走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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この小説全体をとると、現在一番幸せなのはライスなのかもしれません。同着でスズカ。なので今ライスは病んでもいないし依存もしてません。


羞恥心に目覚めるミホノブルボン

 

「あ────きつ……死ぬ……」

「じゃあやめる?」

 

 

 ある日。病室にてスカーレットが椅子を二つ使って寝転がりながら言った。今日もスカーレットはスパルタ明けである。授業が終わりダンスレッスンが入ってスパルタして倒れてから現在午後七時である。

 

 全盛期ブルボンに匹敵するハードスケジュールをこなすスカーレットが心配ではあった。お見舞いは行かない方が良いと説得したんだけど、『疲れたからと日課をやめたら煽られる(意訳)』とのこと。あなたの中のブルボン、人の心が無さすぎない? 

 

 

「やめない。見て私。デブ」

「言ってて悲しくならないの?」

「不思議と胸が痛いわ。たぶん成長痛ね」

「心が泣いてるわよ」

 

 

 よくあんなもの好き好んで連続でできるものだ。ブルボンにしろスカーレットにしろ……まあ、スズカも含めて。いやまあ、やるけどさ。必要だし、必要無くても要求されたし。

 

 寝転がったままスカーレットはブルボンの方を見ている。そのブルボンといえば、ライスシャワーと格闘していた。怪我の治りが早かった左手一本で。

 

 

「ライス。何度も言っていますが食事は一人で可能です。左手があれば問題ありません」

「ダメだよブルボンさん。何かあったら大変でしょ? 看護師さんも言ってたよ? 色々手伝ってあげてって」

「やり過ぎで──ぁむ、むぐ、あむ……ごくん。やり過ぎです」

「これはライスの使命なんだよ?」

 

 

 提供から三十分弱経った病院食。そのスプーンを持って食べさせようとするライスシャワーと、何としても自分で食べたいのでその腕を掴むブルボン。何かもう見慣れた。

 

 根本のパワーはブルボンの方があるが、左手一本だし全身に負傷中。最後には押し負けて食べさせられている。これでライスシャワーが涙に訴える危うさを持ってるようなら精神衛生上止めないといけないんだけど、にっこにこだしパワーで押してるから平気でしょたぶん。

 

 

「使命は私にレースで勝つことのはずです」

「だからブルボンさんには早く治して走ってもらわないといけないんだよ」

「治癒速度とこの行動に関連性を見出だせません」

「ブルボンさんは感情の機微に疎いもんね」

「ステータス、『憤慨』──むぐ」

 

 

 やりたいようにやられるブルボン。大体依存するとろくなことにならないから良くない。特に人が人に依存するとね。だけどまあ、ライスシャワーは半分くらい面白がってそうだし、『治らないで欲しい』ならともかく『治らないとレースに出られない』なら健全でしょ、たぶん。

 

 

「トレーナーさん。私、これを買おうと思うんですけど」

「何……うわでっか。何この棚。いる?」

「家のグッズを整頓しようかなって。今の棚、外からグッズが見えないじゃないですか」

「んー……まあスズカが良いなら良いよ」

「やったあ」

 

 

「野菜もちゃんと食べないとダメだよブルボンさん」

「野菜ではなくライスを拒否しています。私自身に好き嫌いはありません」

「じゃあほら、あーん」

「マスター。ライスを止めてくださむぐもぐ」

 

 

「あ。何自分のお金使ってるの。ダメでしょ私のカード使わないと」

「良いじゃないですか」

「ダメ。私の家なんだから。私がスズカのために買うならともかく、あなたが買ったらおかしな話になるでしょ」

「えー……でもまあ注文しちゃったので。サイズぴったりだったので」

「いつの間に測ってたの……?」

 

 

「最後の一口だよブルボンさん」

「ですから自分で食べられます。ライス。私の左手は正常です。しかし本日一口も自分で食事をしていません。どういうことか解りますか」

「その分復帰が早くなる?」

「違います」

 

 

「……こうはなりたくないような、私だけ外されてるみたいでムカつくような……」

 

 

 ライスシャワーの気持ちもギリギリ解らなくはないし。結局菊花賞はブルボンが勝っているわけで、それに、あのレースは私達もライスシャワーも揃って、ライスシャワーが勝つと思っていた。ブルボンが勝てたのはブルボンが自分の限界を越えてまで一時的な強さを手に入れたからだ。

 

 その相手が倒れ、少なくとも有マで戦うことはできなくなった。レースがなくても友達ではあるし、ライスシャワーも尽くすの好きそうだし。

 

 

「じゃあはい、デザートもあるよ。ちゃんと許可は取ってあるから安心して食べてね」

「待ってください。また作ってきたのですか? ありがたいですが頻度が高過ぎませんか」

「ブルボンさんに言われて手作りは週五にしたよ」

「高過ぎます」

 

 

 ……いや解んないな。無理だわ。私には理解できない。ウマ娘にとっての愛ってなんだろうね。そもそも愛なのかなこれは。まあたぶん愛でしょ。

 

 ブルボンを追いかけてズタボロになるまでトレーニングしてるより遥かに良い。ライスシャワーは私の担当じゃないけど、ブルボンの一番の友達でありライバルである以上多少目にかけるくらいは必要だろう。スペシャルウィークのように。

 

 

 デザートのドーナツも食べさせられているブルボン。わざわざ揚げたのか、ドーナツ。面倒だから私も滅多にやらないのに。

 

 

「わあ美味しそうなドーナツ」

「スズカも食べる? 今度作ってあげようか」

「市販で十分ですよ」

「選んでみなさい」

「んー……トレーナーさんのが良いです」

 

 

 立っている私の前に座り、振り向いてふにゃりと笑うスズカ。可愛いねえ、とウマ耳を揉みしだく。抱き締めると、わぁ、と私の腕に手を掛けた。砂糖たっぷりの美味しいのを作ってあげよう。トレーナーたるものウマ娘のリクエストには応えられて当然──私たるものスズカのリクエストには応えられて当然である。

 

 何を作らせるかネットでドーナツを調べ始めたスズカ。ブルボンとスカーレットがこっちをガン見していたので笑いかける。

 

 

「もちろん二人の分も作るわよ。選んだら」

「良いの? やった。スズカさん私の視界に入ってください」

「では私も選択を」

「ブルボンさんにはライスが作ってあげるよ?」

「マスター。ライスを止めてください。私の全てが支配されます」

「ライスシャワーにも作るわよ。せっかくだし……種類はブルボンと合わせて決めて欲しいけど」

「マスター?」

 

 

 ライスシャワーもこっちを見てニコニコしている。可愛いわねこの子はこの子で。こんな可愛い子にお世話されるなら本望なんじゃないの、ブルボンだって。スズカを見なさい。世話を焼かれることに何の抵抗も無いのよ。

 

 

「あの、トレーナーさん。その、ら、ライスにもお菓子の作り方を教えてくれませんか。ブルボンさんに作ってあげたくて……」

「マスター。教えてはいけません」

「ブルボンがダメって言ってるからダメ」

「あぅ」

 

 

 抱かれたついでに肩を揉まれても抵抗しないスズカ。まあスズカの場合、走れるうちは走ることだけ考えてれば良いんだけど。これだけレースに勝ってれば引退した後も名前だけで食べていけるし、賞金もたんまりあるし。家事もできないなら問題だけど、できるけど任せてるってのが本当のところだから。

 

 そうしてしばらく私からブルボンのお世話のための技術を学びたいライスシャワーとそれを止めたいブルボンの言い合いが続いた。ブルボンも私はともかく友達はまずいと感じているのか断固拒否を貫いている。

 

 

「何かあったら困るよね? ブルボンさん」

「何もありません。少なくとも食事は可能ですし、食事に際して何が起こっても肉体がダメージを受ける事態にはなり得ません」

「解らないよ?」

「何が解らないんですか?」

 

 

 思考を放棄しているライスシャワー。割といつも会話はこんな感じではある。ブルボンもやっとbotを相手にする苦労を知ったのかもしれない。これで復帰した後も自重してくれるかも。

 

 

「何を想定しても……と、ライス、申し訳ありません、ナースコールを」

 

 

 会話のなか、ブルボンが動きを止めた。触れられないのでコールボタンを求める。しかし、ライスシャワーは思考を停止しているので、はっと気付いたようにベッドの下に手を伸ばした。

 

 

「任せてブルボンさん」

「マスター。早く呼んでください。マスター。急いで」

 

 

 おお、ブルボンが珍しくマジ焦りしている。表情こそあんまり変わらないがどっと汗をかき始めた。

 

 ナースコールを押してもらうのは、ライスシャワーがいる時はもっぱらライスシャワーの仕事になってくる。夜間は繋ぎっぱなしのスマホがあるらしい。電子機器全滅でも入院させられる病院の配慮には感謝しかない。

 

 

 ただ、昼間はライスシャワーや私が来たタイミングでスマホが無くなるので、まだ両脚にヒビがあるブルボンは焦って私の方に助けを求めている。とりあえず話だけ聞こうと思ってライスシャワーの腕を掴んだ。

 

 

「大丈夫だよブルボンさん。ライスいっぱい勉強したから、ね?」

「ね? ではありません。何をするつもりですか」

「お手洗いでしょ? これだよね」

 

 

 満面の笑みのライスシャワーが取り出したのは、尿瓶……のウマ娘用のやつ。中に溜めておくのではなく、ホースを通して別途タンクに溜めることで臭いを抑える目的の……漏斗に近いようなものだ。間違ってはいないらしく、ブルボンもウマ耳とアホ毛をぴんと立ててぐっと枕の方へ避けていった。

 

 

「これだよね、ではありません。ライスにやってもらわなくても」

「大丈夫、任せて」

「ステータス、『驚愕』、および『恐怖』。私にも、羞恥心があったのですね、マスター。急いでナースコールを押してください」

「あー……うん、まあ押すのは良いけど」

「大丈夫です、トレーナーさん。ライスに任せてください」

「ピクリとも動かないのよね」

 

 

 逆に私も掴まれてしまっている。手加減完璧ね。驚いたわ。痛くないけど腕が全く動かない。こんな精密な手加減ができるんだ、ライスシャワーって。

 

 助けを求めてスズカを見るも、顔を背けて笑っている。真顔でマジ焦りをするブルボンがお気に召したんだろう。まあスズカが笑ってる限りはふざけてても良いんだけど、ブルボンが尿意とは違う何かで震え始めた。

 

 

「解るよブルボンさん。ライスが初めてだから不安なんだよね?」

「いえ不安ではありません。羞恥心です」

「ライス、ブルボンさんに一日でも早く復帰して欲しいから」

「それとこれとは無関係では?」

 

 

 笑顔で詰めるライスシャワー。真顔で逃げようとするが……ブルボン、後ろが壁! ということで逃げきれない。スズカがお腹を抱え、スカーレットすら笑い始めた。いや普通に面白い。ブルボンの尊厳は消えそうだけど。

 

 

「恥ずかしがってると大変だから、勝手にやるね。あんまり足を動かすと危ないから気を付けて」

「ライ──ライ、ス、考え直しなさい。サポートはありがたいと思っています。そうです、患者個人でこういったことを行うのは規則上問題があるのでは」

「えへへ。看護師さんに『ブルボンさんを手伝ってあげたい』って言って教えてもらったんだよ。だから大丈夫だよ」

「なんですか、その行動力は」

 

 

 問答無用で病院着に手を掛けるライスシャワー。ここから暴れると大怪我なのでブルボンも止まらざるを得ない。そもそもまだ痛いはずなので派手に拒否はできないのだろう。

 

 ……というか、良いんだ。ライスシャワーがやっても。それが良いなら私もスズカの時やれば良かった。いやスズカの時は片足だからこういうの使う必要が無かったけど。

 

 

「うんうん。じゃあ脱がすよ」

「待っ──マスター。スズカさん? 助けてください。エラー発生中です。ライスに」

 

 

 見られたくないだろうので三人で病室を出ようとすると、ブルボンが震えた声で引き留めてきた。まあ、良いんじゃない。ライスシャワーができるなら。

 

 

「助けてくださいスカーレットさん」

「……ブルボン先輩。確か三日くらい前、私にこう言いましたね」

 

 

 スカーレットに言われる前に、賢く記憶に自信があるブルボンは思い出したらしい。変わらず冷や汗を吹き出したまま震えている。

 

 

「『私ならもう一本できます。つまりスカーレットさんはまだまだです』と」

 

 

 そんなこと言ってたな確か。うちの子達は誰に似たのかマウント癖があるから。もちろんエルナト内部とか、特に仲の良い子、お互いマウントを取り合っても良い人にしかやっちゃいけないとは言ってるけど。

 

 つまりブルボンはスカーレットにマウントを取っても良いということだ。エルナト内部ならむしろ推奨している。煽れば煽るほど強くなるので。

 

 

「待ってくださいスカーレットさん。私は客観的な評価を下したに過ぎません。私個人の感情とは異なります」

「ですので……疲れてますから、手伝えません。ごめんなさい」

「待っ──」

 

 

 ぴしゃん。病室のドアが閉まる。同時にスズカが笑って膝から崩れ落ちた。たまに出るスズカのゲラ。そしてつられたスカーレットも外にも関わらずドアにおでこを当てて笑っている。ブルボンかわいそう。

 

 

「何かブルボンに買ってきてあげようか。アイスとか」

「良いわね。下の売店、シャーベットが売ってたでしょ。レモンの」

「ふっ、くっくく……」

「性格悪ぅ」

「ちょっとした仕返しよ」

 

 

 病室に戻ったとき、ブルボンは珍しく顔に枕を乗せて隠れていた。ライスシャワーはとても嬉しそうだったのでセーフ。セーフか? まあブルボンも悪いから良いか。うん。




入院回りは適当です。
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