

 

 

 なんて、エルちゃんをそのまま見送ろうとしたところで、ノートの片隅に貼られたプリクラに気付きました。昔私達が送った、才能煽りの四人でのやつですね。

 

 

「これ貼ってくれてるんだ、エルちゃん」

「あーっ! それの文句を言おうと思ってたデス! 絶対に許さないから! モンジューの前にここで決着つけてやりますデース! レスリングで!」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「あ、セイちゃんいたいた」

「んー……んあ……なんだスペちゃんか」

 

 

 

 二人目。セイちゃん。皐月賞と菊花賞を勝ったウマ娘。今は怪我をしていて今年はお休みだけど、来年もトゥインクルで走ることになっています。

 

 トレセンにあるたくさんのお昼寝スポットのなかでも、陽が当たって暖かいところで、ニシノフラワーさんに膝枕をされて寝転がっていました。お腹の猫は野良で、頭の冠はフラワーさんが作ったものでしょうか? 

 

 

「なんだって……連絡入れたでしょ?」

「見てなかったや。ごめんごめん」

「既読ついてるけど」

「フラワーがつけたんじゃない?」

「私!?」

 

 

 何やら作ってもらったらしいお菓子を頬張りながら適当なことを言うセイちゃん。でも、すぐに起き上がってぽんぽんと彼女を撫でお腹に載っていたバスケットを渡します。

 

 

「ごめんフラワー。少し良い?」

「あ、は、はい、もちろん」

 

 

 というかまたセイちゃんはサボってるんでしょうか。いつものことだし、サボってても強いことは強いので何も言えないんですけど。

 

 

「……で? スペちゃん。正気? 色々と。いくら何でもやり過ぎたとか思ってない? 普通に国際問題だよ?」

「……ヤバいよね、やっぱり」

「考えてなかったんですか!?」

「そういう後先考えないとこ、好きだよ」

 

 

 言われてみると、やらかしでは済まないことをしたような気はします……いやいや! まあ無理はしちゃったけど、大枠は一緒だし! 会見でやるか直接言うかの違いだし、まあ大丈夫でしょ……たぶん? 

 

 焦る私を見てセイちゃんは笑って、冠をフラワーさんに被せてもう一度撫でながら、こちらを見ることなく言います。

 

 

「勝てないと思うよ、私は」

「やってみなきゃ解らないよ。それに、勝つためなら何でもする」

「何かハンデがあれば何とかなったかもね。芝でも空気でも展開でも、知らないことが一つでもあれば。でも無い。実力勝負は流石に厳しいよ」

 

 

 セイちゃんの言うことは尤もです。彼女は一人でトレーナー並みの分析力を持ちます。私達の中でも正直に言えば、身体能力は一つ下でしょう。しかし、それらを覆すような駆け引きを仕掛けてくるのがセイウンスカイという才能です。

 

 その彼女が言うのだからそうなのでしょう。私もトレーナーさんに何度も言われています。きっと、スズカさんのトレーナーも同じことを言うでしょう。

 

 

 でも、それでも私はセイちゃんをまっすぐ見て、こう言うしかないんです。私はもう一度スズカさんと走る。そのために、必ず勝つ。

 

 

「それでもやるよ、私は」

「……だよねー」

 

 

 へらへら笑ってこっちを見つめるセイちゃん。胡座のままゆらゆらと揺れて、何か言いたげな隣のフラワーさんの肩に寄り掛かります。

 

 

「じゃあしょうがない。頑張んなよスペちゃん。私も応援してる。スペちゃんなら勝てるって信じておくから」

「セイちゃん……」

「それにさ、最強とかはどうでもいいけど、全員に勝つのは大変だし。スペちゃんが勝ってくれて、それに勝ったら世界一。良いねえ。とても良いじゃないですか、解りやすくて」

 

 

 それに、とセイちゃんは目を閉じて、また開きました。そこにはもう笑みなんか無くて、いつもよりもっと解りやすく、炎が宿っていました。

 

 

「スペちゃんが勝って、しかもスズカ先輩も引きずり出してくれるんでしょ? 期待してるよ」

「……うん。任せてよ。約束する」

「頼むよー? スズカ先輩相手の作戦、何ヵ月かけて考えたと思ってるの」

 

 

 よいしょ、と立ち上がって手を振るセイちゃん。私を掴んで背を向かせると、ばしん! と強く叩きました。

 

 

「いたぁっ!?」

「ちょっと、我慢しなって。この空気でそのリアクションはダサいよスペちゃん」

「いや違……ごめん、ちょっと、想像の五倍くらい痛くて……」

「もう一発いっとく? 気合い足りないんじゃない?」

「だ、大丈夫! 十分入ったから!」

「えいっ」

「いっっったあぁっ!?」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「キングちゃーん!」

「あらスペシャルウィークさん。もう来たの? もう少し時間がかかると思ったんだけど」

「いや、うん……いてて……」

 

 

 エルちゃんにドロップキックを受け、セイちゃんに背中を殴られたダメージを引き摺ったまま、キングちゃんのところへ。トレーニングターフでストレッチ中の彼女を呼び止めて、買ってきたドリンクを差し入れに渡す。最中かと思ったけど普通にまだ準備運動だったや。

 

 

「それはそうよ。どれだけあなたと一緒にいると思っているの? 何をしたいかも何をするかもみんなお互い解ってて当然じゃない」

「まあ……そうかもね。じゃあ用件は言わなくて良い? 当ててみて」

「そういう話じゃないでしょ!?」

「やっぱり?」

 

 

 もう! と声を荒くするキングちゃん。まだGⅠこそ勝っていないけど、どんな距離でも掲示板にいる圧倒的な距離適性と底知れない根性を持ったウマ娘です。

 

 どうしてもGⅠを取りたい、ということでまだトゥインクルにいるそうですが、きっと遠くないうちに取れるでしょう。キングちゃんの能力は私達に劣っているわけではありません。

 

 

「まあでも、トレーニング中に会いに来るって時点で色々解ってるわ。それに、あなた今トレセンで一番有名人だし」

「そ……うだよね、流石に」

「当たり前でしょ。相手はヨーロッパのスターウマ娘よ? それがいるホテルに殴り込むなんて捕まっても文句言えないわ」

 

 

 みんなに色々言われる度に、勢いで行動しちゃいけないんだなあ、と思わされます。確かに直接行って啖呵は無理があったかもしれません。

 

 でも、そうでもしないと走ってくれないかもしれないし。それこそ同期のみんなやスズカさん、私自身もそうですが、ウマ娘は正面切って挑戦状を叩き付けられたら受け入れてしまう性を背負っています。

 

 

 呆れるようにこんこんと注意してくれるキングちゃん。喋りながらでも滞りなく準備ができるのは流石です。トレーナーさんもそれを解っているのか、特に注意をすることもないですし。

 

 しばらくキングちゃんのストレッチを手伝ったりして、流れでなぜか私達も準備運動をしたり。ひたすらお説教を受けながらですけど。グラスちゃんが落ち込んでてほんの少し助かったかも。二人に詰められたら私は泣きます。

 

 

「それで、キングちゃん。私、今日は」

「さ、やるわよスペシャルウィークさん。グラスさんも。位置につきなさい」

「私もですか……?」

 

 

 有無を言わさない気迫で誘われ、位置につきます。このために準備運動させられたのかな。いや良いんだけど……やるならやるで、本気でやりますけど……

 

 

「距離は?」

「3200」

「え?」

「3200。何? 私には長いとでも?」

 

 

 流石に、と言おうとして、でもキングちゃんは菊花賞でも掲示板に来ています。しかし、中長距離は走らないと言ったのは本人ですし……ううん、言うよりとりあえず走る、ってことで……! 

 

 

 

 始まった3200併走は、やはり私が勝ちました。キングちゃんにはやっぱり距離が長くて、グラスちゃんも長距離は走れますが3200は長過ぎました。最初こそ競り合っていましたが、2500を越える頃にはキングちゃんが下がり、3000で私一人になってしまいました。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はあっ……はー……はは。やるじゃない……流石だわ。やっぱり厳しいかもね、私は……」

「キングちゃん……」

「逃げたつもりは無いわ。だけど、だけど……それでも、そうね……そう……」

 

 

 逃げたんじゃない。そんなことはみんな解っています。知らない人達が何を言おうと。完全に倒れ伏しているキングちゃんと、膝に手を突いているグラスちゃん。疲れきっていても、二人ともやる気に満ちたままです。

 

 そして、しばらくそのまま息を整えた後、キングちゃんは横向きに転がって、私から目を逸らして呟きました。

 

 

「私は戻らないからね。この道は、私とあの人で決めた道よ……たとえスズカさんがもう一度帰ってきても、もう私は挑まない。決して二言は吐かない」

「……そっか。うん、知ってるよ」

「だから、まあ、本当はこんなの、私らしくないのかもしれないけど」

 

 

 立ち上がり、それから私の胸をどんと叩きました。まだふらついていて、それでも寄り掛かるんじゃなく、本当に攻撃するように拳を突き付けてきます。

 

 

「少しの間だけ、私に残った後悔を振り払うために。あなたにキングの意思を継ぐ権利をあげるわ。私の代わりに走る権利を」

「……ありがとう、キングちゃん」

「勘違いしないでね。このレースだけよ。キングのことを背負って良いのは私だけ。二度とこんな真似はしない」

 

 

 拳を包もうとしたら、ぱっと振り払われてしまいました。腕を組んでちょっと冷たいことを言うのはいつものキングちゃんです。でも、耳が少しきゅっとなって、声も震えているようで。

 

 何を言っていいか解らず立っているしかできない私。これでレースのキングちゃんとはさよならです。距離によって練習や走り方も違いますから、遊びやアップ以上の併走も無くなるでしょう。

 

 

「だから、ちゃんとしなさいよ。このキングの心は重いわよ?」

「……うん。絶対に勝つから。モンジューさんにも、スズカさんにも」

「楽しみに見てるわ……ところで、私もどこか一発気合いを入れた方が良いのかしら。どうせ二人にもやられたんでしょ? どこが良い?」

「待って、別に私そこまでは」

「やっぱこういうのは肩かしらね!」

「いっだあぁぁっ!?」

 

 

 

 心配そうにしているグラスちゃんはもう少し時間が必要かもしれません。何だかんだ一番頑固だし、こうしてずっと付いてきてくれてますけど、どこかずっと納得がいっていないような顔をしていますから。

 

 帰り道も、グラスちゃんは何も言いませんでした。脚がそう強くなく、無理をして天皇賞に出たことでジャパンカップは厳しく禁止されてしまっています。グラスちゃんならジャパンカップに出ればきっと物凄い走りをしたでしょう。

 

 

 だけど、そうはならなかった。ジャパンカップの日本総大将は私になり、私が勝たなければいけなくなった。そして、これから私はスズカさんへのリベンジも賭ける。絶対に負けられないように、負けないように、覚悟と決意を背負って。




悪のスペシャルウィーク(IF)

「逃げるんだ!フランスのウマ娘が、日本のウマ娘から逃げるんですね!」
「あーあ!がっかりだなあ!結局そういうことなんだぁ!」
「これがイギリスのウマ娘なら正々堂々勝負してくれたんだろうなあ!やっぱりヨーロッパの中心!世界の英国だからなあ!」
「残念!やっぱりイギリス人はユーモアもあるし芸術も解るからかなあ!ねえモンジューさん!」

モンジュー「 」
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