走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
ある日。
「ところでマスター。一つお聞きしたいことがあります」
「ん?」
ブルボンの病室でみんなで過ごしていると、ブルボンが唐突に口を開いた。流石ウマ娘というか、たったの一週間くらいなんだけど包帯の量が減っているような気がする。元々小さな怪我を全身に受けた感じだったから回復も早いんだろう。
「マスターが旅行中、ライスと話していたのですが」
「!? 待ってブルボンさん! 言わなくて良い! やめよう!?」
流石に病院だとかなり大人しくなるスズカ、今日もトレーニングを終えヘトヘトながらお見舞いに行けないと宣言するのは負けだと思っているスカーレット、皆勤賞のライスシャワー。このメンツで過ごすことがかなり多くなった。ライスシャワーも何だかんだご飯くらいは一緒に食べたりするし。
まあ、全員が病室に揃っていても会話が活発ってわけじゃないけど。一番喋るスカーレットが今にも眠気に負けそうだし。
「何。どんなこと話してるの、二人で」
「いえ、マスターが旅行中」
「ブルボンさん!? やめて!?」
そんななか話し出したブルボンの口をライスシャワーが塞ぐ。ついさっきまで甲斐甲斐しくりんごの皮を剥いていたのにどうしたの。そんなに大きな声出せたんだ。
「めちゃくちゃ拒否ってるし何も言わない方が良いんじゃない? 何の話か知らないけど」
「珍しいですね、こういうの、ライス先輩が遮るの……あ、トレーナー。私オレンジ貰いますね」
「何が残って……うわっただの水。こんなの買ってこないでよスカーレット」
「っ……え、ええ、今度から気を付けますね、すみません」
ライスシャワーの手前キレられないスカーレット。でも実際毎回外れかのように水を買ってくるのはスカーレットの遊び心でもあると思うし。もしくはパシらせる私への仕返し。自分で好き好んでパシるくせに。
各自スカーレットの買ってきた飲み物を飲みつつ、ブルボンにはライスシャワーがストローで飲ませつつ。どうやら話を聞いていたスズカが気になったようで、飲み物を飲まされて口を塞がれているブルボンを助けていた。
「聞かせてください」
「スズカさん待って……」
「はい。二人で話していたのですが」
「ブルボンさんストップ!」
「もしかするとマスターとスズカさんが性的なことをしているのではないかと」
「ぶふっ」
「きゃあっ!?」
真面目な顔でとんでもないことを言い出したブルボンに、つい水を噴いてしまった。え? 誰よブルボンにそんなこと教えたのは。私は許さないわよ。
「ちょっとトレーナーさん……? めちゃくちゃかかったんですけど……!?」
「ごめ、ごめんスカーレット……いやびっくりしちゃって……」
スカーレットの服を汚してしまった。死ぬほど怒られそうだしライスシャワーがいて良かった。申し訳ないとは思いながらも口を拭いてから向き直る。ブルボンは無表情なまま、ライスシャワーだけが隣で突っ伏して、ウマ耳まで真っ赤になっていた。かわいそう。
でも二人で話してたって言うし、ブルボンが自分からそういう話を振るとは思えない。元凶はライスシャワーね。何してくれたの。
「別に何もなかったけど……どうしてそんな話になるの?」
そしてまったく平気そうなスズカ。人の気も知らないで……じゃなくて、もう少し動揺しようよ。高校生でしょ? 私だけ震えてバカみたいじゃん。
「いえ、夜に連絡を取ろうと思ったんですが、ライスに止められまして。初めは夜は迷惑だのと言っていたんですが、私とマスターの間柄でそれは今さらではないかと判断しました」
「そうね。日付が変わっても起きてるもんね、トレーナーさん」
それはスズカが日付が変わってからランニングから帰ってくるだけじゃん。
「特に取り止める理由がないと話していたら、ライスがその可能性を示唆しました。行為の最中である可能性があると」
「そこまでストレートに言ってないよね!? ただ、二人きりで良い雰囲気かもって言っただけで!」
「しかし状況からしてあの発言にはそういう意図が」
「無い! 無かった! ライスそんなこと言ってないから!」
ブルボンをぽかぽか殴ろうとして、怪我人は殴れず頭の横のところで握りこぶしをわちゃわちゃさせるライスシャワー。一連の発言中もずっとブルボンは平然としており、感覚の違いを感じさせる。情操教育が足りてないのかな……でも高等部で入ってきてるし、流石に私の仕事じゃないもんなあ。
「対第三者コミュニケーション機能に自信はありませんが、対ライスであれば私は他の誰より優れている自信があります」
「ライスは可能性の話をしただけだもん……!」
「しかし明らかにそういう意図が」
「無かったって言ってるよね!? 人の話聞いてる!?」
「バイタルの上昇を確認。ステータス、『羞恥』を検出。何を動揺する必要があるのですか、ライス」
動揺しまくって悶えるライスシャワーではブルボンには勝てない様子。というか普段から聞いてても二人が話すと主導権はブルボンにあるみたいだし、こんなもんか。私も頬の熱が引いたあたりで、ド天然スズカとびしょびしょにされたスカーレットも口を挟んでくる。
「特に何も無かったし、あっても連絡してくれて良いのよ」
「いやあったら連絡しちゃダメじゃないですか。どんな気持ちで話すんですか?」
「え……まあ、別に、一旦中断してお話すれば良いんじゃないの?」
「……中断とかできるんですか? そういうのって。一回始めたら止められないとか」
ダメだ。スズカはともかくスカーレットが
「さあ……? できないのかしら。ご飯とか、寝てる時は中断できるじゃない。同じじゃないの?」
「ですが睡眠や食事と違い、徐々に満たされる類いではありません。それにスズカさん、もしこれがランニングであれば中断できないのでは?」
「確かにそうね……でもランニングにゴールは無いのよね。そういうことって一応ゴールが」
「もうこの話やめない……? ブルボンさん。ライス今本当に消えてなくなりたいよ」
「どうなんですか、トレーナーさん」
「やめよう? 私も死にたいから」
手で口元を隠して、誰にも視線を合わせないスカーレットがちらちらと私のことを見ている。恥ずかしいなら話さなきゃ良いのに……でも自分がもし中高生だったら? とは思う。
そしてやはり何のダメージもないスズカ。何も考えていなさそうにぼけっと会話に交ざるだけで、いつも通り話す相手しか見ない。ライスシャワーがベッドに突っ伏したまま沈んでいっている。
「でも中断できたとして嫌じゃないですか? 話しかけられるのも話しかけるのも」
「経験があるのですか?」
「無いです。あっても言うわけないじゃないですかバカなんですか」
「別に減るものじゃないし……」
「減るんですよね。減るんですよ。寿命とかが」
止めるの面倒だな……別に私に声がかからなければ何でも良いもんな。巻き込まれると死にたくなるだけで。絶対に私を会話に入れないでね。今想定されてるのって私がスズカに手を出すかどうかでしょ?
「スズカさんなら問題ないでしょう。走行欲以外存在しないわけですから」
「私のことを何だと思ってるの……? お腹が空いてたら走れないし、眠いまま走ったら危ないじゃない」
「その言い方だと全部走る欲求じゃないですか」
「あら……? でも美味しいものを食べたい気持ちはあるし……」
「でもスズカ先輩味付け忘れるじゃないですか」
「へぅ」
私は石、私は石、とやっていたんだけど、カウンターを受けたスズカが私のところに寄ってきてしまった。椅子を隣に置いて、そこから私の膝に倒れ込んでくる。仕方がないので撫でてやり、喉元を擽る。
普通に私、三人の親くらいの感覚で……いやスズカは解らないけど、親くらいの距離感でいるはずなんだけどね。私とスズカが変なことしてるって妄想はキツくない? 身内でそういうのはさ。そういう話に飢えてるのかもしれないけど。
「そもそも同性で行為は可能なのでしょうか? 生物学的に無意味では?」
「いやそれは……ほら、色々あるんじゃないですか? ねえ、トレーナーさん」
「私に振らないで。絶対によ」
「経験があるのはマスターのみでは?」
「言論統制するわよ。拳で」
スズカが膝にいるし、腕力で勝てるわけないんだけど。どうして教え子にこんなこと言われてるの私は。友達でも家族でもこんな話しないじゃんか。
でもまあ、三人が仲良く喋ってるならそれは良いことだ。私とライスシャワーは生け贄ってことにしておこう。
「やはりスズカさんに体験して頂くしか」
「えー……別にどっちでも良いけど……」
「どっちでも良いんだ……」
「気持ち良くなるなら走る方が効率が良くない? 疲れちゃうでしょ、そういうのって」
「何言ってるんですか?」
ねえ、と私の方を向くスズカ。こっち見ないで。私はノーマルだし絶対にあなた達に手は出さないから。こっちにも理性というものがあるのよ。良識とかね。
「ねえブルボンさんやめよう? ライス菊花賞より心臓が痛いよ。それにさ、スズカさんとトレーナーさんの前でこういう話は良くないよ」
「? そうでしょうか。むしろ年長者がいないと空論で終わってしまいますし適切では」
「そうじゃなくて……」
良いぞライスシャワー。頑張れ。君が一番の良心だ。このお転婆どもを止めてくれ。私は発言したら声が裏返るからできない。
「こ、恋人さんの秘密じゃないの……そういうのは……」
そうじゃねえ。
顔を真っ赤にしたままブルボンを止めるライスシャワー。心なしかこっちをちらちらと見ている。あれね? 彼女も実は興味あるわね。三人より良識があるのと、やっぱり一歩引いた立場なだけで。
「二人は恋人ではありません」
「え……冗談だよね?」
「いえ、冗談ではありません。ですよね、マスター」
「そうなんですか?」
当事者であるはずのスズカまでもが膝から見上げてくる。にまにまして気持ちの悪い煽り方がムカつくので頬っぺたをつねって、イヤーキャップを取り上げる。くしゃくしゃにしてブルボンに投げ付けると、照れ隠しかライスシャワーがブルボンのウマ耳に着けた。サイズが合ってないけど。
「あ……はい。サイレンススズカです」
あら可愛い。
「わあスズカさんだ。スズカさん、速く走るコツは何ですか?」
「知りません。私に聞かないでください。走ってきます」
「ええ……」
「結構言いそうですね……」
「私ってそういうイメージなの……?」
あら似てる。
「トレーナーさんとは恋人なんですか?」
「違います。走ってきても良いですか? 本日は晴天、気温は18℃ほどです。ランニング日和です」
「……ちょっと私、走ってきます」
「ダメよ」
あら大変。
「何か一言お願いしますスズカさん」
「私が一番速いので、先頭の景色は譲りませ──」
「は?」
「──ライス。今までありがとうございました」
「諦めるのが早いよ!」
「あっぶな……私じゃないのに私が吐きそうになった……スズカ先輩睨むのやめてください本当に」
「でも今」
「はーいスズカが一番速いね。強いね」
がくん、と首を九十度回して睨み付けるスズカ。余計なことを言ってしまったブルボンが怯えてウマ耳を倒してしまった。普通にスズカが不機嫌なので、こっちを向かせて生に露出したウマ耳を擽る。一気に怒りが霧散したのを確認してから抱え起こしてお腹を叩く。ぽんぽこ。
「ダメでしょスズカ、後輩にキレちゃ」
「キレてません。ただどっちが速いか解らせないといけないと思っただけです」
「スズカが勝つに決まってるでしょ大人げない」
「──なるほど」
「──チッ……ダメ、キレるな私……こんなの今に始まったことじゃないじゃない……平常心……」
「ま、待って……二人とも目が怖いよ……? どうしたの……?」
くそっ面倒な子達ね。私にどうしろって言うんだ。
物凄い迫力を出し始めた二人から目を逸らし、唯一ダメージを受けないスズカを盾に視線を切る。恋人ではないスズカが肩を回して頭を撫でてきた。向こうも向こうで何を言っても無駄だと解っているからすぐに何も言わなくなり、また何かみんなで話し出した。
「ところでトレーナーさん」
「ん?」
「スペちゃんから連絡が来てたんですけど」
「うん」
手慰みに私の腕やら肩やらを触っていたスズカだったけど、しばらくすると思い出したかのようにスマホを取り出して見せてきた。メッセージ欄に『待ってます』の文字。その前に日付や時間があるんだろう。
「いつ?」
「今日の夜です。トレーナーさんと一緒に来るって言ってました。あとブルボンさんもできれば来て欲しいってことなので、病室で会う感じですかね」
「それは……まあ、良いけど」
スペシャルウィークのトレーナーも来るんだ……普通に大先輩と話しなきゃいけないのね。ブルボンの現状を怒られたりは……しないか。流石にか。
ともかく了承して、じゃあ二人を帰しておかないと。スカーレットは……まだうちに居るのかな? 割とずっと居るけど、同室のウオッカはどんな気持ちなの。
それからもしばらく三人は話していた……が、スカーレットが満足したあたりで何となく会話は終わった。どうやらブルボンとスカーレットはちゃんと解っていて話していたようで……唯一解っていなかったライスシャワーが、話し終わった後もちらちらと顔を真っ赤にして私の方を見ていた。
……手、出さないよ? 絶対に。
スズカ
保健体育以上の知識がないし覚える気もない
ブルボン
保健体育以上の知識がない
スカーレット
一般中学生
ライスシャワー
マセた高校生
トレーナー
少なくとも彼氏がいたことはある